NVIDIAのGPUを搭載したHP Workstationにより
設計初期段階で効果的・効率的に最適解を探究
HP Workstationを活用した設計用シミュレータ「Ansys Discovery」のベンチマーク検証事例
2026-05-28
自動車や産業機器、電子機器――。こうした工業製品の価値を最大限まで高めるには、設計の初期段階で仕様や構造をできるだけ最適化しておきたい。というのも、細部にまで設計が進んでしまうと、改善や修正の効果が限定的になってしまうからだ。初期段階でコンセプトや仕様の大枠を検証しておきたいというニーズに応える設計支援ツールとして、米Synopsys,Inc.(以下、Synopsys)の子会社であるアンシス・ジャパンは同一GUI上でモデリングとシミュレーションを並行実行できる「Ansys Discovery」を提供する。同ツールを活用することで、設計期間の短縮と設計品質の向上が期待できる。同社ではNVIDIA製GPUを搭載したHP Workstationを用い、その演算性能にフォーカスしてベンチマークテストを実施し、Ansys Discoveryを円滑かつ快適に活用するための条件を検証した。
Applications Engineering Sr Staff Engineer
山口 貴大氏
エンタープライズ営業統括
ソリューション営業本部 ワークステーションビジネス開発部
市場開発担当部長
川口 剛史氏
開発初期段階で設計の方向性を固め、製品価値を早期に最大化
アンシス・ジャパン株式会社(以下、アンシス)は、電子/物理工学を応用した多様な開発・設計ソリューションを提供する米Synopsys, Inc.において「Ansys」ブランドの解析ツールを日本国内の先進的ユーザー企業に届け、その効果的な活用を支援している企業である。Ansysの解析ツールは半世紀以上にわたって、製造業を中心とする産業界の技術開発を支え続けてきた。同社が扱うツールは、構造解析や熱流体解析、電磁界解析、回路・システム解析、光学解析、および連成解析など多様である。日本においても、国際競争力の高い自動車や産業用の機器・プラント、電気電子機器、およびそれらを構成する部品などの開発・設計に欠かせない存在となっている。
Synopsysでは、今まで以上に効率的かつ素早い製品開発・設計が現場で求められるようになってきたことを受け、「Ansys Discovery」を提供している。3Dモデルを作り込むモデリング機能と、多様な解析を実行するシミュレーション機能を、1つのGUI上で並行して利用できる。コンセプト設計や初期設計の段階で仕様を作り込んでおき、試作・検証段階での手直しを最小限にとどめる「フロントローディング」という手法に基づく機器/システム、部品の設計を、効果的かつ効率的に実践できるのが特徴だ。設計初期段階でより多くの設計案に対して機能・性能が迅速に検証できるため、その後の開発工程での手戻りが少ない最適案を探り出すことが可能になる。
同一GUI上で設計者自身が迷うことなく確実に設計案を検証可能
製品設計時点においては、設計案が想定通りの価値を生み出せるのか検証し、可能な限り改善点を見つけて適切に修正しておく必要がある。ただし、一般に設計業務と解析業務はそれぞれ個別の専門的な知見とスキルが求められる。そのため設計と解析はそれぞれ別の部署で行われ、設計部署は解析依頼書の作成から解析結果の受け取りまでに約5~10日程度待つことになるのが一般的だ。この待機時間は設計・検証を繰り返して試行錯誤するたびに発生する。設計と解析の繰り返し時間の短縮は、設計期間の短縮だけでなく検討する設計案を増やすことにも直結する。
こうした状況を踏まえ、設計初期段階で設計者自らが設計案の方向性を素早く高い確度で定められるよう、開発されたのがAnsys Discoveryである。アンシス・ジャパンの山口貴大氏は、「解析に関する知見やスキルがあまりない設計者でも、簡単かつ正確に解析できるような機能を数多く備えています。既に日本においても、設計、生産技術、試作・検証を担う部署、さらには解析の専門部署のエンジニアに多く使用されています」と明かす。「利用シーンも多岐にわたり、例えば自動車業界では、エクステリアのデザインに対する大枠の設計や、施工前の工場の設計図を基にした換気ファンの最適配置を検討する場面などで利用されています」(山口氏)。
Ansys Discoveryは、設計案の3Dモデルを作成する本格的なモデリング機能と、その機能・性能を解析して検証するために必要十分なシミュレーション機能の両方を備えている。だからこそ、解析技術に乏しい設計者でも、スムーズに設計案を検証できる。
Ansys Discoveryのモデリング機能は、多様なモデリング手法に対応している。ダイレクトモデリングによる自由形状の作成と編集、パラメトリックな形状作成や2Dスケッチからの3D形状作成、他社CADのパラメータを取り込んでの操作、細分割局面を使用した滑らかで有機的なデザインを操作・編集できるSub-Dモデリングなどを利用できる。
実行可能なシミュレーションの種類も多彩だ。構造解析や流体解析、マルチフィジックスに対応する連成解析を実行できる。構造解析では線形静解析や固有値解析、固体伝熱解析に、流体解析では単相の気流解析と熱流体解析に対応している。マルチフィジックス解析では、流体と固体それぞれから発生する熱を連成させ、相互作用を考慮して熱の動きを計算するCHT解析にも対応している。
これらのモデリング機能とシミュレーション機能を同じGUI上で操作・実行できるため、設計者が設計初期段階で行う作業の大半を、Ansys Discovery上で完結させることが可能になる。これによって、「設計期間を短縮できるだけでなく、これまで以上に多くの設計案を初期段階で試すことが可能になり、製品価値のさらなる向上にも貢献します。Ansys Discoveryでは、3D CADで設計したモデルを取り込んで検証・手直しすることもできますが、逆にAnsys Discoveryで作成したモデルを3D CADに入力し、詳細設計する際の叩き台として利用することも可能です」(山口氏)。
Ansys DiscoveryのシミュレーションはCUDAベース、快適な活用環境を探る
設計の品質向上と手戻りの削減に効果的なAnsys Discoveryは、多機能でパワフルなツールであるがゆえに動作させるハードウェアに相応の能力があってこそ、その潜在能力を最大限に発揮できる。
最低動作要件は、64bit対応のIntel /AMD製の4コア以上のCPUと8GB以上のメモリー、空き容量が数十GBのSSDを搭載していること。快適に活用するためには、8コア以上のCPU、32GB以上(解析規模によっては64GBが必要)のメモリー、高速に読み書きできるNVMe SSDのストレージが必要となる。CPUの性能とメモリーの容量は、扱うことができる設計対象の規模の大きさと操作環境の快適さに影響が及ぶ。
さらに、CUDAに対応するNVIDIA製の専用GPUを搭載していることも必須要件となる。Ansys DiscoveryのシミュレータはCUDAベースで開発されており、3DモデリングはCPU、シミュレーションはCUDAといったかたちで“役割分担”して処理するからだ。
CUDA対応のNVIDIA製GPUには、多くの種類がある。当然、より高性能なチップを選択したほうが、短時間での解析が可能になる。GPU用のメモリーであるVRAMも8GB以上、快適性を高めるには32GBの搭載が望ましい。そこでアンシス・ジャパンではHP Workstationのラインナップのうち、設計者が3D CADを利用して設計する際に利用する標準的なモデルである「Z2シリーズ」を検証に採用。中でもタワー型の「HP Z2 Tower G1i Workstation」を検証に用い、そこに搭載可能な5種類のGPU、さらにAnsys Discoveryのハードウェア要件を満たすラップトップ型の「HP ZBook X G1i Mobile Workstation」とそこに搭載可能なGPUも加えて、それぞれでAnsys Discoveryを利用した場合の性能と使い勝手をベンチマークテストした。
検証に用いたZ2シリーズでは、高クロックCPUであるIntel Core Ultraプロセッサーの「Kプロセッサー」やハイエンドのグラフィックカードを搭載でき、VRAM容量の大きいカードにも対応する高い拡張性を備えている。設計者が日常業務を行う環境として、十分な仕様を満たしている。日本HPの川口剛史氏は「リモート・デスクトップ・ソリューション『HP RGS』を活用することで、3DモデリングやCAEなどを出先のパソコンなどでも画面をそのまま利用して操作できます。また、それを転送して実行できる機動性も備えています。設計業務の多様な利用シーンでの効果的活用が可能です」と話す。
世代変わりや搭載コア数など、演算性能に見合った効率化の向上を実証
「電子機器の冷却性能の解析に対するニーズが急激に増えています」(山口氏)という現状を踏まえ、テスト対象とした設計例と解析シーンには、GPUカードの冷却性能の解析を想定し、そこでの共役熱伝達解析(CHT解析)を適用した。この解析では初期検討レベルでの利用を想定し、GPU カードを簡略化した部品点数約30点のモデルを使用。シミュレーション用に110万メッシュの構成とし、流体と固体の熱の流れを考慮する連成解析によって放熱特性を調べた。
HP Z2 Tower G1iに搭載してテストしたGPUとしては、搭載可能なチップの中から最新世代の「NVIDIA RTX PRO™ 2000 Blackwell」「NVIDIA RTX PRO™ 4000 Blackwell」「NVIDIA RTX PRO™ 5000 Blackwell」と、前世代チップである「NVIDIA RTX™ 4000 Ada」「NVIDIA RTX™ 5000 Ada」を選定。世代の違いやコア数、VRAMの容量の違いを検証した。一方、HP ZBook X G1iに搭載したGPUは、「NVIDIA RTX PRO™ 2000 Blackwell Laptop」を適用した。
ベンチマークでは、シミュレーションを実行する前に行うメッシュを切る作業などの「セットアップ」に要する時間と、シミュレーションの実行そのものに要する時間のそれぞれを検証した。その結果、セットアップとシミュレーションの実行に要する時間はRTX PRO 2000 Blackwell(CUDA4352コア・VRAM容量16GB、メモリーバスの帯域288GB/s)でも合計69.8秒と十分実用的であることを確認できた。コア数などで勝るRTX PRO 4000 Blackwellならば同41.7秒、RTX PRO 5000 Blackwellならば34.5秒と、より優位な結果が得られた。前世代チップであっても、RTX 4000 Adaでは同45.2秒、コア数などに優れたRTX 5000 Adaでは同36.8秒と、最新世代に匹敵する速度を誇っている。
仮にCPUだけで同じ解析を行った場合、20分程度費やすことになると山口氏は指摘する。「今回検証対象としたGPUを使えば、1時間で30回以上、違ったモデルでの検討が可能になります。これまでよりも十倍ほどの多くの条件、設計案を設計初期に試行錯誤できるので、早い段階で最適解が探れそうです。HP WorkstationとGPUを組み合わせてAnsys Discoveryを活用すれば、製品の価値向上に大いに貢献することでしょう」(山口氏)。
GPUの価格は、世代やコア数の違いで大きく変わってくる。「高性能なGPUを選択するほど、設計品質の向上や期間短縮といった効果がより得られることは確実です。ただし、GPUは性能向上に対する価格上昇が大きなコンポーネントです。設計対象や利用シーンに応じて、投資効果を精査して採用するGPUを選定することをお勧めします」と川口氏は助言する。
機動性に優れるラップトップ型に搭載可能なRTX PRO 2000 Blackwell Laptopであっても、タワー型に搭載可能なチップに匹敵する性能が得られることは実証できている。設計者の業務環境を考慮して、ラップトップ型を選択するという判断もできそうだ。
今回検証対象としたGPUを使えば、1時間で30回以上、違ったモデルでの検討が可能になります。これまでよりも十倍ほどの多くの条件、設計案を設計初期に試行錯誤できるので、早い段階で最適解が探れそうです。HP WorkstationとGPUを組み合わせてAnsys Discoveryを活用すれば、製品の価値向上に大いに貢献することでしょう
Applications Engineering
Sr Staff Engineer
山口 貴大氏
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