掲載日:2022/11/10

コールズの新小型店舗, アフターコロナとインフレで浮かび上がった在庫管理の重大性、他 - :ニューノーマル時代で変わる小売業Vol.27

コールズの新小型店舗

コールズ小型店一号店のタコマ店。 出典:コールズ社提供 コールズ小型店一号店のタコマ店。 出典:コールズ社提供

 

 店舗小型化はEコマースシフトの中で顕著な動きとなっているが、コールズ百貨店は今年5月に向こう5年間に小型店100店舗を出店し、未開拓の小規模商圏に進出すると発表していた。その一号店が11月4日、ワシントン州タコマにオープンした。店舗サイズは約3,250㎡で、標準店7,430㎡の半分以下だ。

 コンセプトは、ストーリーがあり顧客に発見とインスピレーションの機会を与えられる店、でこの目標に添って編集された店舗だ。店内デザインは標準店よりモダンでオープンなスペースだ。レイアウトを季節やテーマに応じて変更できるフレキシブルフォーマット設計で、什器もそれに対応できるものを使っている。インスピレーションを得やすくするためにマネキンの数を増やし、マネキンの肌や体型も多様化している。同店では始めて、アメリカではごく一般的である養子縁組を想定した子供のマネキンもテスト導入し、親と人種、風貌が異なる子供を持つ家族のテーマとも向き合っている。他には以下が特徴となっている。

 

  • QRコード:ホーム売場ではショールームとなっており、スマートフォンでQRコードをスキャンして購入できる。
  • レジ:通常は店舗入口にあるレジを店舗脇に移動し、顧客は入口から直接商品売場に入っていく動線に変更。また、自分でレジスキャナーでスキャンし、ショッピングバッグに入れるセルフレジステーションも導入している。
  • マーチャンダイジング:近い商品カテゴリーは一緒に陳列。例えばレディス売場ではカジュアルウェアとアクティブウェアは標準店では売場が分かれているが、同じ売場で購入ができる。
  • ローカライゼ―ション:データを活用し、タコマ商圏ではアクティブなアウトドア系ライフスタイルが中心であるため、これに対応してアウトドア系のコロンビアやエディバウアー等のブランドの衣料品と用品を強化、水着は年間を通して販売する。
  • カスタマーサービスカウンター:店舗奥にあり、提携しているアマゾンの返品やセルフピックアップもここで提供している。

 

 店舗は小型であるだけでなく、生産性向上のためセルフ要素を増やしている。セルフレジは全店に導入中で、オンラインオーダーのセルフピックアップは今年8月全店に導入した。コールズのアプリを使ってオーダーし、店舗ピックアップの準備ができたという通知を受け、店内ロッカーの前に行ってロッカーのロケーション番号を入力するとアプリ上に自分のオーダーが入ったスポット番号を受け取り、棚の中に並んだ箱のスポット番号に収められているオーダーを受け取る。カスタマーサービスカウンターで列に並ぶ必要がないため、迅速にピックアップが終了する。

コールズのセルフピックアップアプリ / 出典:コールズ社広報資料

 

 同社アプリはモバイルショッピングだけでなく、コロナ前から販促やクーポンを統合したコールズペイ、モバイル決済機能もあり、オムニチャネルショッピング時代に対応したサービスの核となっている。今後は店舗側も小型店でさらなるオムニチャネル経験を高める計画だ。

 

(左)タコマ店の入り口からの全景 (右)地元で創業したエディバウアーのインショップ (左)タコマ店の入り口からの全景 (右)地元で創業したエディバウアーのインショップ
(左)セルフピックアップの棚 (右)セルフチェックアウト / 出典:全てコールズ社提供 (左)セルフピックアップの棚 (右)セルフチェックアウト / 出典:全てコールズ社提供





最先端技術で楽しむ屋内ミニゴルフ&ダイニング「パットシャック」が急拡大

シカゴ市内オークブルックの店内の様子 / 出典:パットシャック社 シカゴ市内オークブルックの店内の様子 / 出典:パットシャック社

 

 「パットシャック(Puttshack)」は2018年に創業した屋内ミニゴルフ+ナイトクラブ+世界中のグルメ料理や特性カクテル、を同時に楽しめるスポーツエンターテイメント業態だ。2000年にイギリスに創業したドライビングレンジでゴルフをプレーしながら食事やアルコールを楽しめる「トップゴルフ(Topgolf)」の創業者たちが開発したもので、開業して間もなくコロナ禍に見舞われたが、それが収束した現在、出店拡大モードに入り、注目されている。

 

  • 屋内ミニゴルフ:特許取得済みのトラッカボール(Trackaball™)を使って店内のミニゴルフをプレー。ボールがプレーの内容を自動的に記録する。コースにはドリンクやゲームが無料になる賞金つきプライズホイールや、うまくランプ(坂)にのればホールインワンが可能なリング・オブ・ファイヤーなど、さまざまな盛り上がる演出が施されている。
  • フード&ドリンク:プレーしながら世界中の高級グルメからストリートフードまでの料理とオリジナルカクテルやクラフトビールを楽しめる。
  • エクスペリエンス:DJのライブミュージックやアーティストによるコンサート等、ナイトクラブ同様のエンターテイメントを提供。

 

 10月31日時点でロンドンに4か所、アメリカ国内には1号店が2021年にアトランタで開業し、その後シカゴ、ボストン、マイアミに開業、年内および2023年前半にセントルイス、ダラス、デンバー、ヒューストン、ナッシュヴィル、フィラデルフィア、ピッツバーグ、アリゾナ州スコッツデールに出店が決まっており、さらなる拡大を目指している。10月に開業したマイアミ店は2,500㎡強で、最大収容人数は96名だ。

 同社は地元コミュニティへの貢献も行っており、マイアミ店では女性のミュージックプロデューサーや音響エンジニアを育成する非営利団体「ガールズ・メーク・ビーツ」を支援し、同社で人気メニューの春巻き料理をオーダーすると1皿当たり1ドルを寄付することができる。パットシャックはシカゴに本社を持ち、累積2億4,390万ドルの資金調達を果たしている。

 

★パットシャックのウェブサイト:https://www.puttshack.com/






ウォルマートが地元の中小企業にポップアップストアを提供

ウォルマートとポッパブルの提携で、地元中小企業にポップアップスペースを提供 / 出典:ウォルマート社広報資料 ウォルマートとポッパブルの提携で、地元中小企業にポップアップスペースを提供 / 出典:ウォルマート社広報資料

 

 コロナ禍は収束したように見えても、全米の中小企業が受けた痛手は深く、現在はインフレが経営を圧迫している。ウォルマートは地元の中小企業を支援するため、特定の店舗で、売場の一部を中小企業に提供する試みを開始する。このため同社はポップアップストア用スペースをオンラインマーケットプレース上で仲介するポッパブル(Popable™)社と提携した。ポッパブルは2017年にヒューストンで創業し、REITのサイモンプロパティーズグループやブルックフィールド等とも提携している。

 ポッパブルではスペースを探すブランド、スペースを貸したい企業がそれぞれ企業プロフィール情報と物件情報や条件等を登録し、ページを作り、マーケットプレース上で最適な条件の物件を探し、直接交渉する。現在ベータ版で「ポッパブルマッチ」という双方にとって好条件の企業同士をオンライン上で引き合わせるサービスもテスト中だ。実際にウェブサイトを見てみると、ウォルマートの店舗物件が表示されていた。テキサス州を中心に、コロラド州、ジョージア州に126店舗がポップアップスペースを提供している。20㎡から200㎡以上の物件もあるが、50-60㎡が平均的なリース面積だ。気になる価格は公開されていないが、ウォルマートは「地元中小企業にポップアップストアを開いてもらうことで店舗のローカル化ができる」と広報資料にコメントしており、地元支援という目的からもある程度好条件を提供する可能性もある。

 ウォルマートは10月中旬に、「ウォルマートクリエーター(Walmart Creator)」というソーシャルコマース・プラットフォームのベータ版を開始した。インフルエンサーが自由に商品を販売できるもので、年内テストし来年本格的に開業する計画だ。

 リテールメディア、PYMNTSの調査「2022年第3四半期商店街調査」中小企業の37%はインフレは今後最大の不安要因と回答し、45%がこの不安で夜中に目が覚めるという。また抱えている在庫保管スペースの不足も中小企業にとっては課題で、とにかく少しでも早く商品を売って換金することが喫緊の課題となっている。従来ウォルマートのような巨大企業は中小企業からビジネスを奪う敵、という見方をされてきたが、これからホリディ商戦がピークを迎える中、ウォルマートの発表に中小企業がどのように反応するか興味深い。

ウォルマートでフィルターをかけると126店舗の物件が並んでいた / 出典:ポッパブルのウェブサイトよりスクリーンショット画像 ウォルマートでフィルターをかけると126店舗の物件が並んでいた / 出典:ポッパブルのウェブサイトよりスクリーンショット画像





アフターコロナとインフレで浮かび上がった在庫管理の重大性

 

 小売業界では現在インフレによる消費意欲減退と、オーバーストック(在庫過剰)が共通の大問題になっている。2020年のコロナ禍では工場操業停止による供給不足や生活必需品の買いだめなどで多くの商品領域でが品薄、欠品、その結果売上損失が発生した。21年はこれを踏まえて商品発注量を増やすなどの対策が取られたが、物資輸送の遅れで納品が間に合わず売り逃しが続いた。

 リテールソフトウェア企業アプトスの戦略部門VPニッキ・ベアード氏は同社クライアントのアディダス、バス・ベッド&ビヨンド、セフォラ等はジャスト・イン・タイム(必要な時に発注)戦略からジャスト・イン・ケース(念のため余分に発注)戦略に切り替えており、その結果、実際に必要な在庫量の3分の1から半分ほど多めに発注しているという[1]。しかし今年に入り、物流は正常化し始めてきたが、コロナ禍収束で生活が元に戻り、売れ筋商品がリラックススタイルからドレスへなど変化し、その上前年オーダーが遅れて着荷、需給バランスがマッチしない中、インフレで消費意欲も低下傾向で、行き場を失った在庫が積み上がり八方塞りの状況だ。今年のホリディ商戦の鍵を握るのは、売上よりむしろ在庫管理と見られている。

 

[1] Wall Street Journal, ‘Large retailers are getting hit hard by over-stocking’, 2022年7月8日

米国小売販売額と在庫高の伸び率(前月比)の推移 赤:小売販売額、青:在庫高 / 出典:米国国勢調査局 米国小売販売額と在庫高の伸び率(前月比)の推移 赤:小売販売額、青:在庫高 / 出典:米国国勢調査局

 

 以下は米国小売業の在庫過剰問題で必ず言及される企業だ。

 

◎ナイキ

 9月の第一四半期業績報告会でCFOマシュー・フレンド氏は在庫という言葉を48回使ったと報道されたが、第一四半期の在庫高は前年対比44%増と業界でも高水準、インフレによるディスカウンターとの競争プレッシャーも大きく、既に夏場にセールを増やしたがホリディ商戦では一層のマークダウンを強行せざるを得ないという見解を示している。特に過去数期、遅延の続いた衣料品在庫が重く、物流自体は平常に戻りつつあるが、オフシーズン在庫の処分は不可欠だ。

 また同社の靴の30%、衣料品20%が製造されている中国でのロックダウンと工場閉鎖も大きな痛手で、中国国内の売上も第一四半期16%減となった。競合のアディダスも同様の状況だ。

 

◎ターゲット

 第一四半期業績報告時点で過剰在庫問題に言及していた同社の第二四半期は、粗利益率22.6%で対前年同期-8.7ポイント、在庫高36.1%増、当期利益は-89.9%となり悪化した。しかし同社は短期的マージンを犠牲にしても在庫処分のためのマークダウンや発注キャンセルを優先し、在庫問題を長期化させない戦略を取り、クリーンな状態でホリディを迎えるべく体制を整えているところだ。

 

◎メーシーズ

 同社は今年春、自社クレジットカードのデータを分析し、顧客がインフレで食費やガソリン代が急増する中、衣料品やホーム用品などの購入を削り旅行や外食費を優先していると判断、秋冬の発注の一部を削減した。その結果、第二四半期の在庫高は7%増に留まった。同業のコールズは44%増、ギャップは37%増なので、非常に低い水準だ。コールズは21年度に工場閉鎖や物流遅延によって2億5,000万ドルの売上損失を報告しており、CFOジル・ティム氏は「22年には消費水準が高まる予測で在庫計画を立てた結果」と報告している。

 しかし在庫問題は在庫数字だけでは判断できない側面があり、ウォールストリートジャーナルの分析によると[2]、メーシーズはプライベートブランドが全商品の5分の1以下だがコールズは3分の1近くを占め、ギャップ等専門店ではほぼ全商品が自社ブランドだ。PBは利益率は高いが発注後キャンセルが難しいため、このような急激な需要変化への対応が難しいという側面が仇となる。

 このような事例は氷山の一角で、在庫問題は小売業界全体の重大案件だ。ビジネスインサイダーは7月24日にウォルマートのフロリダ州内の店舗従業員がシェアした店内後方エリアの写真を紹介し、廊下などいたるところに在庫がパレットに乗った状態のままで放置され、それ以外にも膨大な量の箱が天井近くまで積み上げられ、トイレや授乳室のドアを塞いでいる様子を報道した[3]。筆者もメーシーズの後方エリアで作業をした経験があるが、後方エリアの実情はどの企業・店舗も余剰在庫の保管スペースだ。アメリカの大手小売企業はDXやシステム投資を優先的に行っているが、それでも現場はこうだ。まだまだ、包括的な改革が必要と言える。

 

[2] Wall Street Journal, ‘How Macy’s has avoided – so far – the inventory pileup plaguing other apparel chains’, 2022年10月5日

[3] Business Insider, ‘Walmart employees share photos of overcrowded back rooms, pallets sitting in store aisles, and boxes blocking access to a breastfeeding room as inventory swells’, 2022年7月24日







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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


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