ウォルマートは昨年末までに9州40か所で「パーセルセンター」を開業した。フルフィルメントセンターで処理したネットスーパーのオーダーを受け取り、郵便番号順に仕分けして配送をスピードアップする、ターゲットやアマゾンのソーテーションセンターと同様の機能だ。
全米に約4,700の店舗網を持つウォルマートではラストマイル配送時間を徐々に短縮しているが、パーセルセンターは配送先の近くに店舗が無い場合や店舗からの迅速な配送ができない場合に対応する。これらのオーダーを受け取り、同社のスパーク配送チームまたは他社にもラストマイル配送サービスを提供しているウォルマートゴーローカルが配送する。23年度第3四半期業績発表時にマクミロンCEOは「ラストマイル配送拠点の増加によって、店舗からの宅配コストを15%削減し店舗の80%で配送時間を短縮、早ければ30分で配送している」と報告した。
一方アマゾンは12月第1週に、プライム会員が月額$9.99追加で支払えば35ドル以上のネットスーパー購入配送が無料となる会員サービスを3都市でテスト営業開始した。対象となるのはアマゾンフレッシュとホールフーズマーケットのネット通販で、サービス地域はコロラド州デンバー、カリフォルニア州サクラメント、オハイオ州コロンバスだ。現在の配送料金は、購入金額$50未満なら$9.95、$50~$100で$6.95、送料無料にするためには$100以上購入しなければならない。
アマゾンは昨年夏から、当初プライム会員限定だったホールフーズマーケットやアマゾンフレッシュのオンライン購入品ピックアップ・配送サービスを、一部の都市で非プライム会員にも利用可能とし、11月から全米3,500都市に拡大した。これによって、ネットスーパー利用客の潜在的裾野を拡げながらも、プライム会員がより頻繁にネットスーパーを利用できるよう環境を整えた。
両社の会員数については以下のように複数の推計があり、ウォルマートからは会員数に関する公式発表が無いので実態がハッキリしていない。
このようにウォルマート+会員の推計値にはだいぶ幅がある。CIRPによると、ウォルマート+会員比率はオンライン顧客の25%、プライム会員比率はアマゾン利用者の70%、という。ウォルマートでは会員でなくてもオンラインでオーダーし店舗ピックアップも配送もできる。会員になれば配送料金が無料、会員限定の販促がある等の特典はあるが、年会費$98を払わずに必要な時だけオンラインを利用し、都合の良い時に店舗ピックアップをすれば事足りる、と考える顧客が多いという示唆かもしれない。
ここで改めてネットスーパーの企業別売上高を見てみたい。eマーケター社の推定売上では1位はウォルマート、アマゾンは実はウォルマートよりネットスーパープラットフォームのインスタカート(総取引額)と競り合っていることがわかる。全社売上におけるネットスーパー売上構成比(推計ベース)を見ると、意外にスーパー専業のクローガー以外は6%前後、と言った数字だ。アマゾンの構成比が低いのは生鮮食品取扱が低いことが影響している。この差を縮めるにはやはりアマゾンフレッシュかホールフーズの店舗の数を各段に増やすしかないかもしれない。他方、大手リージョナルスーパーマーケットのネットスーパー運営と配送を請け負っているインスタカートが取引総額とは言え2位にまで成長している点も、注目していきたい。
いずれにせよ、パーセルセンター、ネットスーパー会員制度、両社が休みなく投資や試行錯誤を続けなければならないほど、競争が激しいことが実感される。
eベイはラグジュアリーブランドの中古品再販に力を入れている。2020年に「真贋保証(Authenticity Guarantee)」を開始し、スニーカー、ジュエリー、トレードカード等鑑定対象を増やして23年6月には1点200ドル以上のストリートファッション衣料品にまで拡げた。また、鑑定技術の強化を目的に21年11月にスニーカーコン(Sneaker Con)社のスニーカー鑑定部門を、23年5月にはAIによるデジタルIDで自動鑑定技術をもつスタートアップ企業、サーティロゴ(Certilogo)を買収している。
昨年5月には「ブランド認定(Certified by Brand)」制度を開始し、ブランドが保有する未販売の在庫品か中古製品、あるいはブランドが過去に真贋保証した製品のみを販売する。これによって消費者が安心して中古品を購入できるだけでなく、ブランド側が中古品市場で自社製品がいくらで販売されているか等の情報を入手でき、ブランドイメージ管理に役立てることができる。
また、eベイはブランド品再販事業の真贋性を高めるため、ポップアップストアでリアルに消費者が同社商品を見て触れるイベントを開催している。昨年11月にはブランド偽造品販売拠点として悪名高いニューヨーク、キャナル街に「キャナルストリートウェア」ポップアップストアを2日間限定で開き、ナイキ、ニューバランス、ルイヴィトン等の大手ブランドからNYミラン、RIF、ソウルドアウトジャージー等同社オンライン上での高評価ストリートファッションブランドの中古品を販売した。さらに12月には、Jクルーでクリエイティブディレクターを20年以上勤め、TV番組でも活躍したジェナ・ライオンズ氏を採用し、彼女が集めたセリーヌ、ルイヴィトン、ミュミュ等の中古品とeベイの時計・ジュエリー部門でトップセラーの中古品コレクション、「ラグゼライン(Luxe Line)」をバスで移動しながら販売した。バスはロサンジェルスとラスベガスを訪問し、中古品コレクションの実物を見て購入できるだけでなく、アレキサンダーマックィーン、バレンシアガ、ボッテガヴェネタ、シャネル、ヴァレンティノ、ヴェルサーチ他特定のブランドの中古品を鑑定し委託販売を受け付けた。
中古品再販市場はインフレの影響もあり、ホリディギフトとしても消費者の間で受け入れられ、拡がっている。一方で偽造品も大きな問題になっているため、eベイだけでなくアマゾンや他の大手でも鑑定技術や制度で対応するだけでなく、このような「リアル世界で消費者と触れる」というイベントによって、信ぴょう性を高める努力を行っている。
クレート&バレルは30年営業したマンハッタン、ソーホー店を閉店し、フラットアイアン地区に、2層2,137㎡の旗艦店を昨年11月に新装オープンした。移転先は地元の有力ホームファニシング企業、ABCカーペットのカーペット館だった場所だ。同ビルは1868年建造の歴史的建造物で、ネオクラシックデザインの柱や自然光が入る大きな窓などはオリジナルのままだ。天井が高く、まさにニューヨークのゴージャスな古い建物という空間そのものを楽しむことができる。
1Fは手前がリビングルームのショールーム、奥がテーブルトップとキッチン用品販売で、地下1Fはリビングルーム、ベッドルーム、バスルームのショールームの奥に独立したベビーと子供用の部屋「クレート&キッズ」がある。美しいだけでなく同店舗でしか体験できない要素を生み出すため、地元の職人や製造業者によるホームコレクション、Smithey Cookware, Jono Pandolfi dinner ware, Apothekeなどを展示販売している。
同店の最大の魅力は「デザインデスク」でのサービスだろう。このコーナー自体が美しいデザインで両フロアに配置され、標準店の2倍の人員体制で無料コンサルテーションを提供している。このうち30人はNY市内のデザイナーで、ラグジュアリーなペントハウスから狭いアパートまでニューヨーク市特有の住居環境を想定して訓練を受けている。壁面には15mにわたってソファーやカーテンの生地、カーペット、木材、照明等のサンプルが並び、同社最大の品揃えだ。デザイナーとは店内、家庭への訪問、ヴァーチャルのいずれかの方法で予約の上ミーティングできる。「クレート&キッズ」コーナーも全社最大面積で、同店舗限定の玩具、ベビー用品、ウォールデコレーションを取り揃えている。
クレート&バレルはシカゴで創業した企業で、現在はオットーグループの傘下にあるが、モダンでコンテンポラリーなデザインと言っても他社とは一味違う。価格帯がほぼ重なり、同じモダンデザインを提供する競合ウィリアムズソノマグループはカリフォルニア創業で、よりナチュラルで装飾性の高いデザインも多いだが、クレート&バレルのモダンさは北欧デザインに通じるものがあり、シンプルだが洗練されている。世界中に530店舗以上もつソノマと約100店舗のクレート&バレルとでは規模の差があるが、同社は独自の世界観を提供し続けることで安定的に経営を続けている。
マンハッタン五番街に、2層1,338㎡のスワロフスキー旗艦店が昨年12月にオープンした。スワロフスキーは「インスタントワンダー(Instant Wonder)」という壁面をピンク、グリーン、イエロー、ブルー、ホワイトの基調色でデザインしたショールームのような店舗コンセプトを2021年にデビューし(2021年6月に本レポート既報)、以後世界中の新店、既存店舗にこのコンセプトを導入してきた。インスタントワンダーとは「店内で視覚的に驚いたり、つい見とれてしまい、その後スタイリストと製品について語り合う」ことで、この体験によって購買動機を高めることを目的としている。今回はその集大成の旗艦店ということで、以下のようなインスタントワンダーの要素を付加している。
11月に開催したソフトオープニングイベントには、グィネス・パルトロー、エマ・ロバーツ等のセレブがクリスタルジュエリーを着用して参加、スーパーモデルのジャスミン・トゥっキーズは450カラット、27,000個のスワロフスキークリスタルから作られたファンタジーブラを着用した。カルダシアン氏もクリスタルの下着姿で、クリスタルボディの自動車からさっそうと登場して話題をさらった。
クリスタルのキラキラ世界で人を魅惑するのはたやすいことのようだが、キラキラ世界観の奥行を作ることはそう簡単ではないだろう。サステナビリティ志向の高まりで過酷な労働環境や資源枯渇が問題視される宝石業界では、高品質な人工ダイアモンドの市場が成長している。今後旗艦店を足場に新たなマーケティングが製品が出てくるだろうか。
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】