掲載日:2021/04/26

~一転2021年は新規出店ブームに~:USリテール最新レポート - ニューノーマル時代で変わる小売業Vol.8

1. 2021年は新規出店ブームに

 「小売業界の黙示録」と呼ばれるほど小売店舗の大量閉鎖が続いていた米国で、今年に入ってから新規出店ニュースが目だっている。コアサイト・リサーチ社によると昨年は8,953店が閉店した一方で3,298店の新規開業があり、今年に入って3月時点で閉店2,548店に対し新規出店が3,199店と、出店数が上回り始めた。

 

大量出店に投資するディスカウント系業態

 図表1は主要なチェーンストアの今年度の出店計画だが、出店数が多いのはダラーストア、ディスカウンター、オフプライスストアなどの価格志向の業態だ。コロナ禍によってまだ失業率も高く、消費者の価格志向がしばらく続くと見られている上、商業不動産の賃貸料が下落しているため、余力のある企業にとっては出店加速のチャンスとなっている。ダラーストア業界最大手のダラージェネラル社は今年度1,050店新規出店するだけでなく1,750店を改装し、中長期的には現在の2倍にまで店舗網を拡げるチャンスがあると発表している。2位のダラーツリー社も600店新規出店、1,250店を改装する。

 

 ダラージェネラルは新フォーマット開発にも着手しており、昨年10月に「ポップシェルフ(Popshelf)」一号店を出店、今後拡大する計画だ。同フォーマットはダラージェネラルの顧客より所得が高い年収5万~12万5,000ドルの中所得世帯をターゲットに、シーズン商品、インテリア雑貨、ヘルス&ビューティ、パーティ用品など幅広い領域で楽しさと手ごろな価格を提供する。

 

ポップシェルフ完成予想図 出所:ダラージェネラル社 ポップシェルフ完成予想図 出所:ダラージェネラル社

 

 また、売上回復が遅れている百貨店やアパレル専門店を後目に、衣料品売上が主体のオフプライス業態も出店を加速している。オフプライス業態はどの企業もEコマース事業には出遅れており、その結果昨年度はコロナによる閉店の影響をもろに受け、主力企業の売上高前年比は20%以上のマイナスとなった。それでも国民のワクチン接種が拡がり、今年は売上回復・成長が見込めるとの読みから、新規出店に先行投資を行っている。最大手のTJマックスは今年100店舗以上出店し、長期的には総店舗数4,572店(2021年1月時点)から6,100店舗へ拡大のポテンシャルがあるとコメントしている。


スポーツ経験型店舗を拡大するディックス・スポーティング・グッズ

 スポーツ用品最大手のディックス・スポーティング・グッズ社は、今年4月に「ハウス・オヴ・スポーツ(House of Sport)」というスポーツ体験型新フォーマットをニューヨーク州ヴィクターに開業した。同フォーマットには1,580㎡の芝生グラウンドとランニングトラック、ロッククライミングウォール、最新テクノロジーを使ったバッティングケージ、ゴルフ・シミュレーターとパッティングコースなどがあり、予約して利用できる。価格は試打は無料、インストラクターがつくものは4ドル~75ドルだ。今年5月には2号店がテネシー州ノックスヴィルにオープンする。

 

 同社は他に最新のシミュレーターやPGAプロゴルファーを配備したゴルフ専門店ゴルフ・ギャラクシー9店、靴の滑り止め具合を体験したり、ゴール・ケージや最新の設備を備えたサッカー専門店ディックス・サッカー・ショップ34店舗を新規出店する。

(左)ロッククライミング・ウォール(右)ゴルフ・シミュレーター 出所:ディックス・スポーティング・グッズ社提供 (左)ロッククライミング・ウォール(右)ゴルフ・シミュレーター 出所:ディックス・スポーティング・グッズ社提供

 

 他にも、2回のチャプター11を通じていったんは2,100店舗全てを閉鎖した靴ディスカウントチェーンのペイレス・シューソースが再生し、昨年11月にテクノロジーを活用した新たな店舗デザインの「ペイレス(Payless)」をマイアミに出店し、今後5年以内に300~500店舗出店するという計画も発表されており、小売業界ではコロナをきっかけに不採算企業・店舗の縮小と新コンセプトや新フォーマットの店舗の拡大という自浄作用が始まっているようだ。

 

 

 

 

 

2. マクドナルドやサブウェイがウォルマートから撤退

 ファーストフードのマクドナルドはウォルマート店内にピーク時には1,000店近くが入店していた。2020年1月時点でも約500店舗に入っていたが、今年中に約150店舗を残し、残りの数百店舗から撤退することになった。ウォルマートにとってマクドナルドは長年、重要な集客源であり家賃収入でもあったが、コロナ禍によって同社顧客がEコマースシフトを始めたこと、来店しても長時間の滞在を避けるようになったことで、マクドナルド側の収益が悪化したのが原因だ。

 

 しかしウォールストリートジャーナル紙の取材によるとコロナ禍以前からウォルマート店内のマクドナルドは収益力が下がっていたという。理由は①マクドナルドの強みであるドライブスルーが無いこと、②同社は近年出店数を抑え、既存店の改装により1店舗当たりの生産性を高める戦略をとっていたがウォルマート店内の店舗は賃貸料にコストがかかっているため改装できず、古いイメージのまま取り残されていたこと、③ウォルマートがすぐに食べられるグラブ&ゴーのデリカ商品に力を入れた結果、レストランで食べる人が減っていること、などが総合的に影響している。現在、店内レストラン売上の3分の1はウォルマート従業員に依存していると言う。

 

 しかしテナント収入源はウォルマートにとっては痛手となるため、同社は現在新しいコンセプトでのテナント開発を行っている。1つは大手の寿司サプライヤー、ヒッショースシのように、ウォルマートでの買物とは関係なく独自に集客できるタイプのレストランで、昨年ウォルマート本社があるアーカンソー州内の7店舗にヒッショースシが出店した。

 

 もう1つは着席型ではなくテークアウトを主とするテナントで、ピザチェーン、ドミノ社は現在30店舗に入店している。温かいピザを提供できるドミノは店内の冷凍・冷蔵ピザとも競合していないとのことだ。同様にテークアウトを主体とする新コンセプトのレストラン、ゴースト・キッチンズ・ブランド(Ghost Kitchens Brands)社もサラダワークス(Saladworks)の試験的な入店を予定している。

 

 Eコマースシフトによって店舗の役割が変わりつつあるが、その影響が大型店には必須と考えられていたレストラン・テナントにも及んでいる点は、注目すべき動きである。

 

 

 

 

 

3. トレーダージョーズが自閉症患者向けサポート

 4月は世界自閉症の月だ。スーパーマーケットのトレーダージョーズは、業界で初めて自閉症の人々が店舗でスムーズに買物をするためのサポートサービスを、自閉症患者および介護人を支援する非営利団体、マグナスモードと共に提供開始した。

 

 マグナスモードは自閉症の人々が日常生活を営む際に遭遇する不安や混乱を緩和し、安心して必要な行動を取れるように状況を詳しく説明した「マグナスカード」という無料アプリを開発・提供している。例えば電車の乗り方、銀行ATMでのお金の引き出し方などで取るべき行動が画像付きで詳しく説明されている。トレーダージョーズのカードは「レジ会計の仕方」「商品の見方」「店内で聞こえてくる音の種類」「買物リストの作り方」「コロナ禍での買物の仕方」について状況説明と取るべき行動、会話の仕方などを説明している。

(左)レジでの対応方法解説(右)社員の見分け方 出所:アプリ、マグナスカード (左)レジでの対応方法解説(右)社員の見分け方 出所:アプリ、マグナスカード

 

 このカードは自閉症の弟を持つ創業者のナディア・ハミルトン氏が、子供の時から弟のために歯の磨き方や服の着替え方などの手順事に図解してあげていた経験から開発されたもので、アプリでは説明を音声で聞くこともできる。米国疾病管理予防センターによると全米の子供54人に1人は自閉症スペクトラム障害だとのこと。ハミルトン氏は「スーパーマーケットでの買物は自閉症の人にとっては困難な作業ですが、基礎食材を購入し、食べようと思っているものを自分で選べるというシンプルな喜びは誰にとっても重要なことです」と述べている。またトレーダージョーズ広報担当のケニヤ・フレンド・ダニエル氏も「前向きで包括的なショッピング経験を創り出すことは当社の優先事項です」とコメントしている。

 

 トレーダージョーズは、社員がハワイアンシャツを着用し、店内でフレンドリーな接客をすることで有名だが、ある自閉症専門サイトのブログ[1]は、同社のカリフォルニア州ブレントウッド店で自閉症顧客への対応エピソードを紹介している。同店顧客が同伴していた5歳の自閉症の男の子は、母親が購入しようとする商品を次々とショッピングカートから投げ出してしまうため、レジ会計が滞ってしまった。レジ・スタッフはレジ業務の手を止め、男の子にステッカーを渡して学校は楽しい?などと話しかけた。男の子の気持ちが収まってきたのを見計らい、男の子にスキャナーを渡し、母親が買おうとしている商品を彼にスキャンさせ、買物袋の中に入れる手伝いをさせてあげた。後日、その男の子は、将来大きくなったらトレーダージョーズのレジ係りの仕事をしたいと述べたそうだ。

 

 昨年5月の黒人差別問題が全米で暴動まで引き起こして以来、企業は黒人の登用・昇進を増やしたり、黒人が経営する会社からの買い付け枠を増やしたりしているが、差別を無くし誰にでも公平に機会を与えるという意識改革は、小さなことでもできることが沢山ある。店舗の現場でのほんのちょっとの親切心・思いやりの積み重ねだけでも、企業はコミュニティにとってかけがいの無い存在となり得るのではないだろうか。

 

[1] The Autism Site Blog, ‘Patient Trader Joe’s Cashier Allow Boy with Autism to Scan Items to Keep Him Occupied’, 2018年10月

 

 

 

 

 

4. ビーガン専門マーケットプレース、ヴェジーの成長戦略

出所:プロスパー・インサイツ&アナリティクス 出所:プロスパー・インサイツ&アナリティクス

 

 米国では若い世代がベジタリアンやビーガン[2]でなくても、日常的に野菜や植物由来代替肉を食べており、プロスパー・インサイツ&アナリティクス社の調べでは20代後半から30代のミレニアル世代は59.9%、40代以上のX世代や10代から20代前半のZ世代も約48%が植物由来代替肉を時々食べている。特にZ世代は上の世代より肉、乳製品、卵の消費量が少ない、というデータもある。この市場を狙い、カナダのブリティッシュコロンビアに拠点を持つビーガン専門マーケットプレースのヴェジー(Vejii)は昨年11月に米国で開業した。今年4月にはカナダでも販売を開始し、世界最大のビーガン・マーケットプレースを目指している。

 

[2] ベジタリアンとは動物性タンパク質を避ける食生活をする人だが卵や乳製品は食べるケースもある。ビーガンは動物性タンパク質は全て避け、例えば鶏のだしなども禁じている。

 

テクノロジーを活用して幅広い客層にビーガン商品を提供

 同社のビジネスモデルは、ビーガン食品ブランドがオンラインで販売するためのマーケットプレース・プラットフォーム事業だ。このため最新テクノロジーに投資を行っており、スマートリスト[3]、簡単な再購入、サブスクリプションなど、ユーザーに利便性と幅広い商品選択、信頼できる配送を提供している。

 

[3] ブランドやアイテムなどを特定するとその基準に沿った商品のみが画面ページに表示されること

 

出所:ヴェジーのウェブサイト 出所:ヴェジーのウェブサイト

 

 また、商品は全てビーガンであるものの、ターゲット顧客をビーガンやベジタリアンに限定していない。同社はビーガン製品を誰でも簡単に買えるようにすることで、人々がビーガン製品の購入を通じて自分達の健康や地球環境をより改善していけることを目標としている。そのため同社ではビーガン認証されているだけでなくエコフレンドリーなパッケージのみを使用するブランドを販売し、二酸化炭素排出量を管理したロジスティクスを構築している。

 

短期間での急成長戦略

 同社の経営戦略のもう1つの特徴はスピードだろう。ニッチ領域で短期間に急成長して市場をリードする戦略に徹している。その例として、創業2か月後の1月には、200の売れ筋商品を2日以内に配送する「ヴェジー・エクスプレス」サービスを立ち上げた。また4月には、ビーガン食品の中でも重要なアイテムである植物由来代替肉の限定商品をメーカーのビフォー・ザ・ブッチャー社と提携して開発、プライベートブランド「メインストリーム」のビーフ味パテを同社限定で発売した。図表3 の通り、ブッチャー社のオリジナルブランド、「アンカット」は高級志向で販路が限定されるが、メインストリームは同カテゴリーの競合商品より価格競争力がある。

 

 同社は4月の段階で既に3,000アイテム以上を販売しており、70以上のブランドを導入する計画だ。


ベンダーへのサポート体制

 同社は良いビーガン製品を作る中小企業の育成にも力を入れており、共に急成長を果たすことを目指している。図表4の通り出店フィーには企業の年商によって傾斜をつけ、100万ドル(1億900万円)未満の企業にはフィーを10%に抑えている。同社は営業データをベンダーに開示し、毎週データをアップデートすることでベンダーがより正確な営業分析・予測を行い、キャッシュフロー管理できるようにしている。ベンダー向けのダッシュボードはシンプルに設計されており、簡単に価格、ディスカウント、販売促進、同社が開発したAPIを利用してサブスクリプションを管理できる。

出所:ヴェジー社ウェブサイト 出所:ヴェジー社ウェブサイト

 

 また顧客動向、生産性や購入率を継続的に分析し、ウェブサイト上でフリクション(ユーザーが混乱や迷う状況)が起こっている部分を見つけ、恒常的にユーザーエクスペリエンスを向上している。AIを利用して商品推奨を行ったり、返品率も追跡し、顧客経験にも常時目を配っている。

ブログではさまざまなテーマでビーガンのライフスタイルの効果を解説  出所:ヴェジー社ウェブサイトのブログページ ブログではさまざまなテーマでビーガンのライフスタイルの効果を解説  出所:ヴェジー社ウェブサイトのブログページ

 

 今後についてはヨーロッパへの進出、さらにはB2B事業への参入を視野に入れている。ビーガン市場は成長しているとは言え、大手スーパーマーケットの片隅にあるベジタリアンコーナーで買うか、ブランド毎にオンラインで買う、または都心部であれば個人が経営するナチュラル専門店で買うしかなく、同社が狙う通り、短期間で便利で品揃えの豊富なマーケットプレースを構築できれば、アマゾンやスーパーマーケット・チェーンを相手に十分に戦える可能性は十分にある。



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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】



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