【検証事例・航空自衛隊横田基地】国家機密レベルのナレッジをAIで効率運用するRAGシステムをHPワークステーションで構築
航空自衛隊 横田基地
2025-06-17

現在、主力となっている生成AIの多くはクラウドサービスとなっている。インターネット上の膨大な情報をベースにできることから、汎用性の高い回答を得るには有利だが、自分たちの組織内だけで完結させたい機密情報の取り扱いをするにはセキュリティ上の不安があるのも事実だ。ここでは、国家機密レベルの重要な情報を多く扱う航空自衛隊 横田基地 における生成AI活用を例にセキュアなRAGによるPoCをおこなった経過報告をお届けしたいと思う。

膨大なナレッジの高効率運用を目指して
我々の安全な暮らしを確保するため、日本の空を守る要となる航空自衛隊。中でも首都圏に位置し、米国空軍と基地を共にする横田基地は、地域のためだけでなく、日米連携の要としての役割を持つ重要な拠点だ。防空という側面でも高度なシステム化が進んでおり、任務を遂行するために様々な機器やツールが使われている。
「航空自衛隊 横田基地 には、日本の空を守るという任務を担う航空総隊司令官と、その司令官の手足となって任務を遂行する航空総隊司令部という組織があります。私の所属する作戦システム運用隊という部隊は、その航空総隊司令部を運用、システム、基地運営といった面から支える役割を担っています」と語るのは、航空自衛隊 横田基地 の作戦システム運用隊という部隊の副司令を務める1等空佐 中村 大介氏だ(以降、中村1佐)。
作戦システム運用隊においても、AI活用を視野に入れており、膨大なナレッジを効率よく運用するためのシステムを模索していたのだという。「業務の省人化・効率化を進めるにあたり、AIを活用するというのは、一般的な趨勢(すうせい)だと思っています。また、我々も行政組織のひとつとして、様々なルールに則って業務を進めなければなりません。業務の省人化・効率化のため、調べたいものをすぐに、かつ、正確に回答してくれる。そして、様々なナレッジを上手に活用できる仕組みが欲しいということで、それをRAGシステムで実現できないかと考えました。ただ、我々はその性質上、機微な情報を取り扱いますので、導入するAIはオンプレミス環境での運用というのが前提条件と考えていました」と語る中村 1佐。
ちょうどそのタイミングでHP、メタデータ株式会社によるRAGシステムのPoCの話があり、トライすることになったのだという。
オンプレミス環境でのAI処理向けに最先端技術を投入
航空自衛隊 横田基地 でのRAG PoCを実現するにあたり、HPはワークステーションを提供、メタデータはシステム構築を担当した。「今回、横田基地でのPoCに使用したのはメタデータの『ChatBrid』というノーコードRAG構築システムになります。RAGの心臓部であるベクトルストレージは弊社が開発したもので日本語に対して高い精度を発揮できるのが特長です。さらに特許技術にもなっている『データセットプロンプト』により、ジャンルに応じたプロンプトに自動的に切り替わるテクノロジーを採用しています」と概要を語るのは、メタデータ株式会社 代表取締役社長(理学博士) 野村 直之氏だ(以降、野村氏)。
ChatBridは独自に開発されたエンジンを随所に持つことで「早い(ハイレスポンス)、安い(ローコスト)、美味い(高精度)」を実現しているRAGだ。学習するためのデータを必要十分なものに厳選し、膨大な影プロンプトをLLMへ送ることでレスポンスを向上させることが可能。フロントエンドに既存のチャットツールなどの外部APIが利用可能なためローコストで構築できるのも特長だ。
Chatの回答に不満足、不明点あるときなど、その根拠となる知識レコード中のどの言葉や意味が原因となっているかがビジュアルに一目で分かる説明機能を備える。これにより、そもそも質問への回答を作るための根拠が既存マニュアル群には存在しないことさえも秒単位で把握可能。このように、知識デバッグが迅速に、確実に行えることも大きな特徴だ。また、知識構築の際に、データセットプロンプトに説明を加えるべき頻出専門用語を浮かび上がらせるワードクラウドや、知識レコードを小さめのサイズに抑えつつ知識体系全体における位置づけを明示してLLMに伝える高精度化機能も備える。
さらに今回のPoCでは、複雑かつ乱れたPDF内容について、たとえば、必要な改行コードと不要な改行コードを自動的に認識、識別して、知識の階層構造を復元する前処理ツールも数種類開発、強化している。出力された回答の妥当性を詳細に採点し、減点理由、改善ポイントを指摘できる ChatBridDual ※も適用。これにより、評価効率の大幅向上、評価の均質性、そして評価精度を向上できることをPoCの中で証明した。
※https://workwonders.jp/media/archives/12483/
今回、LLMもRAGシステムも全てオンプレミスで動作させている。特にSLM(小型言語モデル)と呼ぶべき8Bを磨いて、HPの高性能ワークステーションで動作させた際、質問から回答が返りきるまでの平均待ち時間は約2秒。これは、オンライン最速クラスのGPT-4o miniをRAGから呼んだ場合の平均3秒強を50%も上回る快速さであり、快適な使用感に大きく貢献した。自然で分かりやすい回答が得られとで、元の難解なマニュアルを解読する負荷が大きく軽減し、優れたナレッジマネジメントが実現したといえる。「『早い、安い、美味い』まるで、牛丼のようなソリューションです」と野村氏は笑顔で語る。
航空自衛隊 横田基地 を舞台とした今回の事例ではChatBridをオンプレミスで構築するため、HPからワークステーションも提供された。「今回ご用意したのは『HP Z6 G5 A Workstation』です。AMD Ryzen™ Threadripper™ PRO 7995WX プロセッサを採用し、96の物理コアによる192スレッドという圧倒的なプロセッサパワーを提供します。これにより、今回のシステムのデータロード・アンロードを強力にサポートします」と語るのはHPのAI/DS市場開発担当部長 勝谷 裕史氏だ。
また、HP Z6 G5 A Workstationは、ハイエンドグラフィックスNVIDIA RTX 6000 Adaが最大3基搭載でき、生成AIのファインチューニングや学習に、より最適な環境を作ることもできる。ちなみに今回のPoCに限り、野村氏の手により、メインストレージにHP製のハイエンドSSDが導入されている。最大7GB/sクラスのストレージを活用することで、さらにリードタイムは短縮されているのも特長だ。
超セキュアな環境にもRAGが導入可能なことを証明
組織内ナレッジを構築するにあたり、自衛隊独特の文体に多少苦労はあったというが、メタデータスタッフの尽力もあり、それも解決。2025年2月、無事にPoCを実施することができた。「実際にプロンプトを投げかけて、きちんとした回答が返ってくることが分かりとても安心しました。システムのレスポンスに関してもストレスなく使用できたという印象があります。ワークステーションとAIがきちんとマッチングしていることの証左だと思います」と感想を語る中村1佐。
「航空自衛隊の隊員の方々にも使っていただいた結果、ストレスを感じずに利用できていたと伺っています。ワークステーションに関してもメインメモリとストレージのスワップが超高速で動いていることがわかり、GPUで処理しているデータとの兼ね合いにおいてもストレスはありませんでした。2つのモデルをロードする際、GPUメモリに余裕がないとストレスになるのですが、プロセッサとメインメモリ、ストレージがそれを代替しても問題ないぐらいのレスポンスだったそうです。この点に関してはGPUリソースを節約できるぐらいのパフォーマンスが実際に得られていたので、開発スタッフからも快適だったと感想を聞いています」と野村氏も言葉を続ける。いずれにしてもPoCは成功といってよい結果が出たとみてよいだろう。
システムのレスポンスに関してもストレスなく使用できたという印象があります。ワークステーションとAIがきちんとマッチングしていることの証左だと思います。
「やってみないとわからない、触ってみないとわからない、ということは多くありますので、一般に公開されている規則をナレッジとした今回のPoCの中で、多くの隊員が実際に体験できたということが一番の成果であると感じています」中村1佐は総括する。
「日本の中でもトップクラスにセキュリティが厳しい組織ですから、そこで使われるドキュメントを用いて、RAGを構築し、プロンプトに対して正確な回答ができるのか大変なチャレンジだと思いました。精度の高い回答が得られなければ、人命が左右しかねない中でのシステム運用という貴重な体験ができました。航空自衛隊のみなさまには本当に感謝しております」と野村氏は語る。
「まずは、今回のPoCの実現にあたり、ご尽力いただいた方々に感謝申し上げます。システムの整備を担当するのは上級の部署であり、我々はユーザーの立場です。このため、今回のPoCの成果を踏まえ、上級の部署等に必要なシステム整備の要望を訴えていくことになります。上級の部署に、必要なシステムの整備を迅速に行ってもらうために、今回のPoCの成果をしっかりと報告していきたいと思っています」と中村1佐は最後に語ってくれた。HPとメタデータは今後も航空自衛隊のサポートを続けていく。
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