2022.08.26
メタバースに向けてNVIDIA OmniverseとVRを検証
KKAAでは、以前からNVIDIAのGPUを搭載したHPのワークステーションを導入し、ビジュアライゼーションに活用してきた。これまでに、NVIDIA P5000搭載機、NVIDIA RTX 5000搭載機と利用してきており、NVIDIAのGPUとHPのワークステーションに対しては高い信頼感を持っていたという。
今回、さらなるパフォーマンスを求めて、処理能力が要求されるマルチアプリケーション ワークフローに必要なパフォーマンス、信頼性、機能を提供する 最新のNVIDIA RTX A5500を搭載したHPのワークステーション「HP Z8」をテスト導入した。
RTX A5500を搭載したHP Z8 ワークステーション ©KENGO KUMA & ASSOCIATES
その効果は、まさに驚異的なものであったと、検証を担当した土江氏は力説する。
「今回まず、Chaos Vantageを使ってどれくらいGPUを使った動画の書き出し速度が変わるかを検証しました。以前使っていたのは1世代前のRTX A5000でしたが、RTX A5500で同じ動画を書き出してみると、性能表通り、2.5倍くらいの差がでました。本当にその通りの差が出たと感動しました。弊社で作っている建物の設計は、細かな意匠が多かったり、規模が大きかったり、光が複雑に反射したりするものが多いので、そもそも負荷が高いのですが、それでも1世代違うだけで2.5倍も差が出たことには驚きました。」
Chaos Vantage ©KENGO KUMA & ASSOCIATES
土江氏の検証によると、Chaos VantageのGPU書き出しで、15フレームの動画を20秒間書き出すのに、以前のRTX A5000では2時間程度かかっていたが、RTX A5500では30分ちょっとで書き出しが終わったとのことだ。これは非常に嬉しいと、土江氏は語る。
「2時間かかっていたものが30分ちょっとで出るのなら、十分実用的です。お昼を食べに行っている間に出るくらいですので。特に国際コンペ時など時間の制約が厳しい案件では、書き出しと編集でトライアンドエラーを繰り返しながらクオリティをあげていくのが難しい場合も多く、これまで動画の内製はあまりできていなかったのですが、この程度の時間で処理できるなら実践で投入できるのではないかと思います。」松長氏も土江氏も、RTX A5500の性能にはとても満足しているとのことだ。
Vantageでは、人工照明がアニメーションに対応していませんが、Omniverseなら、人工照明のアニメーションもサポートしていると土江氏は指摘します。また、Omniverseでも検証を行ったが、RTX A5500はOmniverseでも良好なパフォーマンスを示した。Omniverseではパストレースという新しいアルゴリズムを採用し、ほぼリアルタイムでの描画が可能なことが特徴である。
また、隈研吾事務所は、VR HMDの活用にもいち早く取り組んできた。3,4年前には、簡易
VR HMDを使って、静止画で書き出した建物の映像を自由な視点で見るソリューションを実現している。
最近、今後のためのリサーチとして各社のVR HMDを検証したところ、土江氏らはHPの
「Reverb G2」のバランスがよいと判断した。「Reverb G2は価格が6万円台と手頃ですが、解像度も1眼あたり2160×2160ドットと高く、装着バランスも良好でした。しっかりしたスピーカーがついているので音もいいです。VRではサウンドも重要になりますので。」(土江氏談)
HP Reverb G2 HMD ©KENGO KUMA & ASSOCIATES
Reverb G2は、SteamVRに対応しているため、Omniverse XRを使えば簡単にVR映像の中を歩き回ることができる。松長氏は今後やってみたい目標として、メタバースの中での設計作業を挙げた。
「VR HMDを付けた状態で360度を見ながらレンダリングして、その空間に入った状態で設計をやってみたいですね。どう操作すればいいかよくわかりませんが、2人体制で1人がVRで見ながら、もう一人にここをこうしてと指示を出すとか。」
Omniverse XRによるリアルタイムレイトレーシングVR ©KENGO KUMA & ASSOCIATES
隈研吾氏自身もVR HMDを装着したことが何回かあるとのことで、VR技術の導入にも積極的だという。「例えば今後、隈がさっとVR HMDをかぶって、設計途中の建物についてアドバイスしたり、『こっちとこっちではどっちがいいですか?』という設計者の問いに答えたりすることができるかもしれません。」(松長氏談)
Omniverse XRでは、現状でもメタバースの中で設計などの作業を行うことが可能だが、将来的にはOmniverse Enterpriseのマルチユーザーコラボレーション機能と連動し複数のユーザーが同時に一つのメタバースに入り、コラボレーション作業を行えるようになる予定だ。
「メタバースの中で、複数の設計者がコラボレーションしながら作業ができるようになれば素晴らしいですね。」と、松長氏も期待する。
今後の目標ですが、カーテンとかそういうもの表現はけっこう難しいですよね。簡単そうだけどファブリック系は難しい。あの線を1個1個再現するモデリングをするわけにいかないので、何かで置き換えないといけないわけですが、柔らかいもののほうが難しいわけです。我々としても自然物とか布とか紙、そういうのをなるべく使いたいという方向性がありますが、それをビジュアライゼーションで実現しようとするとぐっとハードルが上がります。ホワッとした印象にしたいのにバキバキになっちゃうと印象が変わっちゃいますから。そういうのが目の前にゆらゆらゆれているVRができる時代もくると思います。
株式会社隈研吾建築都市設計事務所 設計室長 松長 知宏 氏
Omniverseは、レンダリングのクオリティも高く、パストレースで高速に描画できますので便利です。さまざまな3Dソフトのファイルをそのまま読み込め、VRとの親和性が高いことも魅力です。今まではVRを作ろうと思うと、VR用としてちゃんと作り換えなきゃいけないというハードルがありましたが、OmniverseとOmniverse XR、そしてHP Reverb G2を用いればそうしたハードルはぐっと下がると思います。
株式会社隈研吾建築都市設計事務所 土江 俊太郎 氏
松長 氏、土江 氏、背景に国立競技場
記事提供:隈研吾建築都市設計事務所/エヌビディア合同会社