生成AIの次なるステージ:ローカル環境がビジネスの新しい扉を開く理由

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左から日本HPの勝谷 裕史氏、Z by HP Data Science Ambassadorsの井ノ上 雄一氏、NVIDIAの高橋 想氏

GPUの性能向上で「ローカル環境」の価値が変わった

生成AIの、企業におけるビジネスやさまざまな研究分野においての活用が本格化してきているが、生成AIの新たなトレンドとなりはじめているのが「ローカルで処理する生成AI」(以下、ローカル生成AI)だ。

ローカル生成AIは、文字通り、クラウドではなくローカル環境を使って生成AIの学習やモデルの生成などを行なうことだ。今回の対談では、NVIDIAの高橋 想氏、Z by HP Data Science Ambassadorsの一員として、研究にHPのワークステーションを使用している井ノ上 雄一氏、ハードウェアを提供する日本HPの勝谷 裕史氏の三者の視点から、ローカル生成AIの実力と可能性を探る(以下、略敬称)。

井ノ上氏は、Sakana AIという日本を代表する生成AIのスタートアップに研究者として勤める傍ら、Kaggle主催のデータサイエンスの大会などでも活躍中。日本HPの勝谷氏は企業ユーザーと接しながら自身でも生成AIに取り組んでいる。

ローカル生成AIが注目されるのは、GPU性能の向上や軽量な言語モデルの活用などソフトウェアの進歩、加えて企業ユーザーの「秘匿性の高いデータはローカルに置きたい」というニーズによるものがある。

これらは数値化できたり事例も語られているが、生成AIに関係する研究開発を行っている井ノ上氏は「ワークステーションで十分に対応できるところも多い」と語る。ローカル生成AIは、ハードウェアを見極めたクラウドとの使い分けはもちろんだが、今後、企業にとって大きな課題となってくるプロフェッショナルなAI人材に関わる点で注目してみる価値があるようだ。

ハイエンドGPUとデスクトップワークステーションが作り出す世界

──ローカル生成AIの話の前に、生成AIとGPUの関係についてあらためてうかがいたいと思います。生成AIの進歩には、GPUの進歩が密接に関係していますよね。これは「GPUが進歩したからAIも発達してきた」と見るべきですか? それとも「生成AIの発展に、GPUの進歩が追従している」と考えた方が自然でしょうか。

NVIDIA 高橋 想氏
NVIDIA 高橋 想氏

NVIDIA 高橋
「NVIDIAとしては、2012年のアレックスのImageNetでの話※1を受けて、一気に、AIを意識した開発にシフトしました。市場で支持されている使い方が、NVIDIAのGPUに十分にマッチしているという状況が先にありました。当時のGPUはグラフィックス関連、レンダリングなどに使用されているのが一般的でしたが、AIという新しい領域で、GPUの計算能力が必要になるであろうと」

  1. 現在のAIブームの起点となった出来事でImageNetプロジェクト主催の画像認識コンテストILSVRCにおいてGPUを活用して畳み込みニューラル ネットワーク(CNN)が優勝した。

──本当に予想外の展開だったのですね。そこから今日まで、ディープラーニングの盛り上がりから生成AIまで飛躍的に進歩してきた。ローカル生成AIというものが注目され始めたのはいつ頃からになりますか?

日本HP 勝谷
「言葉としてトレンド化してきたのは2023年初頭あたりでしょうか。私は会社員をしながら大学院に通ってデータサイエンスの勉強をしているのですが、いま、PCにグラフィックカードを2枚挿して、ローカルで生成AIを動かしている学生がたくさんいますよ」

──井ノ上さんが使われているHP Z6 G5 A Workstationは、まさにローカルで生成AIを動かせるワークステーションですね。これは、どのような特徴を持ったマシンですか?

日本HP 勝谷
「CPUが『AMD Ryzen Threadripper PRO 7000 WX』で、GPUは『NVIDIA RTX 6000 Ada GPU』を最大3基まで搭載できるというワークステーションです。1台だけで大規模モデルのトレーニングを実施するのは難しいですが、データセンターと連携した実験時に、手元に置いて使うマシンとしてだったり、ローカルでSLM(小規模言語モデル)を検証する用途としては最適です。データサイエンスだけでなく、CADなどに応用するにも使いやすいモデルですね。CPUのコア数の多さは、ベクトル検索※2にも適していると思います」

GPUで生成AIの世界をリードしているNVIDIAだが、RTX 6000 Ada は、そのトップクラスのグラフィックスカード。前世代と比較して約2倍以上のパフォーマンスを実現するとしており、これを最大3枚搭載できるHP Z6 G5 Aや4枚まで搭載できるHP Z8 Fury G5はAIワークステーション用途で多くの引き合いがあるとのこと。

  1. 類似性や近似性に基づいて情報を検索する手法。入力データをベクトル空間にマッピングし、同一空間上で近い位置にある、近似概念を探す。

時に大規模なサーバーが持つパワーに勝るメリットを発揮することがある

日本HP 勝谷
「ユーザーさまからよく聞く話として、社内の情報をクローズドな環境にとどめておきたいシーンでの生成AIの活用はあります。生成AI系のサービスは、『アップロードした情報はクローズドな状態が維持され、セキュリティーは担保できる』とうたわれていることが多いですが、それでも社内規定などで情報をインターネットにアップロードすることそのものが禁じられているケースも多いですから」

勝谷 裕史氏
日本HP 勝谷 裕史氏

──インターネットの上に出てはいけない情報も、社内でローカルな環境で扱えるから、セキュリティー的な安心感が高くなる。

日本HP 勝谷
「秘匿性の高いデータを生成AIで扱いたいけれども、クラウドには自社のデータをあげたくないと考えている領域の担当者さんって、本当に多いんですよ。具体的には、自治体ですとか、教育の現場ですとか。医療機関なども代表的です」

アンバサダー 井ノ上
「セキュリティー上のメリットは非常に大きいですよね」

日本HP 勝谷
「それ以外にも、検証したい内容に合わせて、複数のモデルをマージするような使い方は、まさにローカル生成AIの得意とするところです。クラウド型のサービスを使おうと思えば、それぞれの月額使用量をずっと従量課金で支払い続ける必要がありますが、自分でマージしたモデルがローカルで動けば、電気代だけ気にすればいいわけですから」

アンバサダー 井ノ上
「そうですね。ローカル生成AIを搭載したワークステーションは、時に大規模なサーバーが持つパワーに勝るメリットを発揮することがあります。推論モデルの調整や、新たなモデルのテスト時には、実験と修正を何度も繰り返しますから、すぐに起動して、すぐ実験に入れるワークステーションだと、サイクルが高速に回せるんですよね。こうした用途においては、HP Z6 G5 Aの活用の余地は無限ですよ」

──ローカル生成AIの可能性はとても大きいということですね。課題や壁のようなものはないのでしょうか?

日本HP 勝谷
「ひとつは、組み込むためのデータがまったくない企業さんだと、すぐには社内SLMを立ち上げられないということですね」

アンバサダー 井ノ上 雄一氏
アンバサダー 井ノ上 雄一氏

アンバサダー 井ノ上
「あとは、データをどう取得して、どう使っていくのかを、ユーザー側もある程度は理解していないといけないという点も挙げられます。これは、SLMやLLM(大規模言語モデル)が脚光を浴びる前段階、画像認識のディープラーニングがAIのトレンドだった時期からずっとある課題ではありますが。それ以外には、ローカル生成AIは使っていく中で限界も見えてきます。限られたマシンのリソースを、どのように割り当てれば最も業務の効率化につながるのかについては、ユーザー側も成長して探していく部分だと思います」

ローカル生成AIの価値が最大化する点について、秘匿情報をインターネット上にアップロードせずに利用できる点が、やはり根強いメリットとしてあげられた。しかし、アンバサダー 井ノ上氏、日本HP 勝谷氏とも、手元においたローカル生成AIの価値が最大化するポイントを明確に述べられた。

両氏とも実際にワークステーションを使い込まれており、とくに井ノ上氏は、ここで紹介しきれなかったさまざまな活用方法もされているとのこと。一番のポイントは、手元のマシンで素早く実験を繰り返せる点のようだ。ローカル生成AIは、その企業が構築するクラウドやクライアントなどすべてを含んだ中のひとつだが、選択肢としての価値は多面的なようだ。

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道具が生成AI人材を育て、人材が「真の意味でのDX」を可能にする

──経営リソース的な見方をすると、このクラスのワークステーションは、社屋を整備するなどよりもはるかに安価です。ところが、生成AIという非常に重要なジャンルに関わるという点でとても効果的に投資になるかもしれません。というのは、道具が人を育てる。このレベルのマシンになると、あるかないかで、企業内のエンジニアや研究者の成長過程やキャリア形成に関わってくる可能性もあると思います。

NVIDIA 高橋
「ジェンスン・フアンがよく話しています。『AIはあなたの仕事を奪わないけど、AIの活用ができるようになった人は、あなたの仕事を奪うかもしれない』と。生成AIは日々進化を重ねている最中なので、トライアンドエラーで、ローカル生成AIを用いた、社内に必要なシステムを組む土壌が拡がっていくのがいいと考えています」

アンバサダー 井ノ上
「やがて、AIを使ってできることをどんどん増やして、ますます楽な世の中になっていくといいですね」

──人の仕事を楽にしていくっていうのは、コンピュータを使っていくことによる進歩の本質ですよね。人がプログラムを書いていた時代から、AIにプログラムを書かせる時代になり、今後はプログラムがなくてもいい時代になっていく可能性があります。画像生成で物理シミュレーションが可能になるなどはその一例ですね。

アンバサダー 井ノ上「はい、そこは非常に楽しみな未来のひとつですね」

日本HP 勝谷
「むしろ、生成AIを活用できる体制をいまから整えておかないと、今後、労働人口が減っていったときに回らなくなっていってしまう可能性のある現場は非常に多いものと考えています。日々寄せられるご要望を眺めていると、社内で立ち上げたSLMに追加学習をさせて、“真の意味でのDX”を起こそうという需要が増えていると感じています」

──生成AIによって、そのトランフォーメーション(変革)が可能になるという視点は重要ですね。そのためのプロフェッショナルな生成AI人材をととのえるとなるとワークステーションの役割は見逃せませんね。

DXは“デジタル技術を単に導入すること”ではなく“デジタル技術を活用して、業務プロセスを変革することで、新たな価値やビジネスモデルを創造し、持続的な競争優位性を築くこと”である。ローカル生成AIはDXのコアである合理化や自動化を加速する。その結果を経て、新たな価値を生む創造的な取り組みが生まれる。この循環がもたらすのが、勝谷氏の話す「真の意味でのDX」だ。

AIの活用を前提とした業務プロセスが標準に向かいつつある現在。ローカル生成AIが動くワークステーションを導入することは、競争力を維持するための必須要件に変わっていくのかもしれない。

※コンテンツ中の固有名詞は、一般に各社の商標または登録商標ですが、必ずしも「™」や「®」といった商標表示が付記されていません。

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Windows 11 は、AIを活用するための理想的なプラットフォームを提供し、作業の迅速化や創造性の向上をサポートします。ユーザーは、 Windows 11 のCopilotや様々な機能を活用することで、アプリケーションやドキュメントを横断してワークフローを効率化し、生産性を高めることができます。

組織において Windows 11 を導入することで、セキュリティが強化され、生産性とコラボレーションが向上し、より直感的でパーソナライズされた体験が可能になります。セキュリティインシデントの削減、ワークフローとコラボレーションの加速、セキュリティチームとITチームの生産性向上などが期待できる Windows 11 へのアップグレードは、長期的に経済的な選択です。旧 Windows OSをご利用の場合は、AIの力を活用しビジネスをさらに前進させるために、Windows 11 の導入をご検討ください。

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