医療機関にもAI活用の波。病院の競争力を向上させるイベント「医療ビジネス情報交換会 Part11」が開催
2026-08-25
2026年7月17日、「AI活用の可否が病院の競争力を分ける時代へ ~令和8年度診療報酬改定のインパクト~」というテーマのもと、恒例となった「医療ビジネス情報交換会 Part11」が開催された。今回は場所を大阪の中心地にあるグランフロント大阪へ移しての開催となり、いつも以上の来場者で会場は満員御礼となった。どのような発表があったのか、その内容をダイジェストでお伝えしよう。
取材:中山 一弘
主催者挨拶
エンタープライズ営業統括 ソリューション営業本部 ワークステーション・ビジネス開発部 担当部長 新井 信勝 氏
最初に登壇したのはHPの新井氏。同氏は「恒例となった医療情報交換会も11回を迎えました。今回は関西地方初開催となりましたが、これまでも関西の医療関係者のみなさまともこのような会を共有したいと思い、ようやく実現することができました」と冒頭のあいさつを送る。当日おこなわれる発表内容を紹介しつつ、今後も医療業界でもAIの波はどんどん進んでいくことを示唆、「最新のAI情報をお届けしたいと思いますので、ぜひ皆さまも内容をお持ち帰りになって業務に活かしていただければと思います」と語り、次のセッションへと席を譲った。
グローバル医療DXの最新情報 NVIDIA GTC報告
小野 誠 氏
次に壇上へ招かれたのはNVIDIAの小野氏だ。「NVIDIAは、GPUだけでなくソフトウェアを中核とするAI企業として、医療分野では『創薬(デジタルバイオロジー)』『医療現場の生産性向上(デジタルヘルス)』『医療機器(デジタルデバイス)』の3領域に注力しています。現在は生成AIからエージェントAI、さらにロボットが実社会で動くフィジカルAIへの進化を見据え、人手不足が深刻化する医療現場の課題解決を目指しています」と医療業界へ向けて積極的な姿勢を見せた小野氏。
AIの進化は単機能AIから生成AI、エージェントAI、フィジカルAIへと発展しているという小野氏。実際に医療現場では生成AIやエージェントAIを活用し、生産性向上や労働力不足の解消を目指しているという現状がある。「例えばアンビエント医療メモの作成、デジタルヒューマンによる患者ケア、受付のアシスタントなどでエージェントAIの活用が始まっています。一方で電子カルテを中心としたサブシステムが存在するため、データ連携の難しさもあります」と小野氏は説明する。NVIDIAはそうした現状の課題を解決するため、GPUに最適化したモデルや様々なエージェントを提供している。
そのほか、半完成形で提供されるアプリケーション「ブループリント」の提供や、コストを抑えて開発を進めることが可能なAI基盤「OpenClaw」を安全に運用する「NVIDIA NemoClaw」のメリット解説、NVIDIA NeMo Agent Toolkitによるアプリケーション開発事例などを紹介した小野氏は、映像技術とAIを組み合わせて医療現場へ応用した事例やローカルLLMのデモなどを披露した。
「私たちはよくAIが病院の未来を変えるのか?といった質問をいただくのですが、AIが病院を変えることはありません。AIを活用することで医療従事者のみなさまが便利さを感じていただきながら新しい未来の病院を作っていくのだと感じています。私たちはそのお手伝いをしていきたいと考えています」と小野氏は最後に語り、壇上を後にした。
カルテ端末向けAI運用支援ソリューション「WXP」のご紹介
髙田 歩 氏
HPの高田氏からはHPのDEXツール(デジタル従業員エクスペリエンス)「HP Workforce Experience Platform (WXP)」の説明がなされた。
冒頭、日本の社会人の3/4が最新ツールを活かしきれておらず、なおかつ全体の8%しか主体的に仕事をしていないというショッキングなデータを提示。「これによる生産性の低下分だけで十数兆円の損害があるという調査もあります。これを解決するには、やはりデジタル化を進めていかなければならないということで、私たちがご提案するのがWXPです」と語る高田氏。
WXPはCPUやメモリ、ストレージ、ネットワーク、バッテリーなどの稼働状況を可視化し、AIが異常や性能低下を検知して改善策を提示する。「利用者から問い合わせを受ける前に問題を把握できるため、IT部門の負担軽減と業務停止時間の削減につながります」と高田氏。
また、AIがPCの利用状況を分析し、更新が必要な端末だけを選別することで、全台一斉更新を避けられるほか、利用実態に応じて不要なソフトウェアライセンスを削減できるなど、ITコストの最適化にも貢献する。
さらに、セキュリティやコンプライアンスの状況をダッシュボードで一元管理できるほか、リモート接続機能により離れた拠点の端末も遠隔から保守・復旧できる。HP製品だけでなく他社製PCにも対応するマルチベンダー対応で、医療機関を含む幅広い環境へ導入可能だ。「WXPは、AIによってIT運用を効率化し、従業員のデジタル体験(DEX)の向上と生産性向上、運用コスト削減を同時に実現するプラットフォームです。実際にインストールして触っていただくほうがご理解も早いと思いますので、試してみたいという方はぜひお問い合わせください」と語り、高田氏はセッションを終了した。
HP Sure Click Enterprise導入事例
浦山 高明 氏
HPの浦山氏からはHPのセキュリティソリューション「HP Sure Click Enterprise」の導入事例が紹介された。
「HPはPCベンダーとして広く知られていますが、実は20年以上に渡ってセキュリティソリューションの研究を続けているセキュリティベンダーでもあります」と語る浦山氏。現在では、統合セキュリティソリューションの「HP Wolf Security」が法人向けPCにバンドルされるなど、その存在を身近に知っているユーザーも多いはずだ。
「病院などの組織向けには『HP Sure Click Enterprise』というソリューションを提供しています。近年、病院や自治体を狙ったランサムウェア被害が相次ぐ中、本製品はメール添付ファイルやダウンロードファイル、Webサイトを仮想環境(マイクロVM)内で実行することで、万一マルウェアが含まれていてもPC本体へ影響を及ぼさない仕組みを採用しています」と解説する浦山氏。
添付ファイルなどに悪意が含まれていてもアプリケーションを閉じれば仮想環境ごと破棄されるため、脅威を持ち越さない点が特長で、利用者は通常のPCと同じ感覚で操作でき、特別なセキュリティ知識も不要だ。
同製品はWordやExcel、PowerPoint、PDF、ブラウザーなど幅広いアプリケーションに対応し、Chromiumベースの軽快な操作性も備える。米国防総省(ペンタゴン)をはじめ、多数の自治体や企業で導入実績があり、国内でも約1,500ライセンス規模の病院へ導入されている。
「そのほか、HPは高性能ヘッドセット「Poly」を活用し、訪問診療の音声記録・AI文字起こしをされているお客様もいらっしゃいます。精度が非常に高くなるため採用いただいていますが、文字化したものをデータベース化したり、電子カルテと連携させたりするなど、医療DXの促進にもつながると考えます。ぜひ、HPのセキュリティソリューションと合わせて、ご活用ください」と浦山氏は最後に語り、壇上を後にした。
電子カルテに生成AIを載せると、現場はどう変わるか ― 地域包括ケア病棟の挑戦 ―
理事長・院長
田中 志子 氏
山本 大佑 氏
「生成AIを電子カルテに組み込むと、医療現場はどう変わるのか」というテーマに対し、オプティム 医療DX事業部ディレクターの山本 大佑 氏と、群馬県・内田病院 理事長・院長の田中 志子 氏は、製品ベンダーと実際のユーザーという立場から、生成AI活用の成果と課題について率直な意見を交わした。
セッションの冒頭、山本氏は「今日は製品紹介ではなく、実際に現場で使っている病院の生の声を聞いていただきたい」と語り、電子カルテ連携型生成AI「OPTiM AI ホスピタル」を紹介。同製品は診療記録や看護サマリー、診療情報提供書などを自動生成し、医療従事者の記録業務を効率化するソリューションだ。リリースから約1年半の間、オンプレミス環境からクラウドAIまで活用範囲を広げながら、現場のフィードバックを反映した改善を続けてきたという。「AIは導入して終わりではなく、ユーザーと一緒に育てていくもの」と山本氏は開発姿勢を説明した。
これに対し田中氏は、地域包括ケア病棟を中心に高齢患者を支える内田病院の現状を紹介した。診療記録やインフォームドコンセント、カンファレンスの記録作成に多くの時間が割かれ、「本当は患者さんと向き合いたいのに、パソコンに向かう時間が長くなってしまう」という現場の課題を抱えていたと振り返る。こうした状況を改善するため、2025年春にOPTiM AI ホスピタルを導入したという。
もっとも、導入は決して順調なスタートではなかった。田中氏は「AI導入は魔法ではない」と率直に語り、話者分離の精度不足や専門用語の誤認識、不自然な要約など、実運用で直面した課題を次々と紹介した。
「患者は足にバターを塗っている」といった、実際にはあり得ない内容が生成されたエピソードには会場から笑いも起こったが、山本氏は「モデルの性能や文脈理解が十分ではなかった時期の事例」と説明。現場から寄せられるフィードバックを基にモデルやプロンプトを改善し続けた結果、現在では精度は大幅に向上したという。
現在では、診察中の会話を音声認識し、SOAP形式の診療記録として自動整理する機能が実用レベルに達している。「長い会話の中から診療に必要な情報だけを適切にまとめてくれるため、自分自身のカルテの書き方を見直すきっかけにもなった」と田中氏は評価。一方で、診察中に待ち時間が発生しない処理速度や、医療専門用語、話者分離のさらなる精度向上には引き続き期待を寄せた。
セッションを通して両氏が繰り返し強調したのは、「AIは医療者の代わりになるものではない」という点だ。田中氏は「AIは人間の手の対極ではなく、医療者の手と心を守る存在」と表現し、記録業務をAIに任せることで患者と向き合う時間を取り戻せることこそが最大の価値だと語った。山本氏も「現場の声を受け止めながら製品を進化させ続けることが重要」と応じ、生成AIはベンダーだけで完成させるものではなく、医療現場との共創によって初めて実用性が高まるとの認識を共有し、セッションを締めくくった。
診療報酬改定が “AI導入の分岐点” になる~電子カルテ×AIで変わる病院の未来~
代表取締役
大西 大輔 氏
MICTコンサルティング代表取締役の大西大輔氏は、「2026年度診療報酬改定は、医療機関がAI導入を本格的に進める転換点になる」と語り、人口減少や働き方改革、国のデジタル化政策を背景に、電子カルテとAIの活用が今後の病院経営を左右すると指摘した。特に中小病院やクリニックでは、人材確保が年々難しくなる中、記録業務や事務作業をAIで効率化し、医療従事者が患者と向き合う時間を確保することが重要になると説明した。
講演では、医療DXの目的は単なる省力化ではなく、「人がやるべき仕事に時間を使える環境をつくること」だと強調。自身もコンサルティング業務でAIを活用し、議事録作成やヒアリング内容の整理などの作業時間を大幅に削減できた一方、顧客との対話や提案に充てる時間は増えたと紹介した。医療現場でも同様に、AIによって記録業務を減らすことで、医師や看護師が患者ケアに集中できるようになるとの考えを示した。
一方で、大西氏は「AIを患者にそのまま向ければよいわけではない」とも指摘。高齢患者が多い医療現場では、無人受付やスマートフォンによる問診などが必ずしも受け入れられるとは限らず、デジタル化は患者視点で進める必要があるという。その上で、AIを医療従事者の支援役として活用し、診察中の会話から問診内容やカルテを自動生成する仕組みや、オンライン診療を支援するAIエージェントなどは、今後実用化が進むと展望を語った。
また、大西氏は、診療報酬改定は単独の制度変更ではなく、オンライン資格確認や電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなど、国が進める医療DX政策の延長線上にあると解説した。今後は標準型電子カルテの普及によってシステム間の連携が進み、電子カルテメーカーごとの仕様差に左右されずAIサービスを組み込みやすい環境が整うという。大西氏は、診療報酬改定を契機として医療DXがさらに進展し、その基盤の上でAI活用が広がっていくとの考えを示した。「医療従事者の仕事はAIによって劇的に変わるので、ぜひ依存してください。それでこそ、今後の厳しい社会を乗り切ることができると思います」と大西氏は最後に語り、セッションを締めくくった。
閉会のあいさつ
閉会のあいさつに立ったHPの浦山氏。「7年前にある医療ベンダー様から、医療関係者が一堂に会して最新のデジタル情報を分け合うような会をやったらどうだ、というアドバイスからこのイベントが始まりました」と同氏はこれまでの経緯を語る。
HP自体は電子カルテなどの医療ソリューションを販売する企業ではないが、そのベースとなるパソコンやワークステーション、あるいはセキュリティや周辺機器などの領域で、医療業界とは深く結びついていると指摘。
「私は医療関係者のみなさまとご一緒にお仕事をさせていただくことを生きがいとしてきました。今後も静岡から沖縄まで、西日本でもこのイベントを開催したいと思いますので、引き続きHPをよろしくお願いします」と語り、医療情報交換会Part11の閉幕を宣言した。
取材後記
リアルイベントとしてすっかり定着した感のある医療情報交換会だが、場所を関西へ移した今回も大盛況のうちに幕を下ろすことになった。前回から注目されてきた生成AIについては、いまや必須という状況も会場の全員が共有するところとなった。これからますます顕著化する少子高齢化による悪影響を回避するためにも、医療DXの中心にAI活用が中心になることは間違いだろう。医療業界の今後の発展のために、DXの取り組みをぜひ進めていただきたい。
HPは、ビジネスに Windows 11 Pro をお勧めします。
Windows 11 は、AIを活用するための理想的なプラットフォームを提供し、作業の迅速化や創造性の向上をサポートします。ユーザーは、 Windows 11 のCopilotや様々な機能を活用することで、アプリケーションやドキュメントを横断してワークフローを効率化し、生産性を高めることができます。
組織において Windows 11 を導入することで、セキュリティが強化され、生産性とコラボレーションが向上し、より直感的でパーソナライズされた体験が可能になります。セキュリティインシデントの削減、ワークフローとコラボレーションの加速、セキュリティチームとITチームの生産性向上などが期待できる Windows 11 へのアップグレードは、長期的に経済的な選択です。旧 Windows OSをご利用の場合は、AIの力を活用しビジネスをさらに前進させるために、Windows 11 の導入をご検討ください。
※このコンテンツには日本HPの公式見解を示さないものが一部含まれます。また、日本HPのサポート範囲に含まれない内容や、日本HPが推奨する使い方ではないケースが含まれている可能性があります。また、コンテンツ中の固有名詞は、一般に各社の商標または登録商標ですが、必ずしも「™」や「®」といった商標表示が付記されていません。
HP Z4 Rack G5 Workstation
ラックへの搭載が可能で拡張性の高い強力な1Uデスクトップワークステーションを利用すれば、柔軟性の高い作業態勢を実現できます。
パワーユーザーはリモートアクセスにより、事実上どこからでも高いグラフィックス能力が必要なプロジェクトに取り組むことができ、IT部門はそのすべてを容易に管理できます。

















