掲載日:2022/10/14

新サービスの光と影。ウォルマートがメタバースに参入、セルフレジ防犯を巡る課題、他 - :ニューノーマル時代で変わる小売業Vol.26

ウォルマートがメタバースに参入

ロブロックス上の「ウォルマートランド」 出典:ウォルマート社 ロブロックス上の「ウォルマートランド」 出典:ウォルマート社

 

 ウォルマートは9月26日、メタバースプラットフォーム、ロブロックス上に「ウォルマートランド」と「ウォルマート・ユニバースオヴプレイ」の開業を発表した。ロブロックスには一日あたり5,200万人を超すユーザーがいて、もともとはゲーミングプラットフォームなので若い世代が多いが、20年頃から大手ブランドが次々と同プラットフォーム上に「〇〇ワールド」を作り始め、今後マーケティング上重要なメディア・販路となるメタバースのテストを行っている。

 同社チーフマーケティングオフィサーのウィリアム・ホワイト氏は「ロブロックスは急成長し、大手メタバースプラットフォームの1つとなっている。私達の顧客はここで相当の時間を過ごしているので、新たな革新的な経験を創造して彼らを喜ばせることにした」とコメントしている。


ウォルマートランド

  • 「エレクトリック・アイランド」 ミュージックフェスティバルで、双方向なピアノ音が出る通路、ダンスチャレンジ、ネットフリックス社のトリビア経験など
  • 「ハウス・オヴ・スタイル」 ヴァーチャルなトライアルができ、UOMAバイ・シャロンC、ITKバイ・ブルックリン&ベイリー等最新のビューティブランドをフィーチャー
  • 「エレクトリック・フェスト」 マジソン・ビア、ケイン・ブラウン等人気アーティストを招いたモーションキャプチャー型コンサート

ユニバース・オヴ・プレイ

  • 「イマーシヴ・ゲーム」 ジュラシックワールド、ポー・パトロール等とのライセンス商品やキャラクターをフィーチャーした5つの新しいゲーム体験
  • 「リワード」 ユーザーがヴァーチャルおもちゃを試し、集めた数に応じてアバター用仮想商品を購入できるコインをもらえる
  • 「ヴァーチャル・アドベンチャー」 アバターがユニバースをスピーディに移動できるホーバーボードのようなeモビリティ商品をフィーチャーし、シャーパーイメージ社の最新ドローン等を楽しめる

 

 ビジネスメディアは形通りに、ウォルマートが若い世代の顧客開拓のためにテスト的に行っているものだ、と紹介しているが、ゲームメディアのPCゲーマーでは、ウォルマートの広報資料の1つ、ホワイト氏のアバターが本プロジェクトの背景や目的を説明している動画について「エグゼクティブが何を意味しているのかよく理解していないレポートを読み上げているよう」[1]で、まるで四半期業績説明会のスピーチのようだとコメントしている。筆者も1分46秒のビデオを見たが、音声だけ聞けばこのコメントに何の異論もない。同記事のサブタイトルには「terrible(ひどい)」という言葉が入っているが、ジュラシックパークだの、いかにも若い世代うけしそうな化粧品ブランドの列記だのがそもそもアウトなのだろう。

 過去にも本ブログでナイキ、フォエバー21、チポレメキシカングリル等のロブロックス上のキャンペーンを紹介させていただいたが、これらの事例は筆者の目にもZ世代やミレニアル世代への説得力がもっと強かった。チポレが昨年ハロウィーンで展開した「ブーリトー」ゲームは人気があったので延長し、今年1月時点で500万以上のユニークユーザー数を記録したそうだ[2]。この差はやはり、リアル世界で既に若い世代の顧客にリーチしていて、生身の彼らの声を知っているかどうかだろう。ティーンエイジャーを顧客にしたいからと言って、オジサン、オバサンがいきなりハイスクールに乗り込んだところですぐに友達ができる訳ではない。とは言え、ウォルマートのテストは今始まったばかり。結果がどう転ぼうとも今後注目すべきであることは間違いない。

 

[1] https://www.pcgamer.com/hey-everyone-says-walmart-executive-to-the-single-person-in-its-new-roblox-metaverse-nightmare/

[2] https://www.thedrum.com/news/2022/01/19/lessons-learned-chipotle-s-halloween-metaverse-scare

(左)ユニバース・オヴ・プレイのジュラシックワールド、(右)ウォルマートランドのネットフリック・トリビア 出典:ウォルマート社 (左)ユニバース・オヴ・プレイのジュラシックワールド、(右)ウォルマートランドのネットフリック・トリビア 出典:ウォルマート社





セルフレジ防犯を巡る課題

アルバートソンズ系スーパーマーケット、アクメのニュージャージー州エッジウッド店のセルフレジの様子。向かって左に黒いバスケットがあるが、ここで全体の重量を測定してレジ通過商品情報と照らし合わせ防犯の一助としている。2021年8月筆者撮影 アルバートソンズ系スーパーマーケット、アクメのニュージャージー州エッジウッド店のセルフレジの様子。向かって左に黒いバスケットがあるが、ここで全体の重量を測定してレジ通過商品情報と照らし合わせ防犯の一助としている。2021年8月筆者撮影

 

 顧客満足度調査で毎年ランキング上位に上がるスーパーマーケット、ウェグマンズが9月にセルフレジアプリ「スキャン」の使用を中止すると発表した。同アプリはコロナ禍初期に導入されたもので、非接触サービスを提供するものだったが、同社広報担当社は「残念ながら現状で起こっている(万引きによる)損失状況では継続はできない」[3]とコメントした。

 小売業界の防犯研究団体、ECRリテールロスグループが2018年に行った調査では、固定式セルフレジでの万引き率は1%[4]、同年インターネットクーポン企業バウチャーコードプロ(Voucher Codes Pro)社が2,634人を対象に実施した調査では約20%の人が過去にセルフレジで万引きをしたことを認め、その理由について半数以上が店舗の防犯体制が甘いので見つからないだろうと思ったから、と答えている[5]。その後セルフレジの普及に伴い、数字はさらに悪化していると予測される。

 セルフレジについては一般的に人件費の削減、顧客にとってはスピーディな決済、というウィンウィンのような認識を持たれているが、防犯の問題およびスキャンに慣れない顧客が何度もスキャンしたり量り売り商品の名前やコード入力を間違ったり、という顧客側のフラストレーションの問題はまだ未解決のままだ。アメリカのスーパーマーケットでは、固定式セルフレジは一定の場所に集め、複数の社員が顧客の様子を見張ったり、動作ミスでレジが止まるとサポートに行く体制を敷いている。また、レジには「防犯カメラがついています」という標識やウォルマートのように防犯用モニターが目の前についている場合もある。店舗の労働力不足が深刻なアメリカではセルフレジ拡大の流れは止まらず、また顧客側も日本と異なりレジ担当者の動作が遅かったり商品名を知らず、間違った入力をしてレジが止まるというイライラを避けるためにセルフレジを利用する傾向にある。筆者がよく利用するマンハッタンミッドタウンにあるホールフーズマーケットでは、最近はセルフレジの方が長い列でいったんはセルフに並んだものの、有人レジの方ががら空きなのでそちらに向かう、という光景を見ることも多い。

 このような状況をテクノロジーで改善する動きも出ている。スーパーマーケット最大手のクローガーはAIとコンピュータヴィジョンを使ったエバーシーン(Everseen)社のヴィジュアルAIを搭載したセルフレジの実証テストを続けていたが、9月から1,700店舗で実用化に入った。同システムは高画像カメラ、コンピュータヴィジョン、エヌヴィディア(Nvidia)社のアクセラレイテッドコンピューティングAIプラットフォーム上で開発されたAI機能を統合したもので、大量のビデオデータをキャプチャーでき、POSデータに統合してビデオデータをリアルタイムに分析・推論できる。これによってセルフレジでの顧客の動作を分析できる。

 もし顧客が商品をスキャンしなかった場合、システムはスクリーンにフラグを立て、顧客が自分で修正するよう促し、これがなされない場合はシステムが店舗従業員のモバイルデバイスに警告を送り、従業員が当該レジに赴いてスキャンし直す。クローガーによると、セルフレジの間違いの75%以上が店舗従業員の助けなしに訂正され、これによって減耗の削減、より正確な在庫管理、最終的には売上増加につながるとの予測だ。同社は近いうちに同システムを全店に配備する。

 ただ、クローガーの規模ならテクノロジー投資の回収も容易に見込めるのだろうが、中小規模となるとそうもいかない。それに防犯面では一歩前進かもしれないが、顧客側の不便の解消にはつながらない。まだセルフレジには解決すべき課題、言葉を変えればビジネスチャンスがありそうだ。

 

[3] https://www.wsj.com/articles/wegmans-stops-using-self-checkout-app-after-suffering-losses-11663593248

[4] https://losspreventionmedia.com/controlling-self-scan-checkout-losses/

[5] https://www.theatlantic.com/magazine/archive/2018/03/stealing-from-self-checkout/550940/






ありのままの自分を共有するSNS「ビーリアル」

出典:アンドロイド、プレイストア上のビーリアル・ページ 出典:アンドロイド、プレイストア上のビーリアル・ページ

 

 写真にフィルターをかけたり修正ができない、1日1回通知が着た時しか投稿できない、2分以内に投稿しないとその日は投稿できない、投稿内容は24時間で消える…。2020年にフランスでアレクシ・バレヤ氏とケヴィン・ペロー氏が開発したソーシャルメディア、ビーリアル(BeReal)は今年初旬から急成長し、7月には世界アップストアのトップ5に入っている。メディア、ソーシャルメディアトゥディによると同メディアには今年8月現在1日あたり1,000万人以上のアクティブユーザーが存在する。

 最大の特徴はスマートフォンの前方・後方カメラを同時に使って撮影し、自分が見た風景とそれを撮っている自分の顔が同時に投稿されることだ。2分しか投稿できないし、いつ通知が来るかわからないので、日常の一コマと飾り気の無い自分の顔や表情が映し出される(左写真)。また通知は自分の友達にも同時に届くので、友達皆が同じ時にどこで何をしているか、を共有できる(右写真)。

 Z世代の間では、自分が美しく見えるように画像加工し、せっかく観光したり楽しい時間を過ごしていてもまず自撮りを優先というソーシャルライフはうんざり、嘘くさいという声が拡がってきており、敢えて汚いスニーカーや化粧無しの素顔の投稿をする人たちが出てきている。インフルエンサーマーケティングと広告の場に変わってしまったSNSに離反傾向もあり、フェイスブックがユーザー数が減少しているのもこの流れの1つだろう。ビーリアルはそんなSNSへのアンチテーゼとして、ティーンエイジャー、大学生の間で急成長している。もっとも口コミだけで成功した訳でもなく、4月にアンドレッセン・ホロヴィッツから3,000万ドルの投資を、5月にはDSTグローバルから8,500万ドルの投資を受けており、8月から11月まで現役大学生を対象に、友人の間でユーザーを増やせば現金を始めとする報奨制度を展開している。

 ビーリアルの人気によって、ティックトックはほぼ同様のサービス「ティックトック・ナウ」を9月15日から開始している。39か国でトップ10に入ったもののテックメディア、テッククランチは「恥を知らないビーリアルのクローン」と表現している[6]。ビーリアルは9月21日に原因不明のブラックアウトを起こしたが、これに対する広報体制ができていなかった。ユーザーたちはツィッターに#ビーリアルダウン(BeRealDown)のハッシュタグでクレームした。急成長によってモノマネを含む競争相手も増え、どのようにプラットフォームを収入源に変えていくのかというビジネスモデルとしての壁も待ち構えている。

 アメリカでは一時期Z世代が夢中になったスナップチャットが、その後プライバシーやコンテンツ管理、データ管理などでさまざまな問題や訴訟を起こしており、SNS運営の技術面、コンプライアンス面での数を多くの課題をどう乗り越えていくのか、注目されている。

 

[6] https://techcrunch.com/2022/09/24/this-week-in-apps-youtube-takes-on-tiktok-spotify-adds-audiobooks-bereal-takes-a-dive/






店舗スタッフがオンラインのチャットにも対応するハイブリッド型接客の是非

 

 アパレル専門店でワービーパーカー等D2Cブランド先駆企業の一社、ボノボスはガイドと呼ばれる店舗スタッフによる手厚い顧客サービスで有名だ。同社ではガイドは販売をするのではなく、顧客にコーディネーションのアドバイスをするために存在しており、アメリカでは一般的なセールスコミッション制も採用していない。

 同社は2019年からガイドのスタイリストとしての専門性をオンライン顧客にも提供するため、オンライン顧客からのEメールやチャットの対応もするというハイブリッド型接客を試験導入し、コロナ禍で経営環境が変わった現在、全店舗に拡げている。顧客もオン・オフ両方を使い分けるハイブリッドショッピングに転じている現在、一見理にかなっているようだが現場ではフラストレーションが拡がってことを、8月28日付ウォールストリートジャーナルは報道した。

 同社ではガイドの優先業務は店舗顧客の接客であり、「オンライン顧客からの問い合わせへの対応は、店内に少なくとももう一人ガイドがいる時のみ」「決して店舗顧客よりオンライン顧客対応を優先してはいけない」というルールがある。また配送や返品・返金関連の問い合わせはコールセンターに回し、スタイリングに関する問い合わせを店舗にまわしているのだが、実際にはなかなかコールセンターにつながらない、返事が来ないなどの理由で、店舗にクレームをする顧客が少なくない。さらにオンライン顧客への対応中に複数の客が来店し、両方の対応を同時にしなければならない、という状況はいつでも起こり得る。特に今年5月から6月にかけて同社ニュージャージー州フルフィルメントセンターで遅配がおこった時ガイドへの負担も大きくなり、精神的ストレスが高いと自覚するガイドはオンラインチャットに対応しなくても賞罰を受けないという措置が取られた。

 ウォートンスクールのマーケティング専攻准教授ピーター・フェイダー氏は、このようなハイブリッド型接客は、この日はオンライン対応のみ、別の日は店舗対応のみというスケジュール化がによって店舗従業員への負担は減るだろうとコメントしている。もともと店舗では接客、レジ業務、商品補充などマルチジョブは昔から実施されているが、オンライン接客をここに盛り込むためには、瞬時に顧客プロフィールや購買歴がわかる、往々にして顔が見えない相手だと顧客のフラストレーションが怒りに変わりやすいがこれへの対応など、システム面でのサポートが無ければ難しいかもしれない。

 ホームインプルーヴメント業界最大手のホームデポでは全米35万人を超える店舗スタッフを支援するため、顧客データと商品情報を機械学習、AIを使って管理するインテリジェントコンタクトセンター、アンプリファイAI(AmplifyAI)のプラットフォームを導入し、スタッフがストレスを持たずに改装計画のコンサルテーション等の接客ができるよう、リアルタイムかつ接客の文脈を読んだ情報提供等サポートしている。また、生産性を高めるための自動コーチングを行い、改善方法や接客中に避けるべき行動を正している。







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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


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