【検証事例・大分キヤノンマテリアル株式会社】HPワークステーションによる高精度なローカルLLM運用を体感
HP Workstation PoCレポート
2026-06-12
製造業を営む事業者にとって、日々蓄積される各種データは企業にとっての大きな財産となる。これらのデータを有効に利活用することで、業務効率化や生産性向上といったDX促進につながるだけでなく、新たな課題の発掘やビジネスアイデアの創出など、企業の成長戦略に必要なヒントが隠されているからだ。生成AI活用を進めている大分キヤノンマテリアル株式会社では、こうした製造事業者が持ち得る情報活用の施策としてローカル生成AI活用によるPoCを実施、新たな可能性を見出そうとしている。今回は担当者に話を伺うことができたので紹介したいと思う。
取材:中山 一弘
目的
- ローカルSLM/LLM/RAGによる自社データ活用の可能性を発掘
アプローチ
- HP・調和技研が主導しているワークステーションを活用したPoCキャンペーンへの参加
端末の評価
- システムに必要なスペック・モデルについての最適な提案
- 稼働中も十分なレスポンスを体感
- ワークステーションでもローカル生成AI活用が可能なことを確認
運用の効果
- PoC環境における十分な精度を確認
- 実業務での生成AI活用に対するイメージを確認
- クラウド、ローカルそれぞれのメリットを生かして生成AI活用のイメージを確認
生成AIの積極的な活用を目指して
大分キヤノンマテリアル株式会社は、1998年の設立以来、キヤノングループの一員としてプリンティング分野における周辺機器事業、デジタルプリンティング事業(インクジェット)、デジタルプリンティング事業(複写機)の中核を担い続けている企業だ。
世界中のお客さまの暮らしに便利さと豊かさを提供すること、ビジネスにおいては高品質と高速を兼ね備え、プロフェッショナルな要求に応えていくことを使命として業務に邁進している。
そのために大分キヤノンマテリアルでは、進化し続ける技術を貪欲に取り入れ、部品や装置を自社開発・生産する「内製化」や、マシン技術による「自動化」など、徹底した効率化とともに、安心・安全・高品質な製品づくりに挑戦し続けている。
同社は企業理念に「共生」を掲げ、地域社会、自然環境、そして社員との調和を重視し、持続可能な事業運営を目指しているという。また、行動指針として「三自の精神(自発・自治・自覚)」を掲げ、社員一人ひとりが主体的に考え、責任を持って行動する企業文化を同時に育んでいる。
「弊社の強みは品質へのこだわりです。常に『No.1品質』を追求し、完全内製・自動化による高効率な製造体制を構築しています。さらに現在ではAIやデジタル技術を積極的に導入し、業務効率化や生産性向上にも取り組んでいるところです」と語るのは技術部 課長の稙田 修典 氏(以降、稙田氏)だ。
稙田氏の話にもあったように同社は近年、生成AIの積極的な活用に力を入れている。「弊社においても、製造業における生産性の向上ということが至上命題になっています。まず、バックオフィス業務における生産性向上を目的に、対話型の生成AIの導入を検討しました。弊社はキヤノン株式会社が100%出資する子会社になりますので、実際の導入にあたっては、キヤノン株式会社のポリシーに従いほぼ同じタイミングで生成AI(Copilot)を導入することとなりました。このように同時期に導入を図れたことは、グループ会社としてよいコラボレーションが実現できたのではないかと思っています」と同氏は語る。
生成AIについてはバックオフィス業務だけでなく、弊社のメイン業務である製造職場でも活用できることを目指しており、特に業務の性質上、クラウドに機密情報を上げられないというケースも考えられるという。「そのような観点からローカル生成AIを利用して、現場で活用可能なものができればと考えるようになりました」と稙田氏は語る。
HPと調和技研によるPoCに参加
「私が所属する部門では、社内全般のデジタル技術活用をミッションとして取り組んでいます。特に世の中の最新技術と社内における課題解決に向けてのマッチングは大きなミッションです。そのための情報収集として各種のウェビナーやオンラインミーティングには積極的に参加しています」と語る稙田氏。
同氏はその活動の中で、HPのパートナーである生成AI開発事業者の株式会社調和技研(以降、調和技研)のセッションを聞く機会があったのだという。「ウェビナーでもローカル生成AI活用において、かなり先進的な取り組みを実施している印象を持ちましたが、このようなサービスはクラウドサービスが主流で、我々のような利用者にはサービスの裏で動作しているサーバーやワークステーションがどのくらいのスペックが必要になるのか全く見当がつきませんでした。しかし、調和技研様とHP様によるPoCキャンペーンに参加すれば期間中、ハードウェアは無償貸与との話を聞き、安心して任せられるのではないかと考えました」と稙田氏はPoCに参加した経緯を語る。
「大分キヤノンマテリアル様が声をかけてくださり、お付き合いを始めさせていただく機会を作っていただきました。私たちとしても大規模な製造事業者様の現場をよく知らなかったので、要件定義に時間をかけて進めさせていただきました」と語るのは調和技研の武藤氏だ。
「要件定義の過程で様々なことをご相談しながら、細部を詰めていきました。基本的には『RAG(Retrieval-Augmented Generation)』をベースにしながら、すべてを1台のマシンで構成できるようにしていきました」と説明するのは同じく調和技研の高松氏。
同時に大分キヤノンマテリアルでの本格運用を想定し、今回は完全なオンプレミス環境でPoCをすることを前提とした。設置場所が自由なワークステーションならば、工場のライン近くでローカルLLMシステムを構築できるので、機密情報の漏洩リスクを大幅に低減しながら高効率な生成AIシステムの運用が可能となるからだ。
「HPとしても今回の要件ではどのようなワークステーションが最適なのかを考えていました。やはりRAGを組むとなると、かなり高性能なグラフィックスカードが必要になると想定しました。また、OpenAIのオープンモデル『gpt-oss』を使えば回答精度も向上することが期待できるということがわかりましたので、それも搭載可能なスペックが必要ということになりました」と語るのはHPの勝谷氏だ。
「gpt-oss」には、20B、120Bがあるが、大分キヤノンマテリアルのような大規模事業者になると将来的には120Bが必要とされることが予想される。そこで今回のPoCでは「gpt-oss-120B」を稼働させることを想定し、貸与するワークステーションもNVIDIA RTX™ PRO 6000 Blackwell Max-Qを搭載したフラッグシップモデル「HP Z8 G5 Workstation」が選ばれることになった。
この環境下であれば「gpt-oss-120B」はo4-miniと同等の精度を実現しながら、クラウド生成AIよりも高速なレスポンスを実現するローカルLLMとして運用することができる。さらに外部から完全に隔離されたオンプレミス環境で稼働させることで、機密情報が外部に流出するリスクが極めて低いセキュアな環境も整ったわけだ。
大分キヤノンマテリアル用に準備されたHP Z8 G5 Workstationは、さっそく武藤氏、高松氏の手により、要件をカバーする「ローカルRAGシステム」が構築された。すべての準備は整い、いよいよPoCが開始されることになった。
予想以上の精度を出すことに成功
2025年5月より、要件定義が始まったPoCキャンペーンは、稙田氏および調和技研、HPにより、試行を積み上げていった。「私たちも日常業務があるなかで、これだけを専門に取り組むというわけにもいかない事情がありました。本来はきれいに整理したデータをお渡しできればよかったのですが、そこまでの時間もなかったので、最初の段階では仮想的に現場を想定したデータをお渡ししました。これでよい結果が出るのか不安でしたが、予想以上に精度が高い回答を得ることができ大変驚きでした。仮データでもここまでの精度が出るのであれば、実際に業務に転用してもかなりの部分を効率化できるという実感を得ることができました」と感想を語る稙田氏。
PoCは約3カ月の間続けられたが、製造業に長く携わってきた稙田氏からみても、納得できる回答が得られる場面が非常に多かったのだという。「もちろん、調和技研様の技術力やチューニングによるところも大きいのではないかと思っています。また、十分なパフォーマンスを感じられるワークステーションを提供して頂いたHP様にも大変感謝しております。PoCの間に得られた結果により、我々が導入を目指している製造職場での活用シーンをイメージすることが出来ました」と稙田氏は改めてPoCを振り返る。
「いただいた情報をどう整理していくか、まだ整理されていない情報をどうまとめていくのか、というところがいちばんのポイントだったと考えています。ワークステーションにおいては、快適なレスポンスが得られるスペックを選定しましたが、結果的に問題なく活用できたとのことでしたので安心しています」とPoCを見守ってきたHPの和泉氏も喜びの表情を浮かべる。
ワークステーションによるAI活用の有用性を確認
「社内全域における生産性向上には生成AIが必要不可欠だと思います。最終的には利用シーンや取り扱うデータにより、現在使用しているCopilotとローカル環境の生成AIを使い分けるようにしたいと考えています。使い分けなどに関しては、我々も社内エンジニアとしてチューニングなどに関するスキルを高めていく必要があると感じています」と生成AI活用についての期待と課題を語る稙田氏。
今回のPoCを通して、同氏はデスクサイドで完結できるワークステーションの可能性を実感したのだという。「ネットワークと切り離して利用できる環境にすることで、これまで設置が難しかった製造職場などへも柔軟に配置できます。また、ワークステーションでも十分に運用もできることが分かったこともPoCの成果のひとつだと思います。一般情報や公開情報などを扱う場合はクラウドベースのCopilotを、機密データが多い工場内やネットワークに接続されていない環境ではワークステーションを使うといった、ハイブリッドな運用も考えられることも学ばせていただきました」と稙田氏は今回のPoCを総括する。
「実装化にはまだ時間がかかるとは思いますが、今回のPoCで得られた経験を活かしながら、次の段階につなげていけたらと考えています。調和技研様やHP様には、今後も最先端の情報などをご提供いただければと思います。我々は表立ってDXとは発信しておりませんが、バックオフィス業務、製造職場ともにデジタルを活用し、常に変化し続けなければならないと考えています。キヤノンの企業DNAに『人間尊重』『技術優先』『進取の気性』があります。ベンチャー企業として始まった進取の気性と、技術による差別化を目指す姿勢を今後もこの大分の地から取り組んでいきたいと考えています」と最後に稙田氏は語ってくれた。HPと調和技研は今後も大分キヤノンマテリアルのサポートを続けてゆく。
ネットワークと切り離して利用できる環境にすることで、これまで設置が難しかった製造職場などへも柔軟に配置できます。また、ワークステーションでも十分に運用できることが分かったこともPoCの成果のひとつだと思います。
技術部 課長
稙田 修典 氏
執行役員 研究開発部 部長
高松 一樹 氏(左)
同
ビジネス開発部事業推進G
マネージャー
武藤 悠貴 氏(右)
ソリューション営業本部 ワークステーションビジネス開発部
AI/DS市場開発担当部長
勝谷 裕史 氏(左)
同
エンタープライズ第二営業統括
第一営業本部 第二営業部 部長
和泉 孝 氏(右)
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