1/1000秒を争う国内最高峰のGTレースを支えるHPワークステーション
株式会社サード
2026-06-12
モータースポーツは時代の変遷の中で形を変えながら発展してきた。中でも最新鋭のメカニズムが詰め込まれたGTレースは現在でも多くの人々の心を捉えて離さない魅力を持っている。近年では出走車に取り付けられたあらゆるセンサーを通じて集積されたデータをサーキットでリアルタイムに解析、レースマネジメントの一瞬の判断を助ける情報源として活用されている。今回は日本最高峰のGTレース「SUPER GT」で戦い続けているTGR TEAM SARDに、レースにおけるコンピューティングの実際を伺ってきたので紹介しよう。
目的
- レースマネジメントにおける的確な判断を助けるコンピュータの活用
アプローチ
- 移動が続くレースで常にハイパフォーマンスを提供できる「HP Z2 Mini G1a Workstation」の導入
システムの効果
- 超小型筐体による自由度の高い設置環境の実現
- AMD Ryzen™ AI Max+ PRO プロセッサによるハイパフォーマンス
- デスクトップ型ワークステーションの持ち出しが可能に
ビジネスの効果
- 高い処理能力によるリアルタイムなデータ解析
- 拠点でおこなうコンピューティングと同等の操作がレース場でも可能
- 優れた可用性と信頼のサポート
日本のレース界をけん引するTRG TEAM SARD
「TGR TEAM SARD」は日本を代表するモータースポーツチームおよびチューニングパーツメーカーだ。「Sigma Advanxed Racing Development」をチーム名の由来とし、そのルーツは1972年に発足した「シグマオートモーティブ」にまで遡ることができる。同チームは日本チームとして初めて「ル・マン24時間レース」に挑戦したことでモータースポーツ史に大きな足跡を残したことでも知られている。
1985年に「SARD」としてリスタートを切ることとなり、トヨタ系のワークスチームとして耐久レースやGTレースでの活躍が始まる。以降の主な戦績として、1993年のル・マン24時間レースではクラス優勝、総合でも5位に入ったほか、翌1994年には総合2位を獲得。世界から日本のレーシングチームによる歴史的な快挙として注目されるきっかけになった。
2007年に開催された十勝24時間レースでは「DENSO SARD Supra HV-R」を駆り、ハイブリッド車として世界初の優勝を達成し、ハイブリッドレーシング技術の向上にも大きく寄与した。現在は日本最高峰のGTレース「SUPER GT」のGT500クラスに参戦しており、2025年、2026年は「DENSO KOBELCO SARD GR Supra」として活躍、トヨタGR Supraをベース車両として連戦を続けている。
レースでの活躍はもちろんだが、世界を相手に戦い続けた豊富なノウハウにより開発される高性能パーツを市場に還元しているTGR TEAM SARDでは、レースマネジメントやパーツの開発にHPのワークステーションを積極的に活用しており、その模様は以前も紹介している(※https://jp.ext.hp.com/techdevice/technology/ws_interview_027/)。
レースの世界ではいかに効率よくマシンを運用し、タイムを縮めるかを1/1000秒単位で計算している。特にレースの本戦では、実際にコースを周回しながら様々なデータが蓄積され、ピット内のシステムで解析されている。
「そのようなデータをサーキットの最前線で管理しているのが『エンジニアデスク』と呼ばれる移動式のコンピューティング専用デスクです。簡易な机にパソコンを置いただけというチームもありますが、TGR TEAM SARDでは連戦でも持ち運びが容易な収納型のコンポーネントを設計して利用しています」と語るのは、株式会社サード モータースポーツ部 次長 TGR TEAM SARD チーフエンジニアの阿部 和也 氏(以降、阿部氏)だ。
「私は2025年からTGR TEAM SARDに来たのですが、効率性を考えて改善した方がいいと思って、現在のような収納できるコンポーネントの形にしてみました。実際に作業するときには上下に作業用のスペースが出来上がる構造になっていて、モニターやプリンタなどの設置も容易です。十分に効率のよいワークスペースを提供しながら、収納時には非常にコンパクトになるのが特徴です。椅子なども含めてすべて1つにまとまるので移動時にも負担が少なくなりますし、破損や紛失の心配もなくなります」と言葉を続ける阿部氏。素早く準備が整えば、それだけ早くデータ解析も始められる。TGR TEAM SARDが新たに構築したエンジニアデスクに設置されているのは、もちろんHPのワークステーションだ。
過酷な環境で威力を発揮するHPワークステーション
取材班が訪れたのは2026年5月4日、富士スピードウェイで開催されたSUPER GTの第2戦の決勝だ。当日の早朝は前線の通過により台風並みの大雨、午前中に雨は上がったが、強風が残ったうえに気温も急上昇という、非常に先が読みづらい環境の中でのレースが予想されていた。
このような状況の中では、リアルタイムなデータ処理による最新情報が戦略の判断を左右する。「TGR TEAM SARDではHPのワークステーションを利用しています。特に現在のメインマシンであるモバイルワークステーションの各モデルは、ノートPCと変わらないデザインでありながら強力なマシンパワーを提供してくれているので非常に頼りになります。以前の私の中ではワークステーションというと大きな四角いタワー型のデスクトップ型のイメージがあったのでスリムな筐体でそれが実現されていることに驚きました。サーキットでは使えるスペースに限りがあるのでコンパクトであることはとても重要です」と阿部氏。
TGR TEAM SARDのピット内に設置されたエンジニアデスクにはこれまで導入してきたモバイルワークステーションがひしめき合っている。そんなTGR TEAM SARDが新たに導入したのが「HP Z2 Mini G1a Workstation」になる。
HP Z2 mini G1aは、AMD Ryzen™ AI PROプロセッサを搭載する超小型デスクトップタイプのワークステーションだ。このプロセッサはCPU、GPU、NPUをひとつのダイ上にレイアウトすることで高効率かつパワフルな処理能力を発揮し、あらゆるプロフェッショナル用途へのニーズに応えることができるパフォーマンスを提供する。
最大で128GBまで搭載可能なメインメモリのうち、最大で96GBまでGPUメモリに割り当てることが可能で、AIの演算処理においてもより大規模モデルを扱うことが可能となっている。
AMD Ryzen™ AI PROプロセッサのハイエンドモデル、「AMD Ryzen™ AI Max+ PRO 395」は物理コアを16基、32スレッドによる並列処理を最大5.1GHzというハイクロックで演算する。GPUにはAMD Radeon™ 8060Sが用意されており、3D CGなどの描画能力も非常に優れているのも特長だ。
「これまでは各スタッフがモバイルワークステーションをメインに活用していましたが、HP Z2 Mini G1aの導入により、開発拠点で利用しているデスクトップ型のワークステーションと同等レベルのコンピューティングが可能となりました。こうしたレースの間でCADソフトを使うようなケースもあるので、それなりのスペックが必要でしたが、手軽に扱えるサイズでありながらハイパフォーマンスである点を考えれば、普段は拠点で使っている環境をそのままレースの現場に持ってくることができるので有利です」と阿部氏は語る。ちなみに先に紹介したエンジニアデスクも、HPワークステーション上のCADソフトで設計されたものなのだという。
高度なデータ解析結果をリアルタイムに提供
「最近のレースカーに設置されるデータロガーが取り扱うデータ量はどんどん大きくなっています。一昔前のものであればロギングレートも概ね100Hz程度で、積んでいるセンサーも多くはありませんでした。ところが現在は500Hzというものもあり、センサーの量もかなり多くなっています。スペックの低いPCではフリーズしてしまうようなこともありますし、細かな解析による客観的なデータの取得が可能なワークステーションは私たちにとってはとても大切な道具なのです」と阿部氏は語る。
記録されるデータは、GPS、前後の加速度、サスペンションストローク、エンジン回転数、スロットル開度、ブレーキ圧、燃料など非常に多岐に渡っている。これらを専用の解析ソフトウェアで管理するのだが、当然の高レートで記録するほど精度も高くなる。スペックの低いPCでは処理しきれない場合、低レートでの記録しかできない。つまり、高性能なコンピュータであるほど、レースマネジメントを有利に運ぶことが可能なのだ。
「データロガーから吸い上げたデータは、ピットに戻ってきてから車載USBメモリからロガーデータを吸い上げ、解析ソフトに集積させます。例えばレースで100周以上走っている場合、1周ごとに水温からなにからあらゆるバイタルデータが送られ500GB以上になるケースもあります。また、 F1と違って走行中データのテレメトリー送受信はSUPER GTでは禁止されており、全てのデータを解析ソフトに落とし込んでいくことになることから、本当に高性能なコンピュータでないと処理が追いつきません」と阿部氏はレースにおけるコンピューティングの実情を語る。
「もちろん、実際のレースではデータ解析による客観的な情報だけでなく、各エンジニアが持っている『熟練の勘』が役立つ場面もあります。ただし、私たちTGR TEAM SARDもチーム体制として若返りも考えているので、属人的な勘ではなく、若い世代にデータをしっかり見極める力を持ってもらうように働きかけています。この先、チームとしての経験の蓄積やレベルの向上を目指すうえで、客観的なデータが何を示しているのかを早く見極めることはとても大切だと思います」と語る阿部氏。チームの未来のためにも、コンピュータパフォーマンスの向上は必須なのだ。
「どこのチームもスペックの高いパソコンを利用しています。しかし、私がTGR TEAM SARDに加入して驚いたのは、HPから提供されたモバイルワークステーションを含めた、ハイスペックなコンピュータが揃っていたことです。この素晴らしい環境を活用しながら、レースでもより良い結果を出していきたいと考えています」と阿部氏は最後に語ってくれた。
2026年のSUPER GT第2戦のTGR TEAM SARDは予選の結果、12位からのスタートとなった。決勝では着実に順位を上げてゆき、最終的には4位でのゴールとなった。この安定したレース運びを実現した陰には、リアルタイムにデータ解析を続けたHPワークステーションのパフォーマンスがあったように思う。HPは今後もTGR TEAM SARDのサポートを続けてゆく。
SARDに加入して驚いたのは、HPから提供されたモバイルワークステーションを含めた、ハイスペックなコンピュータが揃っていたことです。この素晴らしい環境を活用しながら、レースでもより良い結果を出していきたいと考えています。
モータースポーツ部 次長
TGR TEAM SARD チーフエンジニア
阿部 和也 氏
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