DaVinci Resolveによる編集用マシンの観点からZ2 Tower G1i Workstationの実力を試す
2026-06-30
レビュアー:加藤宜久
CRAZYTV クリエイティブ 執行役員 映像技術担当
構成・文:NUMAKURA Arihito
放送技術2026年06月29日発売号より転載
私は現在、NHKや民放テレビ番組をはじめ、劇場用映画、配信コンテンツ等のポストプロダクション業務を行う、CRAZYTV クリエイティブにてカラーグレーディングやオンライン編集にも携わりながら、都内5拠点におよぶ当社スタジオの機材選定および保守管理を担当しています。昨年からは当社を挙げて、カラーグレーディングにてDaVinci Resolveを用いるだけに留まらず、そのままオンライン編集までワンストップで行うための検証やチャレンジを行う中で、すでに複数のテレビ番組や劇場用映画等のオンライン編集において実績を生み出しています。
そこで今回は、DaVinci Resolveによる番組編集という現場目線の観点から「HP Z2 Tower G1i Workstation(以下、HP Z2)」をレビューしました。比較対象としたのは、Mac Studio(M2 Max/メモリ64GB)と、オフライン編集マシンとして制作現場で一般的に使われているMacBook Pro(M4/メモリ24GB)の2台になります。
AI Magic Maskをほぼリアルタイムで処理
まずはDaVinci Resolveのなかでも特に高負荷の機能を使い、そのパフォーマンスを試しました。「AI Magic Mask」はカラーグレーディングやオンライン編集作業で活躍する非常に優秀なマスキング機能で、私も愛用しています。その一方では、処理負荷が重いことでも知られています。カラーページで任意の被写体をクリックするだけでAIが自動的に対象を認識して、マスクを生成してくれますが、トラッキング処理中は数fpsしか出ないことも珍しくありません。
ところが、HP Z2では29fps前後という、ほぼリアルタイムで処理してくれました。Mac Studioでは4fps、MacBook Proは2fpsにとどまり、その差は驚異的と言わざるを得ません。また当社で稼働しているNvidia RTX 6000 Adaマシンの場合、トラッキング速度は徐々に上がりピークで29fpsに到達します。その意味でも最初から29fpsで処理するHP Z2の優位性を確認することができました。今回の検証機はNVIDIA RTX PROシリーズよりもはるかに安価でありながらハイパワーなNVIDIA GeForce RTX 5080を搭載しています。マジックマスクの処理中はGPU使用率が80%ほどに達していたことから、その性能が十分に引き出されていることも確認できました。
次にDaVinci Neural Engine(DNE)によるノイズ除去を試しました。こちらも重い処理で知られていますが、HP Z2ではほぼリアルタイムで処理することができました。一方、Mac Studioではコマ落ちが生じていました。さらに、ピクチャー・イン・ピクチャーでは、3面合成までリアルタイム再生が可能でした。
書き出し速度も高速
編集後の書き出し速度を検証しました。5分尺で、フルHD/29.97i のタイムラインを書き出したところ、HP Z2は1分7秒で完了したのに対し、Mac Studioは3分10秒を要しました。両機ともに、同じタイムラインで社内の映像サーバへ10GbEで接続という同一条件での計測です。DaVinci Resolveの書き出しは主にGPUパワーに依存するため、ここでもGeForce RTX 5080を搭載するHP Z2の優位性が明確に表れました。
DaVinci Resolveは、もともとタイムライン尺より速く書き出せる仕様ですが、HP Z2ではそのメリットがさらに大きくなります。60分を超える番組など長尺になるほどこの恩恵がより多く得られるので、書き出し中に発生していた待ち時間そのものが、業務工程上ほぼ意識せずに済むレベルになる印象です。
余談ですが、DaVinci Resolveは書き出し中の映像を画面上でプレビューできる仕様になっている点が、われわれエディターやカラリストにはとても助かります。書き出した後に「ノイズが走っていた」「合成が崩れていた」「書き出し設定を誤り意図せぬ見え方になっていた」といったエラーに書き出しが完了してから気づくのではなく、書き出し中の段階で気づくことができます。何か異常があれば、その場で書き出しを中止して即座に修正可能です。HP Z2の高性能は、こうしたDaVinci Resolveの優位性をさらに高めてくれるはずです。
カスタマイズ性にも優れている
業務用マシンの選定では、購入後のメンテナンス性とカスタマイズ性も重要です。HP Z2は、GPUをはじめとする内部パーツの換装がしやすく、これは長年HP Zシリーズを運用してきた当社にとっても、明確なメリットだと感じました。
編集現場ではMac StudioなどのApple製品も多く使われていますが、Apple製品では購入時に決定したスペックを後から変更することが大幅に制限されており、ユーザーが内部を開けてメモリやGPUを差し替えるといった対応も、仕様上、許容されておりません。さらに、故障した場合はマシンをメーカーに預けての修理対応となるため、手元にマシンがない期間が発生します。業務での運用を考えると、「壊れたので今日は作業できません」という状況は受け入れ難く、できるだけ手早く復旧させることが大切です。
一方、HP Z2のようなWindowsマシンであれば、調子が悪くなった際に筐体を開けてメモリを抜き差しする、物理的に故障した部品を自分たちで交換するといった一次対応がその場で行えます。実際、当社でもメモリエラーや一部パーツの不具合に対し、現場での換装によって短時間で復旧できたケースが少なくありません。HP Z2は、ツールレス設計という従来からのZシリーズの設計思想を踏襲しているため、私にとって「どこを開ければ何ができるか」が直感的に把握できる構造でした。HP Zシリーズが備える優れたカスタマイズ性を改めて実感しました。
ポスプロの編集サブマシンやオフライン編集機として、実用的
一連の検証を通じて、HP Z2は長時間にわたって高い処理性能を維持してくれました。冷却性能の面でも不安を感じる場面はなく、業務マシンとして安心して運用できる印象です。とりわけ、HP製ワークステーションでありながらもGeForce RTX 5080を搭載できることが大きく、編集用途としては極めて高いコストパフォーマンスを発揮していると実感しました。
今回の評価機は192GBのメモリを搭載していた点も安定した動作にある程度寄与したのではないかと思います。なおDaVinci Resolveはメモリ容量よりもGPUパワーがパフォーマンスに影響するアプリケーションです。その意味では、メモリ価格が高騰する昨今、編集用途であれば搭載メモリを減らすことで、さらにコストパフォーマンスを高めた構成も十分に成立すると思います。その意味では、私たちのようなポスプロで運用するマシンとしてはもちろん、制作プロダクションの編集マシンとしても魅力的な選択肢だと思います。
HP Zシリーズは、故障時の修理対応や購入後のパーツ交換が比較的容易な点も魅力です。10GbEがオンボード搭載されているため、映像用サーバへの接続も追加カードなしで行えます。さらに、ワークステーション製品として標準では3年保証のものを、5年まで延長することができます。保証期間を過ぎた後も保守部品の在庫があれば有償サービスとしてパーツ交換などに対応してもらえる体制が整っていることは長期運用を前提とするポスプロ現場にとって心強いです。
一方、気になったのは拡張性です。GeForce RTX 5080がPCIeスロットを3つ占有してしまうため、追加カードを増設できる余地がありません。なお映像編集ではThunderbolt接続でI/O機器に接続し、業務用外部モニタ等に出力することが不可欠ですが、これについてはFlex IOに10G Base-Tの代わりにThunderboltポートを選ぶという選択肢で解決できます。さらにストレージ等を接続するためにインターフェイスを拡張したい場合は、Thunderboltドッグを用いれば解決できるかも知れません。今後の構成展開にも期待したいところです。
今回の検証では、HP Z2が放送業界の編集用マシンとして優れた選択肢であることを確認できました。他社製品にもそれぞれの強みがありますので、本稿が皆さまの用途に応じた機材選定の一助となれば幸いです。
今回レビューした検証機の主要スペック
| Z2 Tower G1i Workstation ※カスタム構成 |
|---|
| CPU | Intel Core Ultra 9 vPro |
| GPU | NVIDIA GeForce RTX 5080(16GB) |
| メモリ | 192GB (4x48GB) DDR5 5600 NECC |
| ストレージ | SSD 2TB PCIe4x4 FL Rmv ※M.2 NVMe SSD |
| IO | HP 10GBase-T Flex IO |
| 電源 | 1200W |
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