HP最新パソコン同梱の新型 ACアダプタ レポート
2026-06-04
日本HPのビジネスノートパソコンに同梱されている ACアダプタが順次更新されています。従来のものに比べて大幅にダイエット、小型軽量化されています。GaN(窒化ガリウム)の採用によって小型軽量化を果たしつつ、USB Power Deliveryに準拠した堅実な電源としての役割を担っています。今回はこのACアダプタを起点に、USB-CとUSB Power DeliveryがノートPCの電源設計にどのような自由度と将来性をもたらしているのかを整理してみましょう。
フリーランスライター:山田 祥平
GaN素材の採用でより小さくよりパワフルになったACアダプタ
この写真は2026年時点で「Next Gen AI PC」と銘打たれたHP OmniBook Ultraや、最新世代のHP EliteBookシリーズなどのハイエンドモデルに標準で同梱されはじめたACアダプタ「65W AC adapter GaN」(モデル番号:TPN-HA04 / スペアパーツ番号:P68491-001)」です。
折りたためるプラグを装備し、カバンの中での収まりもよく、携行時に他のものを傷つけたりする心配もなく、空きスペースにコンパクトに収納できます。重量は実測で110gでした。65Wのアダプタとしては最軽量というわけではありませんが、今までの同梱アダプタに比べれば圧倒的に軽量です。体積比でも従来のものと比べて2割以上は小型化され、さらに発熱も抑えられています。
昨今のアダプタ小型軽量化を実現できているのはGaN の採用によるものだと考えていいでしょう。GaNはガリウム(Ga)と窒素(N)の化合物で、従来のシリコンに比べて高い電圧に耐えられ、電気を通しやすいという特性を持っています。そのため、内部の部品としてのトランスやコンデンサーを小型化できます。また、電気を変換する際のエネルギーロスが非常に小さく、高効率で低発熱です。熱として排出されるエネルギーロスが抑制できるため、アダプタが熱くなりにくいというメリットが得られます。
さらに、高速なスイッチングが可能で圧倒的に高速に切り替えることができます。そのことで、より精密で安定した電力供給が可能になり、周辺回路を簡素化できるため、結果として軽量コンパクトな電源アダプタとなるわけです。
つまり、より小さく、よりパワフルに、より熱を持たない充電ができる素材がGaNなのです。
丸型ポートから USB-Cポートへの遷移
そして、このACアダプタは USB Power Delivery(以下USB PD)という世界標準規格に準拠しています。この規格はUSB-Cを使った電力供給の標準規格でスマホなどでは以前からお馴染みのものです。
HP のノートパソコンは、2015~16年頃からハイエンドモデルで USB-C の採用が始まっています。EliteBook Folio G1(2016年)などで先進的な機能として実装されています。
2017年頃からハイブリッド期として、バレル(ビヤ樽)型プラグ、いわゆる丸型プラグとUSB-Cの両方で充電できる期間が約5年続きました。従来のACアダプタも使えるように丸型ポートを残しつつ、USB-C経由での充電やドッキングステーションの利用が可能という構成です。企業内の古いACアダプタの資産を活かすというサステナ的な視点もあったようですね。
そして2023年ごろからは丸型ポートが姿を消し始めます。HP Dragonfly シリーズなどでは G3 やG4でUSB-Cポートのみでの充電になっています。
日本HP のビジネスノートPCにおける「脱・丸型プラグ」は、2023年のG10世代でメインストリームまで浸透したと言えます。まさにこのアダプタのようなGaN 技術採用が、この完全移行を後押しした形です。
iPhone が Lightning ポートを廃止し、USB-Cを採用したのは2023年の iPhone 15シリーズからです。Lightning 時代は iPhone 5から11年間続いたのですが、EU(欧州連合)による電子機器の充電端子を USB-C に統一するような法整備をしたことが、この決断を促したようです。
一方、Android では iPhone より、かなり早く2015年から USB-C への移行が始まっています。それまで使われてきた micro USB はあっという間に駆逐されてしまいました。こうして、現状で市場に流通しているほぼすべてのスマホはUSB-Cを使って充電するようになりました。その流れにパソコンが加わることで、身の回りのデバイスがすべてUSB-Cだけで完結するようになったのです。デバイスごとに専用のアダプタが必要だった時代を考えれば夢のような話です。
USB Power Deliveryの仕組み
USB-C を使った USB Power Delivery は、ひと言でいうとソースとしての充電器とシンクとしてのデバイスが相談して、やりとりする最適な電力を決める仕組みです。それまでのUSB充電はソース側が出せる分だけ出すという一方通行的なものでしたが、USB PD は双方向のコミュニケーションによって成立します。そして、そのソースとシンクを接続するための両端 USB-C プラグを持つケーブルにも、厳密な規格が規定されています。そして、そのケーブルの中にあるCC(Configuration Channel)という信号線が、どちらが電気をあげるか、もらうかを瞬時に判別し、電気の流れる方向を決め、ソースとシンクが決まります。
ソースとシンクが決定されると、次は、ネゴシエーションが始まります。ソースとシンクの間で行われる交渉で、ソースは提供できる電圧と電流の組み合わせを提示し、シンクはそれらの中から欲しい組み合わせをリクエストします。充電が進んでフル充電に近い状態になったり、デバイスが熱を持ったりしてくると、デバイスは出力を下げるようにソースにリクエストするなどしながら、リアルタイムに電圧や電流を調整していきます。
ご存じのように電圧と電流を掛け合わせると電力(W)になります。電力は、電気が1秒間に行う仕事の『速さ』を表す指標です。一方で、その電力をどれだけの時間使ったかの合計が『仕事の量(電力量)』であり、ワット時(Wh)で表されます。HPのノートパソコン用電源アダプタの最新のものはソースとして65Wの電力をシンクに供給する能力があります。最新のパソコンであれば、この65Wすべてを受け取ってバッテリの充電に使い、処理に使って減った電力を補充します。その結果、高負荷の処理をしてもバッテリはフル充電のままといった結果が得られるわけです。
一方、スマホのようなデバイスは、電力の供給を受ける際に、デバイスそのものの熱設計などから受け入れられる電力の上限が制限されています。でも、USB PDは大が小を兼ねます。もちろん、ケーブルやデバイス側が規格に準拠していることが前提ですが、大電力のアダプタをスマホにつないでも、ちゃんと相談して最適な電力量での充電ができるようになっています。余った電力が捨てられ熱に変わることはありません。機器の多くは急速充電の仕組みで短時間での充電が可能ですが、これもソースとデバイスが互いに相談できるがゆえの成果です。
ソース、ケーブル、シンクが守る固い約束
ソースとシンクをつなぐUSB-Cケーブルにも厳重な規格があります。まず、通常のケーブルで伝送できる電力は60W(3A)までです。60Wを超える電力を伝送するためには、ケーブルに eMarker と呼ばれる電子チップを実装し、ケーブルが自分自身の伝送できる電力やデータ転送速度、準拠規格などを自己申告するようになっています。最新アダプタといっしょに同梱される純正ケーブルは100Wまで伝送できる480Mbps対応のUSB2.0ケーブルでした。高速データ転送を目的としない充電用ケーブルであれば、USB 2.0仕様のほうが太さや取り回しの面で有利という判断でしょうか。
2021年には最大240Wの電力供給ができる EPR(Extended Power Range)という拡張規格が追加されました。これによってあらゆるデバイスの電源をUSBで共通化するというUSBの壮大なビジョンが現実味を帯びてきました。また、ゲーミングパソコンやワークステーションなどの大電力を要するデバイスもUSB PDによる電力供給で利用できるようになってきています。それに大きな貢献をしたのがUSB-Cの普及だったのです。
このほか、PPS(Programmable Power Supply)規格はオプション機能として0.02V刻みで電圧を細かく変動させながら発熱を最小限に抑えます。さらにその次世代規格としてAVS(Adjustable Voltage Supply)規格も注目されています。こちらはシンク側が要求する電圧をソース側がその通りに出力するため、デバイス側での再変圧が不要になり、発熱を抑えた高速充電ができます。HP製品でも、GaN v2(9Y3X5UT#ABJ)アダプタのように、こうした新規格に対応する製品が提供されています。このように、充電環境を取り巻くさまざまな環境はどんどん充実し続けています。
HP は言及していませんが、HP EliteBook X G2i 14 AI PC は、実質的にAVS(Adjustable Voltage Supply)に対応している可能性が極めて高いと考えてよさそうです。なぜなら最新の給電規格であるUSB PD 3.1以降に準拠して設計されているため、27W以上の電力を扱う際の効率化として AVS の活用が標準化されていて、最新のプラットフォーム(Core Ultra シリーズ3)の電源管理 IC(PMIC)がこの制御をサポートしているからです。
AI処理などで電力消費が変動しやすいAI PCにおいて、AVS による100mV 単位の細かな電圧調整は、本体の発熱抑制とバッテリへの負荷軽減を両立させるために不可欠な技術だといえます。AI PCでは、NPU の稼働状況に応じてリアルタイムに電力要求が変化するため、固定電圧での給電よりも、AVS によってシステムが必要な分だけ電圧を微調整して受電する方が、電力変換効率が向上するからです。
最新のAI PCが単にUSB-Cで充電できるだけでなく、AVS のような目に見えない規格の進化によって、薄型化とパフォーマンスの両立を実現しているのは最新技術へのHPの取り組みの熱心さを物語っています。そしてそのことは1Kgを切るような重量のPCの熱設計に重要な役割を果たすのです。別の言い方をすれば、給電プロトコルというインフラレベルでの進化がAI PCを支えているともいえそうです。電圧を細かく制御できるということは、発熱だけではなく、長期的なバッテリ劣化の抑止という点でも大きな意味があります。
ちなみに、USB PDによる電力伝送と、USB-Cケーブルのデータ伝送能力は別物です。ケーブルを高速道路に例えると、内部には電力専用の車線とデータ専用の車線が並んで束ねられています。コネクタには24本のピンがありますが、それぞれの役割は明確に分かれています。電力の相談とデータの送受信は、そもそもケーブルの中で使っている線が違います。そのために、こうしたことが起こるのです。もっともそのおかげで、外付けディスプレイとパソコンをケーブル一本でつなぐだけで、充電と映像出力ができるような環境が得られます。電源が接続されたディスプレイからパソコンに電力が供給され、パソコンは映像をディスプレイに出力するような双方向の通信と電力伝送を一本のケーブルでできるのです。
HPのノートパソコンは、実際に試してみる限り、充電は65Wが上限で、65Wアダプタを使えば不自由のない充電環境が得られます。でも18W程度の小さなスマホ専用アダプタでもある程度の充電は可能なようです。パソコンがスリープ状態なら、使う電力はわずかです。低電力のアダプタでも就寝中につないでおけば、起床時にはパソコンがフル充電になっているといったことも可能です。うまくアダプタを使い分けられるというのも世界標準規格がもたらした恩恵だといえそうです。
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