掲載日:2021/01/15

USリテール最新レポート - ニューノーマル時代で変わる小売業Vol.5 ~苦境の中でも中長期的に企業経営を成長させるための新たな試み~



 米国のホリディ商戦は、店舗ではヒトの密集をさけ、Eコマースではオーダーの集中による配送遅延や倉庫での感染を避けるために、セール開始を前倒しして10月半ばから始め、業界をあげて買物時期の分散を図った。12月26日に発表されたマスターカード・スペンディングパルスのデータによると、10月11日から12月24日までの75日間の小売売上高(自動車とガソリン販売を除く)は前年より3%上昇し、予測の2.4%増を上回った(図表1)。

 

 

 このうちEコマース売上は49%増で、全売上高の19.7%を占め、昨年の13.4%から大きく飛躍した。しかし店舗への来店客数は下がり、全米小売業協会推計値では、対前年で感謝祭は▲55%減、ブラックフライデーは▲37%下がった。

 

 しかし、ニューノーマル時代初のホリディ商戦では、苦境の中でも中長期的に企業経営を成長させるための新たな試みがいくつも見られた。

 

新規軸のサステナビリティ戦略

 

【農家からカーボンクレジットを購入し、二酸化炭素排出をオフセットしたショッピファイ】

 

 アメリカでは地球温暖化ガス削減対策として、農家に休耕期間中も保全耕うん[1]、またはクローバーなど植栽による土壌被覆を行ってもらうことで二酸化炭素吸収を継続し、このカーボンクレジットを取引することで農家が収入を得られるシステムがある。Eコマースプラットフォームのショッピファイは、同社プラットフォームで営業する全出店者がブラックフライデーからサイバーマンデーまでの期間に配送などを通じて排出する二酸化炭素をオフセットするため、アイオワ州の農家やウガンダ、コロンビアのプロジェクト他からカーボンクレジットを購入した[2]。この結果、約62,000トンの二酸化炭素排出量をオフセットしたが、これは北米の約80,970エーカーの森林が1年間に吸収する二酸化炭素量に相当するという[3]。

 

 同社は世界中に100万社以上の出店者を持ち、今年ブラックフライデーからサイバーマンデーまでの4日間で世界175か国、2,550万人が購入、世界総売上高は29億ドルに及んだ。

 

[1] 農地所有者が畑を耕さないまま農作物を栽培する不耕起栽培、あるいは播種周辺部分のみ耕し農作物を栽培する保全的耕起栽培

[2] Wall Street Journal, ‘Agriculture Industry Best on Carbon as a New Cash Crop’,  2020年12月23日

[3] Shopify Blog, ‘We’re Offsetting All Carbon Emissions from BFCM Order Deliveries’,  2020年11月13日


【「買物を減らそう」キャンペーンを実施したパタゴニア】

 

 アウトドア専門店のパタゴニアは1973年の創業時から地球環境保護活動の歴史を持つ。2015年からは自社の中古品をどう修理して着続けることができるかについての啓蒙活動を始め、2017年には自社中古品販売のオンラインストア「ウォーンウェア(wornwear.com)」を開業、現在までに延べ12万点以上の中古品を販売している。また2016年ブラックフライデーの総売上高が初めて1,000万ドルを超えた時には、その売上高全額を環境保護団体に寄付したことでも有名だ。

 

 今年のホリディ商戦キャンペーンでは「Buy Less. Demand More.(買物を減らそう。より多くを求めよう。)」というメッセージを発信し、オンラインストア、パタゴニア・ドット・コム上の商品ページに「中古品をブラウズする」というボタンを設置した。(注:まだ中古品販売ページにリンクするまでには至っていない)

 

新品フーディの購入ボタンの下に中古品の紹介ボタンがある(出所:patagonia.com)

 

 同社パタゴニア部門ヘッドのジェナ・ジョンソン氏はファッションメディア、インスタイルの11月25日のインタビューに「新製品を欲しいということは意図的な行為であって、(環境問題への)責任と認識を持って新製品を手に入れて欲しい」「今後は(当社は)新製品の数を減らしていきたいが、まず先に啓蒙が鍵で、消費態度を変えさせなければならない」とコメントをしている。

 

 ホリディ商戦と言えば大幅なディスカウントで消費を煽る伝統が長く続いていたが、小売業者側から消費活動を見直させるような動きが出てきたことは興味深い。

 

ヴァーチャルなグループショッピング「ショップ・パーティ」

 

 ヴェリショップ(Verishop)は2019年に創業した衣料品、ホームデコ、ビューティのスタイリッシュな1,000以上のファッションブランドを編集して販売するオンラインストアだ。同社は今月15日に「ショップ・パーティ」と呼ぶ、最大6名までのグループでオンライン上で一緒に買物を楽しめるアプリ(現在はiOSのみ)をスタートした。その機能は

 

  •  ホストは5人まで友人を招待し、日時やパーティのテーマをアレンジする
  • 参加者はビデオか音声で双方向に会話を楽しめ、同時に買物もできる
  • お互いに相手が何をブラウズしているか、スクリーンを共有することができる
  • また、お互いにショッピングバッグに何を入れたかも見ることができる。ただし、価格やサイズなどパーソナルな情報は伏せている
左のスクリーンには友人達の顔や会話が、右にはそれぞれが選んだ商品が見られる(出所:verishop.com)

 

 このように、店舗で友人たちと意見を交わしながら買物を楽しむのと同じことがヴァーチャルに可能となり、コロナ禍で友人と一緒に買物を楽しみにくくなった現状を打破することができる。12月時点ではショップパーティ参加者全員に15%オフの販促を展開中だ。

 

 eマーケター社の推計値では、世界最大のソーシャルコマース国、中国ではライブストリームショッピングを含むソーシャルコマースの2019年の市場規模は1,860億ドル、人口の26.8%が購入しているが、米国はまだ190億ドルと大きく遅れをとっている。しかし米国でも2020年にはティックトック、インスタグラム、アマゾンまでもがライブストリーミングショッピングに参入し、2021年には急速に成長すると見られている。ショップ・パーティは「ライブショーを見ながら購入するのではなく、自分達が社交しながら買物をできる」という点で新たな販路として拡がりを見せそうだ。

 

ツアーガイドがリアルタイムに案内するヴァーチャル旅行「アマゾン・エクスプロア」

 

 9月末、アマゾンは世界20か国、50拠点以上を現地のツアーガイドと共にヴァーチャルだがリアルタイムに旅行できるオンラインエクスペリエンスプラットフォーム、「アマゾン・エクスプロア(Amazon Explore)」をテスト開業した。世界的なコロナ感染拡大が始まって以来、ヴァーチャルツアーは広範囲に行われているが、このプラットフォームでは①現地にツアーガイドがいて日時を予約し、リアルタイムに街を探索できる、②画像はガイドからの一方向だが、音声は双方向なので会話しながら旅をできる、③ただ観光するだけでなく、学習したり買物もできる、④画面のカメラのアイコンをクリックすると好きな画像の写真を撮ることができる。

 

アマゾンエクスプロアでは現地ガイドと共にリアルタイムに買物もできる(出所:amazon.com)

 

 例えばコスタリカの野生ネコ保護地区を訪れて現地の動物と触れ合いながら救済活動について学んだり(27ドル30セント)、エルサレムのマーケットで買物をし、ナイトライフを楽しんだり(120ドル)、東京合羽橋で伝統的台所用品について学び、買物をする(20ドル)など、ただ景色を眺める以上の学びや発見の楽しさがある。(注:買物は別途、支払う)

 

現地での買物は別会計で即座に決済できる(出所:amazon.com)

 

 このプログラムは現地をガイドする団体とアマゾンが共同で開発し、アマゾンが旅の内容や技術面でを指導をしている。売上の分配については公表されていない。予約をした人は、予め行程表を受け取り、カスタマイズすることもできる。ほとんどの旅は30分から60分だ。現地の品を購入する時はツアーガイドを介して店の人と会話をすることができ、商品をよく見るためにカメラに近づけてもらったり、裏返してもらう、なども依頼できる。購入時に米国ドルにその場で換算され(右写真)、各国の税金見積もりとともに金額が表示され、その場で決済できる。ツアーの予約は24時間前までなら無料でキャンセルや日時変更が可能だ。

 

 現在は米国内からでないとツアーには参加できない。ホリディ期間に入ってからはアマゾン・エクスプロア専用のギフトカード($25から)も販売している。まだテスト段階のこのプログラムがコロナ終息後も継続するのかどうか不明だが、「アマゾンマーケットプレースでは買えないような地元マーケットでユニークな商品をいつでも買物ができる」という点は、新たなオンラインショッピングのあり方としての可能性を感じる。

 

レストラン業界の詐欺対策

 

 昨年春の都市封鎖により、2020年3月から7月の間に失われた売上は1,650億ドル(全米レストラン協会の推計値)で、2020年末までに2,400億ドルに達する見込みだ。また感染拡大が始まって以降、約10万件のレストランが仮もしくは永久に店舗を閉鎖したと見込まれている。カリフォルニア州やニューヨーク州などではホリディシーズン中の感染拡大を防ぐために、再びレストランの屋内営業を禁止したため、飲食業界が生き残るためにはオンラインオーダーは生命線と言ってもよい。

 

 しかしオンラインやモバイル、特にフェイスブックなどのソーシャルメディアでは偽の広告などを使った詐欺が横行している。中でも、ボットネット[4]がファーストフードレストランの防御メカニズムを偽のアカウントで防御不能にさせる手法は頻繁に発生している。

 

 このような飲食店を狙う詐欺と戦っているのがチャウナウ(ChowNow)だ。同社はドアダッシュやウーバ―イーツのようなレストラン専門のオンラインオーダープラットフォームだ。さまざまなコミッション料を加算し、オーダーの20~40%もの料金を課金することが多い競合他社とは異なり、一律料金でサービスを提供している。同社はオンラインオーダー処理サービスだけでなく、ここで発生する詐欺予防にも力を入れている。もっとも多い詐欺の手口はお金やデータを直接盗むのではなく、モバイルオーダーアプリを盗んだクレジットカードやパスワードのテストに使うものだ。

 

 同社創業者のエリック・ジャフ氏によると、パスワードが紐づいているEメールアドレスが大量に漏洩する事件が起こった場合、犯罪者は簡単にアクセスできるプラットフォームに行き、オーダーを置いてみて、アカウントがそのシステム上に存在しているかどうかを見る。もし存在する場合は、その人物についての情報にアクセスし、これらの情報を別のより付加価値を得られるプラットフォームで使う、という。

 

 チャウナウはアルゴリズム分析を使い、複数の変数で取引をスコア化し、詐欺性向を判断する。ジャフ氏は「詐欺は動く標的で常に戦術を変えているので、飲食店経営者も対策を変えなければいけません。もし外部企業(オンラインオーダープラットフォームなど)と提携する場合、既に世の中に存在している詐欺グループについての情報を持つ相手を探すべきです。そうすれば、オーダーが入った時、そのスコアによってオーダーを拒否すべきかどうか選ぶことができます」とアドバイスしている[5]。

 

[4] サイバー犯罪者が悪意のあるプログラム(ボット)を使用して乗っ取った多数のコンピュータで構成されるネットワークのこと

[5] PYMNTS, ‘ChowNow On How Independent Eateries Can Navigate Pandemic-Related Challenges’,  2020年12月17日


ペット業界にもリモートヘルスケア

 

 オンラインペット用品専門店のチューイー(Chewy)は10月末に「コネクト・ウィズ・ア・ヴェット(獣医に連絡)」というリモートヘルスケアサービスを無料で開始した。コロナ禍でリモートワークの増加に伴い、ペットと一緒にいる時間が長くなっただけでなく、新たなペット飼い主の数も増えている。同社はペット用リモート診療の必要性を感じ、5月にフロリダ州とマサチューセッツ州でテストを行い、現在47州でサービスを提供している。

 

 同サービスでは、飼い主は免許を持つ獣医とスマートフォンでペットの健康状態について相談することができ、地元の獣医への紹介状をもらえるが、医学的な診断や治療、薬の処方箋をもらうことはできない。同サービスを利用できるのは、チューイーのオンラインストアで商品を定期的に補充する自動配送プログラムに参加している顧客のみだ。この自動配送プログラムの売上は、総売上高の70%以上を占めている。

 

 

同社アプリで獣医に電話をすると、中央の写真のように獣医と話をすることができる(出所:chewy.com)

 

 チューイーは11月1日現在1,800万人の顧客を持ち、1年前より510万人増加した。全米でのペット保有世帯数は1億世帯なので、市場占拠率はかなり高い。ウェドブッシュ証券のアナリスト、セス・バシャム氏はウォールストリートジャーナル[6]の取材に対し、新規のペットの飼い主は最初大量に購入するだけでなく、自動配送プログラムに入れば継続的に同社から購入を続ける点を指摘し、リモートヘルスケアサービスによって自動配送プログラム参加者数が拡大すれば、売上成長もより強固となり得る、とコメントしている。

 

[6] Wall Street Journal, ‘Chewy’s CFO to Expand Pet Products, Explores Monetizing Telehealth Services’, 2020年10月14日



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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


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