掲載日:2021/10/07

~急増するセルフレジ、モバイル決済 / 自動運転ロボット配送が始まった。他~:USリテール最新レポート - ニューノーマル時代で変わる小売業Vol.14

1.急増するセルフレジ、モバイル決済 ~ ホールフーズマーケット、セブンイレブン

 コロナ禍によってセルフレジが急増している。戦略コンサルティング会社RBRによると、昨年世界中で出荷されたセルフレジ台数は25%増加した[1]。大手スーパーマーケットがセルフレジ導入をリードしているが、ディスカウンターやコンビニエンスストア、ファーマシー業界でも急増している。その背景にあるのは人手不足で、米国労働省は今年4月時点で小売業界では96万5,000人相当の労働力が不足と発表し、当分改善の見込みはない。

 

【ホールフーズマーケットのセルフレジ体験】

 

 筆者が頻繁に利用するホールフーズマーケットのニューヨーク市内の店舗でも約1か月前に通常のレジ40台を32台に減らし、12台のセルフレジを導入した。同店は全米でも売上生産性トップクラスの店で、2004年の開業時から利用しているが夕方買物に行くとレジ待ち最低15分は必須だった。感謝祭やクリスマス前は30分以上かかる。しかし新たに導入したセルフレジの待ち列は、10数人並んでいても数分で順番が来る。

 

[1] RBR社広報資料、「Self-checkout revolution ramps up with record levels of investment’, 2021年7月5日

写真:ホールフーズマーケット店内セルフレジの様子。平山撮影 写真:ホールフーズマーケット店内セルフレジの様子。平山撮影

 

 アメリカでは青果はばら売りが基本でバーコードが無いため、セルフレジでも顧客が自分で商品名を入力して重量を測る必要がある。筆者はウォルマートや他のスーパーでもセルフレジを使っているが、ホールフーズでは青果類のほとんどにオーガニックと非オーガニック両方があり、かなりややこしい。このため全ての青果物に4桁の番号がついたシールを貼っている。実は通常レジの列が長いのも、レジスタッフがこの野菜は何かを見つけるのに時間がかかるのも要因となっている。シールが剥がれている場合も結構多い。しかしセルフレジでは、青果は例えば「アップル」などと名前を入力すると該当しそうな商品の写真と名称のリストが出てきて、そこから選ぶだけなので素人でも時間がかからない。量り売り商品を買う時は、レジが秤にもなっているのでそこに商品を載せ、商品確定後に梱包材の種類が写真付きで出てくるので、該当するものを選ぶと自動的に重量を引いてくれる。簡単な操作なので60代、70代と思しき買物客も臆せずセルフレジを利用している。

 

 セルフレジで間違えたり、アルコール飲料など年齢確認が必要な時に世話をするホストは通常1人、ピーク時には3人配置しているが、彼らはセルフレジを迅速に終了させるエキスパートだ。商品を選び間違えてしまい訂正したい時など、手をふって呼ぶと野菜に貼ってあるシールの4桁番号を瞬時に探し、「次回から商品が見つからなかったら、この番号をここに入力すると良いですよ」と指導までしてくれる。シールが無い時は迷わず単価が安い類似品を選び、首から下げた社員IDをスキャンすると、レジはまた使えるようになる。顧客は内心得した!と思うので文句も出ず、速やかにレジが終了する。

 

 オーガニックを買ったのに非オーガニックとする人やスキャンしないでバッグに入れる顧客も結構いるのではないかと思うが、ホストの使命はその数ドルの犯人検挙より、とにかくどんどんレジを通過させることのようだ。ただし、あまりにもスキャン数が足りない顧客を見つけると「手伝いに」出向いている姿を見かける。ホストには相当精鋭のスタッフを投入しているようだ。

 

【モバイル決済導入のベッドバス&ビヨンド、セブンイレブン】

 

 前述の通り、非食品分野にもセルフレジが拡がっている。ブランドやデザイナーシューズのオフプライスチェーン、DSWは昨年から一部の店舗にセルフレジをテスト導入した。6台をホスト1人が監督している。先月レポートしたベッドバス&ビヨンドのマンハッタン改装店舗でもセルフレジを通常の2倍の台数にし、それ以外に売場で商品のバーコードをスキャンして購入する「スキャン&バイ」と呼ばれるモバイル決済を導入している。

 

 コンビニエンスストア業界ではセブンイレブンが2019年にモバイル決済を初めてテスト導入したが、今年7月追加で2,500以上の店舗に導入し、現在32州で3,000店舗以上がモバイル決済を提供、2022年末までに全店に広げる予定だ。顧客はセブンイレブンのアプリをダウンロードし、「7リワーズ」会員制度に登録し、モバイル決済店舗の店内で「モバイルチェックアウト」のアイコンをクリックし、購入商品のバーコードをスキャンするだけだ。値引などの販促は自動的に適用される。支払いはクレジットカードかセブンイレブンウォレットで決済し、店舗を出る時に支払い済みを証明するQRコードを確認ステーションのモニターでスキャンする(写真)か、店舗従業員に見せればよい。バーコードが無い商品やアルコール飲料、たばこ、宝くじ券などは通常のレジで支払わなければいけない。期間限定でモバイルチェックアウトを利用した人には7リワーズのポイントを10倍進呈する。

写真:モバイル決済後QRコードをかざす確認ステーション。セブンイレブン社提供 写真:モバイル決済後QRコードをかざす確認ステーション。セブンイレブン社提供

 

 小売業界はもともと人件費、不動産投資など固定費が大きく利益率の高くないビジネスだ。これに加えて労働力不足、その上にEコマースシフトでオンラインストア営業も必要となり、セルフレジの導入は今後不可欠とならざるを得ないようだ。






2.自動運転ロボット配送が始まった ~ ショップライト、オハイオ州立大学

 8月以降、無人の自動運転ロボットによる配送が次々に開始した。人手不足の中、非接触で人件費節約にもなるこの動きは本格的に業界に根づく可能性もある。

 

【スーパーマーケットが次々テスト導入】

 

 スーパーマーケット大手のショップライトがペンシルヴァニア州内2店舗で遠隔操作のロボットカートによる配送を9月下旬に開始した。ロボットカートはトートイズ社が開発した電動カートで、時速4.8km(最高速度時速11km)、二酸化炭素排出ゼロで、訓練を受けたリモートドライバーが遠隔操作し、歩道または道路の端を走行する。カートには4つの施錠できるコンテナーがあり、常温・チルド・冷凍に分かれ、最大68kgまで積載できる。カートの走行範囲は4.8km以内だ。

 

 顧客はカートが到着したらテキストメッセージで連絡を受け、その指示に従ってカートの鍵を開け自分のオーダーを抜き取る。オーダーが受け取られると自動的に店舗に報告され、次のオーダーを配送するためにカートは店舗に戻る。

 

 トートイズ社によると、ロボットカート配送は人力に対して50~75%コスト削減が可能で、現在全米の時給は10~15ドルなのでここから計算するとロボットは4ドル程度で配送するとみられる。アルバートソンズも今年3月にカリフォルニア州北部で同じロボットカートをテストで導入している。テストなので、導入直後はロボットカートに従業員を同行させていた。

写真:アルバートソンズ社セーフウェイ向けのトートイズ社ロボットカート。アルバートソンズ社提供 写真:アルバートソンズ社セーフウェイ向けのトートイズ社ロボットカート。アルバートソンズ社提供

 

【オンデマンド配送サービスも参入し大学キャンパス内で無人配送】

 

 グラブハブは今年8月、オハイオ州立大学と提携し、ヤンデックス自動運転グループのロボットを使って大学構内での食事配送を開始している。ヤンデックスのロボットは完全無人の自動運転で歩道やキャンパス内横断歩道を走行する。時速4.8~8kmで、トートイズ社カートより積載量は小さく、ピクニック用のクーラーくらいの大きさで20kgまで、コーヒー数カップ分とベーグルサンドウィッチやピザなど複数の食事を適温で配送する。当初50台が投入されている。

 

 同大学には6万人以上の学生がおり、グラブハブで通常通り食事をオーダーするとロボットが運んでくる。同大学学生部のシニアディレクター、ジア・アフメド氏によると、同地域での食品デリバリ―は通常1回あたりの配送料は5~6ドルで1時間程度かかるが、このカート配送だと30分で届き、2ドル50セント程度で済む。

 

 同大学2年生のアビー・シローヌ氏は、安く早いだけでなく「フローズンドリンクやホイップクリームトッピングの飲み物を通常のデリバリ―で頼むと完全に溶けてしまって気持ちが悪いけれど、このロボット配送なら大丈夫」とクオリティ面でも改善があることを指摘している。また「知らない人が配達してくれるよりロボットの方が安全」[2]ともコメントしている。

 

[2] オハイオ州立大学ニュース、2021年8月19日

写真:ヤンデックス社ロボット。オハイオ州立大学提供 写真:ヤンデックス社ロボット。オハイオ州立大学提供

 

 大学構内ロボット配送は他でも始まっており、4万3,000人の学生を抱えるパルデュー大学では9月からスターシップ・テクノロジーズ社のロボット30台が配達を行い、配送料は1ドル99セントだ。同社はウィスコンシン大学でも配送を行っている。今後大学に限らず、自動走行があまり難しくない場所であれば、ロボット配送がヒトより有利になる可能性は十分にある。

 

 

 

 

 

3.Jクルー社メイドウェルが中古ジーンズ再販に参入

 スレッドアップは中古衣料品、アクセサリーの再販プラットフォームで、オンライン中古衣料品再販市場のリーダー的存在でもある。創業2009年以降累積で35,000ブランド、1億2,500万点を販売し、今年3月ナスダックに上場した。

 

 同社は再販プラットフォームを2018年からサービスとして提供しており、ギャップ、メーシーズ、アーバンアウトフィッターズ、ウォルマート等多くの企業と提携しているが、今年7月にJクルーの姉妹ブランド、メイドウェルと提携し、同ブランドの中古品再販を助けている。メイドウェルは店舗で自社ブランドの中古品(ジーンズに限定)を回収し、同ブランドで使えるギフトカード20ドルと交換する。状態の良い製品はスレッドアップのプラットフォーム上に構築したメイドウェルの再販サイト「メイドウェル・フォーエバー」で販売し、残りはスレッドアップで販売する。両社は2023年までに100万点のジーンズ回収目標を掲げている。

写真:メイドウェルxスレッドアップの中古品再販ポップアップストア。スレッドアップ社提供 写真:メイドウェルxスレッドアップの中古品再販ポップアップストア。スレッドアップ社提供

 

 メイドウェル・フォーエバーでは、多くの中古品を洗濯・補修の後、定価の63%-74%オフで販売している。送料は一律5ドル99セント、14日以内なら返品も受け付ける。9月から10月末まで期間限定でニューヨーク市ウィリアムズバーグにポップアップストア「サーキュラ―ストア(循環店舗)」を営業した。店舗では中古品を買えるだけでなく、店内に同店舗のコンセプトを大きく表示し、QRコードをスキャンするとファッション業界の破棄問題や製品を長く着る方法などについて情報を得ることができる。また店舗では中古品回収や、製品修繕のワークショップイベントも提供している。

 

 今まで新品しか販売したことのないブランドがこのように中古品再販に取り組むのは、ティーンエイジャーから30代のZ世代やミレニアル世代が消費者としての影響力を増しているからで、若い世代は地球環境保護を自分達の将来に関わる課題と認識し、使い捨てのファストファッションなどへの批判を高めている。現在は企業経営面からは採算度外視で、まず新たな消費価値観にどうアピールするか、その中でどこに商機があるのかを探っている、というのが実情のようだ。とは言え、他にも数多くのファッションブランドが中古品回収販売に乗り出しており、このトレンドが消えることはなさそうだ。

 

 

 

 

 

4.オールドネイビーのサイズ改革「ボディクオリティ(Bodequality)」

 ギャップ社のオールドネイビーが大規模なサイズ改革を行った。8月20日より全米1,200店舗およびEコマースのレディス部門からプチサイズやプラスサイズを廃止し、0から28(Eコマースでは30まで)またはXSから4Xまでを、全く同じ価格、同じ品揃えで販売開始した。日本でも事情は同じだが、小さいサイズや大きいサイズは違うコーナー、違う売場で販売し、ほとんどの場合標準サイズよりデザイン展開数が少ない。ギャップ社によると、オールドネイビーは2004年からプラスサイズを販売しているが、最大でもサイズ18またはXXLまでの展開だった。2018年にはプラスサイズ専門店を出店したが75店舗のみで、Eコマース上でもプラスサイズは全スタイルの30%しか扱っていなかった。

 

 体型によって選択肢が少ないのは不公平だ、という議論はMe Tooムーヴメントと同様に10年近く前から起こっていたが、アパレル業界ではなかなか対応に踏み込めていなかった。ボディクオリティはボディとイクオリティ(平等)を足した造語で「体型で分類するという発想を撤廃する」というコンセプトを示している。オールドネイビーはサイズを一元化しただけでなく、売場のマネキンもサイズ4,12,18と3種類を展開する。今後営業動向を見ながら他のサイズのマネキンも試す計画だ。

 

 さらに同社はフィットモデル改革も行った。通常アパレル業界では基準サイズのフィットモデルのサイズから型紙をおこし、これを大小に比例させて型紙を作っているが、今回女性389人の実際の体型をスキャンし、そこから製作した3Dアバターに試着させながら全サイズを確定した。またサイズ8と20については実際のフィットモデルを長期間採用し、何度も試着してもらいながらサイズを最終化したという。それだけでなく、何百人もの女性に自分の身体イメージやそれに関わる懸念事項などをヒアリングしたという。その結果、単に服のサイズだけでなく、ポケットの位置やジーパンのベルトループの間隔など細かいデザインにも修正を加えた。

写真:オールドネイビー、ニューヨーク、チェルシー店。平山撮影 写真:オールドネイビー、ニューヨーク、チェルシー店。平山撮影

 

 ただしボディクオリティはまだ始まったばかりで、身長が低い人、高い人のサイズ対応は予定がたっていない。レディス&マタニティマーチャンダイジングのヘッド、アリソンPスティックニー氏はファッションメディア、WWDの取材に対し「まだ進化の途中で完全とは言えないが、デザインによってインクルーシヴ(どんな体型の人も内包)になれることを実現させ、皆さんにお伝えしたいのです。私たちはボディクオリティが業界で真の革命を始めたことにわくわくしています」とコメントしている[3]

 

 大きいサイズの専門店は市場が拡大しており、NPDグループの試算では2021年5月時点で市場規模は1,138億ドル、米国レディスアパレル市場の19%がプラスサイズだという。デジタル技術が進んでいない時代の型紙製作の発想を変え、DXを活用することで大きな商機が生まれる分野だ。

 

[3] WWD、’Old Navy redefines inclusion offering ‘Every Style in Every Size’’、2021年8月18日


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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


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