掲載日:2021/12/13

~アマゾンフレッシュが進化。フルサイズ店舗にジャストウォークアウトシステムでレジレス化も~:USリテール最新レポート - ニューノーマル時代で変わる小売業Vol.16

静かに市場を拡げるアマゾンフレッシュ

 アマゾンフレッシュは昨年9月にカリフォルニア州ウッドランドヒルズに開業したアマゾン初の本格的なスーパーマーケット(3,252㎡)で、ナショナルブランド、アマゾンとホールフーズマーケットのプライベートブランド、地元ブランドを取り扱い、精肉・鮮魚の対面販売やデリ、酒類の販売もある。最大の特徴はスマートカートの「アマゾンダッシュカート」によってレジレスで買物ができる利便性だが、伝統的なレジもあり、プライム会員以外でも買物できる。その後1年強の間に静かに店舗数を増やしていたが、来店客調査企業のプレイサーai(Placer.ai)社が「アマゾンフレッシュをチェック」というレポートを10月26日ブログに掲載し、多くの米系小売メディアに注目された。

 



【データに見る来店客の動向】

 このアマゾンフレッシュは1年間で19店舗に拡大したが、同社はそのうち2021年2月までに開業した8店舗の来店客数データを分析した。下のグラフは昨年9月の一号店開業時を基点とした客数の増加率だ。店舗数が増えるに従い、右肩上がりとなっている。

 

 次のグラフは調査対象店舗ごとの来店客数の推移(基点は各店舗の開店時)で、若干読み取りにくい部分もあるが、2021年3月から9月の来店客数増減率はどの店舗も概ねフラットなので、来店客がドッと押し寄せる開店時よりは客数は減っているものの、その後どの店にも概ね安定的に客が来店している様子が伺える。

 

 最後のグラフが最も興味深いが、カリフォルニア州3店舗とイリノイ州1店舗でアマゾンフレッシュ客が買いまわっている競合店(クロスショッピング)を示したものだ。これで見ると一番の競合はクロ―ガ―系列ラルフズやアルバートソンズ系ジュエルオスコといったように、全米トップのスーパーだ。さらに、トレーダージョーズも上位にきているのが興味深い。ネットスーパーを持たず、店員がアロハシャツを着て、社員伝達事項は鐘で合図する、というアマゾンとは真反対のアナログな店をアマゾンフレッシュ客が買いまわっているというのは、現在の消費者のリアルな二面性を表しているのかもしれない。



【シカゴの最新店舗は初のJWOシステム搭載店】

 先月11月にアマゾンフレッシュの最新店舗がシカゴ郊外のウェストモントおよびモートン・グローヴに出店した。従来の店舗と異なり、共にアマゾンゴーのジャストウォークアウトシステムでレジレス化している。これはレジレス業界にとってはエポックメーキングというべきニュースだ。フルサイズのスーパーマーケットに天井や什器にカメラ、センサー、コンピュータヴィジョンを使用するタイプのレジレス装備を実装したのはジャイアントイーグルとグラバンゴのテスト店舗くらいで、他はスマートカートを採用している。やはり面積が広く、SKUが多いとセンサー類で正確に商品をモニターするのが難しいからだろう。アマゾン自身は昨年2月にJWOシステムのスーパー「アマゾンゴーグローサリー」を開店したが、面積は683㎡、今回の4分の1以下だった。

 

【アマゾンフレッシュの今後】

 アマゾンは既に、来年初めにホールフーズマーケットの新店舗2店にJWOシステムを実装すると発表している。大型店舗への導入に自信あってのことだろう。来年以降、一挙にJWOシステム搭載アマゾンフレッシュを大量出店する可能性も否定できなくなってきた。

 アマゾンフレッシュの強みはレジレスの利便性だけではない。マーケットプレースの返品やオーダーピックアップの拠点でもあり、ネットスーパーの出荷拠点でもある。加えて、見逃されがちではあるがそのマーチャンダイジングパワーだ。アマゾンフレッシュは幅広い層の消費者が支持するナショナルブランドを中核に据えており、アマゾン帝国のバイイングパワーを背景に価格戦略で今後強みを発揮することは間違いない。またレジレスだけでなく伝統的レジも備えているので、非プライム会員も利用でき、幅広い客層をターゲットにしている。その上便利で、オンラインオーダーをピックアップもできるとなれば、来店回数が増えることは必須だ。

 アマゾンはEコマースで多くのチェーンストアを過去の遺物にした。今度は店舗、しかもアマゾン流に改造した店舗で小売業界にどのような影響を与えるのだろう。






モバイル・スキャンでDIYをラクにする新アプリが登場

写真:ロウズ社提供 写真:ロウズ社提供

 

 ホームセンター第2位のロウズ社は11月に、部屋の空間をスキャンするだけで自動的に部屋のサイズを測定する「メジャー・ユア・スペース(Measure Your Space)」の導入を発表した。2022年第一四半期末から利用が可能となる予定で、iPhone Pro/ProMax、iPhone 13 Pro/Pro Max、iPad Proに対応する。

 同アプリはiPhone、iPadおよびライダースキャナー[1] を使用し、 部屋の奥行を自動的に認識し、空間のサイズを図面化し、そこに家具を置くシミュレーションもできる。また自動的に壁面や床の面積を計算し、必要なペンキの量や床材の長さを計算し、その必要量を割り出すことができる。使い方は、まずペンキの色や床材の種類などを選び、その商品ページ上にある同機能のアイコンをクリックして改装したい部屋のサイズを測定し、自動計算された量をそのままオーダーすれば買物が終了する。日曜大工のみならず建設業者のプロにとっても非常に便利そうだ。

 

[1] ライダースキャナー(LiDAR Scanner)とは光検出と測距の略で、赤外線が反射して戻ってくるまでの時間を計測し、その物体までの距離や大きさを測定できる。

写真:ロウズ社提供 写真:ロウズ社提供


【次世代の買物経験を先取りするロウズ・イノベーションラボ】

 ロウズは10年近く前からVRやARの最先端技術を活用して、顧客がより簡単かつ正確にDIYや本格的施工をできるためのサービス開発を行っている。その母体であるロウズ・イノベーションラボは、小売業界の先陣を切ってVR技術を使い、キッチン改装のシミュレーションサービスを提供した。昨年は、今回のアプリケーションを共同開発したARおよびAI企業ストリーム(Streem)社と共に「ロウズ・フォー・プロズ・ジョブサイト(Lowes for Pros JobSITE)」という拡張ビデオチャットアプリを開発し、建設業のプロたちが工事現場に出向かなくても、現場の写真とビデオ電話だけで状況を把握し、工事の見積もりや必要な部品の注文をできるサービスを開始した。これによって建設業者のコロナ感染リスクの低下と作業効率の向上にも貢献している。

 小売業とは基本はモノを売る商売だが、なぜそれが必要か、どのようにそれを使うのかという前後の文脈の中で、先を読んだサービスを提供することの重要性を示し、実践している事例だろう。






スターバックスとアマゾンゴーがコラボ

写真:「スターバックス・ピックアップ・ウィズ・アマゾンゴー」店。 スターバックス社提供 写真:「スターバックス・ピックアップ・ウィズ・アマゾンゴー」店。 スターバックス社提供

 

 マンハッタン東59丁目、ブルーミングデールズ百貨店の並びに「スターバックス・ピックアップ・ウィズ・アマゾンゴー」が11月18日にオープンした。文字通り、事前にアプリでコーヒー等を事前にオーダーしておくスターバックス・ピックアップと、アマゾンゴーが合体した店舗だ。コーヒーをピックアップするだけのお客は写真左側のカウンターでピックアップする。頭上にあるモニターに自分の名前が出れば商品が用意できている。もし店内で何か飲食したい場合は、右側のおなじみ、アマゾンゴーのゲート通過して食品類を取り、奥の座席で食べてゲートを出れば自動的に食品の分が課金される。ゲートではQRコード、手のひら、クレジットカードのいずれかをかざして入店する。

 

【アマゾンゴー商品】

 スープやホットサンドウィッチ等のホットミール、サンドウィッチ、サラダ、ロール寿司、およびエナジーバーやチョコレート、ポテトチップス等のスナック菓子がある。サンドウィッチ類は「アマゾンキッチン」ブランドだが、他に地元の有名店のドミニク・アンセル、マグノリアベーカリー、エッサベーグル等もある。スターバックスで売っているサンドウィッチ類は無く、すべてアマゾンの品揃えだ。

 

【客席】

 アメリカでスタバと言えば、仕事の打ち合わせやフリーランサーが一人で仕事をする場を連想する人が多いだろう。もちろん友人とお茶をしたり、親子でランチを食べる姿もよく見るが、カジュアルな仕事場のイメージはかなり定着している。同店が自宅、職場に次ぐ「サード・プレース(第3の場所)」と呼ばれるゆえんだ。これに対応し、テーブル席だけでなくUSBポートと電源がついたワークステーションもある。

 筆者が視察に行ったのは感謝祭の翌日のブラックフライデーの午後。ブルーミングデールズ店内は家族やカップル客でにぎわっていたが、この店舗内は黒い服の20,30代のグループ客が真面目な会話をしているようだった。近隣で働く人々がランチ休憩を兼ねて打ち合わせをしていたのかもしれない。ワークステーションも満席だった。

 

【今後の展開と方向性】

 同フォーマットは既にマンハッタン内ニューヨークタイムズビルへの入居が決まっており、来年他にも出店する計画だ。同店がデジタル技術で利便性を追求していることは明白だが、他にもコラボをする理由があるのだろうか。スターバックスはリモートワークの影響で、通勤途中やランチでスタバに立ち寄る、という生活パターンが減ったことが影響し、約400店舗を閉鎖し代わりに大都市圏では店内飲食施設が無いピックアップストアを、郊外ではドライブスルーの出店を加速している。

 しかし今回のフォーマットはコロナ前のスタバのように、その場でゆっくりと時間を過ごすことができる空間、サード・プレースを提供し、しかも食べ物の品揃えはアマゾンとの提携で幅広くなっている。異なるのはレジに並んで待つ必要が全く無くなったことだ。レジレスだけならアマゾンと組まなくてもスタバのアプリで食事も事前オーダーし、店内で食べるという選択肢もあり得ただろうが、敢えてアマゾンゴーと提携したのは、同社と組めばより精緻な店内購買行動データを得られ、次のフォーマット作りの参考にできるからだろうか。アマゾン側には飲食サービスへのジャストウォークアウトシステムの適用の方向性を探る、という意図があるかもしれない。いずれにしても、シアトル発革新創造企業2社の今回のコラボは、それぞれ完成度の高いリテールフォーマットがただ同じ空間を共有しているだけ、という印象もあり、今後さらにブラッシュアップが必要な気がした。

(左)入口ゲート。左の丸いセンサーは手のひら用 (右)アマゾンキッチンのサンドウィッチ/写真:平山撮影 (左)入口ゲート。左の丸いセンサーは手のひら用 (右)アマゾンキッチンのサンドウィッチ/写真:平山撮影
(左)ラウンジの様子。仕事の打ち合わせ風の人が多い (右)スナック類。健康志向だがNB商品で構成されている/写真:平山撮影 (左)ラウンジの様子。仕事の打ち合わせ風の人が多い (右)スナック類。健康志向だがNB商品で構成されている/写真:平山撮影





カーヴァナの最新「中古車自動販売機」

 ウォルマートは10月21日にキャッシング機器企業コインスターと暗号通貨両替企業コインミーと提携し、全米200店舗にビットコイン両替機(ATM)をテスト導入すると発表した。同社は今後国内で8,000か所以上に設営することも視野に入れている。

カーヴァナ社の「自動車自販機」タワー。  写真:カーヴァナ社提供 カーヴァナ社の「自動車自販機」タワー。  写真:カーヴァナ社提供

 

 2012年にフェニックスで創業したカーヴァナ(Carvana)社は中古車販売をテクノロジーと逸脱した顧客サービスで革新したEコマース企業だ。全米に55,000台以上の在庫を持ち、オンラインで売買を簡単にできるだけでなく、購入した自動車は1週間以内、早ければ翌日に自宅に届くサービスが人気だ。この利便性、スピード感で急成長し、2017年にはニューヨーク証券取引所に上場し、2020年には年商56億ドル、年間244,111台を販売して、全米第2位のオンライン中古販売企業にのし上がった。半導体チップ不足によって全米で自動車不足が進む中、直近の第三四半期では売上をさらに2倍以上に伸ばしているが、短期間の成長を支える投資の結果、赤字幅は拡がっている。

 

 中古車のオンライン購入に信頼と利便性を高めるため、購入顧客は全在庫についてオンライン上で高画質、360度のヴァーチャルツアーで自動車の詳細を確認することができる。同社が取り扱う中古車は150か所のチェックポイントに合格しなければならず、事故車やフレームにダメージのある車は販売しない。それぞれの車の特徴、傷、安全性に関する最新情報などは全て商品情報に細かく記載されている。一方、売却も非常に簡単で、オンライン上でプレートナンバーを入力し、質問に答えると最短で5分で見積もり金額がわかる。売却条件として別の車を購入する必要はなく、早ければ翌日自動車を引き取りに来て、支払いが実行される。

 カーヴァナは購入した自動車を自宅配送するだけでなく、「中古車自動販売機」でも有名だ。最新のヴァージニア州リッチモンドにオープンしたガラスでできた12層のタワー(写真)には43台の車が入る。ここで自動車を受け取りたい人は日時を予約し、現地で記念となる大きなカーヴァナ・コインを渡される。これを使って巨大な自動販売機を作動させ、光輝くタワーの中で購入した自動車が降りてくるのを見物することができる。既にこの自販機はテキサス州、フロリダ州、カリフォルニア州など30か所にあり、ユニークな購入体験が人気だ。

 中古車売買は新車が買えないから仕方なく…というネガティブなイメージがつきまとっていたものだが、カーヴァナはそれをオンラインで靴や服を買うのと変わらない利便性、スピード、そして中古であろうが気に入った自動車を手に入れたという喜びを巨大自販機で増幅させる演出で急成長を続けている。


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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】



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