掲載日:2020/11/27

USリテール最新レポート - ニューノーマル時代で変わる小売業Vol.3 ~コロナ禍で進むサステナビリティと循環経済~


■サステナビリティと循環経済


 コロナ禍によって家にいる時間が増えたことで、アメリカの人々は日々の生活の足元を見直すきっかけを得たようだ。サステナビリティ活動はすでに拡がりを見せているが、コロナ感染拡大後の小売業界、ホスピタリティ業界の動きを見てみよう。

 

【クロ―ガ―の新たな「シンプルトゥルース・リサイクリングプログラム」】

 

 スーパーマーケット最大手のクロ―ガ―は全米で8人に1人が飢餓に苦しんでいる一方で、食品の40%が廃棄されている現状を救済するため、「ゼロ・ハンガー、ゼロ・ウェイスト(Zero Hunger, Zero Waste)」という飢餓と食品廃棄を2025年までにゼロ化する計画を実行中だ。

 

 この一環として、8月に国際的なリサイクリングのトップ企業、テラサイクル(TerraCycle)社と提携し、クロ―ガ―の自然食品プライベートブランド(PB)、「シンプルトゥルース」のプラスチックバッグ、プラスチックラップ、ボトルなど店舗で回収対象としていない包装材のリサイクル回収を開始すると発表した。回収は店舗ではなく、以下のようにオンラインで行われる。

 

 ①TerraCycle.com/SimpleTruthのサイトにログインする、②対象となるシンプルトゥルースの包装材をまとめて、郵送料前払いのテラサイクル社のパッケージに詰めて郵送する、③回収対象包装材1パウンド(約450グラム)当たりポイントを獲得、④ポイントは慈善団体に寄付、という内容だ。


シンプルトゥルースプログラムの流れ(出所:テラサイクル社ウェブサイトより)


 アメリカのフォーチュン25に選ばれたスーパーマーケットの中で、自社PBの包装材のリサイクルを行うのは、クロ―ガ―が最初だ。現在全米の家庭、学校、オフィス、地域の団体がこのプログラムに参加しているという。シンプルトゥルースは2019年度年商25億ドル規模のPBであり、個人がオンラインと郵送でダイレクトにリサイクル業者に送ることができる、というビジネスモデルは、環境保全効果が見えやすいという点で、消費者のリサイクルへの参加動機が高い。今後注目すべきビジネスモデルと言える。

 

【衣料品中古市場の急成長】

 

 中古品市場はコロナ以前から、オンライン中古衣料品販売のスレッドアップ社のようなテクノロジーを活用した新たなプラットフォームが登場した影響で急成長していたが、コロナ禍でさらに成長が加速している。グローバルデータ・リテール社によると、中古衣料品市場規模は現在280億ドル、5年以内に640億ドルへと成長が見込まれている。スレッドアップでは服を中古市場に出した人の数はコロナ以前より50%増加し、5月には新規のサイトビジター数は史上最高に達した。この期間、サイトの平均滞在時間も延べ220万時間で、ポスト・コロナの現在より31%高かった[1]という。

 

 コロンビア大学ビジネススクール小売研究のマーク・コーヘン教授は、「消費者はモノを一生保有するという考えは持っておらず、コロナが始まって(失業などによって元の)生活が壊れてしまい、クローゼットを見た時に『あそこに現金がある』と考えるだろう」と述べている。ただし、供給が増えても需要が増えなければ事業は立ち行かない。

 

[1] CNBC、’Coronavirus and luxury retail: Shopping for used Hermes, Cartier in Covid era’、2020年9月19日


ザ・リアルリアルは毎日5,000点以上の新作を追加

出所:ザ・リアルリアル社ウェブサイトより


 ラグジュアリーインスティチュート創業者のミルトン・ペドラザ氏は、今まで専門店や百貨店で定価で購入していた顧客が、ローレックスやカルチェ、シャネルなど高級ヨーロッパブランドの中古品をオンラインで販売するザ・リアルリアルのようなところでも買い始めているようだとコメントしている。

 

 既存の百貨店や専門店もこの動きに既に対応を始めている。メーシーズは昨年8月、スレッドアップと提携し、40店舗で中古品を

販売開始した。ノードストロームはニューヨーク旗艦店で自主企画で中古品を販売している。ギャップ、バナナリパブリック、アスリータ、リーボック、アバクロンビー&フィッチなどもスレッドアップと提携している。どの企業も目的は「中古品に興味を持つ消費者の声を聞く、特にリサイクルに興味のある若い世代の購買動向を知る」だが、前述のコーヘン教授はこの動きには批判的で、本格的に事業化するためでなく、趣味的にやっていること、とコメントしている。


アイリーンフィッシャーの自社製品リサイクル販売売場

出所:アイリーンフィッシャー・メーカーズスペース店


 実際に、中古品購入者が増えているといっても、新品を購入したい人が極端に減ることはないだろう。特にファッションの世界では毎シーズン出てくる新作、新デザインを購入するというのがその真髄だ。また、今後この領域にどんどんスタートアップ企業が参入するかどうかについても、疑問視する声がある。その根拠の1つがテクノロジー投資で、スレッドアップは1秒間に1アイテム以上の価格を決定するアルゴリズムを使用している。他にも古着の選定、管理などの投資は大きく、簡単にマネできないという要素もある。しかし、中古品市場の成長が続けば、例えば子供服とか、アスレジャーファッション、のように、よりセグメントした分野で新たなテクノロジーを活用したプラットフォームが開発される可能性も秘めている。一方、パタゴニアやアイリーンフィッシャーが既に着手しているように、自社ブランドの中古品を自社で回収、販売するシステムを確立し、ブランドロイヤリティ強化戦略にも活用する方向性も拡がる可能性がある。

 

 なお、10月21日、スレッドアップは密かにIPOに向けた登録草案であるフォームS-1を提出した。

 

【サステナブルなトラベル】

 

 コロナの影響で旅行業界は打撃を受けているが、その一方で、ソーシャルディスタンスを確保し、自然に親しめ、その上環境保全にも配慮したサステナブルなトラベルの開発が始まっている。

 

 バンコクをベースとするデザイナー、ビル・ベンスレー氏によると、建設業は空気汚染の23%、飲料水汚染の40%、ゴミの土地廃棄の50%の原因となっている。従ってホテルなどの施設建設にはエコフレンドリーな手法を選ぶことが重要だが、これによって建設コストの削減を行うこともできると言う[2] 。

 

 インダガレ社の創業者でCEOメリッサ・ビッグス・ブラッドリー氏は、「コロナの影響で人々の旅行への考え方が変わり、特に頻繁に旅行を楽しんできた人々は、ただ素敵な場所で寝るだけではなく、より環境の美を感じるもの、エシカルな配慮を求めるトレンドが本格的に出てきている。」と言う。

 

[2] アーキテクトダイジェスト、’How the Travel industry Can Bounce Back More Sustainably’、2020年9月23日


カペッラ・ウブッド  出所:ビル・ベンスレー


 ベンスレー氏が手掛けたバリ島のカペッラ・ウブッドのリゾートホテル開発では、当初クライアントは、森を完全に破壊して120部屋のノボテルを建設する意向だったが、代わりに水の流れを変えずに丘に24のテント式キャンプをあちこちに配置した。また島に高層ビルがそびえ立つ代わりに、外の世界からは全く見えない施設を建設した。「このようなコンセプトを私はローインパクト・ハイイールド(Low Impact High Yield)と呼んでいるが、これによって建設資材とコンクリート建物が排出する膨大な二酸化炭素排出を大幅に削減し、どこにでもあるスタンダードルームではなく、よりエクスクルーシブなテントを販売することができる。」と同氏はコメントしている。

 

 同施設は現在バリ島で最も占有率の高いホテルとなり、2020年トラベル+レジャー紙の読者へのアンケート調査で世界のベストホテルに選ばれた。ベンスレー氏はカンボジアのカルダモムナショナルフォーレスト内865エーカーに設営されたラグジュアリーテント、シンタ・マニ・ワイルドも手掛けたが、こちらも成功している。

 

 モルディブにある水上に浮かぶリゾート村、ソネヴァ・ジャヴィはカーボンニュートラルで、敷地内に生育する野菜やフルーツを提供し、地元の非営利団体と提携して使い捨てプラスティックの使用を排除している。サファリロッジのシンギタは、ケニアとタンザニアで料理学校を経営しており、ロッジに宿泊することで地元の人材育成にもつながる。また元違法狩猟者を採用して野生動物の保護を行ったり、最先端技術を活用してゾウを保護している。

 

 これらの旅行は価格も並外れて高く、一泊50万円以上する。しかし同様に贅沢な旅である大型クルーズは、大海原を楽しむでもなく、内向きな豪華エンターテイメントや食事に明け暮れ、二酸化炭素を排出し、さまざまな無駄を生む。旅のあり方が見直される時期が来ているようだ。



■子供たちがヴァーチャルにおもちゃを試せる「ウォルマート・ワンダーラボ」


 ウォルマートは2年前の11月に、双方向エンターテイメント企業エコ(Eko)と共に「ザ・ウォルマート・トイ・ラボ」を開設した。これはオンライン上で20種類のおもちゃを試すことができるビデオゲーム感覚のソフトウェアだ。


ウォルマート・ワンダーラボ  出所:ウォルマート社


 例えば人気キャラクター、ブルークルーズのが登場すると画面上には「どうやってふたを開けるんだろう?」という質問が表示され、「フリスビー」「ボール」のどちらかを選ぶ。フリスビーを選ぶとフリスビーが飛んできて箱を壊し、次の画面にうつる。そこでは「耳で目が隠れて見えないけどどうすればこっちを見てくれるかな?」という次の質問が出て「笛を鳴らす」というボタンをクリックすると耳が開いて目が見える。次の画面では「いないいないばあ」か「ダンス」を選ぶ、というように、ゲーム感覚でおもちゃの遊び方を具体的に知ることができる。また、サンタさんに伝えるために、欲しいおもちゃをデジタルウィッシュリストに入れることもできる。

 

 しかし当時このラボはウォルマートのクリスマス商戦の戦略の一部でしかなく、各店舗ではおもちゃのデモンストレーションやテストできるイベントを期間中延べ15,000件以上も行っていた。しかし、コロナ禍でヴァーチャルトライは重要な武器となり、同社は今年9月に「ウォルマート・ワンダーラボ」をエコ社と立ち上げた。トイ・ラボと基本的な機能は一緒だが、100以上のおもちゃを掲載し、おもちゃ箱をクリックすると、年齢別や種類別、人気別におもちゃを選ぶことができる。前のヴァージョンよりテック系の玩具など対象年齢も幅広いラインアップとなっている。

 

 加えて、例年行っていた、本社近くのセンターに数百人の子供たちを招いて、好きなおもちゃを選んでもらい「今年のホット・トイ36」として発表するイベントの代わりに、検査官として選ばれた子供たちに玩具を送り、自宅でテスト・選択をしてもらった。

 

 今の若い世代は生まれた時からデジタルメディアに囲まれて育ち、デジタルは不可欠なコミュニケーションのツールでもある。ワンダーラボは親子が一緒に商品を試したり楽しめるという意味でも、商品情報伝達力に奥行きがある。このプラットフォームは、おもちゃを超えて、他の商品領域への応用も出てくるのではないだろうか。

 

●ウォルマート・ワンダーラボ https://walmartwonderlab.com/?door=categorypicker



■エアポートに学んだストアレイアウト


 ウォルマートの事例が続くが、ニューノーマル時代に参考となるためご紹介したい。同社は9月に、今年度中に約200店舗を新フォーマットに改装すると発表した。このフォーマットは来年度中には1,000店舗に展開される。新デザインは、大勢の人々を正確にナビゲートする空港のデザインからインスピレーションを得たもので、ソーシャルディスタンスを保つために広々と通路を確保し、全体的に、スッキリとモダンなデザインだ。また、現在のリアルな消費行動と向き合い、スマートフォンを片手に同社のアプリを利用しながら買物するという前提にたった店舗デザインとなっている。

 

【特長】

  • ・店舗ファサードの看板にはウォルマートのロゴとアプリのアイコンが大きく表示され、オムニチャネルのコンセプトを示している。また、駐車場内のカーブサイドピックアップの場所には遠くからも見える大きなアーチが設営されている。
  • ・店内入り口にある店舗案内の看板では、アプリをダウンロードすることを推奨している。
  • ・野菜、肉、乳製品などの部門の看板は大きく、どこからも見えやすい。
  • ・通路には天井から大きなサインが吊ってあり、A1、B2のような番号でどんなアイテムを置いているかを表示。アプリで商品名を検索すると同様に番号が表示され、オンライン、リアルの両面から最短の時間で売場に行くことができる。
  • ・レジはセルフレジの台数が圧倒的に多く、非接触型だ。一部の店舗はアプリで商品をスキャンして、買物が終了したら出てくるQRコードをレジにかざすだけで決済が終了する「スキャン&ゴー」も導入している。

 

 ウォルマートの店舗はもともと広々として他社に比べてソーシャルディスタンスを保ちやすい。郊外生活者であれば、オンラインでオーダーで到着を待つより、自家用車でひと走り、の方が早いと感じる人も多いだろう。アプリ利用で利便性を高めた新フォーマットは、ウォルマート顧客の子供の世代、Z世代に照準を当て、彼らが逆に店舗からオンラインマーケットプレースに移行するための導入口としての役割を担っているようにも見える。


(左)駐車場のピックアップゲート (右)店内にはA1、B2などわかりやすく番号がついている  出所:ウォルマート社

(左)重要な精肉・鮮魚は遠くからで場所がわかるよう表示。白い壁には「アメリカ農家を支援します」とある。(右)店舗案内ではアプリの利用を勧め、セルフレジ。「スキャン&ゴー」で最後にQRコードで会計できる。



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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】



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