NVIDIA NemoClaw とは?AIエージェントを安全に動かすセキュリティフレームワークを解説
2026-08-14
ライター:株式会社WEEL
AIが「答えを返す」から「自律的に動く」時代になりつつある今、セキュリティの課題が一段と複雑になっています。AIエージェントがファイルを読み書きし、APIを叩き、複数のツールを横断しながら自律処理を進める場合、悪意ある指示が仕込まれたデータを実行してしまうリスク(プロンプトインジェクション)が現実のものになります。
NVIDIA が開発した NemoClaw は、そのリスクに対処するためのセキュリティフレームワークです。今回は、NVIDIA GB10 搭載の HP 製エッジAIデバイス ZGX Nano を使用した実機検証の結果をもとに、NemoClaw の特徴をまとめて解説します。
記事のポイント要約
- 結論:AIエージェントのセキュリティ基盤として有望だが、まだ発展途上。今のうちに全体像を押さえておく価値はある
- 重要度:中
- ひと言評価:「何を守れて、何が守れないか」を理解したうえで、今後の動向を追うべき段階のツール
NemoClaw とは
NemoClaw は、NVIDIA が開発したAIエージェント向けのセキュリティ・ガードレールフレームワークです。※1
「 OpenClaw のセキュリティラッパー」と誤解されることがありますが、実際には独立したセキュリティレイヤーとして機能します。インストール時にデフォルトで OpenClaw が選択されますが、Hermes Agent など他のAIエージェントも選択可能です。※2
NemoClaw 自体は「エージェントの外側からポリシーを強制するセキュリティのパッチ」であり、どのエージェントを動かすかに関わらず、ファイル・ネットワーク・API接続を一元管理します。
ただし、NemoClaw 単体では完全なセキュリティは実現しません。入力データの安全性を検証する NeMo Guardrails と組み合わせることで、初めてフルスペックの防御が機能する設計です。
※1:NVIDIA , "NVIDIA NemoClaw"
https://docs.nvidia.com/nemoclaw/latest/index.html
※2:Hermes Agent , "Hermes Agent"
NemoClaw のスペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提供企業 | NVIDIA |
| カテゴリ | AIエージェントセキュリティフレームワーク |
| 主な機能 | ファイルアクセス制御、ネットワーク管理、ログ管理、API接続ポリシー管理 |
| 対応環境 | Ubuntu 22.04 LTS 以降 |
| 料金体系 | OSS 無料/クラウド推論は従量課金 |
| 提供状況 | 開発中(本番環境への使用は非推奨) |
NemoClaw のスペックで注目すべきは、ソフトウェア本体が Apache 2.0 ライセンスで無料提供される点です。ローカルLLMと組み合わせることで、ランニングコストを抑えながらセキュアなエージェント環境を構築できます。
従来の OpenClaw と比べて NemoClaw は何が新しいのか
OpenClaw はAIエージェントとして高い自律性を持つ一方、セキュリティ面では脆弱です。 Webから取得した外部ファイルの中に「システムプロンプトを書き換えて」といったプロンプトが仕込まれていた場合、そのまま実行されてしまう可能性があります。
一方、NemoClaw は、エージェントの外側からポリシーを強制する設計です。検証としてジェイルブレイクを試みたところ、設定の書き換えは不可能で、無理に変えようとすると NemoClaw 自体が正常に動作しなくなる現象が確認されました。
| 比較軸 | OpenClaw | NemoClaw(+NeMo Guardrails) |
|---|---|---|
| セキュリティレイヤー | なし | ファイル・ネットワーク・ログを管理 |
| ジェイルブレイク耐性 | 低い | 高い(試みると自壊) |
| API接続の自由度 | 広い( Gemini 等も利用可) | Brave API に制限 |
| 対応インターフェース | LINE を含む広範 | Slack・Discord・GitHub 等( LINE は非対応) |
| RAG経由のインジェクション対策 | なし | NeMo Guardrails との組み合わせで対応 |
NemoClaw と競合との比較
| 製品・手法 | 特徴 | 課題 |
|---|---|---|
| NVIDIA NemoClaw | ハードウェアと統合、OSS で公開 | 発展途上、NeMo Guardrailsとの併用が必須 |
| LlamaGuard( Meta ) | LLMベースの入出力フィルタリング | モデルレベルでの判断に特化 |
| Azure AI Content Safety( Microsoft ) | クラウドAPI型で導入が手軽 | オンプレ・エッジ環境への適用に課題あり |
| 独自ガードレール実装 | 自社ポリシーに合わせた柔軟な設計が可能 | 開発・保守コストが大きい |
AIエージェントのセキュリティ領域は現在、各社が独自アプローチで取り組んでいる段階です。NemoClaw の強みは、NVIDIA のハードウェアとの密な統合にあります。クラウドに依存せず、エッジデバイス上でセキュアなエージェント処理を完結できる点は他社にはない差別化要素です。ただし、現時点では機能が整備途上であり、「まず全体像を把握しておく」段階として捉えるのが現実的です。
NemoClaw のユースケース
NemoClaw が効果を発揮するのは、AIエージェントが業務データにアクセスしながら自律的に処理を進めるシーンです。以下に、想定される主な活用シーンをまとめます。
コーディング支援のセキュア化
外部リポジトリやWebから収集したコードにプロンプトインジェクションが仕込まれていた場合でも、NemoClaw のネットワーク・ファイルアクセス制限により実行範囲を限定できます。
オンプレミス環境でのセキュアなエージェント運用
クラウドに依存せずローカルLLMを活用しながらエージェントを動かしたい企業にとっては、 NemoClaw + NeMo Guardrails の構成が有効です。NemoClaw はローカルLLMとして Gemma 4 や GPT OSS 120B との動作が確認されており、クラウドAPIへの依存なしにエージェントを稼働させられる構成です。
API接続ポリシーの明示的な管理
Slack や GitHub など業務で使うサービスへの接続を許可しながら、不審な外部サービスへの接続をブロックするポリシー管理が可能です。たとえば、GitHub への接続は許可しつつ Slack は拒否する、といった粒度でホワイトリストを管理できます。
NemoClaw のビジネスインパクト
NemoClaw の導入は、AIエージェントを活用する企業のセキュリティ設計に直接影響します。以下に、主な導入効果を整理します。
AIエージェント導入のリスクを下げる
AIが「1対1の応答」から「1対Nの自律処理」へ移行するにつれて、プロンプトインジェクションのリスクは急激に高まります。エージェントが外部ソースから情報を取得し、そのままコードを実行したり、ファイルを操作したりするシーンが増えるほど、ガードレールの有無が致命的な差を生む可能性があります。NemoClaw が提供するポリシーベースの制御は、エージェントの悪意ある命令の連鎖を最小限に抑える仕組みとして機能します。
NVIDIA エコシステムとの統合
ZGX Nano のようなエッジAIデバイスと組み合わせることで、オンプレミスのセキュアなエージェント基盤を構築できます。GPU・CPU・NPUを統合したプラットフォーム全体でセキュリティを担保できる点は、クラウド型ソリューションにはない強みです。
NemoClaw の制約や注意点
NemoClaw には多くの可能性がありますが、把握しておくべき制約もあります。
NeMo Guardrails との併用が必須
NemoClaw 単体では、RAGで利用するデータ内に仕込まれたプロンプトインジェクションを防ぐことができません。外部データの安全性を検証する NeMo Guardrails とセットで導入することが、完全な防御の前提条件です。※3
※3:NVIDIA 技術ブログ, "NeMo Guardrails により LLM の脆弱性を防ぐ: 導入編"
https://developer.nvidia.com/ja-jp/blog/nemo-guardrails-prevents-llm-vulnerabilities-introduction/
一部メッセージチャンネルへの対応が薄い
NemoClaw が標準で管理するメッセージングチャネルは Slack・Discord・Telegram などで、LINE は含まれていません。なお OpenClaw 単体には LINE 連携プラグインがあり、LINE 対応は将来的に変わる可能性があります。
検証として LINE 連携を実際に試しましたが、NemoClaw は許可リストに含まれないサービスへの接続を違反として検知し、設定ファイルへの書き込みをブロックしました。無理に設定を追加しようとしたところ、NemoClaw 自体が正常に起動しなくなる挙動が確認されました。
NemoClaw 関連で今後注目すべきポイント
NemoClaw は現在も急速に進化しており、今後の動向を追う価値があります。「AI×セキュリティ」というテーマが本格化する前に押さえておきたいポイントを、以下に整理します。
プロンプトインジェクションが「バズる」タイミングに備える
大企業でのAIエージェント活用が拡大するにつれ、プロンプトインジェクションによる情報漏洩や誤動作の事例が表面化する可能性があります。NemoClaw が示す「エージェントにもガードレールが必要」というアプローチは、そのタイミングで一気に注目を集めるでしょう。先行して理解を深めておくことに意味があります。
NVIDIA がどこまでソフトウェア基盤を整備できるか
NVIDIA はハードウェア企業として圧倒的な地位を持ちますが、AIエージェントのソフトウェアエコシステムへの対応は課題が残ります。OpenClaw や Hermes Agent など複数のエージェントへの対応を進めていますが、それぞれのアップデートに追いつけるかどうかは今後次第です。 OpenClaw の開発ペースは速く、NemoClaw がその変更に追いつけていないという指摘もあります。NVIDIA がハードウェア企業としてソフトウェアエコシステムを本格的に維持できるかどうかが、今後の採用判断を左右するポイントになるでしょう。
「AI×セキュリティ」が主要テーマへ
生成AIの性能競争から、AIエージェントの安全な運用へと関心が移行しつつあります。ファイルアクセス範囲・ネットワーク接続先・プロンプトインジェクション対策が、今後のエンタープライズAI導入の標準的な評価軸になる流れは加速するでしょう。これまで「生成 AI を使う」という文脈が中心でしたが、今後は「どう安全に使うか」が問われる時代になります。 NemoClaw のようなガードレールツールへの関心は、その流れの中で自然に高まっていくと考えられます。
AIエージェント時代の「安全に動かす」を今のうちに押さえておこう
これまでのAIは、1つの質問に対して1つの回答を返す「1対1」の関係でした。しかしAIエージェントの時代では、1つの指示をきっかけにファイルアクセス・API呼び出し・コード実行が連鎖する「1対N」の構造に変わります。この構造の変化が、セキュリティを単なる付加機能ではなく、エージェント設計の根幹に据えるべき理由です。
NemoClaw はまだ発展途上ですが、「何を守れて、何が守れないか」を今のうちに把握しておくことは、AIエージェントの本格導入を検討する企業にとって大きな意味があります。 NemoClaw + NeMo Guardrails の構成を起点に、AIエージェントのセキュリティ設計を今から考え始めてみましょう。
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