中国発D2Cファストファッション、シェイン(shein.com)が米国で大躍進している。アーネストリサーチ社の米国ファストファッション市場シェアレポートによると、6月16日時点でシェインのシェアは28%、H&Mの20%、ザラ11%を抜き第1位となった。同レポートによると今年1月6日時点では1位はH&M23%、2位がシェイン13%だったが、半年で2倍以上シェアを拡大したことになる。
シェインは2008年に創業した中国南京市に本社を置くファストファッションEコマースで、米国では最近までその名は知られていなかった。しかし同社は2020年11月時点で世界220の国または地域に衣料品、アクセサリー、化粧品、生活雑貨を製造販売し、2020年売上高は100億ドル[1]と推定されている。ただし中国市場では販売していない。トレンドのスタイルを圧倒的な低価格で直接海外の顧客に販売するD2Cモデルで、商品カテゴリーはレディス、プラスサイズ、メンズ、キッズ、ビューティ、ホームで「毎日新しいスタイル1,000点[2]を投入」がキャッチフレーズだ。
[1] 中国テクノロジーメディア、Latepost推計。South China Morning Post, ‘Made in China but not for China’, 2021年6月22日
[2] フォーブス誌では「毎日平均2,000SKU」と紹介している。2021年2月10日
創業者かつCEOのクリス・スー氏はSEOとブランドマーケティングの達人で、これが成長力の柱の1つだ。市場調査企業エディテッド社によるとシェインは恒常的にティックトック上でおびただしい数の新商品を紹介して「もっともティックトック上で話題になったブランド」の1つにのし上がり、結果的に210万人のフォローワーを集め、#SHEINHAUL動画は30億ビューを獲得している。
インフルエンサーマーケティングにも力を入れ、セレブや著名なインフルエンサーを登用し、インフルエンサーには投稿に対して毎月無料で製品を提供する他、売上増加に貢献した場合は通常のコミッションフィーより高い10~20%を提供していると言われている[3]。
[3] Retail Wire, ‘Has Shein reinvented teen e-tailing?’, 2020年10月19日
もう1つの柱は商品戦略で、①驚異的にスピーディな商品開発・生産体制、②圧倒的な低価格、を実現している。商品開発は社内チームが行い、世界中の販売データを徹底的に分析し、新デザインをわずか3日以内に開発する。生産は中国の中小工場と強い生産体制を築き、小ロットで毎日発注できる。この結果、同社を研究するアナリストたちは競合のザラより早い「リアルタイムなリテール」と評しているが、シェインの商品アソートメントの70%は商品年齢3か月未満で、ザラの53%、H&Mの40%に比較すると圧倒的に在庫回転が速い[4]。
[4] Edited Blog, ‘Decoding the ultra fast SHEIN business model’, 2021年7月20日
価格については、図表のように競合他社に比べて優位な低価格を提供している。同社はさらにプロモーションで有無をも言わせない価格競争力を発揮している。写真の同社トップページでは購入総額29ドル以上10%オフ、69ドル以上15%オフ、169ドル以上20%オフで、49ドル以上で無料配送となる。世界各国50名近い若手デザイナーによる独創的なデザインの「シェインX」コレクションでは、著名デザイナーのランウェイに登場しそうな服を7,8ドルから、テーラードスーツでも36ドル、フォーマルなロングドレスでも21ドルという価格だ。また、現在成長市場であるプラスサイズに力を入れ、「カーヴ+プラス」と呼ばれるプラスサイズ商品はアソートメント全体の16%を占め、フォーエバー21の9%と比べても高い比率となっている。
オンラインで商品を見ると、ズバリ今の10代20代の好みを反映したデザインで、店舗が多いため見飽きた感もあり、40代以上のオバサンも買物に来ているH&Mに比べて、非常に新鮮に見える。またキッチン用品や生活雑貨はおもしろいアイディア商品や可愛いいデザインの商品をたった2,3ドルで買えるため、衝動買いしたくなるのもよくわかる。
環境問題の視点からファストファッションはかつての成長力を失った、急成長中の中古品再販市場にシェアを奪われるのではないか、という声も聞かれるが、シェインは卓越したデータサイエンスとデジタルマーケティング、サプライチェーンマネジメントによってファストファッションより鮮度が高く、中古品より価格が安いという新たなビジネスモデルで今後も成長が予測されている。
米国の食の領域では「ハイパーローカル」というコンセプトが注目されている。ローカルフードは地元で生産された食材を意味するが、スーパーマーケットやレストランが販売・提供する食品の全てまたはほとんどがローカルフードである場合、店舗はハイパーローカルストアと呼ばれる。
ナチュラルフードのホールフーズマーケットは今年6月にニューハンプシャー州ポーツマス(3,850㎡)、7月にフロリダ州タンパ(4,460㎡)にそれぞれハイパーローカル旗艦店をオープンした。従来のホールフーズマーケットもローカルフードを訴求してきたが、両店舗は次世代型店舗の旗艦店という位置づけで、ローカルフードや製品をさらに多くのカテゴリーに拡大し、ポーツマス店では700以上、タンパ店では800以上のローカルフードを販売している。その拡大領域は以下の通りだ。
同社は今後40店舗の新規出店を発表しているが、ハイパーローカルストアを拡げる計画で、全社的に新たにローカルブランド950、ローカルアイテム1万点の商品を投入した。
このように、地元生産者・製造者の発掘が重視される中、そのような地元企業は多くの場合中小・零細経営で、高品質な製品を生産していてもマーケティングに苦労する場合が多く、リテーラーから見逃されている場合も多い。またバイヤー側も中小スーパーマーケットだと、ローカルを始めとする新規製品の開拓に人材を十分に投資しきれないケースもある。そこで、この需要と供給のミスマッチを効率的に解決するオンラインソーシングプラットフォームの利用が増加している。
レンジミー(RangeMe.com)は2014年にオーストラリアで創業したプラットフォームで、同プラットフォームではサプライヤーが簡単に製品を登録することができ、バイヤーに発見してもらうためのツールや分析レポートなどが提供されている。プレミアム会員になると、特定の小売業者にオンライン上でダイレクトに商品紹介を行ったり、ベンチマークしている小売業者のバイヤーが自社製品を見た時にそれを知らせる機能などもある。一方バイヤーは探している製品のキーワードや条件を入力して検索をすると、ベストマッチな製品やブランドがリストアップされ、調査作業を合理化できる。リスト上のローカルサプライヤーに採用審査への招待状を送り、必要なコミュニケーションやサンプルのやり取りを経てプラットフォーム上で候補を絞り込んでいく。バイイングの精度を向上するため、ニールセン社売上データやインスタグラムなどSNS上での商品トレンド情報なども提供される。
現在同プラットフォーム上には17万5,000のサプライヤーが登録し、1万人の小売バイヤーが利用、70万点以上の製品が登録されている。実はホールフーズマーケットもこのプラットフォームを利用する企業の一社だ。他にもクロ―ガ―、アルバートソンズなど大手スーパーマーケットチェーン、ターゲット、CVSファーマシー、セフォラ、アルタなどビューティチェーンなどでも利用が始まっている。
ハイパーローカル化は企業間差別化だけでなく、地元の経済を活性化し、環境にも優しく、鮮度の高い商品を提供できるという点で、食を超えて拡がるだろう。これを支えるオンラインソーシングも増加すると見られる。
1週間前後で工事終了するサステナブル店舗がカナダ、ブリティッシュコロンビアのアボッツフォードのショッピングセンターに登場した。設計から工事までを担当したのはバンクーバーに本社を持つグリーンビルディング企業、ネキシィ(Nexii)社だ。同社はネキシイット(Nexiite)という水・砂・極秘の素材から製造したオリジナルのサステナブル・コンクリート素材を使用し、自社工場でパネル状の壁素材を3Dソフトウェアを使って製造する。ネキシィシステムと呼ばれる工法では、使用資源を減らし、ネキシイットおよびリサイクル可能素材を使い、現場での組み立て作業と建設廃棄物を極小化する。これらの結果、
というメリットを得ることができる。
同社は2018年以降、老人介護施設や商業施設、個人住宅、改装プロジェクト等を手掛けたのち、今年1月に前述のスターバックス、5月にファーストフードチェーンのポパイを同SC内に建設した。内装工事を除く工期はスターバックスが6日間、ポパイが2週間未満で通常の工事に比べて50~75%短い。スターバックス社は2030年までに二酸化炭素排出量・水の使用量・廃棄量を半分にするというサステナビリティ目標を掲げており、スターバックス・カナダ社店舗開発VPのキャサリン・アンダーソン氏は「ネキシィのように当社と同じ価値観を持つイノベーターと共にグリーン工事のモデルとして業界をリードし、この経験を皆さんとシェアし、世界を変化させるという意義ある行動をとれることに喜びを感じています」とコメントしている。
ティーンエイジャーから20代に人気で今年株式上場も果たした中古品オンラインマーケットプレースのポッシュマークが、5月にSNSスナップチャットと提携して、ライブショッピングを開始した。ポッシュマーク自体もSNSの要素が大きく、アクティブユーザー4,500万人はセラーもバイヤーもソーシャルメディアのように会話しながら商品の売買をできるのが同社プラットフォームの特徴だ。スナップチャットは米国人口13歳~24歳の90%にリーチしており、今おもしろい!と感じたものをショートビデオに録画し、即座に友人達と共有できるライブストリーミングメディアで、ポッシュマークとの相性は良いと言える。2018年にはポッシュマークは顧客が気に入った商品リストをスナップチャット上で友人と共有したり販売できる機能「スナップ・キット」の利用を始めている。
今回はスナップ社のライブショッピング新機能ミニを活用して「ポッシュマーク・ミニ」を共同開発し、以下のようなライブショッピングを提供する。
スナップチャットユーザーも同メディアから直接購入できるライブショッピングは、若い世代のライフスタイルに沿った最先端の売り方として大きく注目されている。同社チーフマーケティングオフィサーのトリスタン・ヤング氏は「私たちはコミュニティを何より大切にしており、(ポッシュマークと)シンプル、ソーシャルでサステナブルなショッピング経験をスナップ上で提供できて喜びもひとしおです」とコメントしている。
このように、既に現在の消費に影響を与えている若い世代の顧客化を目指し、彼らが夢中になっているライブストリーミングメディアとリテーラーの提携は急増しており、昨年12月にはウォルマートがティックトックと著名インフルエンサーを起用してホリディショッピングイベントを開催した。スナップ社は他にターゲット、アディダス、ラルフローレン、ディオールなどとも提携を行っている。
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】