Microsoft IQ とは? Work IQ・Fabric IQ・Foundry IQ・Web IQ を解説
2026-09-28
2025年11月の Microsoft Ignite 以降、Microsoft の発表資料に「IQ」という言葉が急に増えました。Work IQ、Fabric IQ、Foundry IQ、そして2026年5月の Build で加わった Web IQ。「また新しい機能が出たのか」「Copilot とは何が違うのか」と戸惑っている方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、IQ は単体の新製品ではありません。Copilot やエージェントに「あなたの会社と世界の文脈」を理解させるための、共通の知識レイヤー(層)の総称です。AIモデルそのものがどれだけ賢くても、あなたの会社の組織、データ、仕事の流れ、そして今この瞬間の世の中の動きを知らなければ、気の利いた仕事はできません。その「知っている状態」を作る仕組みが今回ご紹介する IQ です。
本記事では、Work IQ・Fabric IQ・Foundry IQ・Web IQ それぞれの役割と違い、Copilot との関係、そして企業がいま準備すべきことを整理します。
ライター:神川 陽太
編集:小澤 健祐
1. Microsoft IQ とは?AIの「賢さ」を支えるもう一つの層
生成AIの能力は、これまで「モデルの性能」で語られてきました。しかし Copilot を企業で使い込むほど見えてくるのは、同じモデルでも、渡せる文脈の質と量で仕事の質が桁違いに変わるという事実です。
Microsoft IQ は、この「文脈」を体系的にAIへ供給する層です。位置づけを一枚で描くと次のようになります。
- 一番上:Copilot ならびにエージェント(人と対話し、仕事を実行する層)
- 中間:IQ(Work IQ/Fabric IQ/Foundry IQ/Web IQ)。仕事・データ・知識・Webの文脈を理解して供給する層
- 土台:Microsoft 365、Fabric 上のデータ、社内ナレッジ、そしてWeb
つまりIQは、ユーザーが直接操作する製品というより、Copilot やエージェントの裏側で働く「情報の基盤」だと捉えるのが正確です。Ignite 2025 でまず Work IQ・Fabric IQ・Foundry IQ の3つが発表され、Build 2026 で Web IQ が加わって現在の4層になりました。
2. 4つの IQ の役割と違い
Work IQ ── 「仕事の文脈」を理解する層
Work IQ は、メール、Teams、SharePoint、会議、ドキュメントといった Microsoft 365 上の日々の営みから、「この会社はどう動いているか」「このチームは何を進めているか」「この人は次に何をすべきか」を理解する層です。4つのうち、Microsoft 365 を使う一般企業に最も直接影響するのがこれです。
構造としては3つの要素からなります。
- データ:Microsoft 365 上のシグナル(誰が・何を・いつ・誰と)
- メモリー:会社・チーム・個人の働き方のモデル(蓄積された理解)
- 推論:次にとるべきアクションの予測
ポイントは、単なる検索の索引ではなく「メモリー」を持つことです。たとえば「明日の定例会議の準備をして」と Copilot に頼んだとき、前回の議事録、その後のメールでのやりとり、共有された資料の更新、積み残しの宿題。
これらを横断して「この会議がどういう文脈にあるか」を組み立てられるのは、日々のシグナルから働き方のモデルを蓄積しているからです。営業担当者なら「A社の案件、今どうなってたっけ」という問いに、メール・会議・提案書をまたいだ経緯の要約が返ってきます。この体験の裏側が Work IQ です。
なお、Work IQ が扱うのは利用者本人がアクセスできる範囲の情報のみです。本人に見えないものはAIにも見えない、という権限の原則は Copilot と共通です。
Fabric IQ ── 「業務データの意味」を理解する層
Fabric IQ は、データ分析基盤 Microsoft Fabric 上のデータに「業務上の意味」を与える層です。
なぜこれが必要なのか。AIに「今期、粗利が落ちている製品ラインはどれ?」と聞いたとき、AIが答えるには「粗利とはどの列とどの列の計算か」「製品ラインとはどのテーブルのどの区分か」を知っている必要があります。
この定義が人の頭の中やBI担当者の暗黙知にしかない状態では、エージェントは正しくデータに触れません。Fabric IQ はこれを明示的に持たせることで、「業務の言葉での問い」を「正しいデータ操作」に変換できるようにします。
実務のイメージとしては、これまで「BI担当に依頼して数日待つ」だった集計・分析の一次回答を、現場がエージェントへの質問で即座に得られるようになる、という変化が期待できます。
Foundry IQ ── 「社内知識の検索」を担う層
Foundry IQ は、ナレッジ検索の共通基盤です。AIの「知ったかぶり」を防ぎ、根拠のある回答をさせるための、エージェント開発に欠かせない要素です。
問題は、これまで検索の仕組みを、エージェントやAIアプリを作るたびに個別に構築していたことです。
総務の規程FAQエージェント、営業のナレッジ検索エージェント、情シスのヘルプデスクエージェント。それぞれが別々に文書を取り込み、別々の検索の仕組みを持つと、開発の手間が重複するうえ、「どのエージェントに聞くかで答えの質が変わる」というちぐはぐな状態が生まれます。
Foundry IQ は、複数の知識源をまとめた再利用可能なナレッジベースを組織として整備し、どのエージェントからも単一の入口から呼び出せるようにします。知識の整備を一度行えば、その上に立つすべてのエージェントの回答品質が底上げされる構造です。
本人が見られる情報だけを使って答える前提で設計されている点も、企業利用では見逃せません。
開発者向けの色が濃い層ですが、利用者にとっては「エージェントごとに知識の質がバラバラ」という問題が解消に向かう、という意味を持ちます。
Web IQ ── 「世の中の今」を取り込む層
Web IQ は、4つの中で最も新しく、Build 2026 で発表された層です。ここまでの3つが「社内」の文脈を担うのに対し、Web IQ はWebページ、ニュース、画像、動画、ショッピング情報といった「社外のリアルタイムの世界」をエージェントに供給します。
「普通のWeb検索と何が違うの?」と思われるかもしれません。違いは誰が使うかにあります。
Web検索は人が結果を読んで取捨選択するための機能ですが、Web IQ はエージェントが仕事の流れの中でWebの最新情報を取り込み、根拠として使うための基盤です。AIモデルは学習時点までの知識しか持たないため、「今日の」「最新の」情報を扱う仕事には、こうした外部接続が不可欠になります。
実務のイメージで言えば、競合他社の新製品発表を毎朝モニタリングして自社の商談メモと突き合わせるエージェント、最新の制度改正を反映して社内規程の改定案を用意するエージェント。
社内文脈だけで動くエージェントは「わが社のことは知っているが、世の中を知らない」状態に陥りますが、Web IQ はその穴を埋めます。競合動向を踏まえた提案書、規制動向を反映した調査といった実務のアウトプットの多くは、社内と社外の情報の掛け合わせだからです。
Web IQ の追加で、IQ ファミリーは「社内の記憶」(Work・Fabric・Foundry)と「世界の今」(Web)の両輪が揃ったことになります。なお発表から日が浅く、提供形態の詳細は展開途上です(2026年7月時点)。
4つの IQ を整理
| Work IQ | Fabric IQ | Foundry IQ | Web IQ | |
|---|---|---|---|---|
| 理解する対象 | 仕事の文脈(人・会議・文書) | 業務データの意味(顧客・製品・取引) | 社内ナレッジ(文書・知識) | Webのリアルタイム情報 |
| 文脈の向き | 社内(働き方) | 社内(データ) | 社内(知識) | 社外(世界) |
| 主な受益者 | Copilot を使う全ビジネスパーソン | データ分析・経営管理 | エージェント・AIアプリ開発者 | 調査・企画・エージェント開発者 |
3. なぜ今 IQ なのか ── モデルの差は縮まり、文脈の差が残る
前提として押さえたいのは、AIモデル自体が「選べる部品」になりつつあるという流れです。Microsoft 365 Copilot は複数のAIモデルを使い分けるマルチモデル化を進めており、モデル性能の差は今後も縮まっていきます。
そうなると、企業ごとのAI活用の差はどこで生まれるか。自社の仕事やデータをAIが理解できる形に整えられているか、つまり IQ 層に供給される中身の質です。Microsoft が「モデル」ではなく「IQ」という層に投資を集中させ始めたのは、この構造変化の表れと読むべきです。
企業研修の現場でも、Copilot 導入の成否を分けるのは実はプロンプトの巧拙ではなく、SharePoint の整理状況や権限設計といった「地味な土台」であるケースがほとんどです。IQ の登場は、この現場感覚が製品アーキテクチャとして裏付けられた、と個人的には受け止めています。
4. 企業がいま準備すべきこと
IQ は「導入する製品」ではないため、今日買うものはありません。その代わり、IQ が活きる土台づくりは今日から始められます。
- Microsoft 365 上に仕事の実体を置く:メール・Teams・SharePoint の外(個人のローカルや私用ツール)で仕事が進んでいると、Work IQ は会社を理解できません
- データと権限を整える:見せてはいけない情報が放置されたままでは、文脈が濃くなるほどリスクも濃くなります。共有範囲の棚卸しが先です
- 小さくエージェントで試す:文脈が効いている状態と効いていない状態の差は、使えば体感できます。まずは自部門の定型業務で試すのが現実的です
5. AIの文脈は、日々の仕事が生む ── 実行環境の話
Work IQ の原材料は、従業員が毎日PCの上で行う仕事そのものです。会議に参加し、文書を作り、チャットで議論する。そうした日々の仕事が濃いほど、AIが理解できる文脈も濃くなります。
だからこそ、従業員が快適に仕事をこなせる実行環境が、結果としてAI活用の質を決めます。Windows 11 Pro を搭載したHPのビジネスPCは、Microsoft 365 での日々の共同作業を支える基盤であり、Copilot+ PC 対応モデルであればオンデバイスAI機能も含めて、「文脈を生み、文脈を活かす」働き方の土台になります。
6. まとめ
Microsoft IQ とは、Copilot やエージェントに文脈を理解させる知識レイヤーの総称で、仕事の文脈を担う Work IQ、業務データの意味を担う Fabric IQ、ナレッジ検索を担う Foundry IQ、そしてWebのリアルタイム情報を担う Web IQ の4つからなります。社内の記憶(Work/Fabric/Foundry)と世界の今(Web)の両輪、と覚えてください。
AIモデルが部品化する時代、差になるのは自社の文脈をAIに渡せる状態を作れているかどうかです。IQ という言葉に身構える必要はありません。やるべきことは、Microsoft 365 上の情報とデータを「AIが読める会社の記憶」として整えていく、地道な取り組みです。
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