革新は、伝統の中から生まれる
―KIDO PACKAGINGが描く、100年企業の新たな成長戦略―
KIDO PACKAGING株式会社
序章
KIDO PACKAGINGの挑戦:老舗企業が挑んだデジタル印刷革命と快進撃
2025年、KIDO PACKAGING株式会社は創業以来最大の転換点を迎えた。約60年ぶりとなる社名変更と本社移転という大胆な決断を下し、2030年に迎える創業100年に向けた新たなステージへと踏み出したのである。
その躍進の歩みは、数年前から既に始まっていた。社運を賭けたデジタル印刷への挑戦を皮切りに、同社は軟包装業界に新たな価値を提示し続けてきた。オンライン印刷サービス「HappyPackaging」の立ち上げ、社員の意識改革、そして企業文化の再構築――これらの積み重ねが着実に成果を生み出し、快進撃の土台となっていたのである。
本稿では、KIDO PACKAGINGがいかにして変革を受け入れ、軟包装の未来を創造してきたのかを紐解いていく。これは単なる事業成長の記録ではない。まさに、伝統と革新が交差する希望と挑戦の物語である。
伝統の壁を越えて ― なぜ老舗はデジタル印刷に挑んだのか
創業昭和5年(1930年)に「木戸洋紙店」として大阪で紙問屋から独立し、佃煮袋の製造から事業を始めたこの会社は、90年以上にわたり軟包装パッケージのデザイン・製造・印刷を手がけてきた老舗メーカーである。長年にわたり培った技術力と顧客からの信頼を武器に、大手食品メーカーを中心に約600社もの取引先を抱えるまでに成長していた。
しかし、時代は急速に移り変わる。印刷業界では顧客ニーズの多様化と発注ロットの小口化が進み、大手企業を中心とする業界内の競争も激化していた。「何か差別化をしなくては、このままでは立ち行かない」という強い危機感が社内で高まり始めていた。
社長の木戸 正治氏は、長年守ってきた伝統をこのまま守るだけでは会社の未来を拓けないと痛感した。そして創業家出身のトップとして、勝ち残りを懸けた大胆な変革に打って出る決意を固める。老舗企業が「今こそ変わらねば生き残れない」という岐路に立ち、社長自ら新たな挑戦への舵を切ったのである。
社運を賭けた決断 – HP Indigo導入の舞台裏
2014年、木戸社長は当時まだ国内では珍しかった最新鋭のデジタル印刷機「HP Indigo 20000」を導入するという大きな賭けに出た。これは英国に次ぐ世界で2番目(パッケージ用途では世界初)の導入例であり、伝統的なグラビア印刷一筋だった同社にとってまさに社運を賭けた決断であった。初めてIndigoを目にしたとき、木戸社長は「この機械は業界を変える」と直感し、その可能性に懸けることを即断したという。
当然、この大胆な舵切りに社内からは戸惑いや反対の声も上がった。「本当に採算が合うのか」「従来のやり方を崩すリスクが大きい」といった懐疑的な意見が出たのである。導入直後は試行錯誤の連続で、「売れると思ったのに全く売れない」といった嘆きも聞かれた。それでも木戸社長は「印刷業の未来のためには変革が必要だ」と社内外に繰り返し訴え、社長自らも主要な顧客に足を運んでデジタル印刷のメリットを熱心に説き続けた。
ワンチームで壁を乗り越える企業文化も、この挑戦を支えた大きな原動力だった。デジタル印刷立ち上げ当初、「どうすればこの新技術をビジネスとして軌道に乗せられるか」をめぐり、営業とデザイン部門の若手メンバーたちが一体となって議論を重ねた。ゼロからターゲット顧客を模索し、従来取引のなかった業界の大手企業にも果敢にアプローチした結果、今まではコンタクトすることもかなわなかった大手企業からの受注に成功するというブレイクスルーが生まれた。競合がいない独自サービスを武器に大手顧客を獲得したこのエピソードは、社員たちに大きな自信を与え、社内の空気を一変させたのである。
こうした挑戦を成功に導いたのは、トップ自らの情熱と「手を挙げれば挑戦させてくれる」社風である。多くの社員が部署や年次の垣根を越えて「自分たちの会社の未来のためにやり遂げよう」と立ち上がった。創業以来受け継がれる「貢献・創造・団結」の精神がまさに発揮され、全社を巻き込んだ本気の挑戦が始まったのである。
小ロット革命、始動 ―『HappyPackaging』が変えた軟包装の常識
みんなの印刷袋通販 | みんなの印刷袋通販 HappyPackaging.jp
サプリメント向けなどのオリジナルパウチを2,000枚から対応。
地道な挑戦の積み重ねは、数年のうちに目覚ましい成果となって現れ始めた。軌道に乗ったデジタル印刷事業は加速度的に成長し、今では伝統のグラビア印刷と並ぶ会社第二の柱へと躍進している。そのインパクトは数字にも表れている。
デジタル印刷事業の売上は開始当初と比べて100倍以上に急伸した。2014年の営業開始以来、現在まで毎年過去最高を記録し、食品メーカーのみならず、通信企業、プロスポーツ球団など異業種の大手からの引き合いを含め、毎月新規案件の相談が舞い込むまでになった。
かつては小さな「実験部署」とも見なされていた事業が、今や会社の成長を牽引する力強い柱へと変貌したと言える。顧客数も飛躍的に増え、名だたる大手企業が新たに加わったことで「パッケージのデジタル印刷と言えばKIDO PACKAGING」と業界で称される存在感すら獲得しつつある。
こうした成功を足がかりに、同社はさらなる革新へと歩みを進めた。2021年, 木戸社長はオランダ発のグローバル印刷プラットフォームと提携し、自社の軟包装技術と先方のシステムを融合させた新サービスの開発に着手。「HappyPackaging」を立ち上げた。そして2025年には、 小ロット特化の新サービス「HappyPackaging Lite」を本格始動。従来は2000枚からの受注が基本だったが、Liteでは最少100枚からの注文が可能となり、さらに最短6営業日での出荷という業界初のスピード対応を実現。これにより、小規模事業者やスタートアップ企業など、これまで対応が難しかった顧客層にも柔軟に応える体制が整った。
利用者はウェブ上で袋の種類・サイズ・素材を選択し、デザインデータをアップロードするだけで、360度回転可能な3Dプレビューにより仕上がりイメージを即座に確認できる。価格と納期もその場で提示されるため、従来の煩雑なやり取りを必要とせず、スムーズな発注が可能となった。
特筆すべきは、この高度な3Dプレビュー技術がすでに特許を取得している点である。従来の課題であった「人を介さず仕様を確定する」工程を可能にし、例えばアルミパウチにおいては白インク下地の有無による光沢の違いまでシミュレーション表示が可能。これにより、「メタリック感を出したかったのに白インクでマットになってしまった」といった設計ミスを事前に防ぐことができる、画期的な仕組みとなっている。
この新サービスは社内外に大きなインパクトをもたらした。海外企業とのフルリモート協業という初めての経験に、プロジェクトメンバーは大いに刺激を受けたという。「世界中で成功事例を持つ彼らとの議論は非常に刺激的だった」とリーダー社員が振り返るように、国境を越えたコラボレーションにより社員の視野が広がり、「自分たちの手で新しいサービスを創り上げた」という自信も生まれた。サービス開始後、小規模店舗やスタートアップ企業から「テンプレートを選んで編集するだけでプロ並みのパッケージが作れて助かる」という声や「自分のデザインがそのまま立体で確認できて感動した」という声が寄せられている。こうして同社は超小ロット市場という新天地にも足場を築き、社内のDX(デジタルトランスフォーメーション)をさらに前進させた。
HappyPackaging Lite:デジタル印刷 | KIDO PACKAGING株式会社
珈琲・お茶など乾物に最適なパッケージは100枚から、最短6日で納品。
挑戦が人を育てる ― 社員の覚醒と企業文化の再構築
デジタル印刷への挑戦は、社員一人ひとりの成長と社風の変革も促した。この10年で社内の空気は大きく変わり、失敗を咎めるより挑戦を称える風土が強まっている。特に顕著なのが、「やってみよう」と手を挙げる人材の育成だ。部署や職種を問わず「新しいことに挑戦したい」という意志を持つ社員にはチャンスが与えられ、未経験からスキルを身につけた例が数多く生まれた。
例えばある製造現場の社員は、デジタル印刷導入時に自ら志願してプロジェクトに参加した。当初は未知の機械に戸惑いながらも試行錯誤を重ねた結果、細かな不調にも自分で対処できるまでになったという。「最初は印刷する時間より機械と格闘している時間の方が長かった」と笑う彼だが、諦めず工夫を積み重ねた末に社内随一のIndigoエキスパートへ成長した。現在では2台のデジタル印刷機も含めフル稼働で現場を回し、後輩育成にも力を注いでいる。
このように、自ら挑戦を志願した社員が試行錯誤を経て専門性を高めていく姿は、他のメンバーにも良い刺激となった。デジタル印刷プロジェクトには営業やデザイン部門からも複数の若手が集まり、皆が未経験から学んで実践する中でスキルを身につけていったのだ。木戸社長は常々「知識がないことは問題ではない。大事なのは『やってみよう』と手を挙げること」と語っていたという。実際その言葉通り、経験ゼロでも挑戦した若手が大きく成長し、いまや事業を支える戦力となっているのである。
挑戦の成功体験は組織文化にも好循環を生んだ。「失敗を恐れず挑戦せよ」という理念が全社に浸透し、部門横断の連携も以前にも増して活発化した。またデジタルとグラビア双方の知見を持つ人材が増えたことで、社内のスキルセットが底上げされている。営業は両技術を駆使して最適提案ができ、デザイン部門も各印刷方式の特性を踏まえてクリエイティブに落とし込めるようになった。現場でも職人技とデジタル技術の融合が進み、例えば色合わせでは機械のカラープロファイルと人の目視検証を組み合わせることで非常に精度の高い色再現を実現しているという。
こうした人的資産の蓄積は、簡単に真似できない同社の財産だ。「挑戦することで社員が育ち、その成長がまた次の挑戦を可能にする」――KIDO PACKAGINGはまさに挑戦と成長の好循環を生み出したのである。
未来への布石 ― 社名変更と本社移転に込めた決意と戦略
2025年、同社は約60年ぶりに社名を変更し、本社オフィスを移転するという大きな転換を遂げた。これは単なるイメージ刷新ではなく、次の100年に向けた綿密な戦略に基づく布石だった。
元々、本社は大阪市内にあったが、従業員が4フロアに分かれて働いていたため社員間のコミュニケーションが取りにくい環境だった。コロナ禍も重なり、企業理念に掲げる「チームワーク」の実践が難しくなっていたことから、「密な連携で新たな価値創造を生む職場に生まれ変わろう」と本社移転が断行された。移転先では全社員がワンフロアに集い、部署間の壁を取り払った開放的なオフィス環境を整備。これにより部門横断の交流と協働が促進され、活気あるコミュニケーションが復活した。
また、旧社名「木戸紙業」は創業当初の事業内容を色濃く反映した名称であり、「紙」という文字がその歴史を物語っていた。しかし、時代とともに事業領域は大きく広がり、現在ではフィルムを中心とした軟包装の分野において、総合パッケージメーカーとしての地位を確立している。こうした進化をより的確に表現し、グローバル市場でも通用するブランドとしての存在感を高めるため、社名をローマ字表記の「KIDO PACKAGING株式会社」に改めたのである。社名変更のタイミングは、創業100周年を目前に控え、企業アイデンティティを再定義して対外的な認知向上を図る狙いもあった。
これら構造改革とも言える施策は、社員の士気を高める効果ももたらした。新オフィスへの移転は「自分たちの会社が新章を迎えた」という実感を社員に与え、社名変更は「伝統に安住せず進化し続ける」姿勢を内外に示すシンボルとなった。まさに2025年の社名変更と本社移転は、KIDO PACKAGINGにとって創業100年に向けた飛躍の足場となる重要なマイルストーンとなったのである。
新社屋から望む御堂筋。阪神タイガース優勝パレードの熱気が一望でき、社員とご家族の笑顔があふれるひととき。
歴史を刻んだ旧社銘板が、静かに新たな歩みを見守る。
100年企業への航海図 ― KIDO PACKAGINGが描く次なるビジョン
老舗企業が自ら変革を遂げ、新たな価値を創出したKIDO PACKAGINGの物語は、いまなお進行中である。2030年に迎える創業100周年を前に、同社は次なる飛躍に向けた明確な青写真を描いている。
木戸社長は「18年前の社長就任時に宣言した創業100周年までに売上高100億円のビジョンを、既存事業とデジタル印刷事業との相乗効果で加速し、必ず達成したい」と意気込みを語っている。社内でも「『デジタル印刷と言えばKIDO PACKAGING』と誰もが思い浮かべるブランドにしたい」との声が上がっており、市場での認知向上にも力を入れていく方針だ。
その実現に向けた具体策の一つが、生産キャパシティの拡充である。現在稼働中の3拠点の工場に加え、2027年には新工場の開設を予定しており、さらなる需要拡大に対応する体制を整備中である。加えて、新技術の採用にも積極的に取り組み、市場に常に新しい価値を提案できるようにする考えだ。
また、人材育成も重要テーマだ。同社は人の力で新事業を成功させてきただけに、次世代への継承を強く意識している。「どれほど優れたビジネスモデルでも、人の力で支え続けてこそ真に永続するものです。だからこそ、成功体験を若手に伝え、理念・社風・姿勢を未来へつないでいくことが究極の目標なのです。」と木戸社長は語る。現在、デジタル印刷チームではベテラン社員が率先してノウハウの共有を進めており、組織全体で人材の育成と継承に取り組んでいる。
さらに、新工場では、製造や仕掛品・原材料の運搬プロセスの自動化にも取り組んでおり、小ロット多頻度の注文を省力で捌く体制づくりを進めている。これらは生産効率と人手不足対策に直結する施策であり、今後の成長を下支えするだろう。
営業戦略においては、Web経由の引き合い増加に対応する一方で、従来型の提案営業の強化にも注力している。デジタル印刷の存在が新規開拓の呼び水となっている効果を逃さず、展示会出展や既存顧客への深耕提案にも注力する方針である。デジタルとグラビアの両技術を融合させたトータル提案力を営業組織全体で磨き上げ、他社との差別化を実現する構えである。
最後に、木戸社長は未来への展望をこう語る。
「伝統は守るものではなく、自ら創り変えていくものだと実感しています。私たちはこれからも現場の声とチームの力で壁を乗り越え、お客様に新しい価値を届け続けます。次の100年も、挑戦する心さえあればきっと道は拓けると信じています。」
社員たちも成功体験に裏付けされた自負を胸にさらに前へと歩み始めている。社長と社員が共に紡いだこの挑戦のストーリーは、老舗企業の未来を切り拓く希望の物語として、これからも社内外の人々に勇気と示唆を与え続けるに違いない。