2024.11.27
フリーランスライター:笠原 一輝
Core Ultra 200V
半導体メーカーのIntelは9月2日にドイツ共和国ベルリン市で開催した記者会見の中で、これまで開発コードネーム「Lunar Lake」(ルナーレイク)で呼んで開発してきた同社の最新
SoC(System on a Chip、1チップでコンピューターを構築できる半導体製品のこと)を「インテル Core Ultra プロセッサー 200V シリーズ」(以下Core Ultra 200V シリーズ)として発表したことを明らかにした。
このCore Ultra 200V シリーズは、5月にMicrosoftが発表した新しいAI PCのカテゴリーとなる「Copilot+ PC」の要件にIntelのSoCとして初めて対応し、このSoCが搭載されたPCは11月の末に予定されているソフトウェアアップデートにより正式にCopilot+ PCに対応する予定。さらに、従来は消費電力が弱点とされてきたx86プロセッサーとは比較にならないほど消費電力が削減されており、これまで低消費電力の象徴と考えられてきたArmプロセッサーと同等のバッテリー駆動時間を実現することが大きな特徴になっている。
Core Ultra 200Vを搭載したHP OmniBook Ultra Flip 14-inch Next-Gen AI PC
今回Intelが発表したCore Ultra 200V シリーズは、Intelにとっては2023年の12月に発表された「インテルCore Ultra プロセッサー シリーズ1」(以下Core Ultra シリーズ1)の後継となるノートPC向けのSoCとなる。より正確に言うと、IntelのCore UltraやCoreには、Uシリーズ(薄型軽量ノートPC)、Hシリーズ(高性能な薄型ノート/薄型のゲーミングノートPC)、HXシリーズ(高性能なゲーミングノートPC)という大きくいって三つのラインアップがあったが、今回はそのうち薄型軽量のUシリーズを置き換える製品となる。HシリーズやHXシリーズに関しては別途来年初頭以降に新しい製品(Arrow Lake-H、Arrow Lake-HX)のアナウンスがあることが予定されており、今回発表されたCore Ultra 200Vシリーズは、従来はUシリーズがターゲットにしていた薄型軽量ノートPCをターゲットにした製品となる。
Intelがこうした薄型軽量のノートPCに特化した製品を出すのは、2003年に同社がリリースしたCentrino Mobile Technology(以下Centrino)以来のことと言ってよい。当時のIntelは
Centrinoで、ノートPC向けのCPUなどの消費電力を一挙に下げることを実現し、さらにWi-Fiの搭載を必須としたことで、そこからノートPCの薄型軽量化やワイヤレスで持ち運んで利用するというトレンドが始まった。
今回のCore Ultra 200Vでは、Intelは大きく言って二つのことを実現している。一つがCopilot+ PCへの対応、そしてもう一つが消費電力の大幅な削減によるノートPCのバッテリー駆動時間の大幅な長時間化の二つだ。
Microsoftが5月に米国で開催したCopilot+ PCの発表会
MicrosoftのCopilot+ PCの取り組みは、生成AIのアプリケーションをPCプラットフォームで普及させるためのマーケティングプログラムだ。Microsoftが設定した要件を満たした製品に「Copilot+ PC」の名称を付与し、MicrosoftがPCメーカーと共同でマーケティングを行なうプログラムを提供していくことで、生成AIを実行できるハードウェアの普及を加速していく取り組みだ。
MicrosoftはCopilot+ PCの取り組みにより、従来のAI PCよりも一段高いAI動作環境を実現するために、ソフトウェアとハードウェアの両面での取り組みを行なっている。
Windows Copilot Runtime
ソフトウェア的な取り組みに関しては、Windows Copilot RuntimeというAIソフトウェアの実行環境と開発環境を、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)に提供し、ISVがCopilot+ PCに対応したソフトウェアを容易に開発して提供できる環境を用意している。それと同時に
Windows Copilot Runtimeで実行されているAIソフトウェアをMicrosoft自身も提供し、通常のAI PCとは異なるプレミアム機能として提供していく。Windowsのアプリケーションのデータをスクリーンショットの形で保存していき、あとでAIを利用して曖昧な言葉でも検索できる目玉機能「Recall」やアプリケーション上で自動翻訳の機能を提供するLive Transcriptなどの機能が提供され、通常のWindowsでは利用できないそうしたAIを利用した機能を実現していることがCopilot+ PCのユーザーメリットになっている。
Microsoftが定めるCopilot+ PCのハードウェア要件は、具体的には以下のようになっている。
Microsoftが指定したSoC(AMD Ryzen AI 300シリーズ/Intel Core Ultra 200Vシリーズ/
Qualcomm Snapdragon Xシリーズ)
16GBメモリ(LPDDR5ないしはDDR5)/256GB(SSDないしはUFS)
40TOPS(Trillion Operations Per Second、1秒間に40兆回のAI命令を実行可能なこと)以上の性能を持つNPU
となっており、Windows 11の標準的なハードウェア要件(1GHz以上のデュアルコアCPU、
4GBメモリ/64GBストレージ)を上回る仕様になっている。つまり、Microsoftがこうした
Copilot+ PCの仕様を通常のWindowsよりも高めに設定しているのは、AIアプリケーションを実行する環境として、より強力なハードウェアを普及させるという狙いがあると考えられる。
40TOPS(Trillion Operations Per Second)以上のNPUを持つことがCopilot+ PCの要件に入っている
特に、NPU(Neural Processing Unit)と呼ばれる、PC上でAIの演算処理を高速に行なう専用演算器、しかも40TOPS以上というある程度以上の性能を指定して必須としていることは、
Windowsプラットフォームにおける演算性能を底上げしたいという狙いがあると考えられる。
11月中にCore Ultra 200VがCopilot+ PC対応に
そうしたCopilot+ PCに対応した最初のIntel製品がCore Ultra 200Vとなる。Core Ultra 200Vには、Intelが第4世代NPUと呼んでいる強化されたNPUが搭載されており、実行可能なAI命令が
48TOPSと40TOPS以上というCopilot+ PCのハードウェア要件を上回っている。Microsoftは
Copilot+ PCに対応したアプリケーションを当初はArm版(Snapdragon Xシリーズ対応)のみを対象に配布していたが、11月中にx86版の提供も開始する計画と9月に発表しており、既に販売されているCore Ultra 200V搭載システムもソフトウェアのアップデートでCopilot+ PCへと対応が進む計画だ。