2024.10.31
コンピューター上でシミュレーションや解析を実行することで製品の設計・開発を支援するCAE(Computer Aided Engineering)ソフトウェアは、ユーザーのニーズに応えた機能改善・機能強化が図られ、近年大幅な進化を遂げている。そして、その進化に呼応するように、CAEを動作させる環境の1つとなるワークステーションの性能も著しく向上した。
こうしたソフトウェア・ハードウェア両面におけるテクノロジーの進化は、製造業、モノづくりの世界に大きな変化をもたらし、製造業DXを加速させるために不可欠な要素となっている。
そこでCAEをはじめ、設計・デザイン・エンジニアリング向けソフトウェアを展開しているオートデスクと、最新世代のインテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーを採用し、高い性能と信頼性を両立させたワークステーション製品群を展開する日本HPは、最新ワークステーション「HP Z8 G5 Workstation」と、樹脂流動解析に特化したCAEソフトウェア「Autodesk Moldflow」(以下Moldflow)の組み合わせによるベンチマークを実施。その結果からCAEの動作における最適な環境の確認と、ワークステーションの有効性を紐解く対談を行った。
※本記事はTech+にて掲載されたものです。
オートデスク株式会社 アドバンスド マニュファクチャリングソリューションズ
テクニカル ソリューション マネージャー
ジョン・ウォンジン 氏
オートデスク株式会社 アドバンスド マニュファクチャリングソリューションズ
シミュレーションスペシャリスト
宮﨑 寿 氏
株式会社日本HP エンタープライズ営業統括 ソリューション営業本部
ワークステーション営業部 市場開発担当部長
新井 信勝 氏
―― まずはオートデスクの皆様に、CAEソフトウェアを取り巻く市場の現状やトレンドについて、所感などをお聞かせいただければと思います。
ジョン氏:私の私見ではありますが、CAEソフトウェア市場は確実に伸びていると感じています。ただし、グローバルと比較すると、日本の成長率は若干低いでしょう。その理由として、日本の製造業では海外と比べて3Dデータの活用が遅れていることがあげられます。CAEを最大限に活かすためには3Dデータが不可欠です。
とはいえ、近年では製造業DXが加速しており、3Dデータを作るというフェーズから、3Dデータを活用するフェーズへの移行が進んでいます。そのためのツールとしてCAEを使って解析・検証を行うといったニーズは高まっていると感じています。
―― CAEは専門スキルを持ったスペシャリストが利用するものというイメージがありますが、DXの推進に伴い、裾野は広がってきているのでしょうか。
ジョン氏:そうですね。オートデスクが提供しているMoldflowのような、解析専門家向けのCAEソフトウェアの需要も伸びていますが、その一方で、上流工程で設計者自身が解析を行い、製品開発における懸念点を払拭するといったアプローチも広がってきています。その理由は、パブリッククラウドや高性能ワークステーションなど、CAEを利用できる環境が充実してきたことと、CAEソフトウェア自体が専門家だけでなく、設計者の利用を前提とした製品へと変化してきていることにあります。
CADツールなど設計者向けの製品と解析・シミュレーションソフトウェアがセットになったパッケージも提供されるようになり、使いやすさだけでなく、価格面でも設計者が解析を行いやすい環境が整ってきています。
オートデスク株式会社 アドバンスド マニュファクチャリングソリューションズ
テクニカル ソリューション マネージャー
ジョン・ウォンジン 氏
宮﨑氏:ジョンが話したとおり、Moldflowのような専門性の高いCAEソフトウェアにおいても、設計者に寄った機能開発が進んでいます。あとはハイスペックなPC/ワークステーションが登場し、繰り返し計算が必要な最適化を気軽に試せる環境が整ってきたことも大きいですね。
さらに昨今では、AI技術の活用も期待されています。設計者が解析を行う際に必要な知識や計算をAIがアシストしてくれるようになれば、CAEの活用は一気に進んでいくのではないでしょうか。
―― オートデスク様の話を受け、CAEの活用をハードウェア面から支えている日本HPでは、製造業におけるワークステーション市場の現状をどう捉えられているのでしょうか。
新井氏:日本HPとしてもソフトウェアの高度化が進んでいることは実感しており、その実行環境の1つであるワークステーションの需要が高まっていることも確かです。AIをはじめ新しいテクノロジーや手法、アルゴリズムを採用したCAEソフトウェアを、どのような環境で使えばいいのか悩んでいるユーザーも多く、実際私たちも、スペックに関する問い合わせを数多くいただいています。
CAEソフトウェアを使うためのコンピュータリソースとしては、サーバーやパブリッククラウド、そしてユーザーの手元に置いて使えるワークステーションなど、さまざまな選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットがありますが、リソースを占有でき、利用料金を気にせず計算を実行できるワークステーションは多くのユーザーにご使用いただいております。
株式会社日本HP エンタープライズ営業統括 ソリューション営業本部
ワークステーション営業部 市場開発担当部長
新井 信勝 氏
ただし、使用するソフトウェアによって重要となるスペックは異なります。CPU1つとっても、重視すべきところが動作クロックなのか、コア数なのか、製品選定に悩まれているユーザーも多くいらっしゃいます。今回、オートデスクさんのCAEソフトウェアと弊社のワークステーションで行ったベンチマークも、ユーザーの皆様に参考にしていただける情報をお届けすることを目的としています。
―― 今回の対談企画では、オートデスクのCAEソフトウェア「Moldflow」の最新バージョンと、日本HPのワークステーション「HP Z8 G5 Workstation」を用いたベンチマークを実施されています。まずは樹脂流動解析ソフトウェアであるMoldflowの概要と特徴についてお聞かせください。
宮﨑氏:Moldflowは40年以上の歴史を持つ、樹脂流動解析に特化したCAEソフトウェアです。プラスチック成形金型という、金属に空洞を作ってそこにプラスチックを流し込み、それを固めて取り出すという一連の作業をシミュレーションするものです。
クリックして拡大表示
最新バージョンである「Moldflow Insight 2025」では、プラスチック射出成形において非常に重要な役割を担っている冷却管の最適化をめざすなかで、そのフェーズ1として3Dプリンタで冷却管を最適な位置に配置するための解析機能を実装しました。
クリックして拡大表示
これにより、金型温度分布が最適化され、反りや外観不良を最小化し、製品が固まるまでの時間、いわゆるサイクルタイムも改善。リードタイムの短縮やコストダウン、さらには生産性と品質の向上を実現します。
―― Moldflowを設計段階から活用することで、手戻りや試行錯誤にかかる時間・手間・コストを大幅に削減できるんですね。
宮﨑氏:まさにそういった用途を想定したソフトウェアになります。たとえば自動車のバンパーなど、非常に大きな金型では少し修正するだけで数百万というレベルでコストがかかります。Moldflowは、そういった問題点を設計段階で解消するというコンセプトで開発しています。解析専門家向けの製品から設計者の利用を想定した製品まで複数のラインナップを提供しており、国内市場でも6割以上のシェアを持っています。
オートデスク株式会社 アドバンスド マニュファクチャリングソリューションズ
シミュレーションスペシャリスト
宮﨑 寿 氏
―― 続いて、日本HPが展開しているワークステーション製品群の特徴と強み、さらにベンチマークに使用されたHP Z8 G5 Workstationの製品概要についてご説明いただけませんでしょうか。
新井氏:ワークステーションの特徴としては、サーバーやクラウドと比べて導入・運用が容易なことがあげられます。サーバーは、クラスタなどでハイパフォーマンス構成を組むことができ、強力な演算性能ですが、導入コストが高く、増設やアップデートは簡単に行うことはできませんし、リソースを共有するため設計者が自分の必要な時間に自由に解析を行うことも難しい面があります。クラウドは初期費用なしで利用を開始できるメリットがありますが、従量課金制のため、重たい計算で長時間使う場合はコストが気になってしまい、試行錯誤をしにくいという問題があります。
日本HPのワークステーションは、最新世代のインテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーを採用し、大容量メモリを搭載できるため、さまざまなニーズに対応しています。コア数よりクロック周波数を重視したモデルから、マルチスレッドの並列処理を重視したモデルまで幅広いラインナップを展開しており、使用するCAEソフトウェアの特性に合った製品を選択できます。デスクトップ型だけでなく、ラックマウント型の製品も用意し、リモートデスクトップ製品「HP Anyware」と組み合わせることで離れた場所からコンピューティングリソースを利用できます。
長時間にわたって高負荷の処理を行うCAEのユーザーにとって、もっとも重要な信頼性に関しても十分に配慮した設計となっており、障害が起きて計算が止まったり、熱問題で処理性能が落ちたりするといったリスクを最小限に抑えることが可能です。また、パフォーマンスを最大化できる管理ツール「HP Performance Advisor」も用意しており、オフィス内での利用も想定しているので静音性もこだわっています。
クリックして拡大表示
今回のベンチマークで使用していただいたワークステーションは、HP Z8 G5 Workstationとなっており、パフォーマンスと信頼性を兼ね備えた製品で、検証モデルはCPUにはインテル® Xeon® Gold 6442Y プロセッサーを2基、メモリは128GBのDDR5 SDRAMを搭載したモデルです。
クリックして拡大表示
宮﨑氏:たしかにベンチマークの際に、HP Z8 G5 Workstationを自宅に持ち込み、丸2日かけてベンチマークを実行しましたが、とても静かでした! 当初はファンの音など非常にうるさく感じるのではないかと思っていましたが、実際には本当に計算が進んでいるのか心配になるくらい静かで、発熱もほとんど感じられず、大変驚きました。最新のワークステーションの実力を実感させていただいたというのが率直な感想です。
新井氏:ありがとうございます!
その他にも、オートデスクさんも含め、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)と密接に連携しており、各種CAEソフトウェアが安定して動作するかを検証し、ISV認証を取得しています。
―― ベンチマーク結果に関して、オートデスク、日本HPそれぞれの視点からの感想をお聞かせください。
宮﨑氏:ベンチマーク結果は非常に満足できるものでした。まず冷却管最適化の効果としては、金型温度、サイクルタイム、反りのすべてで大きな効果が現れています。また、解析時間に関しても、パブリッククラウドのコンピューティングリソースを用いて計算したケースと比較し、HP Z8 G5 Workstationはかなり短縮できた結果となっています。
クリックして拡大表示
上記の通り、冷却管最適化解析ではクラウドが48時間18分かかったのに対し、HP Z8 G5 Workstationでは35時間34分と約26%削減。充填・保圧解析にかかる時間が約33%、反り解析にかかる時間が約37%の削減と、計算時間の大幅削減となりました。
傾向としては、冷却/反り解析ではCPUの処理性能よりメモリ性能が効いており、充填・保圧解析に関してはCPUのパフォーマンスが効いていると感じました。同じソフトウェアでも解析の内容によって必要なスペックが違ってくることがうかがえます。
また今回のベンチマークでは、最初に何もチューニングしない状態で実行したところ、思ったような効果が出なかったため、日本HPのエンジニアに相談させていただきました。その際に、指示に従ってBIOS設定などを変更してみて欲しいと言われ、実際に試してみると非常に良好な結果が得られました。
新井氏:そうですね、ワークステーションの性質上、どうしても汎用的な八方美人の設定を行って出荷されることになります。そのため、CAEソフトウェアや解析の内容に合わせたチューニングは非常に重要な要素となります。今回も、これまでの経験を踏まえたチューニング方法をお伝えした結果、想定どおりの結果を得ることができたと思っています。
宮﨑氏:細かな設定変更で解析時間が短縮できるというのは驚いたポイントで、大変勉強になりました。解析時間が早くなれば、空いた時間で別の解析や作業ができるので、適切な設定でHP Z8 G5 Workstationを活用すれば、生産性の大幅な向上が図れるはずです。ちなみに今回はかなり大規模な解析だったのですが、少し簡単なモデルでもベンチマークを取ってみたところ、さらに高いパフォーマンスが出ています。
クリックして拡大表示
新井氏:今回のベンチマークでは、パブリッククラウドのCPUコア数(8コア)と、HP Z8 G5のCPUコア数(48コア)に大きな開きがありました。ですがパフォーマンス的にはそこまでの違いが出ていない。今回の解析に関してはコア数より、クロック周波数を重視したほうが、費用対効果は高そうですね。
宮﨑氏:そうだと思います。今回行った計算でいうと、コア数に関しては、8コア程度で使い切っているように感じました。費用対効果で考えると、コア数は抑えて他の部分に投資したほうが良いかもしれません。
―― 今回の企画とベンチマークの結果を踏まえ、今後の展望についてのお考えをお聞かせいただけませんでしょうか。
宮﨑氏:そうですね、Moldflowに関しては、冷却管の最適化というミッションに取り組み始めたところで、今回は3Dプリントにフォーカスしていますが、今後は一般的な加工法での最適化も目指していきたいと思います。それと、設計者自身が解析できるための仕組みも提供していきたいですね。冒頭でジョンが話したAI活用もそうですが、さまざまなアプローチを模索していく予定です。
新井氏:CAEソフトウェアを安定・快適に利用するために必要なハードウェアスペックの情報は、インターネット検索してもほとんど出てきません。先ほど話に出てきたチューニングの方法を紹介しているWebサイトも少なく、設計者さんは非常に悩まれていると思います。そこで日本HPでは、CAE専門のポータルサイトを開設しました。今回のベンチマーク結果やワークステーション最適化の設定例といった情報も順次掲載していきたいと考えています。
ワークステーションもCAEソフトウェアも常に進化を続けており、情報のアップデートは不可欠です。今後もオートデスクさんと協調して、「CAEの最新機能を使いこなすために」というテーマで、有益な最新情報をユーザーに提供していきたいと考えています。また、ユーザーの皆様にはポータルサイトからお気軽に問い合わせて欲しいですね。
ジョン氏:設計者や解析専門家は必ずしもITリテラシーが高いわけではありません。専門分野には詳しくても、一般的なPC/ワークステーションのスペックに関しては一般的な社員と同程度の知識しか持っていないというケースも良くあります。また我々ソフトウェアベンダーも、自社製品の推奨スペックを把握できてないことが多い。そういった意味では、ハードウェアベンダー・ソフトウェアベンダー・エンドユーザーの3者で情報を共有するための仕組みが必要になってくると思います。
オートデスクでは、「Moldflow Japan Tour 2024」というイベントを5月に開催しましたが、特に参加いただいた中堅・中小企業担当者の熱意はすごいものがありました。他のCAEユーザーとさらに交流したいという声もいただいています。我々はソフトウェアに関する話しかできませんので、今後は日本HPさんのようなハードウェアメーカー様と一緒に、ハードウェア面も含めてユーザーの皆様と意見を交換できるようなイベントを開催していければと考えています。
新井氏:今回オートデスクさんとご一緒させていただき、コンピューティングパワーが必要な機能がどんどん追加されていくCAEソフトウェアの現状が理解できました。私たちもハードウェアメーカーとして、高性能と高信頼性で進化を続けるCAEソフトウェアを支えていきたいと考えており、これからもぜひ協業して、製造業界全体を盛り上げていければと思っています。
※このコンテンツには日本HPの公式見解を示さないものが一部含まれます。
また、日本HPのサポート範囲に含まれない内容や、日本HPが推奨する使い方ではないケースが含まれている可能性があります。また、コンテンツ中の固有名詞は、一般に各社の商標または登録商標ですが、必ずしも「™」や「®」といった商標表示が付記されていません。
デュアルCPU搭載可能な設計でこれまで以上のCPUパフォーマンスを提供し、リアルタイムのレイトレーシング、データ視覚化、モデルのトレーニングを伴うレンダリングをスピードアップします。加えて、業務の展開とともに容易に拡張できます。