CEDEC2026でHPのリモート開発とAIワークステーションを体感
2026-08-25
2026年7月22日~24日、パシフィコ横浜ノースにてコンピュータエンターテインメント開発者を対象としたゲームに関する最新情報を展示・発表する「CEDEC2026」が開催された。HPもこのイベントに参加。開発者向けのソリューションやローカルLLM開発などに最適な新製品を展示したほかセミナーをおこなった。さっそく当日の模様を紹介しよう。
取材:中山 一弘
開発者の働き方改革とAI開発環境に最適なソリューションを展示
日本HP ワークステーション・ビジネス開発部の中島氏は、今回の展示について「大きく2つのソリューションを紹介している」と説明する。
ワークステーション・ビジネス開発部
中島 章 氏
1つは、高性能ワークステーションを遠隔から利用できるリモートアクセスソリューション「HP Z Remote Graphics Software(RGS)」だ。
ブースでは、NVIDIA GeForce RTX 5080を搭載したHP Z2 Tower G1i Workstation上でUnreal Engineを動作させ、その画面をMacBookへ転送して操作するデモを実施していた。一見するとMacBook上でUnreal Engineが動作しているように見えるが、実際の処理はワークステーション側で行われている。クライアント(今回はMacBook)側は、ワークステーション画面の圧縮されたイメージデータだけを受け取りマウス操作をやり取りして軽快な操作環境を実現している。
「ネットワーク環境が良ければもちろん快適ですが、Wi-Fiはもちろん、スマートフォンのテザリング環境でも十分に利用できます。6Mbps程度の帯域でも滑らかに動作するため、従来のリモートデスクトップとは大きく印象が異なります」と中島氏は説明する。
実際のデモでは、一般的なリモートデスクトップとの比較も行われていた。3Dグラフィックスを多用するゲーム開発では、わずかな遅延や画質低下が作業効率に直結する。RGSではGPUによる描画性能をそのまま遠隔利用できるため、高負荷な3Dコンテンツでも快適な操作性を維持できることをアピールしていた。
こうした環境が整えば、高性能GPUを搭載したワークステーションをオフィスに設置したまま、自宅や外出先から開発や制作を進めることも現実的になる。中島氏は「クリエイターやデザイナーの働き方改革にもつながる」と期待を寄せる。
RGSは以前HP Anywareの登場により終了してしまったソリューションだが、現在は有償ライセンスとして再スタートしている。無償版を望む声もあった一方、「企業ではサポート付きで安心して利用したいという要望も多かった」と中島氏。現在は新規購入時のバンドルだけでなく、機種の世代によっては既存のHPワークステーションへ追加導入することも可能だ。
もう1つの展示が、AI開発向けワークステーション「HP ZGX Nano AI Station」である。NVIDIA DGX SparkのOEMモデルに位置付けられる製品で、ブースでは画像から短い動画を生成するAIデモを披露していた。
中島氏によれば、AIはゲーム制作だけでなく、CADやCAEなどさまざまな開発ソフトウェアへ急速に組み込まれているという。「まずはZGX Nanoのような環境で生成AIを試し、本格導入が必要になれば複数GPUを搭載したワークステーションへステップアップする。そうした段階的な導入も増えていくでしょう」と今後の展望を語った。
AI活用が本格化する一方で、制作現場では高性能な開発環境を場所に縛られず利用したいというニーズも高まっている。今回HPが紹介したRGSとAIワークステーションは、それぞれリモート開発とローカルAIという異なるアプローチから、次世代のクリエイティブ環境を支えるソリューションとして存在感を示していた。
HPとボーンデジタルが検証した次世代ワークステーションの実力
続いてはHPとボーンデジタルのコラボによっておこなわれたセッションを紹介しよう。
近年、ゲームや映像制作の現場で急速に注目を集めている技術が「3D Gaussian Splatting(3DGS)」だ。被写体を多方向から撮影した複数の写真をもとに、3D空間を多数のガウス計算された点群で表現・再構築するこの技術は、フォトリアルな背景制作やデジタルアーカイブ、VRコンテンツなど幅広い分野への応用が期待されている。
一方で、3DGSの制作には膨大な演算処理が必要となる。CPU、GPU、メモリー、ストレージのいずれにも高い性能が求められ、制作効率は利用するPC環境によって大きく左右される。
セッションでは、実際の制作ワークフローを用いてHPワークステーションの性能を検証するとともに、高性能ワークステーションを遠隔から利用できるリモートアクセス技術の有効性について紹介した。
写真だけから高精細な3D空間を生成する3DGS
冒頭、日本HPの中島氏は「ハードウェアメーカーだけではクリエイターが実際にどのように使うのかを評価することは難しい」と説明。そこで今回は、CG・ゲーム制作分野で多くのクリエイターを支援するボーンデジタルと共同で検証を実施したという。検証テーマとなったのは、近年急速に普及し始めている3DGSだ。
ボーンデジタルの黒河氏は、3DGSについて「従来のポリゴンベースの3DCGとは異なる新しい表現技術」と説明する。大量の写真 と 写真から生成した ”疎な点群”を素材としてAIによるトレーニングを施すことで、光の反射や質感まで再現したリアルな3D空間を構築できる。
ソフト事業部 テクニカルサポート
黒河 健 氏
実際に紹介されたデモでは、オフィス内を撮影した空間が実写と見間違えるほど自然な品質で再現されていた。生成したデータはUnityなどのゲームエンジンに取り込み、コンテンツ制作に活用することも可能だという。
今回の検証では、一眼カメラで約2,100枚の写真を撮影し、RAW現像、写真位置推定、3DGS生成という一連の工程を実施した。
黒河氏によると、最も重要なのは撮影そのものだという。写真の撮り方が不十分だと、その後のAI処理をいくら高速化しても高品質な3D空間は生成できない。
撮影後はLightroom ClassicでRAWデータを現像し、RealityScanで写真位置を推定、その結果を基にPostShotで3DGSを生成する流れとなる。
検証では、HP Z2 Towerと一般的なPCを比較したところ、RAW現像では12分と16分で大きな差は見られなかった。一方、写真位置推定では約25分と約69分、さらに3DGS生成では約45分に対し約238分と、処理が重くなる工程ほど差が大きく広がる結果となった。特に 写真位置推定 と 3DGS生成 では、メモリに大量のデータが展開されるため、ここの影響が一番大きい。
黒河氏は、この数字以上に重要なのが「試行錯誤の回数」だと強調する。写真位置推定は一度で成功するとは限らず、パラメーターを調整しながら何度も計算を繰り返すことが少なくない。3DGSにこれからチャレンジしようとする人は尚のことだろう。そのため、1回あたりの処理時間が短縮されるほど、クリエイターはより多くの検証を行えるようになり、結果として制作効率や品質向上につながるという。
興味深かったのは、3DGSではGPU性能だけが重要というわけではない点だ。RAW現像や写真位置推定ではCPUのマルチコア性能が大きく影響し、生成工程ではGPUによるAI処理が本格的に動き始める。同時に、大容量メモリーも重要な役割を果たす。
比較機では32GBメモリーでは容量不足となり、ストレージへのアクセスが頻発。その結果、処理時間が大きく伸びる様子も紹介された。
黒河氏は「CPU、GPU、メモリー、ストレージのどれか一つだけではなく、システム全体のバランスが重要になる」と説明。用途に応じてメモリー容量やGPU構成を柔軟に選択できるワークステーションならではのメリットを挙げた。
セッション後半では、日本HPのリモートアクセスソリューション「HP Z Remote Graphics Software(RGS)」も紹介された。
RGSはワークステーション側に送信ソフト、利用端末側に受信ソフトを導入することで、高性能GPUを搭載したワークステーションを遠隔から操作できる仕組みだ。クライアントはWindows、Linux、macOSに対応しており、黒河氏自身もMacから検証を行ったという。
独自の高圧縮技術により画質を保ちながら通信量を抑えられるため、インターネット経由でも快適に3Dコンテンツを操作できたと報告した。
高価なワークステーションを一人一台配備するのではなく、オフィスに設置したマシンを共有し、手元には比較的軽量なPCを用意する――。こうした運用も現実的な選択肢になるとの見方を示した。
AIを活用したコンテンツ制作が広がる中、ワークステーションに求められる役割も変化しつつある。
今回の検証が示したのは、単純なベンチマーク性能ではない。CPU、GPU、メモリー、ストレージを含めたシステム全体の性能が、クリエイターの試行錯誤を支え、制作サイクルそのものを短縮するという事実だ。
さらに、高性能なワークステーションをリモートから活用できる環境が整えば、場所に縛られない制作スタイルも現実的な選択肢となる。3DGSのような新しいワークフローが普及するこれからのクリエイティブ環境では、「どれだけ速いPCか」だけでなく、「待たずに試せる環境」をどう構築するかが、制作現場の競争力を左右する重要な要素になりそうだ。
取材後記
あらゆる業界で進められているDXの波がゲーム開発業界にも届いていることが非常によくわかるイベントだった。特にゲーム開発者における働き方改革が進んでおり、それに付随する課題解決のためのソリューションが求められていた。HPはRGSをはじめ、高いモビリティを備えたハイパフォーマンスコンピューターとして、モバイルワークステーションのラインアップがあるのが強みだ。DXを加速させたいと考えているデジタルコンテンツ業界のみなさまはぜひ一度HPに相談していただきたい。
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