米最大のスポーツ用品チェーン、ディックス・スポーティンググッズは、競合だったスポーツオーソリティやモデルズの倒産によってできた空白市場を獲得するため、コロナ禍にも関わらず新規出店を続けている。今年4月にはスポーツ体験型の新コンセプト、ディックス・ハウス・オヴ・スポート(Dick’s House of Sport)1号店、アウトレットのウェアハウスセール2店、ゴルフギャラクシー9店、サッカーショップ34店の計46店舗を出店し、5月にはハウス・オヴ・スポート2号店を開業した。
ハウス・オヴ・スポートは9,290㎡の店舗に1,579㎡(2号店は2,323㎡)のオリンピック競技場レベルの屋外フィールドトラック、ザ・フィールドを併設する本格的なスポーツの殿堂だ。店舗は未来型店舗と称されるように各所でデジタル技術を活用しており、顧客は専門知識をもったスタッフからコンサルテーションを受けながら、様々なスポーツを実体験した上で豊富な品揃えから購入できる。
同店はスポーツの体験と同様に地元コミュニティとのつながりにも力を入れ、6月以降ザ・フィールドで子供向けスポーツキャンプ、バスケットボール・トーナメント、ヨガなど様々なイベントを開催する。子供の心身の成長にとってスポーツは重要であるにも関わらず、アメリカでは公立学校は地元自治体が独自に運営するため、貧しい地域の学校にはスポーツの授業やクラブ活動がなく、貧しい家庭の子供たちは費用がかかるスポーツに参加する機会も乏しい。同社は2024年までに100万人の青少年にスポーツをする機会を提供するという目標を掲げ、寄付活動を行っている。
店内で焼きたてのパンを提供するカジュアルレストランチェーン、パネラブレッドは、今年11月から次世代店舗フォーマットを展開すると発表した。パネラの特徴である焼きたてパンの温かい雰囲気を強調しながらも、Eコマースシフトに対応したフォーマットだ。その結果、店舗面積は従来より20%縮小する。しかし以下のような進化により、店内飲食の安全と楽しさを最大限に拡げながら、Eコマースによる利便性も拡大する。
筆者は2年前に米国小売業界のコンファランス取材時に、パネラブレッドのエンジニアの方と話す機会があったが、自分がレストラン企業で働いているのを忘れそうなくらいテクノロジー志向の会社だとコメントされていたのが印象的だった。
アマゾンは5月18日、レジレスのスーパーマーケット、アマゾンゴー・グローサリーをアマゾンフレッシュに改名し、2店舗のうちシアトル郊外、マイクロソフト本社があるレッドウッド店1店の閉鎖を発表した。アマゾンフレッシュは昨年8月開業したスーパーマーケットで、高級ナチュラル食品スーパーのホールフーズマーケットと異なり、一般的な品揃えにアマゾンやホールフーズマーケットのPBを販売する業態だ。最大の特徴は通常のレジ以外にスマートカートによるレジレス・サービスも提供していることだ。また広いサービスカウンターでは同店だけでなくアマゾンマーケットプレースのオーダーもピックアップ、返品できる。
アマゾンフレッシュはその後着実に店舗数を増やし、現在12店舗、今後少なくとも28店舗以上の出店を準備中[1]と見られている。
アマゾンゴー・グローサリー撤退の理由
アマゾン広報担当者は、同店が閉鎖となる理由について、周辺はクロ―ガ―傘下のフレッドメイヤー、トレーダージョーズなど4店舗に囲まれており、業績が悪かったと説明している。ちなみに、アマゾンゴーも4月5日付でシカゴ3店、ニューヨーク1店を閉鎖している。こちらは、コロナでリモートワークが続く中、オフィス街への通勤客が減少し、売上が下がったものと推測される。
しかしそれ以外の理由として、アマゾン傘下には食品販売関連でアマゾンフレッシュ(店舗、Eコマース)、ホールフーズマーケット(店舗、Eコマース)、プライムナウ(Eコマース)、アマゾンゴー(店舗)とあり、それぞれオペレーションが異なる。これが顧客を迷わすため、チャネルの統合を始めた結果でもある。5月21日には2014年に立ち上げた即日配送のプライムナウを年内にアマゾンのアプリおよびウェブサイトに統合すると発表、日本や他の国では既に統合が始まっている。また、ホールフーズマーケットのEコマースもアマゾンに統合される。アマゾンフレッシュのEコマースは米国内でも既に統合されており、2019年10月にはフレッシュの会員費月額$14.99も廃止された。
ジャスト・ウォーク・アウト技術のゆくえ
アマゾンゴーに使われているジャスト・ウォーク・アウト(JWO)システムは、現在直営のアマゾンゴー店舗以外に、空港内コンビニエンスストアの「チボ・エクスプレス」を経営するOTG社およびハドソン社の「ハドソン・ノンストップ」にライセンス供与されている。今後経済が回復し旅行が増えれば、拠点拡大の可能性もある。コロナ前には映画館内ショップへの導入も商談に入っていたので、ライセンス契約拡大はこれから本格化すると言えるだろう。
JWOシステムは天井にカメラやセンサーを取り付けるので、店舗の改装や機材への投資がかさむ。既存店舗を変更せずに導入できるスマートカートの方がコスト面で有利と言われている。スーパーマーケット最大手のクロ―ガ―は今年1月に、同様のスマートカート「クロ・ゴー(Kro Go)」を既存店舗にテスト導入している。アマゾン以外の天井設置型レジレスシステムも、現時点では小型店舗に限られているので、スマートカートを導入できない小型店舗にはJWOシステム型、という棲み分けの可能性も考えられる。
しかし、アマゾンがアマゾンフレッシュの名称でこれから開業する店舗のうちシアトル郊外のバラード店(2,323㎡)とコネチカット州の店舗(3,159㎡)の工事申請書類にはJWOと思しき設計図が含まれているという。まだJWO技術の大型店舗への適用の可能性を探る旅は続いているのかもしれない。
[1] Bloomberg報道, 2021年3月11日
コロナによって自宅で料理する回数が増えた。その結果、毎日の献立を考えたり、買物をするという仕事が増え、これをストレスに感じる人も増えた。この「献立を考え、買物する」時間を半減するのがエニーカート(Anycart)だ。同社は自社のビジネスモデルを「世界初の食品ショッピングエンジン」と称している。簡単な検索で、加盟するオンラインスーパーを横断的に購入できるプラットフォームだ。利用方法は以下の通りだ。
オンラインやアプリ[2]に登録し、自宅の郵便番号と店舗リストの中から利用したい店を選び、家族構成や好みを入力する。店舗は買物の途中で自由に変えられる。
食品の検索方法にはアイテムを自分で選ぶこともできるが、最も便利が良いのは、入力情報から自動的に推奨されるレシピ群の中からから好きなレシピを選ぶことで、自動的にショッピングカートに必要な食材が入る。チェックアウトする前に、既に家にあるので不要な食材などは省くことができる。
配送時間を指定し、店舗ピックアップの場合は店舗を指定する。オーダーはエニーカート社が加盟店に自動的にコンタクトし、加盟店がオーダーをフルフィルメントおよび配送する。
インスタカート等のオンデマンド配送サービスのプラットフォームでも同様に複数の地元の店から買物ができるが、配送手数料を支払わなければならない。エニーカートは加盟店との契約で、配送無料としている。また、商品価格は各社店舗での販売価格と同じで、ここでも加盟店によっては店舗より高い価格を設定するインスタカートとの競争力を高めようとしている。
若干わかりにくいビジネスモデルだが、要するにアマゾンマーケットプレースでさまざまな出店者から横断的に買物できるのと同様、それに加えてパーソナライズした献立推奨機能と、選んだ献立に必要な食材を自動的にカートに入れてくれる機能がついたものだ。同プラットフォームには現在アマゾン、ホールフーズマーケット、アルバートソンズ、アホールドデレーズ等、3,400都市、4,000店が参加している。同プラットフォームでは最初のテスト期間7か月間で売上高は450%増加し、5月には配送対象を全米に拡げた。
[2] 現時点ではiOSのみ対応
筆者も試してみた。レシピは朝食、ランチ、ディナー、デザート、他にアメリカン、イタリアン、アジア、メキシカン、地中海などのカテゴリーから選べる。アジア料理には日本食、中華、インド、タイ、ベトナム、韓国、フュージョンがある。それぞれに十分に一通りのレシピが揃っている。試しにホールフーズマーケットを選び、日本食のレシピを見ると「鶏の照り焼き丼、豆腐のカツ丼、鶏のカツ丼、ラーメン、クリームシチュー」が出てきた。店舗設定をアマゾンに変えるとカツ丼2種が消え、代わりに鶏のアルミフォイル照り焼きソース蒸し、が登場した。恐らくアマゾンではパン粉を販売していないからだろう。アメリカンやイタリアンを選ぶと当然ながらレシピ数はもっと広がる。
ミールキットだとレストランのようなレシピを楽しめるが、値段が高いし日常食ではない。また、自分で毎回のレシピを選ぶことができない。自宅でリモートワークをしている人が仕事の合間にササっと献立を選んで買物を済ませる、地元の馴染みのあるチェーンストアから無料で配送される、となると使い慣れれば便利で手ごろなプラットフォームとなる可能性もある。
昨年2月にパネラブレッドは月額$8.99でコーヒー(ホット、アイス)、紅茶(ホット)飲み放題の会員制度「マイ・パネラ+コーヒー」を開始した。2時間以上間があけば同日中でも何回でも飲むことができ、無料リフィルサービスもつく。サービスを開始してすぐにコロナ禍に見舞われ、同社も長い期間飲食スペースを閉鎖してオンラインオーダーとテークアウトに頼っていたが、10月には会員数は50万人を超えた。会員の90%はリピート客となり、35%は新規顧客、35%はコーヒー以外に食事を購入したという。同社のCEO、ニレン・ショーダリ―氏は「コロナ禍で大変な時期に、この会員制度は大成功だった。」とコメントしている。
コンビニエンスストアのサークルKも今年5月から月額$5.99でコーヒー、紅茶、スラッシー、ソーダを1日1回飲める会員制度「シップ&セーヴ」を開始した。実質的な無料コーヒーは大きな来店動機になるということで、この制度が注目されている。
一方で、原価がそれほど大きくないコーヒーをロスリーダーとして使う戦略がスターバックスなどコーヒーチェーンに打撃を与えるのではないか、と予測する識者もいる。シンクナム社のジャレッド・ルッソ氏は大都市圏内のスターバックスの近隣にあるパネラの店舗数を調べ、少なくともニューヨークやシアトルを含む20都市でスターバックスの400m以内にパネラがある[3]ことを指摘し、パネラが出店数を増やしていることから、今後コーヒーのサブスク戦略が業界にどのような影響を与えるのか、関心が寄せられている。
[3] Business of Business, ‘Here’s why Panera’s new coffee subscription plan could hurt Starbucks’, 2020年3月6日
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】