レジレス店舗と言えばオフィスや集合住宅がある大都市出店が基本だったが、今年に入って新たな戦略が出てきて、レジレス出店も次のフェーズに入ったようだ。
食品ハードディスカウンターのアルディが1月、レジレス店舗「アルディ・ショップ&ゴー」をロンドン市内グリニッチに開業した。面積487㎡で、通常のアルディ店舗の半分以下の面積だ。アマゾンゴー同様に、天井や什器にカメラ、センサーがあり、コンピュータヴィジョン、機械学習を使って商品の動きを判断して課金する。入口にはゲートがあり、ショップ&ゴー専用のアプリでQRコードを立上げてゲートにかざして入店するのがゴーと異なり、手のひらやクレジットカードでの入店はできない。同システムは米国レジレス開発企業AiFiが開発したものだ。英国内では昨年スーパーマーケットのテスコやアマゾンのジャストウォークアウト(JWO)システムを採用したセインズバリ―がレジレス店舗を出店しているが、ハードディスカウンターという、徹底的に店舗施設への投資を削減する業態がレジレス店舗を出店するのは世界でも初めてだろう。
品揃えは通常のアルディとほぼ同じだが、通常店内中央にある「アルディファインズ」、生活雑貨を中心に毎週品揃えを変えて低価格で提供する人気の売場は無い。その分店舗面積を減らすことができたのだろう。商品陳列も通常通りに、商品をカートンごと什器に並べて業務効率化を図っている。注目はアルコール飲料売場で「アルコール飲料を買うにはショップ&ゴーアプリで年齢確認するか、店内スタッフに声をかけてください」という大きなポスターが貼ってあり、アプリ内のヨティ(Yoti)社開発の年齢確認システムを立上げ、アプリカメラで自分の顔を映して年齢認証する。メディア、ビジネスインサイダーのグレース・ディーン記者が1月に来店した時のレポート[1]によると、初回来店時に彼女がポスターに気が付かずにアルコール飲料も持って退店しようとした際には、ゲートが開かなかったがその理由が年齢確認を怠ったせいだったかどうかは不明だった。2回目に来店して店内でアプリによる年齢確認を何度か試みたが、システムエラーで「再度試すか店舗スタッフによる年齢確認をしてください」というメッセージが出た。そのままゲートに向かうと、店舗スタッフが来店客全員のバッグの中身を調べて、アルコール飲料がある場合は認証作業をしていたという。従ってアルコール飲料を購入すると退店時のゲートが開かず、認証アプリかスタッフによる認証が必要という制御が働いているようだ。
決済についても、システムの誤認により買わなかった商品が課金された場合の返金プロセスがアマゾンゴーより1プロセス多く、時間も現時点では数時間かかり、元のレシートを修正するのでなく元のレシートを消して新たなレシートを発行するそうだ。筆者が利用するニューヨーク市内のアマゾンゴーでは、レシート発行までに数時間かかることはあるが、返金は内容を確認しないで即返金するのではないか、と思われるほど早い。この辺りは技術力というより、顧客サービスの哲学の相違だろう。
[1] Business Insider, ‘I went to Aldi’s contact-free Amazon Go rival’, 2022年1月30日
そのアマゾンゴーだが、同じ1月に米国内シアトル市から自動車で20分の郊外に、初の郊外型店舗の出店を発表した。店舗面積は571㎡と過去のゴーの約3倍、売場面積は301㎡で実際の開店日は数か月後という。他のゴーはニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコなど大都市でのコンビニ業態だが、新業態は郊外で自宅勤務する人々をターゲットとしたミニスーパーのようだ。
アマゾンは昨年から面積3,250㎡のスーパーマーケット業態、アマゾンフレッシュのレジレス化も始めており、今年はホールフーズマーケットの新店舗2店にもJWOシステムを搭載する計画なので、JWOの精度は相当信頼できるものになっているのだろう。今後は商圏特性に応じた業態開発をし、スィートスポットを探る方にエネルギーを注ぐようで、年内に初めてのファッション業態「アマゾンスタイル」の出店が予定されているが、この店舗にもJWOシステムが使われると見られている。
ビジネスインサイダーのユージン・キム氏によるとJWOシステムの運営コストは、当初の1店舗あたり400万ドルから1,000スクエアフィート当たり15万9,000ドルへと96%下がっている[2]。同コストにはアマゾンウェブサービスのクラウドテクノロジーと、遠隔で決済内容をマニュアルで確認する従業員のコスト等を含むが、マーケティングや商品原価は含まない。レジレスシステムはまだ高いとは言え、店舗数が増え人件費をカバーするまでコストダウンすれば、前述のアルディのような業態でも意味のある投資になっていくのだろう。
[2] Business Insider, ‘Amazon slashes cost of Go cashierless store technology by 96%’, 2021年11月17日
ホームセンターのロウズが、ペット専門店ペットコのインショップ「ロウズ+ペットコ」導入を発表した。1号店はテキサス州サンアントニオで、3月には同州に加えてノースカロライナ州、サウスカロライナ州で計14店舗開業する。ペットコの売場面積は93㎡で、犬と猫用のペット用品約700アイテムをインショップならびにEコマースで販売する。
両社の提携のきっかけはコロナ禍だ。在宅勤務をきっかけに物価や家賃の高い都心から郊外に引っ越す人が増え、特に20代、30代にその動きが顕著だ。広くなったスペースをDIYできれいにしたり、家具を買うだけでなく、ペットを飼う人が増えており、このトレンドに強い両社が協働して消費者の利便性を高める戦略だ。ペットコ社の試算では20年にコロナ感染が拡大して以降累積で1,100万頭以上のペットが新たに飼われており、先行きの見えない時代にペットによって多くの人が心の安寧を得ているという。
ロウズはもともとペット用カーペット、犬用ベッド、犬が出入りするためのドア、清掃用品などを販売していたが、ロウズ+ペットコ店ではペット用食事、健康、ウェルネス関連の物販と、店舗によっては獣医やペットケア専門家によるワクチン接種、迷い犬・猫を防止するためのマイクロチップの埋め込み、害虫予防用処方箋薬、出張グルーミングなどのサービスも提供する。また、住宅とペットの住環境について専門的な知識をもつペットコの社員がインショップに定期的に来店し、ロウズ社員が顧客に改装のコンサルテーションをする際にペットとの生活の観点からアドバイスをする。
ロウズは昨年11月に、高齢者が身体機能が衰えても自宅に住み続けられるよう、高齢者のライフスタイル支援NPO、AARPと提携して、ワンストップで改装計画や機材・資材購入ができる「リバブル・ホーム」プログラムを開始し、多くの店舗スタッフをAARPでトレーニングさせて売場に配置している。オンラインで何でも買え、情報も得られる時代ではあるが、消費者のさまざまな質問、課題に直接ヒトが耳を傾け、その場で適切なアドバイスとソリューションを与えられるのは、テクノロジーが代替できない店舗の価値ではないだろうか。
2020年9月にウォルマートは新たな店舗フォーマットを発表した。このフォーマットは空港内の空間にヒントを得て開発され、広々と視界が良く、売場名のサインが遠くからもはっきり見え、アプリを立ち上げれば通路の番号と照合して欲しい商品の場所に簡単にたどりつける、というのが大きな特長で、評判が非常に良かったため、既に約1,000店舗の改装を済ませている。
1月27日に発表された第2フェーズのフォーマットでは、より顧客が店内で商品やブランドにエンゲージできることが重視されている。改装のポイントは以下の通りだ。
既にアーカンソー州の改装店舗では顧客から高い評価を得ており、今後は第一フェーズの簡便なショッピングという機能性に加えて、第二フェーズでインショップやコーナー内容の改善でより充実したショールーム機能や体験価値で顧客のエンゲージメントを拡大すると見られる。そのような消費者の変化にウォルマートのような大企業が柔軟かつ迅速に対応し、投資をかけている点は多いに見習いたい。
ギャップは1月13日からNFTのデジタルフーディの販売を開始した(https://nft.gap.com/)。 メタバース、NFTはフェイスブックの社名変更の影響もあり、昨年後半から急速に注目度が高まっており、1月に開催された112年の歴史を持つ全米小売業協会年次総会「2022ビッグショー」でも大きく取り上げられた。既に3年前からルイヴィトン、グッチ、バレンシアガ、バーバリー等のラグジュアリーブランドが新たなマーケティングおよび販売プラットフォームとしてメタバース、そして新たな商品としてのNFTのテストマーケティングに参入[3]しており、昨年はラルフローレンやナイキ[4]も本格的に参入している。
今回販売されてNFTはデザインの希少性と価格別に分けたコモン、レア、エピック、ワン・オヴ・ア・カインド(一点もの)の4段階で、価格は表の通りだ。
[3] 2021年7月の当ブログで紹介
[4] 2022年1月の当ブログで紹介
一点ものはフランク・エイプ(Frank Ape)のアーティスト、ブランドン・サイン(Brandon Sines)氏とギャップのごラボアートで、1月24日午前9時からオークションで販売され、1,995テゾス($8,279.25)で競り落とされた。なお、ギャップが仮想通貨テゾスを採用したのは、同社のネットワーク、オペレーションが最低限のエネルギーしか消費せず、温室効果ガス排出量が低いというのが理由だ。
ゲームの要素もあり、コモン4点、レア2点を購入しなければエピックがどんなデザインを見ることができない。
オンラインで商品を見てドル換算で価格を知ると、NFTフーディは確かにかっこいいけれど、正直なところ、高過ぎないだろうか、450ドルもするなら他に欲しいものが買えるなどと考えてしまう。しかしそれは筆者がメタバースで過ごす時間や経験量が浅く、仮想通貨が自分に与える交換価値の認識が確立していないからだ。海外旅行に出ると貨幣価値が変わって、得をしたり損をした気持ちになるのがそうだ。筆者がメタバースに家でも借りて、友達もでき、さまざまな活動をし始めたら、この100テゾスの価値は今住むアメリカでの450ドルの価値とは変わってくるのかもしれない。もっともギャップはその辺りの温度を調べるために、4つの価格帯を設定してテストしているのだろう。
リテーラーの立場からNFTを見ると、①NFT販売は現在のEコマース事業のようなフルフィルメントや配送等の多大なコスト抜きの収益になる、②メタバースやNFTの導入は新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客の再エンゲージメント獲得の良い機会とのあり得る、という魅力的なメリットがある。短期間にこれだけのバズワードになる意味がある、ということだ。
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】