HP「WXP」が実現する非効率の可視化--DEXがもたらす働き方の革新

(右から)米HPでエンジニアリング担当バイスプレジデントのPaul Thomas(ポール・トーマス)氏とプラットフォーム エバンジェリストのLarry Meadows(ラリー・メドウズ)氏
(右から)米HPでエンジニアリング担当バイスプレジデントのPaul Thomas(ポール・トーマス)氏とプラットフォーム エバンジェリストのLarry Meadows(ラリー・メドウズ)氏
(右から)米HPでエンジニアリング担当バイスプレジデントのPaul Thomas(ポール・トーマス)氏とプラットフォーム エバンジェリストのLarry Meadows(ラリー・メドウズ)氏

欧米を中心に「デジタル従業員体験(DEX:Digital Employee Experience)」という概念が急速に浸透している。従業員が日々の業務で利用するPCやソフトウェア、ネットワークなどのデジタル環境の快適性を指すこの言葉は、単なるIT管理の枠を超え、企業の生産性や人材の定着率を左右する重要な経営指標となりつつある。

HPでは、社内のPC、プリンター、会議室の設備までを統合管理するプラットフォーム「WXP(Workforce Experience Platform)」の提供を日本市場で本格化。ハイブリッドワークの定着とともに国内市場においても重要性が高まるDEX領域に踏み出している。米HPでエンジニアリング担当バイスプレジデントを務めるPaul Thomas(ポール・トーマス)氏とプラットフォーム エバンジェリストのLarry Meadows(ラリー・メドウズ)氏に、WXPの優位性やAI PC時代の投資戦略について聞いた。

加納恵 (編集部)
※本掲載内容は株式会社4Xが運営する「ZDNET Japan」に掲載された記事を転載したものです。

欧米においてDEXへの投資が加速している理由は、人材の獲得と定着に要するコストの深刻な高騰にあるという。優秀な人材を雇用し、企業内で長く活躍してもらうには、彼らがストレスなく最大のパフォーマンスを発揮できるデジタル環境の整備が不可欠となる。

「多くの企業が『人』に対して多くの投資をしている。従業員が成功を収めるには、適切なツールとテクノロジーへ確実にアクセスできる環境を整えなければならない。なぜなら、従業員の採用とリテンション(継続率)の維持には多大なコストがかかるからだ。私が話をする多くの最高情報責任者(CIO)たちは、人事やタレントマネジメントのリーダーたちと、緊密なパートナーシップを結び、テクノロジーの観点から新たに入社したスタッフが早く職場になじみ、長く働いてもらうための環境を構築している」(Thomas氏)と、重要性を明かす。

企業による主な大規模投資は「人(人材)」「設備(オフィス不動産)」「IT機器(テクノロジー)」の3つに集約されるが、DEXツールは、これら3つの投資を調和させ、相互の関連性を明確に可視化するために役立つ。

Thomas氏は「興味深いのは、企業がDEXツールを使うことで、従業員がテクノロジーを使いこなせていない原因まで理解しようとしている点。使用頻度の高くないソフトウェアは、使い方が分からないのか、インターフェースが難解なのか、あるいは業務に適していないのかといった、原因を突き止めようとしている。この部分を理解することで、適切な投資につなげ、従業員の満足度を見極められる」と経営判断において重要な一翼を担っていることを示す。

では、具体的にDEXツールはどのように従業員の動向や「見えない不満」を可視化するのだろうか。Meadows氏は「まずテクノロジーをどのように使っているかを可視化する。例えば開発者であれば、開発ツールを使っている時間が分かるし、バックオフィスの従業員であれば『Word』や『Excel』の利用実態が見られる」と、ユーザーの実際の挙動をバックグラウンドで把握することが第一歩であると説明する。

現在は、オフィス、自宅、サテライトオフィスなど働く場所が多様化したことで、不具合の原因を特定する難易度が極めて高くなっている。

この環境変化に対しては「ITリーダーが、従業員の働き方、業務のために使っているツール、さらにオフィス、自宅、リモートワークなど、どこから働いているのかを正確に把握できれば、何が業務の妨げになっているのかが見えてくる。どのソフトウェアが問題を抱え、どのネットワークに障害が発生しているのか、支給しているデバイスは業務内容に対して本当に適切なのかまで分かる」(Meadows氏)と、ネットワークやハードウェアの性能とひも付けて体系的に分析する。

注目すべきは、従業員が「わざわざIT部門に報告しない、潜在的な不満や非効率」の存在だ。

「社内でのオンラインミーティング中に通信が途切れても、それをわざわざIT部門には報告しない。ただ、そういった小さな問題がたまり、複合化することで、全体の効率が下がってしまう。DEXツールを使うことで、小さな問題を一つずつピックアップし、可視化できるようになる。あえてIT部門に報告するまでもないと思っていた問題をそのままにせず、解決していける」と、日々の業務に潜む心理的なハードルとDEXツールによる解決アプローチについて話した。

また、システム的なログの収集だけでなく、従業員が実際にどう感じているかという感情を捉える仕組みも備える。Thomas氏は「WXPでは、デバイスの動作状況を数値化するほか、デバイスを使っている従業員に対し、ポップアップアンケートを実施し、デバイスがどれだけ従業員の仕事に役立っているかを知ることもできる」と生きたデータを取得しやすい環境を整える。

Meadows氏も「今までユーザーが発しないと拾えなかった声が、ツールの中にアンケート機能を持つことで能動的に収集できる。例えば、オンラインミーティング後に『品質はどうでしたか』などと問いかけ、ユーザーの声を吸い上げられるのは、DEXプラットフォームとしての大きな特徴だ」と付け加える。

欧米に比べてDEXという言葉やツールの認知度が低いといわれる国内市場。しかし、Thomas氏は「日本が遅れているとネガティブに捉えるべきではない。カナダ発のプレミアムアスレチックウェアブランド『ルルレモン(Lululemon)』は、一夜にして成功したように見えるが、実際には25年以上事業に取り組んできた背景がある。それと同じで、北米や欧州でも実質的なビジネスとして根付き始めたのはごく最近のこと。日本の導入に多少のタイムラグが生じているだけ」と見解を示す。

さらに「ルルレモンの『一夜にしての成功』のように、今や誰もがDEXの価値に気付き、急速に追い付きたいと考えている。この領域は今や世界中で真に重要な価値になりつつある」と続け、企業の新たな基準と位置付ける。

新型コロナウイルス感染症の流行とその後のハイブリッドワークへの移行により、DEXの必要性はより高まった。「コロナ禍を経て、働き方は大きく変化した。自宅、オフィス、外出先など、働く場所が増えたことで『機器がうまくつながらない』『ツールが思ったように操作できない』といった不満があらわれ、それを解決するためのソリューションを皆さんが積極的に活用しはじめた。そうした背景を考えると、DEXはまだ始まったばかりの取り組みだ」(Thomas氏)と、現状を分析する。

HPが展開するWXPの強みは、自社製品の枠を超えたオープン性とバラバラだったツールの管理を1つにまとめる統合力にある。従来のITにおける管理環境では、PC、プリンター、ビデオ会議システム、オフィススペースなど、それぞれ異なるベンダーの異なる専用ツールで管理しており、IT部門の大きな負担となっていた。

Thomas氏は「企業内のIT管理者は、ツールを管理するために多くの投資をしている。それによって多くの恩恵も受けているが、一度不具合が生じればそれを修正するためには、ツールごとの管理画面に個別にアクセスしなければならない」と、現場の課題を指摘する。

これに対し、WXPは全ての管理を一つのポータルソリューションに集約することを目指している。

「WXPはITツールに関する全てを1つに収められるソリューション。これにより、プリンター、PC、ビデオ会議ツールなどのハードウェアから会議室といったオフィススペースまで統合管理できるようになる。これが実現すれば、ITリーダーはどのように機器が使われているか、どこを改善すべきかを簡単に分かるようになる」(Thomas氏)と企業におけるITの新たな使われ方を打ち出す。

WXPは特定のメーカーにしばられないマルチOS、マルチベンダー環境を大前提に設計している。その理由は「WXPは顧客が使うハードを当社製に切り替えてもらうためではなく、顧客がいる場所に私たちが寄り添うこと」という当初からのコンセプトに基づいているからだ。

Thomas氏は「顧客は単一のエコシステムだけで事業を運営しているのではなく、さまざまなハードやソフトを使っている。この事実に気付いたことで、マルチベンダー環境をサポートするのは絶対条件だと考えた。その上で、適切なソリューションを届けるのが出発点」とWXPの開発背景を明かす。

この顧客中心のアプローチは、企業のビジネス効率化と成長が巡り巡ってHPのビジネス成長につながるという、理想的な循環を生み出す。

「私たちがWXPを通じて顧客に提供するのは、全ての運用の質を向上させること。顧客のビジネス効率が高まり、改善を支援し、彼らのビジネスが成長すれば、それが私たちのビジネスの成長にもつながる。私たちはそれを self-fulfilling(自己充足的、好循環)なものとして捉えている」(Thomas氏)

さらに、Meadows氏は「IT機器の投資についても同じことが言える。IT機器は仕事の効率化や売り上げアップに結びつけるために導入するもの。今より有効活用できれば、新たなIT機器の導入にもつながる。このサイクルを作れるのはハードも手掛けるHPだけの強み」と続け、WXPにより新たなエコシステムの構築を推進する。

市場には他にもDEXやITアセット管理をうたうツールが存在するが、WXPの優位性については、(1)ソフトウェアも作る製造メーカーであること、(2)ハードからセキュリティまでカバーし、モジュール方式で提供していること、(3)エンドポイントの管理やセキュリティに対して知見があることーーの3つを挙げる。

「この全てを網羅できている企業はほかにない。私たちの根底には、『Better together(共に使うことでより良く)』のコンセプトが常にある」(Thomas氏)と明確な強みを打ち出す。

ハードウェアとソフトウェアの双方を手掛ける企業だからこそ、システムの最も深い領域であるファームウェアやBIOSレベルでの制御と情報収集がHPでは可能になる。

WXPは、国内でも急速に普及が進むAI PCの導入においても力を発揮するという。最近のIT投資で注目されているのが、エンタープライズ向け生成AIサービスにおけるコストの高騰だ。AI PCは手元のPCでAI処理ができるため、クラウドへの通信費用や利用料が不要になる。しかし、各自のPCをAI対応にしてしまうと、AIモデルやデータの安全性をどう確保するかというセキュリティの懸念が生まれる。

WXPは、管理プラットフォーム内に自社のセキュリティ機能である「HP Wolf Security」を組み込み、AIモデルを安全に各PCへ配信・管理できるようにした。エンドポイントのセキュリティを保持した上で、AI PCによるローカル処理(無料)とクラウドAI(有料)を振り分ける機能を持ち、どこでAI処理するのが一番コストパフォーマンスが良いかを判断する。

Thomas氏は「全てのAI処理をクラウドに頼っているとコストが膨れ上がってしまう。AI PCとクラウドAIを自動で使い分け、かつ安全に管理できる仕組みをWXPを通して提供できるよう開発を進めている」と今後のコスト増大に備える。

さらに、AI PCに搭載されているCPU、GPU、ニューラルネットワーク処理ユニット(NPU)の稼働状況から、本当にAI PCを必要とする従業員をデータに基づいて特定する機能も用意する計画だ。

「ワークロードがNPUやGPUにどのように使用されているかを監視し、適切なワークが適切なプロセッシングユニットに送信されているかを追跡する仕組みを開発している。これにより、AI PCを持つことで恩恵を受ける人と、通常のPCのままでも良い人を明確に特定できる。業務のタイプに合わせて、適切な人に適切なPCを提供できるようになる」(Thomas氏)

こうした取り組みが広がれば、従来の「パワーユーザーから優先的に最新PCを配る」という直感的なIT予算の割り当てを、データに基づいて適切に配布できるようになる。Thomas氏は「高価なAI PCはパワーユーザーにこそ必要と思われがちだが、必ずしもそうではない。パワーユーザーはクラウドAIにより高度な分析を使用しているため、手元のPCは通常のままで十分かもしれない。それより、パワーユーザーではない人々のほうが、シンプルなAIを手元で操作できるメリットを享受しやすく、AI PCを持つべきという判断もできる」と分析する。

Meadows氏も「WXPを使うことによって、効率が一番良いところに予算を割り当てて作業としての効率を上げられるのが最大のポイントだ」と強調した。

WXPの導入効果は、利用する立場によって異なるものの、企業内の全ての階層に最適化された形でメリットをもたらす。経営層・トップマネジメント層に対しては、利用実態データに基づいた柔軟なリプレース計画を策定できるため、ITコストの全体最適化と大幅な予算削減に貢献する。

一方、CIO・IT部門長などは、日常のルーチンワークを自動化する仕組みを構築できる。これにより、管理コストを低減させ、IT管理者たちの工数を削減することで、リソースを、より高付加価値な経営課題や大きなトラブルの解決へとシフトさせられる。

IT管理を実際に行うIT管理者・ヘルプデスクについては、ユーザーへのヒアリングに頼ることなく、メモリーやCPUの消費、ネットワーク切断の根本原因などの詳細なパフォーマンス障害データを一元的に把握し、即座に対処できる。さらに、ツール内に統合された強力な「リモート接続機能」により、ユーザーがPCを対面で持ってこなくても、画面上で即座に問題を解決できる。

こうした変化を受け、現場の従業員も、不具合が発生しても、IT部門に報告する手間なくバックグラウンドで自動修復されたり、報告後すぐにデータに基づいた対応を受けられたりするため、業務が中断されるストレスから解放され、高い生産性と従業員エンゲージメントを維持できる。

特にヘルプデスク業務の効率化について、Thomas氏は「デバイスに直接リモート接続する機能を組み込んだため、サポートチームは問題を把握し、お使いのデバイスに接続して、ほかのプログラムへ移動したり使用したりすることなく問題を解決できる。また、「Intel vPro」を搭載したデバイスであれば、デバイスが起動していない状態であっても、リモートから電源を入れ、BIOSに入り、デバイスを修復することさえ可能だ」とリモート運用にも力を入れる。

HPは、約7万のエンドポイント、5万5000人の従業員を抱える自社の組織にWXPを全面導入し、すでに成果に結びつけている。Thomas氏は「2022年に世界的にPCが足りなくなった時期にHPは、ノートPCは3年ごと、ワークステーションは4年ごと、というライフサイクルでのリプレースを止めた。現在はWXPにより、PCのパフォーマンスを可視化し、交換するかを決めるプロセスに変わっている。実は私のPCも、常にCPUが高い状態でずっと調子が悪かったのでサポートに連絡したところ、パフォーマンス情報を確認し、3日後に新しいPCが届いた。今までは、PCの状態を証明する必要があったが、スムーズに交換ができた」と自らのエピソードを交えながら語る。

「WXPを使い、パフォーマンスを基にPCをリプレースしている今と以前のライフサイクルによるリプレースを比べると、2025年のPCリプレース予算は22%下がった」(Meadows氏)と大きな削減効果を生み出している。

さらに、成果はPC管理にとどまらない。オフィスの会議室に設置されたビデオ会議ツールなどにもWXPが導入されており、不具合があった際には、現地に人員を派遣して操作・修復することなく、リモートから対応を完結させているという。

国内市場においては、すでに200社以上がデバイス管理のためにWXPを利用する。Thomas氏は「日本は世界第4位の経済大国であり、多くの企業でHPのPCやプリンター、周辺機器などを導入してくださっている。こうした環境をベースに、今注力していきたいのは、パートナーや顧客とのより深い関係づくり。マネジメント層に向け、ハンズオンの場を提供するフォーラムを展開するほか、CIOからマネージャーレベルまでを巻き込んだ分科会も実施している」と話し、直接WXPに触れる場を整える。

加えて、エンジニアが中心となり、顧客企業に概念実証(PoC)を精力的に実施することで、実際の使い勝手を確認する施策も進める。Thomas氏は「実際に触って、使ってもらう。これこそが日本市場において最も正しく、効果的なアプローチ」とし、本格的なハイブリッドワークとAI PC時代を迎える今、WXPの実力を試してもらうことで、本格導入を狙う。

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