2022.08.31
脱炭素という言葉を報道などで耳にする機会が増えてきました。脱炭素とは、具体的にどのような意味を持つのでしょうか? 脱炭素は、気候変動をもたらす二酸化炭素をはじめとする、温室効果ガス排出を各種取り組みにより実質ゼロにすることを指します。
脱炭素が求められるようになった背景や、日本と各国の取り組み、企業の取り組み事例などを見ていきます。
脱炭素社会とはどのようなことを実現した社会なのでしょうか? 脱炭素社会の定義や、取り組みが必要な理由を確認していきましょう。
脱炭素社会とは、温室効果ガス排出量を実質ゼロにしても成り立つ社会のこと。脱炭素社会を実現することで、世界中において深刻な社会問題となっている気候変動を抑止できます。カーボンニュートラルは排出量を「実質ゼロ」にするという点では、脱炭素社会と同義だといえます。
関連リンク:カーボンニュートラルの実践方法とは? 欧米や日本の現状まで一気に解説
https://jp.ext.hp.com/techdevice/sustainability/planet_sc40_01/
なぜ脱炭素の取り組みが必要なのでしょうか。理由を解説します。
気候変動は、現代における深刻な危機であるとされています。気温上昇は熱帯地域における疫病の拡大や自然災害だけでなく、安定的な食糧・水の供給さらには人の生存も脅かすとされているからです。これらを抑制するために、脱炭素の取り組みが求められています。
参考・出典:気候危機 ― 勝てる競争│国際連合広報センター
https://www.unic.or.jp/activities/international_observances/un75/issue-briefs/climate-crisis-race-we-can-win/
パリ協定は、2020年以降の取り組みを定めた国際的な合意の枠組みです。長い年月をかけて満場一致で採択され、京都議定書から一歩進んだ合意形成となりました。先進国と途上国には「共通だが差異ある責任」があるとしたことも大きな特徴です。具体的な排出量削減の目標値は産業革命時と比較し気温上昇幅を平均2度以下にすることでした。
その後、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)から「1.5°C特別報告書」が発行されたことから危機感がより高まり、1.5度未満への抑制が現在グローバルでのコンセンサスとなっています。
排出されたCO2は「累積」される点が大きな懸案点です。これまでに排出した温室効果ガスの累積量とこれから排出する量を推計し、気候変動リスクを抑えるために後どれくらい温室効果ガスを排出できるかが算出できます。
この「後どれくらい排出できるか」を指すのがカーボンバジェットです。
気候変動を1.5度未満に抑えるためには、おおまかに2012年から2050年までの排出量は約1,000ギガトンに抑えるべきだとされています。
参考・出典:カーボン・バジェットとは?│全国地球温暖化防止活動推進センター
https://www.jccca.org/cop/cop20/04-2
世界における人口は増え続けており、それにともなって資源も消費されています。限りがある自然由来のエネルギーは枯渇してしまう可能性が高く、脱炭素に取り組むことは、持続可能な社会作りに直結します。枯渇することが懸念されている資源には、石油や石炭・天然ガスなどがあげられます。
また、気温が上昇し続けることによって地域によっては降雨量が変化し、大雨や干ばつなどが起こることにより利用可能な水量にも影響を及ぼします。
脱炭素の取り組みが求められる最も深刻な理由の一つに、人類を含む生物の持続可能性があげられます。加えて、永久凍土の融解は、地球温暖化ガスとしてはCO2の約25倍となるメタンガスの拡散や、未知のウィルスの発生リスクを抱え、生態系の崩壊へ向けた致命傷となりかねません。この臨界点が+1.5°Cとされているのです。こうした気温上昇に伴う気候危機と人口増加、資源の枯渇のリスクを、脱炭素の取り組みによって抑制することが必要なのです。
では世界各国では、どのような取り組みが行われているのでしょうか。
バイデン政権では、離脱していたパリ協定に復帰しました。気候変動サミットを主催するなど、環境政策にも積極的な姿勢です。アメリカでは、2030年までに温室効果ガスを50%削減するとしています。また、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げています。アメリカ国内における、エネルギー分野のサプライチェーン強化の研究にも積極的に取り組む方針です。
EU各国からなる欧州委員会はA clean planet for allという気候変動対策ビジョンを打ち出しています。そのロードマップとして、グリーンニューディールを設定しています。
欧州委員会は原子力発電をクリーンエネルギーに指定し、これに対しては参加国によって意見が分かれることになりました。カーボンニュートラルにおける具体的な施策として、2035年までにガソリン車の販売を廃止することなどを具体的に検討されていることが特徴です。
カーボンニュートラルの取り組みについて、中国における温室効果ガス排出量を2030年までにピークアウトするとしました。習近平国家主席は、2060年にカーボンニュートラルを実現するとし、これは他の国よりもおよそ10年遅くなっていますが、中国も宣言をしたことが重要です。
他国より遅くはあるものの、大国である中国がカーボンニュートラル宣言をしたことで、国際的協調が進展したともいえるでしょう。中国の温室効果ガス排出量は世界の約30%を締めており、カーボンニュートラル実現には大幅な削減が求められています。
脱炭素について、日本政府はどのような取り組みを行っているのでしょうか。日本政府における、具体的な取り組みについて解説します。
日本政府は、脱炭素の取り組みをまずは地域レベルで行おうとしています。国・地方脱炭素実現会議では地域脱炭素ロードマップが示されました。各地域や地方自治体が主体となって脱炭素に取り組むことにより、地域課題を解決し地方創生にもつながるとされています。
地方には再生可能エネルギーを導入するポテンシャルが多くあります。ですがそれと同時にコストに関する問題や環境共生などの課題があるのも事実です。これらの課題を解決し、地産地消できる再生可能エネルギー設備を増やすなど、地域社会における豊富なポテンシャルを活用することが狙いです。
地域社会で再生可能エネルギーをより多く生産できれば、域外への支出も減り、地域経済の活性化も見込めます。
参考・出典:地域脱炭素ロードマップ【概要】│国・地方脱炭素実現会議
https://www.env.go.jp/earth/%E2%91%A1%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E8%84%B1%E7%82%AD%E7%B4%A0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%9E%E3%83%83%E3%83%97%EF%BC%88%E6%A6%82%E8%A6%81%EF%BC%89.pdf
2020年から2025年の間を集中期間としつつ、日本政府は2030年までに100か所の脱炭素先行地域を設ける計画を立てています。集中期間である5年間、人材・技術・資金を総動員しながら実現を目指す意向です。
脱炭素選考地域づくりにおいては、地方自治体と企業、金融機関が手を取り合って合意形成し複合的な事業を作ることが期待されています。また、地理的な特性を考慮しながら、住生活エリア・ビジネス・商業エリア・自然エリア・施設群といった類型に分類して計画が進められています。
上記の100か所の脱炭素先行地域をモデルとして他の地域にも波及させる見通しをもっています。それにより2050年を待たずに脱炭素達成することを脱炭素ドミノとしています。
地球温暖化対策推進法は、京都議定書が採択されたことを受けて1998年に成立。2020年に菅内閣がカーボンニュートラル宣言を行ったことから、改正案が提出され、成立しました。今回が7度目の改正となります。
主な改正点は、
・パリ協定とカーボンニュートラル宣言を踏まえた基本理念の設定
・地域の脱炭素化事業促進のための計画認定制度の創設
・脱炭素経営促進に向けた企業における排出量公開の推進
などがあげられます。
地域の円滑な合意形成と脱炭素化促進が狙いです。
参考・出典:改正地球温暖化対策推進法について│環境省
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/community/dl/05_07.pdf
地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案の閣議決定について│環境省
https://www.env.go.jp/press/109218.html
気候変動や温暖化への対応を、世界中の国や企業が成長の機会だと捉え始めています。日本でもこれを受け、経済成長と環境保護の両輪で好循環を作るべくグリーン成長戦略が考えられました。
グリーン成長戦略においては、成長が期待される14分野の計画が定められています。この14分野は、大まかにエネルギー関連産業/輸送・製造関連産業/家庭・オフィス関連産業で構成されています。また、その具体的内容が注目されるものの240兆円にのぼる企業の現預金を投資に向けるという目標も掲げられています。
参考・出典:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました│経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005.html
政府では、脱炭素化事業支援のために予算及び補正予算を組み、支援にあたっています。また、経済産業省では中小企業向けの支援にも注力しています。中小企業向けの主な支援分野は、省エネ等低炭素化技術・再エネ等・革新的技術の開発などがあげられます。
これらの分野における支援は、オンライン相談から専門家の派遣・設備投資・研究開発まで多岐に渡る支援の選択肢が用意されています。
参考・出典:令和4年度予算 及び 令和3年度補正予算 脱炭素化事業一覧│環境省
https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/enetoku/2022/
令和4年度版「エネルギー・温暖化対策に関する支援制度」(国)│経済産業省
https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/ene_koho/ondanka/ene_ondan_shien_r4_1.html
経済産業省のカーボンニュートラルに向けた中小企業支援施策│経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220517002/20220517002-3.pdf
サーキュラー・エコノミーとは、循環経済を表す言葉です。廃棄物を最小化し、製品と資源をなるべく長く維持します。これに対して、大量生産・消費・廃棄する経済のことをリニア経済(線形経済)と表現します。従来の線形経済で持続発展を維持し続けるには、地球環境や資源の観点からもはや限界が近づいています。
サーキュラー・エコノミーはエネルギー資源やレアメタルなどの資源需要が増加し、今後価格の高騰や安定した確保が困難になる可能性があることから注目されるようになりました。安定的な資源の有効活用をするためには、サーキュラー・エコノミーに移行する必要があります。日本政府はサーキュラー・エコノミーへの転換を掲げています。
参考・出典:サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環分野の取組について│経済産業省、環境省
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/ce_finance/pdf/001_02_00.pdf
脱炭素社会実現に向けた日本の課題にはどのようなものがあるのでしょうか。
再生可能エネルギー関連などの技術革新は、脱炭素への欠かせない要素のひとつです。現在期待がされており、研究が進められている洋上風力発電事業などにおいて技術革新が進めば、海域領土の広い日本にとって太陽光発電につぐ再生可能エネルギーとなりうるといえるでしょう。加えて、すでに始まっている水素活用分野も技術革新が激しい分野であることに加え、バイオ関連事業でも技術革新がエネルギー革命をもたらす領域でもあります。
産業構造改革も課題のひとつです。線形経済から循環型経済(サーキュラー・エコノミー)への移行はもちろん、低炭素・高付加価値事業へのピボットが必要です。もちろん産業構造改革については、各方面の法改正も含めた政策が重要な部分も多くあります。どの企業にも重要なテーマとして訪れている点としては、新規事業開発における異業種参入や提携が挙げられるでしょう。
参考・出典:日本の脱炭素化への道筋│経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/green_transformation/pdf/005_02_03.pdf
なぜ脱炭素経営が必要なのでしょうか? 企業の観点からその理由を見ていきましょう。
環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素を考慮したESG投資の拡大は、企業に脱炭素経営に対する取り組みの必然性を与えました。企業においては売り上げや利益率などの短期的財務状況のみでなく、これらについて加味し事業を構築していくことが求められます。
脱炭素経営とはESGの中のE(環境/Environment)にフォーカスした経営スタイルです。脱炭素経営はその他の要素である社会(Social)、ガバナンス(Governance)に留意しつつ、総合的な取り組みの中で実践されていくべきであるといえるでしょう。
関連リンク:ESGとは?意味やSDGsとの違いと関連性、企業の取り組み事例など解説
https://jp.ext.hp.com/techdevice/sustainability/planet_sc40_10/
脱炭素社会を実現するには、経済全体すなわち企業目線でみればサプライチェーン全体でカーボンニュートラルに取り組まなければなりません。まずは大企業が排出量算定と削減目標値設定などの取り組みを行うことで、徐々に中小企業を含むサプライチェーン全体にも波及するという連鎖がすでに起こっており、この連鎖は今後益々加速していくはずです。
中小企業も率先して取り組む必要性があることに変わりはありません。さらにサプライチェーンのみならず、顧客による利用時の排出量も含めたバリューチェーン全体における排出量算出や削減の取り組みも必要になります。
購買時における消費者の意識も大きく変化しています。消費者は、環境問題への取り組みなど社会的責任について果たす企業をさらに好むようになりつつあります。環境問題に取り組んでいない企業は、今後購買や取引対象にならない可能性も考慮しなければなりません。
企業における具体的な取り組みを見ていきましょう。
HPでは、継続的にサステナビリティと炭素排出量ネットゼロの実現に向けての取り組みを実施。2030年までにバリューチェーンの温室効果ガス排出量を50%削減、さらに2040年までに排出量ネットゼロを目指します。
すでに製品に使用される温室効果ガス排出原単位が2015年比で39%削減されました。また、循環型ビジネスの変革も進めており、使用済みプラスチックの利用や梱包材の削減に努めています。
参考・出典:サステナブルインパクト│HP
https://jp.ext.hp.com/info/sustainable-impact/
武田薬品工業では、バリューチェーンを通して2040年にカーボンニュートラルを実現するという目標を掲げています。自社の事業活動はもちろん、各種サプライヤーと協働し排出量を削減しています。大きな特徴は、カーボンオフセットなしでこれに取り組むと明記していること。
金銭の支払いで解決するのではなく、地道な取り組みを続けていくという決意が見て取れるといえるでしょう。
また、同社はSBTi(サイエンス・ベースド・ターゲット・イニシアティブ)によって、排出量削減目標が認定されています。これは、排出量削減目標が科学的根拠に基づいて、気温上昇を1.5度以下に抑えるために必要な削減量を満たしていることを示しています。
参考・出典:カーボンニュートラルへの取り組み│武田薬品工業株式会社
https://www.takeda.com/jp/corporate-responsibility/environment/commitment-to-carbon-neutrality-at-takeda/
製薬会社が脱炭素に取り組む、その挑戦とは?│武田薬品工業株式会社
https://www.240.takeda.com/presentation/03/
タケダの排出量削減目標がサイエンス・ベースド・ターゲット・イニシアティブに認定されました│武田薬品工業株式会社
https://www.takeda.com/jp/corporate-responsibility/environment/emissions-reduction-targets-approved-by-science-based-target-initiative/
大和ハウス工業は、2055年に創業100周年を迎える、日本を代表する企業の一つです。2055年を見据えて、Challenge ZERO 2055というビジョンを策定しました。
ビジョンには
・気候変動の緩和と適応
・自然環境との調和
・資源循環・水環境保全
・化学物質による汚染の防止という4つのテーマが含まれています。
グループ全体における脱炭素の取り組みを世界標準レベルで展開するために、国際的なイニシアティブであるSBTやRE100に加盟していることも特徴。大規模な風力発電・太陽光発電といった発電施設を自社で保有しており、顧客の遊休地を生かす事業としても再生可能エネルギー普及に取り組んでいます。
参考・出典:脱炭素への挑戦│大和ハウス工業株式会社
https://www.daiwahouse.co.jp/sustainable/eco/decarbonization/index.html
脱炭素は、気候変動問題に取り組むうえで重要なファクターです。パリ協定合意やIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)による1.5°C特別報告書が出たことで、より取り組みの具体性や目標が明確になっています。
日本政府がカーボンニュートラル宣言を行った2021年から企業での取り組みが急激に広がり始めました。世界各国に遅れをとっていたことも事実ではありますが、ここ数年の著しい変化は今後の予測を立てるには十分だと思われます。
企業レベルでは、脱炭素を実現するために、サプライチェーン/バリューチェーン全体での排出量算出と削減計画がより重要性を増しており、またこの取り組み自体を事業と連動させ、成長計画も並行して実践していくことが要諦となります。
来る脱炭素社会に適応するため、また取り組みが遅れれば遅れるほど、将来生き残る可能性が低くなる事実を見据え、今すぐに取り組みをはじめることが重要なのです。
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