ランサムウェアの感染経路は?事例と対策、感染時の対応を解説
2026-07-08
近年、企業や組織を狙ったサイバー攻撃が急増するなか、ランサムウェアの被害が深刻化しています。ランサムウェアとは、コンピューターやサーバー内のデータを暗号化し、復旧と引き換えに身代金(Ransom)を要求する悪意のあるマルウェアです。
警察庁が発表した「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、2025年(令和7年)のランサムウェア被害報告件数は226件に達しています。
特に注目すべきは、VPN機器の脆弱性を狙った侵入が最多の感染経路となっている点です。
ランサムウェア攻撃を受けた企業は、データの暗号化による業務停止だけでなく、個人情報漏えい、復旧コストの増大、社会的信用の失墜など、甚大な被害を受けます。被害を未然に防ぐためには、主要な感染経路を正しく理解したうえで、適切な対策を講じなければなりません。
本記事では、2025年におけるランサムウェア感染経路ランキングをはじめ、最新の被害動向と実際の被害事例、企業が今すぐ実施すべき対策、万が一感染した場合の対応手順まで、実践的な情報を網羅的に解説します。企業のセキュリティ体制を見直し、ランサムウェアの脅威から組織を守るための参考にしてください。
1.【2025年最新版】ランサムウェア感染経路ランキング
警察庁の最新資料によると、2025年に確認されたランサムウェア感染経路のランキングとその割合は、以下のとおりです。
- VPN機器の脆弱性(約66%)
- リモートデスクトップ(RDP)(約21%)
- 不審メールやその添付ファイル(約2%)
- その他:複数経路の総称(約11%)
これらの感染経路は近年継続して上位を占めており、特にVPN機器からの侵入が最も多く確認されています。テレワークの普及にともない、VPNやRDPの利用が増加したことで、攻撃者にとって格好の標的となっています。
1-1. 第1位:VPN機器の脆弱性を狙った侵入
ランサムウェアの感染経路として最も多いのが、VPN(Virtual Private Network)機器の脆弱性を悪用した侵入で、全体の6割以上を占めています。
攻撃者は、以下のような脆弱性を狙って組織のネットワークへ侵入します。
- 未修正の脆弱性(パッチ未適用)
- 漏えいした認証情報や簡易なパスワード
- VPN機器の設定不備
攻撃者は侵入後、システムを支配するための上位権限を握り、監視・防御の仕組みを無力化しつつ、組織内部を密かに移動して狙うべき重要データやバックアップを見定めていきます。その後、データをクラウドストレージなどへアップロードして窃取し、ランサムウェアを起動してファイルを暗号化します。
復旧を妨害するために、バックアップも同時に暗号化されるケースが多く、最終的には身代金の支払いを要求する「脅迫状(ランサムノート)」をデスクトップなどに残していくのが一般的です。
1-2. 第2位:リモートデスクトップ(RDP)経由の侵入
リモートデスクトップ(RDP)経由の侵入は、テレワークの普及にともない急増している感染経路です。警察庁の報告では、2025年に起こったランサムウェア感染経路の約21%をリモートデスクトップが占めています。
攻撃者は、以下のような方法でRDPへの不正アクセスを試みます。
| 侵入手口 | 詳細 |
|---|---|
| ブルートフォース攻撃 | 「123456」や「password」など推測しやすいパスワードを総当たりで試行 |
| 認証情報の悪用 | ダークウェブで入手した流出済みID・パスワードを使用 |
| 設定不備の悪用 | 外部に公開されたままのRDPポートを標的化 |
特に、SIMカード内蔵ノートパソコンなど、グローバルIPアドレスが割り当てられた端末は攻撃者にとって格好の標的となります。
1-3. 第3位:電子メールの添付ファイル・URLリンク経由
電子メールを悪用したランサムウェア感染は、依然として主要な攻撃経路の一つです。攻撃者は取引先や公的機関を装った巧妙なメールを送付し、受信者に添付ファイルの開封やURLリンクのクリックを促します。
主な攻撃パターンは、以下のとおりです。
| 攻撃手法 | 具体例 |
|---|---|
| 添付ファイル型 | Word・Excel・PDF ファイルに見せかけたマルウェア |
| URLリンク型 | 偽のログイン画面や不正サイトへ誘導 |
メールの件名には「請求書」「重要なお知らせ」「配送通知」など、業務上開封せざるを得ない内容が記載されることが多く、従業員が不注意で開いてしまうケースが後を絶ちません。特に標的型攻撃では、実在する取引先の情報を事前に収集し、より信憑性の高いメールを作成するため、見分けることが困難になっています。
1-4. 第4位:その他
VPNやRDP、メール以外にも、ランサムウェアの感染経路は複数存在します。以下、主要な感染経路を3つ紹介します。
① 改ざん・悪意のあるWebサイト経由
正規Webサイトの改ざんや悪意のある広告の配信により、Webサイトを閲覧しただけで自動的にランサムウェアがダウンロードされる「ドライブバイダウンロード攻撃」が存在します。
この攻撃では、ユーザーが意図せずとも、閲覧しているWebサイト上で悪意のあるスクリプトがバックグラウンドで自動的に実行され、システム内部への不正な侵入が試みられます。
特に、古いブラウザやサポート終了したプラグインを使用している場合、脆弱性を突かれるリスクが高まるでしょう。
② 不正なソフトウェア・ファイルのダウンロード経由
ランサムウェアは、不正なソフトウェアやファイルのダウンロードを介して感染するケースも確認されています。
特に、以下のような行為は感染リスクが高いため注意が必要です。
- 海賊版ソフトウェアや非公式サイトからのプログラム入手
- P2P型ファイル共有サイトからのダウンロード
- 広告に紛れた偽のダウンロードボタンのクリック
これらの経路から入手したファイルには、マルウェアが仕込まれている可能性があります。ダウンロード後、一見正常に動作しているように見えても、バックグラウンドでランサムウェアが実行され、気づかないうちにファイルが暗号化されてしまうケースも少なくありません。
また、古いバージョンのOSやアプリケーションを使用している環境では、脆弱性を突かれやすく、感染リスクがさらに高まるため注意が必要です。
③ USBメモリーなど外部記録メディア経由
USBメモリーやSDカード、外付けハードディスクといった外部記録メディアを経由した感染も、ランサムウェアの代表的な侵入経路の一つです。この感染経路では、ランサムウェアに感染した外部記録メディアを企業のパソコンに接続することで、マルウェアが自動的に実行され、社内ネットワーク全体に感染が拡大するリスクがあります。
特に、以下のようなケースで感染リスクが高まります。
- 社外で使用したUSBメモリーを業務用パソコンに接続する
- 出所不明なUSBメモリーを安易に使用する
- 取引先から受け取った外部記録メディアをチェックせずに使用する
外部記録メディアは物理的に持ち運びが可能なため、ネットワーク経由の感染とは異なる経路で企業内部に侵入できる特性があり、セキュリティ対策の盲点となりやすい傾向があります。
2. ランサムウェア攻撃の最新動向
近年、ランサムウェア攻撃は件数・手口ともに多様化しています。警察庁によると、近年のランサムウェア犯罪は「RaaS(Ransomware as a Service:ラース)」と呼ばれるビジネスモデルが確立していることが関与しているようです。
RaaSとは、ランサムウェアの攻撃に必要なツールやインフラを、開発者ではない攻撃者でも利用できるように、サービスとして提供するビジネスモデルのことです。このモデルでは、ランサムウェア開発者は攻撃に必要な技術的な部分を提供し、サービス利用者は、標的の選定、侵入、感染活動、身代金交渉といった実行部分を担います。サービス利用者から得られた身代金の一部が、開発者へ報酬として支払われる仕組みです。
RaaSの普及により、高度なサイバー攻撃のスキルをもたない個人や組織でも、容易にランサムウェア攻撃を実行できるようになりました。これが、ランサムウェア攻撃の増加や手口の巧妙化に拍車をかけている一因と考えられています。
中小企業を狙った攻撃も増えており、最新動向を踏まえ、組織規模や業種を問わず、包括的な対策の実施が急務となっています。
2-1. 被害件数と手口別件数
警察庁の集計では、2025年のランサムウェア被害件数は226件と前年から4件増加しており、依然として高止まりが続いています。
手口別では、企業・団体が保有する機密データや個人情報を事前に窃取し、データを暗号化したうえで身代金を要求する「二重恐喝型」が大半を占めています。これは、支払いに応じない場合には盗んだデータを公開すると脅迫する悪質な手法です。
近年では、攻撃手法がさらに巧妙化しており、以下のような多重脅迫も確認されています。
- 三重脅迫:顧客や取引先への脅迫が加わる手口
- 四重脅迫:三重脅迫に加え、DDoS(ディードス)攻撃を仕掛け、企業のWebサイトやサービスを停止させる手口
※DDoS攻撃とは:複数の端末(ボットネット)から標的のサーバーやWebサイトに大量のアクセスやデータを送りつけ、サービスをダウンさせるサイバー攻撃
また、「ノーウェアランサム」と呼ばれる手口も一定数確認されています。これはデータを暗号化せずに窃取のみを行い、企業・団体などに対価を要求する手法です。
このように、ランサムウェア攻撃は手口を多様化させながら、高い水準で企業・団体を脅かし続けています。
2-2. 事業規模と業種別件数
ランサムウェアの被害は、企業規模や業種によって発生状況が異なります。
企業規模別の感染状況をみると、2025年における被害企業の約63%(143件/226件)が中小企業でした。過去5年間でみても、約57%(583件/1,021件)が中小企業となっており、大企業のみが標的になっているわけではありません。
また、2025年における業種別の感染状況では、製造業が約40%(91件/226件)と最も多く、次いで卸売・小売業が約15%(34件/226件)となっています。過去5年間においても同様の業種が被害に遭っています。
企業規模や業種によってリスクに差があることを認識し、自社の状況に応じた対策が必要です。
2-3. 復旧に要したコスト
ランサムウェア攻撃からの復旧に要するコストは、被害企業にとって極めて大きな経済的負担となっています。
2025年においては、復旧などに要した期間で最も多く回答があったのは「1週間~1ヶ月未満(約29%:31件/107件)」でしたが、なかには2ヶ月以上かかったとする企業もありました。過去5年間でみても、同様の傾向がみられます。
また、2025年に被害を受けた企業の調査・復旧費用の総額については「1,000万円以上5,000万円未満」と答えた企業が約36%(32件/89件)と最も多かった一方、1億円以上かかったとする企業も約6%(5件/89件)ありました。過去5年間においても、約4%(20件/527件)もの企業が1億円以上かかったようです。
ランサムウェア被害に遭うと、調査・復旧費用に加えて、業務停止期間中の売上損失や顧客からの信頼低下も生じます。その後の経営状況にも問題が生じるでしょう。
3. 最新のランサムウェア被害事例
ランサムウェア攻撃は、業種や企業規模を問わず発生しています。実際の被害事例を把握しておくと、自社における対策の重要性を再認識することが可能です。
警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」をもとに、最新のランサムウェア被害事例を紹介します。
3-1. 事例1:保険大手企業への被害
2025年2月、保険代理店関連事業などを運営する大手保険企業がランサムウェア攻撃の被害を受けました。同社のサーバーが攻撃を受けた結果、以下のような深刻な被害が発生しています。
- データサーバーの一部で保管していたファイルが暗号化
- 約510万件を超える個人情報が漏えいしたおそれ
この事例では、システム障害に加え、大量の個人情報漏えいという二次的な被害が発生しました。ランサムウェア攻撃では、データの暗号化だけでなく、攻撃者が事前に情報を窃取し、その情報を公開すると脅迫する「二重恐喝」が行われるケースが増加しています。
保険業界は大量の個人情報を取り扱うため、ランサムウェア攻撃の格好の標的となりやすく、一度被害に遭うと社会的信用の失墜や賠償責任など、企業経営に重大な影響を及ぼす可能性があります。
3-2. 事例2:国際総合物流企業への被害
2025年4月、国際総合物流企業がランサムウェア攻撃を受け、サーバーに障害が発生しました。この攻撃により、業務システムが影響を受け、同社が提供する物流事業の一部に支障が生じる事態となりました。
物流企業への攻撃は、取引先企業や顧客企業にも影響が波及するため、サプライチェーン全体に深刻な影響を及ぼす可能性があります。この事例は、重要インフラを担う企業がランサムウェアの標的となった場合、業務停止による経済的損失だけでなく、社会的影響も大きくなることを示しています。
3-3. 事例3:ランサムウェア攻撃グループによる被害
世界各国の企業等を標的としたランサムウェア攻撃グループによる被害が相次いでいます。代表的な例として、「Ragnar Locker」といった攻撃グループが挙げられます。
2020年11月、国内有数のゲームソフト企業が、このハッカー集団の手による大がかりなランサムウェア攻撃の標的となりました。この攻撃により、大量の顧客データや社内情報が漏えいするという深刻な被害が発生しています。
2023年10月には、国際共同捜査により「Ragnar Locker」の開発者が逮捕され、同グループが使用するサーバーなどの犯罪インフラがテイクダウン(機能停止)されました。
4. 企業が取り組んでおきたいランサムウェア対策一覧
ランサムウェアによる被害を回避するためには、攻撃が仕掛けられる侵入経路を事前に封鎖し、万が一侵入された場合でも、不審な動きを早期に発見して被害を最小限に食い止めることが肝要です。
企業が取り組んでおきたい主な対策を一覧表にしました。
| 主な対策 | 詳細 |
|---|---|
| OS・ソフトウェア・VPN機器の定期的な更新 | 脆弱性を突いた攻撃を防ぐため、最新パッチを速やかに適用する |
| セキュリティソフトの導入 | ランサムウェアの検知・ブロック機能をもつ製品を導入し、常に最新状態に保つ |
| 多要素認証の設定 | パスワードに加え、ワンタイムパスワードや生体認証を組み合わせて不正アクセスを防止する |
| データの定期的なバックアップ実施 | 「3-2-1-1-0」ルールに基づき、暗号化・消去リスクに備える |
| メールフィルタリング・Webフィルタリングの活用 | 不審なメールや危険なWebサイトへのアクセスを自動的にブロックする |
| USBメモリー・Bluetooth接続の制限 | 外部記録メディア経由の感染を防ぐため、使用を制限または監視する |
| 脆弱性診断の定期実施 | システムやネットワークの弱点を定期的にチェックし、攻撃される前に対処する |
| 従業員向けセキュリティ教育の徹底 | 不審なメールの見分け方など、攻撃手口を理解させ、人的リスクを低減する |
それぞれの対策について、具体的な実施方法とポイントを解説します。
4-1. OS・ソフトウェア・VPN機器の定期的な更新
VPN機器の脆弱性を悪用した侵入がランサムウェア感染経路の第1位であることから、VPN機器を含むOS・ソフトウェアを常に最新の状態に保つことが最優先の対策です。
脆弱性とは、ソフトウェアのバグや設計時のミスなどによって引き起こされる、セキュリティ上の弱点を指します。攻撃者はこの脆弱性を突いてシステムに侵入するため、ベンダーが提供するセキュリティパッチやアップデートを速やかに適用することが不可欠です。
特に以下の項目については、定期的な更新スケジュールを設定し、組織全体で管理することが重要です。
- OS(Windows、macOS、Linux など)
- 業務用ソフトウェア・アプリケーション
- VPN機器のファームウェア
- ネットワーク機器(ルーター、ファイアウォールなど)
更新作業を怠ると、既知の脆弱性が放置され、攻撃者にとって格好の標的となります。自動更新機能を有効にする、更新状況を一元管理するツールを導入するなど、確実に更新が行われる体制を整えましょう。
4-2. セキュリティソフトの導入
エンドポイント保護を強化するため、最新のセキュリティソフトを導入しましょう。従来型のウイルス対策ソフトに加え、EDR(Endpoint Detection and Response)などの高度な検知機能をもつソリューションが有効です。
EDRとは、コンピューターやサーバーなどのエンドポイント(端末)に潜む、検知が困難な脅威を可視化し、迅速な検知・分析・対処を可能にするセキュリティソリューションです。従来のウイルス対策ソフトが既知のマルウェアのパターンマッチングに基づいて脅威を検出するのに対し、EDRは以下のような特徴をもっています。
| 機能例 | 特徴 |
|---|---|
| 振る舞い検知 | マルウェアのシグネチャ(特徴)に依存せず、不審な挙動やプロセスをリアルタイムで監視・分析し、未知の脅威や高度な攻撃(APT攻撃など)を検知。既知のパターンに依存する従来のウイルス対策ソフトでは見逃しやすい、ゼロデイ攻撃(開発元が修正プログラムを公開・提供する前に行われるサイバー攻撃)などにも有効な手段 |
| 脅威ハンティング | 過去のログデータやアクティビティ情報を詳細に分析し、潜伏している可能性のある脅威を能動的に探索することで、表面化していないリスクを発見 |
| インシデント調査・対応 | 脅威が検知された場合、その原因、影響範囲、実行されたプロセスなどを迅速に特定し、隔離や駆除といった迅速な対応を支援することで、被害の拡大を最小限に抑える |
| 詳細な可視化 | エンドポイントで発生したイベントログを包括的に収集・分析し、攻撃の全体像を把握するための詳細な情報を提供することで、インシデント発生時の状況把握や原因究明を効率化 |
ランサムウェア攻撃は日々巧妙化しており、従来の対策だけでは見逃してしまう可能性があります。
EDRを導入すると、これらの高度な脅威に対しても、より効果的な防御と迅速なインシデント対応が可能になります。これにより、企業はランサムウェアによる事業停止リスクを低減し、データ漏えいによる損害や風評被害を最小限に抑えることが可能です。
また、セキュリティ運用の効率化にも貢献し、専門人材の不足に悩む企業でも、高度なセキュリティレベルを維持しやすくなります。
4-3. 多要素認証の設定
多要素認証(MFA)は、パスワード単体での認証に比べて不正アクセスを防ぎやすくなる重要な対策です。特に、VPN機器やリモートデスクトップなど、外部からアクセス可能なシステムでは必須といえます。
多要素認証の主な方式は、以下のとおりです。
| 認証方式 | 具体例 |
|---|---|
| SMS認証 | 携帯電話に送信される確認コード |
| 認証アプリ | Google Authenticator や Microsoft Authenticator |
| 生体認証 | 指紋認証・顔認証 |
| ハードウェアトークン | 物理的なセキュリティキー |
仮にパスワードが漏えいしても、第二の認証要素を設定しておけば、攻撃者は侵入が難しくなります。導入時は、まず管理者アカウントやリモートアクセス環境から優先的に設定し、段階的に全社展開すると、従業員の負担を抑えながら確実にセキュリティを強化できます。
4-4. データの定期的なバックアップ実施
ランサムウェアに感染してデータが暗号化されても、適切なバックアップがあれば業務を速やかに復旧できます。バックアップ運用では、以下の「3-2-1-1-0ルール」を押さえることが重要です。
- 3つのバックアップコピーを作成
- 2種類の異なるメディアに保存
- 1つはオフサイト(別の場所)に保管
- 1つはオフライン(ネットワークから隔離)または不変(イミュータブル)コピーで保管
- 0エラーで復元できることを定期的に検証
近年は、攻撃者がバックアップデータそのものを暗号化・消去する事例も増えています。以下は、ランサムウェアの被害を受けた後、企業がバックアップから復元できなかった理由です。
バックアップの暗号化や消去に備え、イミュータブルバックアップ(改ざん不可能な設定)の活用や、ネットワークから完全に切り離した保存が不可欠です。
また、システム全体のイメージバックアップを定期的に取得し、数ヶ月から1年以上分を長期保存すると、感染発覚が遅れた場合でもクリーンなデータから復旧できます。
4-5. メールフィルタリング・Webフィルタリングの活用
ランサムウェアの主要な感染経路である電子メールと悪意のあるWebサイトへのアクセスを遮断するため、フィルタリング機能の導入が有効です。
| メールフィルタリング | Webフィルタリング |
|---|---|
|
|
これらのフィルタリングを多層的に組み合わせると、従業員が意図せず危険なコンテンツに接触するリスクを大幅に低減できます。定期的なフィルタリングルールの見直しと更新も忘れずに実施しましょう。
4-6. USBメモリー・Bluetooth接続の制限
USBメモリーやSDカードなどの外部記録メディアは、ランサムウェアの感染経路として利用されるリスクがあります。特に、パソコンに接続すると自動的に内容を表示する「オートラン」機能が有効になっている場合、記録メディアを接続しただけでマルウェアに感染する可能性があるため注意が必要です。
企業では、以下のような制限措置を講じることが推奨されます。
- 組織で管理していない私物の記録メディアの使用禁止
- オートラン機能の無効化
- 使用可能なUSBメモリーの登録制による管理
- Bluetooth接続可能なデバイスの制限
また、攻撃者が組織内部の人間や取引先の担当者を通じて、物理的に記録メディアを持ち込むケースも報告されています。従業員に対して記録メディアを介した感染リスクを周知し、組織のルールを徹底することが重要です。
4-7. 脆弱性診断の定期実施
自社のシステムやネットワークに潜むセキュリティ上の弱点を発見するため、定期的な脆弱性診断の実施が重要です。
脆弱性診断では、以下のような項目を専門的にチェックします。
- OS・ミドルウェア・アプリケーションの既知の脆弱性
- ネットワーク機器やVPN機器の設定不備
- Webアプリケーションのセキュリティホール
- 不要なポートの開放状況
診断は年に1回以上の定期実施に加え、システム更改時や新規サービス導入時の実施が推奨されます。診断結果で発見された脆弱性は優先度を付けて対応し、攻撃者に悪用される前に修正することが大切です。
社内リソースで対応が難しい場合は、外部のセキュリティ専門業者に診断を依頼すると、より客観的かつ専門的な評価を受けられます。
4-8. 従業員向けセキュリティ教育の徹底
技術的対策を講じても、従業員のセキュリティ意識が低ければ、ランサムウェアの侵入を防ぎきれません。フィッシングメールへの誤クリックや、不審なWebサイトへのアクセスといった「人的要因」による感染リスクを低減するには、定期的なセキュリティ教育が不可欠です。
以下のような教育プログラムを実施しましょう。
- 不審メールの見分け方
- 模擬訓練の実施
- 最新事例の共有
- 報告体制の整備
教育は一度きりではなく、継続的な実施により組織全体のセキュリティリテラシーを底上げすることが可能です。
ランサムウェアの具体的な防御策については、以下の記事でさらに掘り下げて紹介していますので、ぜひあわせてお読みください。
5. ランサムウェア感染時の対応手順
ランサムウェアに感染した疑いがある場合、迅速かつ適切な初動対応が被害の拡大を防ぐ鍵となります。以下の手順に従って、組織的な対応を進めましょう。
5-1. 感染端末のネットワーク隔離
ランサムウェア感染が疑われる端末を発見したら、最優先で実施すべきはネットワークからの切り離しです。被害の拡大を防ぐため、以下の手順で速やかに対応してください。
- 有線LANケーブルを物理的に抜く
- Wi-Fi接続を無効化する
- Bluetooth機能をオフにする
ここで重要なのは、電源を切らないことです。電源をオフにすると、攻撃者の侵入経路やログといった重要な証拠が消失してしまい、後の調査・復旧作業に支障をきたします。端末は起動したまま、ネットワーク接続のみを遮断する形で隔離を実施してください。
感染端末が複数台存在する可能性も考慮し、同一ネットワーク内の他の端末についても監視を強化してください。ネットワーク隔離は被害拡大を食い止める最初の防波堤となるため、迅速かつ確実な実行が求められます。
5-2. ログとデータの保全
ランサムウェア感染が疑われた場合、迅速なログとデータの保全が重要です。感染端末をネットワークから隔離した後、直ちに以下の作業を実施しましょう。
| 作業手順 | 詳細 |
|---|---|
| 1. 調査に必要なログを確保 | ファイアウォールログ、VPN接続ログ、メールサーバーのログ、Webアクセスログなど、攻撃の痕跡が残されている可能性のあるすべてのログを収集。侵入経路の特定や被害範囲の把握に不可欠 |
| 2. 感染端末のメモリダンプやディスクイメージを取得し、証拠を保全 | 端末の電源を切らず、現状を維持したまま専門家による調査を待つのが理想的。やむを得ず電源を切る場合でも、その前にメモリ上の揮発性データを保存しておく |
また、暗号化されたファイルのサンプルや脅迫文のスクリーンショットも保存し、警察庁や専門機関への報告資料として活用できるよう準備することが大切です。
5-3. 組織内の対応態勢の確立
ランサムウェア感染が判明した直後は、組織全体で迅速かつ統制の取れた対応を行うことが被害の拡大を防ぐ鍵となります。
まず、インシデント対応チーム(CSIRT)を速やかに招集し、対応の中核となる体制を整えます。情報システム部門、法務部門、広報部門など、関係部署の担当者を集め、情報共有と意思決定を一元化することが大切です。
次に、役割分担と指揮系統の明確化が不可欠です。誰が何を担当し、誰に報告するのかを明確にすると、混乱を防ぎ、効率的な対応が可能になります。以下のような役割分担が一般的です。
| 役割 | 担当部門 | 主な業務 |
|---|---|---|
| 指揮統括 | 経営層・情報システム部門長 | 全体統括・意思決定 |
| 技術対応 | 情報システム部門 | 感染範囲の特定・復旧作業 |
| 法務対応 | 法務部門 | 法的リスクの評価・外部機関との調整 |
| 広報対応 | 広報部門 | 情報開示・ステークホルダー対応 |
また、事前に策定したBCP(事業継続計画)に基づき、業務の優先順位を判断し、必要に応じて代替手段を講じます。平時からの訓練と計画の整備が、有事の際の冷静な対応を支えます。
5-4. 都道府県警察・関係機関への早期通報
ランサムウェア感染が疑われる場合、都道府県警察や関係機関への早期通報が被害の最小化と犯罪捜査の両面で極めて重要です。被害を確認したら、以下の窓口に速やかに通報しましょう。
| 通報先 | 主な対応内容 |
|---|---|
| 都道府県警察サイバー犯罪相談窓口 | 被害届の受理、初動対応の助言、捜査への協力要請 |
| IPA(情報処理推進機構) | 初動対応に関する技術的相談 |
| JPCERT/CC | インシデント対応の技術的支援 |
通報時には、以下の内容を整理して伝えます。
- 被害発覚の日時
- 感染端末の台数
- 脅迫文の内容
- 身代金の要求額と支払い期限
- データ暗号化の範囲
- 個人情報や機密情報の漏えいの可能性
- 業務への影響状況
また、可能であれば、「感染が疑われる経路」「最初に異常を検知した状況」「保存済みのログやエビデンス」「使用しているセキュリティ対策の内容」も伝えましょう。これにより、都道府県警察や専門機関から的確な助言や支援を受けやすくなります。
5-5. 身代金要求への対応方針
ランサムウェア感染により身代金を要求された場合、支払いは原則として推奨されません。その理由は、以下のとおりです。
- 犯罪組織の資金源となるリスク
- データ復号の保証がない
- 再攻撃の標的になる
身代金要求を受けた際は、まず都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口やIPAに速やかに情報提供を行い、捜査への協力を優先してください。専門家の助言を得ながら、組織全体で慎重に対応方針を決定することが求められます。
5-6. 調査・復旧フェーズへの移行
初動対応が完了し、被害の拡大が抑制できたら、本格的な調査と復旧作業に移行します。この段階では、フォレンジック調査(犯罪や事故の法的な証拠を収集・分析する鑑識調査)による感染経路の特定と、バックアップデータからのシステム復旧を並行して進めることが重要です。
復旧作業では、業務への影響を最小限に抑えるため、優先順位を明確にする必要があります。取引先への支払いシステムや顧客対応に必要な基幹システムなど、事業継続に不可欠な業務から順次復旧を進めましょう。
また、復旧と同時に再発防止策の検討・実施も欠かせません。脆弱性対策の強化、バックアップ体制の見直し、多要素認証の導入など、調査で判明した侵入経路を踏まえた具体的な対策を講じると、同様の被害を防ぐことが可能です。
6. ゼロトラスト型セキュリティによる多層防御の考え方
ゼロトラストとは、「決して信頼せず、常に検証する」というサイバーセキュリティの概念です。社内外を区別せず、全アクセスを検証することで、ランサムウェアをはじめとする脅威から情報資産を守ります。
ゼロトラストを実現するには、以下7つの要件に基づく多層防御が不可欠です。
- ネットワークセキュリティ:不正侵入検知・防止、ファイアウォール等で通信経路全体を保護
- デバイスセキュリティ:端末の識別・承認とマルウェア対策を実施
- アイデンティティセキュリティ:すべての利用者を厳格に認証・認可
- ワークロードセキュリティ:クラウド環境を含むシステム稼働状況を管理
- データセキュリティ:情報資産を分類し、暗号化やアクセス制御で保護
- 可視化と分析:ログを一元管理し、脅威の予兆を早期検知
- 自動化:脅威の発見と対処を迅速化し、運用負荷を軽減
これらを組み合わせると、境界型防御では防ぎきれない内部からの攻撃や高度化した脅威にも対応できるセキュリティ体制を構築できます。
ゼロトラストについては、以下の記事も参考にしてください。
7. ランサムウェアの感染経路を理解し、多層防御で組織を守ろう
ランサムウェアは、VPN機器の脆弱性やリモートデスクトップ、メールの添付ファイルなど、多様な経路から侵入するため、単一の対策だけでは防ぎきれません。組織を守るためには、多層防御の考え方が不可欠です。
OS・ソフトウェアの定期更新、多要素認証の設定、データのバックアップ、従業員教育など、さまざまな対策を重ねると、ランサムウェアの侵入リスクを低減できます。
特に、次世代のエンドポイントセキュリティである「HP Wolf Pro Security」は、マイクロ仮想マシンによる脅威の封じ込めやフィッシング対策、次世代アンチウイルス機能を統合し、多層防御を実現します。従業員の業務オペレーションを変えずに添付ファイルやリンクを安全に開ける環境を提供し、生産性を損なわずにセキュリティを強化することが可能です。
感染経路を正しく理解したうえで多層防御を実践し、組織全体の安全性を高めましょう。
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