掲載日:2020/10/30

USリテール最新レポート - ニューノーマル時代で変わる小売業Vol.1 ~すすむ店舗削減、生き残りの新フォーマット~


この度、HP POSシステム Blogを始めます。国内外の小売・サービス業界の最新動向、事例紹介、HP製品のこだわりや技術関連情報等、HP社内、社外のスペシャリストから熱い情報をお伝え致します。第1回目は在米リテールストラテジスト 平山幸江氏による「USリテール最新レポート -  ニューノーマル時代で変わる小売業」をお届けします。


■店舗機能を変えるミクロフルフィルメントセンター


 ニューノーマル時代で最も切実に進化を迫られているのは、店舗事業だろう。コロナ感染拡大により、アメリカの小売業界では食品や日常生活必需品以外の商品を扱う領域では大手チェーンストアが次々とチャプター11申請し(図表1)、店舗削減が始まっている。全米では年内に13,200店舗以上が閉鎖する[1]と言われており、この数字はさらに増加する見込みだ。また、倒産に至らなくても、不採算店舗の大量閉鎖や、店舗事業の採算性がさらに厳しく問われている。

 

[1] Forbes, ‘More Than 13,800 Stores Are Closing In 2020 So Far – A Number That Will Surely Rise’, 2020年7月6日



 一方で来店による感染リスクを避けてEコマースショッピングが急増しており(図表2)、チェーンストアでは①オンラインストアの品揃えの充実、②店舗でオーダーをピックアップできるクリック&コレクトや駐車場でピックアップできるカーブサイドピックアップのサービスの拡大、を急いでいる。



 このようなニューノーマル時代の小売業界の救世主と見られているのが「ミクロフルフィルメントセンター付店舗」だ。ミクロフルフィルメントセンター(以後、ミクロFC)とは、フルフィルメント機能がついた小型倉庫で、今注目されているのはロボットがフルフィルメントを行い、作業時間の大幅短縮と人件費を削減する自動ミクロFCだ。

 

 ミクロFCは、今後Eコマースシフトによって増大するEコマース需要に対応するため、できるだけ最終消費者の近くに倉庫を持ち、オーダーを迅速に処理・出荷する、という目的で開発された。大型FCに比べて建設費が低く、工事期間が短いこともメリットとなる。そのミクロFCをチェーンストア網の店舗に併設すれば、チェーンストアは店舗資産と在庫をEコマースと分け合って活用し、Eコマース事業拡大だけでなく、全体の生産性を上げることができる。

 

 現在は、ミクロFC付店舗開発はラストマイルの配送時間短縮が勝敗を分けるオンライングローサリー事業領域で先行しており、創業5年弱のテクノロジー・ベンチャー企業がソフトとハードウェアを開発している。彼らは食品小売販売トップのウォルマート、2位のアルバートソンズ、3位のアホールドデレーズ、7位のショップライト(ウェイクファーン)、アマゾンなどと提携して実証テストを行っており、各社1,2店舗を運営して売上生産性や業務効率を検証している。

 

【テイクオフ・テクノロジーズ社】

 

 自動ミクロFC開発を実績面で一歩リードしており、アルバートソンズ、アホールドデレーズ、ショップライトを顧客に持つ。昨年4月時点で50件、1億5,000万ドルを受注し、8月時点で9施設が稼働している。コロナ感染拡大後は問い合わせは2倍に増加した。

 

 同ミクロFCで必要な作業人員数は約15人で、5分以内で60アイテムをピックアップ、梱包、出荷できる状態にする。


出所:テイクオフ・テクノロジー社提供


【アラート・イノベーション社】

 

 同社は2016年からウォルマートと共同開発を開始し、今年1月にウォルマートのニューハンプシャー州セーラムおよびアーカンソー州の店舗にミクロFC(1,858平方メートル)を併設した。特長はピックアップロボット「アルファボット」で、これによってオペレーター一人が1時間に800アイテムもの商品を処理することができる。通常の作業員によるピックアップの約10倍のスピードだ。年内にはカリフォルニア州とオクラハマ州のEコマース売上が多い地区に各1店舗設営する。


出所:アラート・イノベーション社提供


 他にも図表3のように自動ミクロFCへの取り組みは拡大しており、テイクオフ・テクノロジーズの広報担当者は2021年までにミクロFCは数百か所に拡がるとコメントしている。



■店舗とEコマースを融合する新フォーマット「アマゾン・フレッシュ」


出所:アマゾン社提供


 昨年からアマゾンがスーパーマーケットの新フォーマットを複数開発中という噂があり、1つは今年2月にシアトル市に開業したアマゾン・ゴーのスーパーマーケット版「アマゾン・ゴー・グローサリー」、もう1つはロサンゼルス郊外のウッドランドヒルズで工事中の物件だった。後者はコロナ禍により3月以降、近隣のホールフーズマーケットのオンラインオーダー・フルフィルメントセンターとして営業していたが、8月27日に「アマゾン・フレッシュ」として地元の一部の人々に公開、9月から一般顧客に営業を開始する。

 

 アマゾン・フレッシュ(3,252平方メートル)はホールフーズともアマゾン・ゴーとも異なるスーパーだ。①店舗、②ミクロFC付Eコマース事業拠点、③現金も受け付ける伝統的なレジ、④スマートショッピングカート「アマゾン・ダッシュ」による最新レジレス、という多面的な機能を持ち、スーパーマーケットに求められるヒューマンタッチな要素、利便性、スピードを様々なテクノロジーを活用して同時に提供するフォーマットだ。

 

【品揃え:ホールフーズマーケットの要素も組み入れながら、バジェット志向も前面に】

 

 アマゾン・フレッシュは通常のスーパーが販売するナショナルブランド、ホールフーズやアマゾンのプライベートブランド、地元のローカルブランド、そしてオーガニックや自然食品を販売している。加えて、同店舗エクスクルーシブ・ブランドとして「フレッシュ」「カーシブ」の2ブランドを開発した。「フレッシュ」は生鮮食品やベーカリーを手ごろな価格で提供し、「カーシブ」はワインを格安で提供する。

 

 精肉、鮮魚、デリカテッセン部門では対面販売サービスも行い、セルフサービスの温・冷フードバーも設置されている。

 

【テクノロジー:スマートショッピングカート、自動ミクロFC】

 

 同店舗には現金、クレジットカードなどを受け付ける伝統的なレジもあるが、7月に発表した「アマゾン・ダッシュ・カート」も利用できる。これは紙袋2個分を積める小型のスクリーン付ショッピングカートで、コンピュータヴィジョン、アルゴリズム、センサーがカートに出し入れする商品を認証し、自動的に課金する。カートにはスクリーンと秤がついており、フルーツなどばら売り商品は商品コードをスクリーンに入力して秤に乗せて課金する。スクリーンにはアマゾン・アレクサに伝えたショッピングリストを表示させたり、クーポン一覧を表示させ、どれを使うか選ぶことができる。

 

 ダッシュカートはアマゾン・アプリでフレッシュQRコードを立ち上げで起動させ、買物が終了したらダッシュカート専用通路から退出すると、この時点で自動的に課金される。


(左)店内にアマゾン・エコー・ショーが設置され、ボイスで接客 (右)アマゾン・ダッシュ・カート  出所:アマゾン社提供


 店舗の奥には大きな顧客サービスカウンターがあり、オンライングローサリーオーダーだけでなく、アマゾン・マーケットプレースのオーダーも無料ピックアップ・無料返品ができる。ここにミクロFCが併設されていると見られており、サプライチェーン自動化技術の老舗、デマテック社と提携して開発したと報道されている[1]。

 

【今後の出店戦略】

 

 アマゾン・フレッシュ・ストア、バイスプレジデントのジェフ・ヘルブリング氏はプログレッシブ・グローサーの取材で、2号店がノース・ハリウッド地区に間もなく開店し、その後シカゴにも複数出店すると述べている。アマゾンは既に用地や物件を押さえているが、今回の物件が元トイザらス店舗であったように、今後、大量店舗閉店が続く環境の中で、低コストに物件を取得し、アマゾン・ゴーのような重装備なハイテク投資ではなく、ショッピングカートのスマート化でレジレス化を提供するという方向性を検証していくようだ。

 

 アマゾン・ゴーのような利便性とスピード・ショッピングを提供し、Eコマースオーダーは何でも無料ピックアップ・返品可能、その上、伝統的なスーパーマーケットの対面販売やレジがあり、格安商品もある。裏ではミクロFCも稼働させ、高機能・低コストの出店、まさにスーパーマーケットの新旧の要素を全てテストするフォーマットと言える。

 

◆アマゾン・フレッシュ店内の様子を伝える動画はこちらから: http://media.corporate-ir.net/media_files/IROL/17/176060/Amazon%20Fresh%20Store%20B-roll_Audio_2.mp4

 

[1] Progressive Grocer, ‘Amazon’s New Grocery Store to Include Robotic Ecommerce Fulfillment’, 2020年2月20日


■レストラン・デリバリーにモバイル決済スクエアが参入


 コロナ禍はレストラン業界に大きな打撃を与えている。全米レストラン協会は2020年の業界総売上高は8,990億ドルに達すると試算していたが、コロナによって3月から5月に1,220億ドルを損失、2020年中に2,400億ドルの損失を見込んでいる[1]。消費者は他人との接触を避けるために自宅にデリバリーをする傾向にあり、ウーバ―イーツやドアダッシュ、グラブハブなどオンデマンドデリバリープラットフォームによるレストランの宅配サービスへのニーズが高まっている。しかし、デリバリープラットフォームのコミッションは最大30%で、オーダー件数が多い大手チェーンレストランはもう少し低い料率となるが、多くの個人経営レストランは30%近くを支払わなければならない。一方で、デリバリープラットフォームは消費者側にもデリバリーフィーやサービスフィーを請求しているので、レストラン側が消費者にコミッションフィーまで転嫁する訳にもいかない。

 

 個人経営店の事業構造はマージンが非常に低く、本来オンラインデリバリーに払えるのは売上の10%と言われており[2]、来店客数増加が急には見込めない中、キャッシュフローを守るためにデリバリーを止めることはできないが、ギリギリの経営が続くことになる。

 

[1] National Restaurant Association, ‘National Restaurant Association Releases 2020 Sate of the Restaurant Industry’, 2020年2月27日

[2] Food & Wine, ‘Delivery Platforms Need to Give Restaurants a Break’, 2020年3月17日



 しかし、この状況に新たな動きが出てきた。モバイル決済システムのスクエア社は、6月24日、「スクエア・オンラインストア」を開業し、よりコストの低いオンデマンドサービスを提供すると発表した。同プラットフォームはオーダー金額に関わらず一律1ドル50セントのフィーと、オンデマンドデリバリーフィーをレストランに課金する。デリバリーフィーは消費者に転嫁することができるので、レストラン側の負担は非常に軽くなる。現在、デリバリーはポストメイツと提携しているが、今後他社とも取り組みを拡大する計画だ。

 

 レストラン復興は全米レベルでの経済復興でもある。政府からの支援が限られている中、レストラン業界の経費節約は切実な課題だ。このような新たなビジネスモデルの出現は、今後のオンデマンドデリバリーの事業構造にも影響する可能性もある。


■非接触が生む新たな接客サービス


 コンタクトレス(非接触)はニューノーマル世界の小売業やサービス業で必須項目となった。ここでも様々な新たな試みが始まっている。

 

【非接触型レストラン体験アプリ:テーブルタブ】

 

 レストラン利用者を増やすために、どのレストランでも衛生だけでなく、なるべく従業員とお客の接触を減らす動きが出ている。ボストンを拠点とするベンチャー企業、テーブルタブ社は、そのような非接触型ダイニングソリューションを提供している。

 

 同社のモバイルアプリを使うと、お客はレストラン従業員と接触することなく、スマートフォンでメニューを見、オーダーし、支払いできる。このため、レストランのスタッフは料理を運ぶ、片付ける、に集中することができる。複雑な使用料はなく、1回の支払いごとに1ドルのフィーが発生するだけだ。業務効率が向上するだけでなく、コロナ禍が収束して従来のようにレストランでゆっくり歓談できるようになれば、スタッフはさらに顧客のダイニング経験が充実したものになるようなサービスに集中できる。また、顧客情報やオーダー歴などをレストラン側が得ることができるので、今後の経営改善に役立てることができる。


出所:テーブル・タブ社提供


 テーブルタブはコロナ前から同システムをボストン地区で実証テストしており、現在はボストン、ワシントンDC、ニューヨーク、ミシガン州、ペンシルバニア州、ニュージャージー州、カリフォルニア州で実用化されている。

 

 同様のシステムは全米で急速に拡がっており、ホスピタリティ業界向けソフトウェア企業歴40年のアジャイリシス社はミシガン州を拠点とするケワダン・カジノの飲食サービス部門用に「IGオンデマンド」を開発し、ゲーム中のお客が非接触なセルフサービスで自分のスマートフォン、タブレット、ラップトップPCからオーダーし、購入できるシステムを提供している。

このようなレストラン店内でのコンタクトレス化・オーダーのセルフサービス化は大きなトレンドとして今後拡がっていきそうだ。

 

【AR活用ライブチャット接客サービス:「ロウズ・フォー・プロズ・ジョブサイト」】

 

 ホームインプルーブメント大手のロウズ社はストリーム(Streem)社と共同でAR活用ライブチャットサービス「プロズ・ジョブサイト」を開発し、6月からロウズ・プロ会員の建設業者に無料で提供している。このサイトでは、顧客の商業施設や住宅に出向かなくても、現場にいる顧客に問題がある箇所の写真を撮影し送ってもらうことで、状況を把握でき、その写真に絵や文字を書いて顧客に送り、レーザーポインターを使って、ライブチャットで説明することができる。また、製品番号なども写真撮影してもらえば、具体的な修理計画や見積もりを作成、ビデオや音声、写真を使ってフォローアップすることができる。



 ジョブサイトは同社が中小企業を支援するために行う2,500万ドルのプログラムの一環で、ビデオ、コンピュータヴィジョン、AR技術を使用している。また全ての作業はモバイル・ウェブ・ブラウザーを通じて行い、アプリをダウンロードする必要が無い。iPhone、iPad、Androidに対応している。

 

 これによって対面コンサルテーションを避け、感染リスクを減らすだけでなく、移動時間を無くすことで業務の効率アップを図ることもできる。同サービスは10月31日まで無料、その後は有料となる。

 

◆プロズ・ジョブサイト解説動画はこちらから:https://youtu.be/zwzEHhWD2-U



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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】



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