掲載日:2020/12/22

USリテール最新レポート - ニューノーマル時代で変わる小売業Vol.4 ~ニューノーマル時代に進化するホリディ商戦~


■ニューノーマル時代に進化するホリディ商戦


 コロナ禍、高い失業率、長引く旅行や飲食、娯楽産業への規制で消費が冷え込むのではないかとみられていたホリディ商戦だが、小売業者は衛生管理対策の強化に加え、例年より早い10月から販促を開始し、商品供給体制・配送体制を整備して、確実に売上を取る体制を築いている。

 

【小売販売額予測とEコマースの拡大】


出所:図表1,2ともにPwC社「ホリディ予測2020」サンプル数1,023


 全米小売業協会は今年のホリディ商戦(11月12月合算)の小売販売額は3.6~5.2%との予測を発表した。小売業者が早期からホリディ商戦への準備を整えていることに加え、コロナ禍により旅行や外食への支出が減る分、物販など他の領域で支出が伸びるのではないかとの期待も含む数字だ。PwC社の「ホリディ予測2020」では、前年同様か前年より多く支出する人は55%とみられており(図表1)、オンラインでの購入を予定している人は61%にも上る(図表2)。

 

 デロイト社はもう少し保守的に、11月12月小売販売総額は1兆1,500億ドル、1%~1.5%の成長だが、このうちEコマース小売販売額は1,960億ドル、成長率は25%~35%、売上構成比は17%に拡大すると予測している。アドベ・アナリティクス社の予測でも、11月12月のEコマース小売販売額は1,890億ドル、成長率は33%だ。

 

 コロナの影響でオンラインシフトが加速する中、小売業界では消費者や従業員の安全を確保しながらホリディ商戦を成功させるため、①オンラインストアへの誘導、②ホリディ商戦の期間を拡大し、ブラックフライデーなど集中型から分散型へと販促戦略を変更、③他にも密集と接触を避けるための工夫を凝らしている。


【10月から始まったホリディ商戦】

 

 ホリディ商戦は伝統的に11月第4木曜日にあたる感謝祭翌日のブラックフライデーがキックオフデーとされていた。しかし今年は店舗での人の密集を避けるために、店舗・Eコマース両方で10月半ばから様々な販促を開始した。これによってEコマース側でも、ロジスティクスへの負荷を減らし、倉庫で従業員が密集したり、配送遅延を防ぐ効果を狙っている。

 

出所:ウォルマート社ウェブサイト


 ホリディ商戦の開始をリードしたのはアマゾンのプライムデーで、日程を恒例の7月から10月13日、14日に移動させ過去最高の売上高70億ドル以上を達成したと見られている[1]。これに対抗して、ウォルマートは10月11日から15日まで「ビッグ・セーブ・イベント」を行い、通常ブラックフライデーで目玉商品としていたような高画質テレビや自動調理器などを大幅に値引きした。ターゲットは「ターゲット・ディール・デー」を、家電のベストバイは「ブラックフライデー」イベントをプライムデーと同日に開催するなど、大手小売業者はこぞって10月第2週からホリディ商戦を開始した。

 

 この結果、デロイト社のインサイトIQ分析によると、10月11日から17日までの1週間でオンライン購入額は前年より50%増加[2]した。従って、商戦の序盤は小売業者側の意図の通りに推移しているようだ。

 

[1] CNBCの推計による(2020年10月15日)。JPモルガン社の予測は75億ドル。

[2] https://www2.deloitte.com/us/en/pages/about-deloitte/articles/press-releases/amazon-prime-day-and-other-retailers-promotional-events-jumpstart-the-holiday-season.html


【感染拡大防止の新たな対策】

 

 店舗では5月の再開以降、店内の頻繁な清掃やショッピングカートの除菌、店内に除菌ハンドクリーナーの設置、マスク着用義務、入店者数制限を継続しているが、ホリディ期間中には多くの企業が以下のような新規の追加措置を行っている。

 

  • 営業時間の拡大:ウォルマートは午前7時から午後11時まで営業するなど。
  • 感謝祭の営業中止:メーシーズを始め、人混みを避けるために店舗営業を休み、オンラインに誘導する企業が多い。
  • 入店待ち時間情報の提供と予約:ターゲットはモバイルアプリで、地元の店舗の入店待ち列の長さをリアルタイムに告知(Target.com/line)。また、テキストメッセージで入店日時の予約も取っている。
  • ポップアップストア:コロナ禍でも来店客が多いルルレモンは、入店しているショッピングセンター内の別の場所にポップアップストアも出店し、顧客の拡散を試みる。また、ウォルマートは「ポップアップEコマースディストリビューションセンター」を42か所に出店し、店舗への商品供給を補完するだけでなく、個人のオンラインオーダーの出荷も行う。

 

 足元では感染第二波により、地域によっては再び飲食店などの営業規制が始まっているが、小売業界は消費者の宙に浮いた非物販支出を奪い取るため、攻めの体制でホリディ商戦を戦っている。

 

■DXで待ち時間が激減、マクドナルドの新フォーマット・ドライブスルー


 全世界に25,000拠点以上のドライブスルーを経営するマクドナルドは、コロナ禍で売上の70%がドライブスルーで発生している。ここをさらに強化するため、世界中にある店舗の一部で、高度なデジタルトランスフォメーションに支えられた新コンセプトのドライブスルーのテストを行っている。

 

【新フォーマットの新機能】


  • オーダーを受ける拠点のスクリーンは顧客を認証し、自動的にオーダーおよび決済を行う
  • 顧客が店舗に近づいてきたら、店舗従業員にそれを知らせ、早めに準備を行う
  • 顧客がすばやくオーダーを受け取れるよう、専用駐車スペースがある
  • アプリでオーダーし、待ち列に並ばずにオーダーを受け取れるエクスプレスレーン
  • ベルトコンベヤーでオーダーを運ぶ

 

 同時に、飲食スペースを持たず、ドライブスルー、テイクアウト、デリバリ―のみの小型店フォーマット「オン・ザ・ゴー」のテストも行っている。

 

【ドライブスルー専用の「マックDテックラボ」】

 

 シリコンバレーにある同ラボは、ドライブスルーで使用するテクノロジーを専門的に研究している。同社は昨年、ドライブスルーに用いる新技術獲得のために2社を買収した。1社は、会話をベースにより迅速、シンプル、正確にドライブスルーのオーダーを処理するテクノロジーのスタートアップ企業でシリコンバレーを拠点とするアプレンテ社(Apprente)、もう1社は、時間帯、天気、現在の混雑度、今よく売れているメニューなどの情報に基づいて、屋外メニューディスプレーの内容を変えていくテクノロジーを持つイスラエルのダイナミック・イールド社(Dynamic Yield)だ。

 

 ドライブスルーのデジタルトランスフォメーションは、バーガーキング、ティムホートン、ポパイを保有するレストラン・ブランズ・インターナショナル社(RBI)も取り組んでおり、同様の機能を持つ最新のデジタルスクリーン40,000台をバーガーキングとティムホートン10,000か所に設営している。

 

 このようなファーストフードのドライブスルー改革が拡がれば、コロナ禍が終息した後も、競合他社だけでなくスーパーマーケットの食品2時間配送との競争にも強みを発揮するかもしれない。


■P2P(個人間)レンタルマーケットプレースの「ワードローブ」

 

 ワードローブ社は2018年にニューヨーク市に創業したラグジュアリーブランドの衣料品、靴、バッグをピア・トゥ・ピア(個人間)でレンタルするオンラインマーケットプレースだ。「ファッション業界のエアビーアンドビー」とも呼ばれる通り、自宅で眠っている著名なファッションブランドの製品を同社のアプリ(現在はiOSのみ)に掲載し、これを借りたい人がアプリ上でオーダーすると、貸す側はワードローブ社から専用の袋を受け取り、ここに製品を詰めて指定のクリーニング店に送る。クリーニング後はここから直接、借りる側に出荷する。レンタル期間は4日間、10日間、20日間が基本で、例えば最も人気があるグッチのショルダーバッグ(小売価格:$2,290)なら4日間で$35.75、クロエのヴィスコースレーヨンのドレス(小売価格:$475)なら4日間で$20.50、という価格帯だ。この料金には出荷前と使用後のクリーニング代金が含まれている。

 

 使用後は専用の袋に入れて、返却用住所が印刷されたラベルを貼って送り返すか、地元の「ワードローブハブ」と呼ばれるクリーニング店に持っていく。往復または片道配送の場合は$9.99の送料がかかる。

 

 【事業構造】

 

 同社は創業1年後には150万ドルのプレシードの資金調達を獲得し、1年間のパイロット運営を終えて一般客に事業を開始した。投資家の中にはエアビーアンドビーの共同創業者、ネイト・ブレチャージクも含まれている。

 

出所:ワードローブ社ウェブサイト。最も人気があるバッグ


 ワードローブ社は衣料品レンタルのレント・ザ・ランウェイのように製品を自社在庫として持ち、自社のクリーニング設備を持つのではなく、システムを通じて個人間のレンタルの仲介をし、契約する50か所のクリーニング店と貸す人・借りる人間のロジスティクスネットワークを構築・管理するというビジネスモデルだ。貸す側はレンタル料金の70%~75%を収入として得、残りが同社の収益となる。

 

  WWD紙の取材 によると、同社はコロナ禍に見舞われた第2四半期でも売上は第1四半期に対して100%増加した。40州から受注実績があり、特に南部州に顧客が多い。貸す側は一人あたり平均1万ドル相当の在庫を同社マーケットプレースに掲載しており、製品の破損や紛失率は0.4%と低い。

 

[3] WWD、[Wardrobe, Peer-to-Peer Rental Marketplace, Acquires Rent My Wardrobe’、2020年11月16日

 

【レント・マイ・ワードローブ社の買収】

 

 同社は11月に、ダラスを拠点とするラグジュアリーブランドとヴィンテージファッションのP2Pレンタルマーケットプレースのレント・マイ・ワードローブ社を買収した。レント社は2016年に創業し、最近の企業評価額は400万ドルだが、ワードローブ社と異なり貸す人と借りる人が直接製品を送付し合うシステムで、コロナ感染拡大後は、他人同士が直接やり取りすることが困難となりビジネスモデルが足場を失った。今回の買収によって、レント社は全米への配送ネットワークとテクノロジーを持つワードローブ社に吸収される。

 

 今後の展望について、WWD社の取材に対しCEOのアダーシュ・アルフォンス氏は「ロサンゼルス、ダラス、ワシントンDCに潜在顧客がいるがネットワークが無いため、現在(進出のために)クリーニング店を探している」「私たちは数百万ドル相当の在庫を持っていますが、ありがたいことにそれに対して何も払わなくてよいのです」とコメントしている。

 

 ウォールストリートジャーナルによると、一般的なアメリカの消費者が自分のクローゼットの中にある服で頻繁に着用しているのは20%とのことだ。貸す側は高額ブランド商品を手放すことなく収入を得られ、借りる側はコロナ禍で外出が減っているものの、たまに人と会う時に格安にブランド品を着用できる、という点で双方ウィンウィンのビジネスモデルのようだ。

 

■クリスマス商戦で拡大を見せるPOSローン


 アメリカでは、POSローンと呼ばれる、Eコマースで購入する際にチェックアウト段階で利用できる短期小口ローンが急速に普及している。通常ショッピングで利用するローンと言えばクレジットカードが一般的だが、クレジットカードで買物をする場合はまず事前にクレジットカードを取得していなければならない。カードを発行してもらうには信用調査があり、回転信用枠を承認される必要がある。カードを取得し、ローンで支払う場合は年率20%以上の利子が発生する。

 

 しかしPOSローンは予め取得しておく必要が無い。Eコマースでの買物が終わってチェックアウトの時にクレジットカード、ペイパルなどの支払い方法の1つとしてPOSローンを選ぶと、瞬時に簡易信用調査が実行され、ローン支払いができる。

 

 POSローンでは「ペイ・イン4(Pay in 4)」と呼ばれる4回払いなど短期ローンが主流で、分割ローンを期限内に支払ってさえいれば手数料無料・無利子が基本だ。ただし支払いが遅れた場合は遅延料が発生する。また、企業によっては最長36回払いまで提供しており、この場合はカード同様利子が発生する。

 

【急成長するPOSローン】


出所:トランスユニオン、エクスペリアン、マッキンゼー消費者貸付ツール/マッキンゼー社「USPOSローン、次の成長のフロンティア」US2019年11月4日


 POSローンが市場に導入されて数年たつが、着実に成長している。図表3はマッキンゼー社の消費者ファイナンスに関する報告書からの分析[4]だが、全米のPOSローン残高は2018年に940億ドルと推計されており、2019年には1,100億ドル、無担保ローンの10%を占めると見られている。2015年から2018年までの間に残高は2倍、構成比は5%から8%へと拡大している。

 

 POSローンは当初、家の増改築ローンのような高額支出の分野で成長すると見られていたが、現在はアフターペイ(Afterpay)やクラルナ(Klarna)などの参入により、1回あたりの支払額が200~300ドルといった少額購入の短期ローン(4から6週間)に利用されている。マッキンゼー社の試算によると500ドル以下の少額POSローンは2019年に80~100億ドルと推計されており、40~50%以上の増加率で成長している。

 

 成長の理由は、前述の通りPOSローンが①無料・無利子(短期の場合)、②Eコマースのチェックアウトの際に支払い方法の選択肢の1つとして選ぶだけので、わざわざローン申請をする手間もなくその場で借りられ、利便性・迅速性が高い、③ごく簡単な信用調査だけで信用調査機関に支払状況の報告をしないので、クレジットスコアにも影響しない、④業者側も低廉なサービス料だけなので加盟しやすい、というメリットがあるからだ。

 

 さらに、POSローンは購入率や平均購入額を上げると言われ、インターネットで生まれ育ってきたミレニアル世代やティーンエイジャー中心のZ世代の消費行動にも適していると考えられている。

 

[4] https://www.mckinsey.com/industries/financial-services/our-insights/banking-matters/us-lending-at-point-of-sale-the-next-frontier-of-growth


【ペイパルの参入と今後について】

 

 8月31日にペイパルは今年ホリディシーズンからPOSローンに参入すると発表した。既存の後払いプログラムに追加して「ペイ・イン4(Pay in 4)」を立ち上げる。競合企業のサービスとの違いは、①ローン金額が30ドルから600ドルと限定されていること、②既にペイパルに加盟している企業はそのサービス料金にペイ・イン4が含まれるので、無料となる点だ。

 

 図表4は米国市場における主力POSローン企業のサービス他の比較だ。オーストラリアを基盤とするアフターペイはサービス料無料、無利子の4回払いを提供しており、アーバンアウトフィッターズ、リーバイス、フォーエバー21など15,000社以上が加盟している。

 

 サンフランシスコを基盤とするアファーム(Affirm)はサービス料無料で無利子の短期ローン以外にも最高36か月までのローンを有利子で提供、アディダス、コール・ハーンなど有名ブランド以外にキャスパー、ザ・リアルリアルなど人気のD2Cブランド、ホームフィットネス器具のぺロトン、ミラーなど現在注目されている新事業モデルのEコマースの加盟店が目立つ。

 

 スウェーデンを基盤とするクラルナもアファーム同様に短期・長期ローンを提供し、米国内ではまだ加盟企業数は1,100と少ないがセフォラ、H&M、アバクロンビー&フィッチ、フィニッシュライン等大手チェーンストアが参加している。

 


 ホリディ商戦が始まり、冒頭にレポートの通りEコマースへのシフトが進む中、POSローンを提供するオンラインストアが増えており、チェックアウトに行く前の商品ページの小売価格の下に、すでにPOSローンの分割払い価格を表示する小売業者もいる(下写真)。競合企業に比べて圧倒的なユーザー数と加盟企業数を誇るペイパルの参入で、POSローンがますますオンライン決済の主流となる可能性がある。

 

出所:キールズ社ウェブサイト。定価の下にアフターペイの4回払いなら$12.50と表示されている。



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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】



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