2022.11.04
近年、注目度が高まっているサステナビリティとは「持続可能性」のことです。いっぽうSDGsは国連が定めた2030年までに達成すべき世界共通の目標です。サステナビリティは現在から将来にわたって環境や社会、経済、人間の健康などが持続可能であるという概念です。
企業には持続可能性を根幹にしたサステナブル経営が求められています。また、持続可能性を実現するための取り組みと財務指標との組み合わせで企業価値が評価される時代にもなりました。
この記事ではサステナブル経営が求められる背景とその必要性、SDGsやESG、CSRとの違いや関連性、またカーボンニュートラルなどの関連用語についてわかりやすく解説します。
ビジネスシーンで耳にすることの多い「サステナビリティ」という言葉ですが、イメージが先行して、意味や変遷を今さら聞きにくいと感じている人もいるのではないでしょうか。周辺の用語も解説していきます。
サステナビリティ(Sustainability)とは「持続可能性」のことです。将来にわたって地球環境や経済活動、人々の生活が持続可能であるという概念です。「地球環境の持続可能性」「社会の文明や経済システムの持続可能性」というような使い方をすることが多いかと思います。
もともとは1972年、国際的な研究・提言機関であるローマ・クラブが発表した「人類の危機に関するプロジェクト」の研究報告で、天然資源の枯渇や地球環境の汚染により、現状のままでは100年以内に人類の成長は限界点に達するとされたことから始まりました。
1988年には気候変動に関する政府間パネルである、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が設立されました。気候変動について定期的に報告書を作成し、科学的知見を基にした評価を発表しています。
また、2015年12月に開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)では、通称CPLC(Carbon Pricing Leadership Coalition:カーボンプライシング・リーダーシップ連合)とよばれる組織が発足しました。カーボンプライシングとは炭素に価格をつける仕組みのことで、現在世界的な広がりをみせています。
これらの変遷から地球環境の持続可能性が注目されるようになり、ビジネスにおいても中長期視点に立ったサステナビリティは重要なキーワードとなっているのです。
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、持続可能な開発目標を意味します。「持続可能な開発目標」とは2015年9月に開催された国連のサミットで193の加盟国で合意された、2016年から2030年の15年間で達成すべき世界共通の目標です。
SDGsを達成するための枠組みとして、17の目標、目標達成のための169の具体的なターゲットが示されています。日本でも17の目標を17色で示したロゴを旗印に、政府や自治体、民間企業の垣根をこえてSDGsに取り組んでいます。
SDGsは2030年までの期限が定められた目標であり、サステナブルとは制約された期限のない概念のことを指しています。
ESGとは企業が継続して発展するためには環境や社会への貢献、企業統治が重要だとする観点です。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字をとってイーエスジーと呼ばれます。
2006年、国連が長期的な投資成果を向上させることを目標とした、責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)を定め、機関投資家の意思決定プロセスにESGを組み込みました。以降、ESGは世界中の企業にとって無視できないものとなっています。
ESGとSDGsは、世界を取り巻く根本的な問題の解決のためという点で共通です。ESGの重要要素である環境や社会への貢献はSGDsとも深いかかわりがあり、SGDsの17の目標は、CO2ゼロ(E)と格差ゼロ(S)を目指すことに大別できます。企業としてはESGを軸に経営に取り組むことでSDGsやサステナビリティが実現できるのです。
CSR(Corporate Social Responsibility)はシーエスアールと読み、企業の社会的責任を意味します。ESGの概念よりも先に広まった考え方です。CSRは企業の利益還元の手段、つまり本業であげた利益をどのように社会や環境に還元していくか、一方でESGは企業が持続可能性を担保しながら、どのように利益を生み出し成長するかという考え方であることから、両者には決定的な違いがあります。
以前の企業は余剰利益をCSR活動の原資にすることが一般的でした。現代ではそれがESGという概念に発展し、サステナビリティに取り組むことそのものを経営の根幹に据える考え方が浸透してきています。
サステナビリティを理解するうえで関連用語を知ることは必要です。押さえておきたい重要なキーワードについて解説します。
カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量と吸収量を、実質的に差し引きゼロにする状態をいいます。
カーボンニュートラルは世界的に加速しています。日本も2050年までにカーボンニュートラルを実現することを政府が宣言しました。カーボンニュートラルを実現するため、国としてさまざまな政策を打ち出し、温室効果ガスの排出量削減と吸収作用の保全および強化に全力をあげて注力しています。
関連リンク:カーボンニュートラルの実践方法とは? 欧米や日本の現状まで一気に解説
再生可能エネルギーとは、石油などの有限資源ではなく、太陽光や風力など自然界の活動によって恒常的に創出可能なエネルギーのことです。日本国内では温室効果ガスを排出せず、エネルギー安全保障にも寄与できる国産エネルギー源と定義されています。
政令では「太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・大気中の熱その他の自然界に存する熱・バイオマス」と定められています。再生可能エネルギーは温室効果ガスを排出しないことから、パリ協定の実現にも貢献できます。また、海洋を含む自国のなかで生み出す限りは、国産エネルギーであるため、エネルギー自給率向上も期待されます。
関連リンク:再生可能エネルギーのメリットや課題とは?世界と日本の取り組みと企業の取り組みまで解説
サーキュラーエコノミーとは日本語で「循環型経済」のことです。原材料や製品を循環させ、廃棄物や汚染を低減しながら経済的な成長を実現する、新たな経済システムを表す用語です。
英国を本拠地として国際的に活動するサーキュラーエコノミー推進団体であるエレン・マッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーの3原則として次の(1)から(3)を掲げています。
(1)廃棄物と汚染を生み出さないこと(Eliminate waste and pollution)
(2)製品や素材を高い価値の状態のまま流通・循環させ続けること(Circulate products and materials at their highest value)
(3)自然を再生させること(Regenerate nature)
日本では環境省と経済産業省、および日本経済団体連合会が「循環経済パートナーシップ」を創設しています。国内企業を含めた幅広い関係者における循環経済へのさらなる理解と取り組みの促進を目指して、官民連携を強化することが目的です。
関連リンク:サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは? 定義や取り組み・政策について解説
2015年12月にフランスで国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催されました。ここで、1998年に定められた京都議定書に代わる新たな国際的な枠組みとして「パリ協定」が採択され、「平均気温上昇を産業革命以前より2℃低く保つとともに、1.5℃未満に抑える努力をすること」が世界共通の長期目標となりました。
先進国を対象とした京都議定書と違い、パリ協定は発展途上国も含め条約に加盟している196の国や地域が対象です。5年ごとにすべての対象に削減目標の提出と更新を義務づけています。
その後2018年にIPCCから発行された「1.5°C特別報告書」を受けて、現在では地球温暖化抑制の基準として「1.5℃未満」が国際的なコンセンサスとなっています。
関連リンク:パリ協定とは?内容や合意までの変遷、カーボンニュートラルなど企業に与える影響など
3Rとは、廃棄物の発生抑制(Reduceリデュース)、再使用(Reuseリユース)、再生利用(Recycleリサイクル)の3つの頭文字を取った言葉です。
3Rには優先順位があり、上述の1.リデュース、2.リユース、3.リサイクルとなっています。これは環境負荷が小さい順です。どちらかというと環境保護の要素が強い3Rをさらに一歩進めた考え方が、「サーキュラーエコノミー」です。
今、企業にはサステナブル経営が強く求められています。サステナブル経営が企業に必須となってきた理由を解説します。
関連リンク:サステナブル経営とは? なぜ必要でどのように実践すればよいのかを解説
サステナブル経営は、短期的な利益追求や生産性の向上だけでなく、あらゆるステークホルダーと共に長期的に発展し続ける経営を指します。
環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3つの観点を配慮したうえで、本業そのものを変革し、持続可能性と企業の成長を両立させながら経営をしていくものです。ESG経営とも呼ばれます。
ビジネスの世界では、気候変動など世界的な問題に取り組むことを事業成長の機会にする、サステナブル経営が新時代の潮流になりつつあります。
サステナブル経営に積極的に取り組む企業が年々増加しています。2021年6月に帝国データバンクが実施した「SDGsに関する企業の意識調査」では、SDGsに積極的に取り組むサステナブル経営推進企業が24.4%から39.7%へ大幅に増加しました。
これはサステナブル経営がグローバルではあたり前となっており、投資判断の重要項目となっていること、人材不足のおり就職や転職の際に企業を選ぶ重要な指標であること、そしてサステナブルな企業の商品なら高くても買う消費者や企業が増加していることなどなどが、背景にあると考えられます。
企業規模や業界間における格差はありますが、2022年4月1日に3Rやサーキュラーエコノミーを推進する目的で「プラスチック資源循環促進法」が施行されたこともあり、さらにサステナブル経営に取り組む企業が増える見込みです。
グローバル企業を中心だったこれまでとは違い、日本企業にもサステナブル経営は今後ますます広がっていくでしょう。
サステナブル経営とその必要性についてご説明してきましたが、実際に取り組むには周辺知識も知っておかねばなりません。いくつか関連する用語について解説します。
脱炭素経営とは、事業活動における温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ(カーボンニュートラル)」にすることを目指して、企業が経営戦略や事業方針を策定する経営方法です。環境対策として脱炭素経営を進めることが企業価値の向上につながり、将来の事業リスクを減らすことができます。ESG経営の中でも、E(Environment)にフォーカスした言葉です。
具体的には事業活動における温室効果ガスの排出の抑制や、エネルギーや原材料の調達方法の見直し、そしてそれら活動状況のレポーティングなどが挙げられます。
ESG投資は投資先となる企業を選別する際に、持続可能な社会の発展に貢献できているかどうかという点に着目する投資手法です。
2006年に国連が打ち出した「責任投資原則(PRI)」により、投資家は短期的な利益を追求するのではなく、長期的な視点で企業の分析や評価をするようになりました。企業のESGへの取り組みを投資判断の意思決定プロセスに組み込むことで、長期的な投資成果を向上させることが目的です。
ESG投資は世界的に拡大しています。投資額は2020年に35.3兆ドル達しており、4年で約1.5倍になりました。日本でも2016年に4,740億ドルであった投資額は2020年に2兆8,740億ドルに増加。4年で約5.8倍に急拡大しています。
参考:出典:GSIA(世界持続可能投資連合)|GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020
関連リンク:今さら聞けないESG投資とは。企業が取り組むメリットを事例とともに解説
投資家の投資判断に有用とされるものにESG スコアがあります。ESG投資格付けは専門機関のESG スコアによりおこなわれ、ESGスコアの低い企業への投資は減少傾向です。
評価機関には、世界中の数千社の環境、社会、ガバナンスに関連する企業の業務について、詳細な調査や格付けから分析までを提供するMSCI ESGリサーチや、2000年から活動しているCDPなどがあります。ESG指数としては、DJSI Worldなどが代表的なスコアです。
サステナビリティレポートは投資家や評価機関が企業を評価する際に参考にするものであり、企業による情報開示の方法のひとつです。
企業は自社のサステナブル活動をステークホルダーや社会に伝えるために報告書を作成しており、近年では、年に一度「サステナビリティレポート」として発行する企業が増えています。自社の取り組みをサイトで紹介している企業も多く出てきました。
また、企業の情報開示のためのガイドラインとして「TCFD」や「GRIスタンダード」、「SASBスタンダード」などがあります。
企業には、株主はもちろん、顧客や従業員、関連会社など、多くのステークホルダーが存在します。さらに株主・消費者・従業員・取引先・行政・地域社会といった、多くのステークホルダーに囲まれています。こうした考え方を「マルチステークホルダー」と呼びます。
企業が持続可能性を実現するには、マルチステークホルダーを意識した経営や、コミュニケーションが重要になります。
Scope(スコープ)とは、温室効果ガスの排出量を計算するための要素で、Scope1~3までがあります。
具体的にいえば、Scope3はサプライチェーンを中心とする仕入れから製造まで、また製造後の使用、廃棄、回収までのプロセスにおけるガス排出量、Scope1である「自社での直接排出量」、Scope2である「自社での間接排出量」以外の部分に該当する「その他の間接排出量」を指します。
ガス排出量は「上流」「自社」「下流」に分類でき、製造または供給までと、供給されて使用、破棄されるまでに分かれます。サステナブル経営においては、自分達だけではコントロールできない「自社」以外の上流や下流における、温室効果ガス(GHG)排出量も算定し管理していく必要があるのです。
関連リンク:カーボンニュートラルにおけるスコープとサプライチェーン排出量の計算方法とは
Product as a Serviceは「PaaS」と表示され、製品をサービスとして継続的に提供することです。
製品の長寿命化・回収・修理・再利用を通じてサーキュラーエコノミーを実現します。ビジネスモデルとしては、サブスクリプション型やリースなどが該当します。単にサービスとして提供するだけでなく、ユーザーの利用状況などをデータとして分析し、より最適な提案を行ったりマーケティングに活かすことも可能になります。
HPもPaaSに取り組んでいます。HPのMP(マネージドプリントサービス)はサービス、ソフトウェア、ハードウェア、そしてサプライをワンストップで提供するサービスです。
企業経営においてサステナビリティが強く求められるようになりました。企業価値を財務的な指標だけで判断される時代は終わり、持続可能性への取り組みと財務指標との組み合わせで企業価値が決まる時代になっています。
サステナビリティへの取り組みを、新たなビジネス機会と捉え、根本的に企業の存在価値を見直す必要性があるといえます。
HPもサステナブルな社会の実現に全力で取り組んでいます。HPのサステナブル経営について、ホワイトペーパーでも紹介していますのでぜひご覧ください。
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