AI PCは企業の働き方をどう変えるのか──AMD、HP、楽天AIが描く次世代業務環境
2026-09-15
生成AIの普及によって、多くの企業がAI活用を模索している。一方で、「機密情報をクラウドに送れない」「通信環境に左右される」「利用コストが増え続ける」といった課題から、本格導入に踏み切れない企業も少なくない。こうした課題を解決する手段として注目を集めているのが、PC本体でAIを実行する「オンデバイスAI」だ。Microsoftが提唱するCopilot+ PCの登場をきっかけに、AI PC市場は急速に拡大しつつあり、企業のPC選定基準も変わろうとしている。今回は、日本AMD、日本HP、楽天グループの3社に、それぞれの立場からAI PCの価値と今後の展望を解説してもらったので紹介しよう。
取材:中山 一弘
オンデバイスAIが企業にもたらす新たな選択肢
コマーシャル営業本部
部長
楊 博光 氏
最初に話を伺った日本AMDの楊氏は、法人市場におけるAI PCの普及状況について説明した。
「Copilot+ PCが登場して約2年。AI PCという言葉は広く知られるようになりましたが、AMDはその約2年前からNPUを搭載したプロセッサを市場へ投入していました。現在ではAMD Ryzen™ AI Proシリーズを中心に、CPU・GPU・NPUが連携してAI処理を実行するプラットフォームへと進化しています」と語る楊氏。同氏が強調したのは、AI PCの価値は単なる処理性能の向上ではないという点だ。
「従来の生成AIはクラウドサービスを利用することが前提であり、利用するたびにデータが外部へ送信されます。企業にとっては、機密情報や個人情報を扱いにくいだけでなく、利用量の増加に伴うコストも課題となっています」と続けて楊氏は語る。
一方、オンデバイスAIであれば、AI処理をPC内部で完結できるため、情報漏えいリスクを抑えながらAIを活用できる。さらに、通信環境が不安定な場所でも利用できることから、営業現場や公共機関などでも活用が広がり始めているという。
「AMDではHPと協力し、自治体や公共機関へAMD Ryzen™ AI搭載PCを貸し出し、ローカルAIアプリケーションの開発支援も進めています」と楊氏。企業だけでなく、公共分野でもオンデバイスAIへの期待は着実に高まっているのだ。
AI PCを導入する企業では、「AIを使えること」以上に、「AIを快適に使い続けられること」が重要になる。その点について楊氏は、主力プロセッサの「AMD Ryzen™ AI 7 Pro 350 / 360」では、オフィス業務性能で30%、生成AIによる画像生成で20%といった性能の向上が見られる一方で省電力性能も向上。これまで以上の長時間バッテリーを実現しているという。
「新たなアーキテクチャはAIによる文書生成や画像生成、ソフトウェア開発など、用途によって最適な演算資源を使い分けることで、高い処理性能とバッテリー駆動時間を両立しています。あるLLMのアプリケーションで文章を作成した場合、これまでは20分かかっていたものが、現在は7分強で完成できるようになりました。また、コーディングをPC上でやる人はまだ多くありませんが、あるクリエイターは93時間かけて完成させたプログラムが17時間に圧縮できたといいます。最新のAMD Ryzen™ AI Proシリーズを使うことで生産性は大きく向上できます」と楊氏は語る。
AMD Ryzen™ AI Proシリーズを採用したAI PCは単なる高性能PCではなく、企業がAIを日常業務で利用するための基盤へと変わり始めていることがうかがえた。
企業が安心して使い続けられるAI PCを豊富にラインアップ
パーソナルシステムズ事業本部
クライアントビジネス本部
モバイルビジネス部長
岡 宣明 氏
日本HPの岡氏からはAMDプラットフォームを採用した法人向けAI PCラインアップについて解説していただいた。
「HPでは現在、ハイエンドモデルだけでなく、ミッドレンジのHP ProBook 4シリーズまでCopilot+ PCを展開しています。高価格帯だけではなく、企業の標準PCとして導入しやすい価格帯でもAI PCを選択できる環境が整ったことになります」と語り、AI PC、Copilot+ PCの選択肢がますます広がっていることを強調する岡氏。
フラッグシップモデルとなるHP EliteBook X G2a 14 AI PCでは、ハイブリッドワークを強く意識した数多くの新機能が搭載された。
「約1.07kgの軽量ボディに加え、HP eSIM Connect、Wolf Connectにも対応しているので、外出先でのインターネット接続はもちろん紛失時のリモート管理も万全です。また背後からの盗み見を防止するHP Sure Viewの最新バージョンを搭載。外出先や移動中でも、安全かつ快適に業務を続けられる構成となっています」と語る岡氏。
HP eSIM Connectはデータ通信が5年間無制限で使用できる権利を本体価格に盛り込んだサービスとなっており、HP Protect and Trace with Wolf Connectは、電源がオフ状態にあるPCに対しても「探す」「PCをロックする」「データ消去する」といった命令をリモートから行うことができるMDM(Mobile Device Management)だ。
これらに加え、HP Sure Viewをはじめ、統合セキュリティソリューション、HP Wolf Securityも標準でプリインストールされているのだから、企業にとっては大きな安心材料となるはずだ。
さらに興味深かったのが、新たに採用されたトップマウントキーボードだ。「従来、キーボード交換には本体を分解する必要がありましたが、今回からユーザー自身が約3分で交換できます。PCを長期間利用する企業にとっては、ダウンタイムの削減だけでなく、保守運用コストの低減にもつながります」と岡氏は解説する。そのほかの注目は全法人向けシリーズに小型化されたACアダプターで、従来のものと比較して約40%の小型化、約50%の軽量化を実現し、PC本体とあわせて持ち運ぶ際の負担を大幅に軽減する。
HP EliteBook X G2a 14 AI PCだけでなく、先に紹介したエントリーモデルの HP ProBook 4 G2a 14 AI PCまで、ほとんどのソリューションが適用される。AI PCは高性能であるだけでは企業には受け入れられない。優れたAI処理能力に加え、管理性、保守性、安全性まで含めて初めて、企業向けPCとして価値を持つ。HPの新ラインアップからは、そうした考え方が伝わってきた。
AIを業務へ定着させるために──RakutenAIが示した実践例
AI & Data コンサルティング部
ジェネラルマネージャー
水口 真 氏
クラウド上で利用する日本語特化の大規模言語モデルや、クラウドオンデバイスのハイブリッド設計を行ってきた一方、セキュアな環境でビジネス活用を支援する「Rakuten AI for Business」を提供するなど、多角的なAI活用も続けてきた楽天グループ。
「クラウドかオンデバイスかを選ぶのではなく、用途に応じて両者を使い分けることが重要です」と語る楽天グループの水口氏。そんな同社が今回リリースしたのが「Rakuten AI for Desktop」だ。
これはHPが今後国内でリリースするすべてのAI PCにプリバンドルされるもので、大きく外部のLLMを活用する「Cloud Mode」と、オフラインでもAI PC内部で処理が行えるローカルAIの「On-device Mode(BETA)」によって構成されるサービスとなっている。
「例えば『楽天市場エージェント』を使いテキストで商品検索をすることや、条件を入力して商品カードを取得するといった使い方のほか、音声や画像による検索なども可能になっています。ほかにも『楽天トラベルエージェント』で、出張先のホテルを探したり、国内旅行の予約を取ったりすることもできます」とCloud Modeの使い方を説明する水口氏。
一方のOn-device ModeはオフラインでAIを働かせることが可能で、AI PC上で推論を行うことで機密情報や契約書の作成などにAIを活用する際にも安心できるサービスとなっている。もちろん、ふたつのモードは手動で切り替えることが可能なので、用途に応じた使い分けも可能となっている。
「例えば何月何日から何泊でホテルを予約すると入力すれば、実際に予約が完了するところまで提案してくれるといったことが体験できます」と、Cloud Modeを利用したシーンのデモを披露する水口氏。楽天がもつ様々なサービスと連携することで、日常的な業務負担が大きく軽減されることを実証した。
「議事録やTo Doなど、社外へ情報を出したくない情報の整理はもちろん、予算立案のためのデータ深堀りや調達に際していくつかのベンダーを多角的に評価し、最終決定をするようなシーンでも外部にデータを出すことなく処理が可能です」と水口氏はOn-device Modeでの利用例を紹介した。
「今回HPのAI PCにプリバンドルされるサービスは日本語に強いAIモデルとなります。AI PCの中でも動かせるようにコンパクトに設計されている点が特長で、楽天が培ってきたノウハウを活かしてチューニングされたうえに、Microsoft社のAI技術基盤と組み合わせることで、AI PCの性能を無駄なく引き出せるよう最適化されています。これからのAI PC選びは単なるスペックの違いではなく、そのモデルでなければできない体験があるということが選択の基準になっていくと思います」と水口氏は語った。AIが単なるチャットボットではなく、どのようなシーンでも業務を実行するパートナーへと進化し始めていることを感じさせる内容だった。
AI PCは企業のインフラへ
今回のインタビューでは、AMDがオンデバイスAIを支えるプロセッサ技術を、日本HPが企業利用を見据えたAI PCを、そして楽天グループがAIを活用した実際の業務シナリオを紹介した。
それぞれ立場は異なるものの、共通していたのは「AIを特別なものではなく、日常業務に定着させる」という考え方だ。生成AIは今後も進化を続けるだろう。しかし企業に求められるのは、新しいAIサービスを追いかけることではなく、安全かつ継続的にAIを活用できる環境を整えることである。AI PCは、そのための新しいインフラになろうとしている。
今回紹介された各社の取り組みは、企業におけるAI活用が実証実験の段階から、本格導入のフェーズへ移行しつつあることを示していた。
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