2022.07.04
2050年におけるカーボンニュートラルの目標達成には、2030年の中間目標の達成が欠かせません。世界中で、具体的にどのような中間目標が設定され、どのような取り組みが行われているのでしょうか? 企業の取り組みについても、事例を含めて詳しく解説していきます。
カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量と、植物や森林などが吸収する量を差し引きゼロにさせるという概念です。日本を含む各国は、2030年に向けたCO2の中間削減目標を明確に打ち出しています。
この目標を各国が確実に達成していくには、国やの消費者のみでなく、民間企業の積極的な取り組みが欠かせません。言い換えると、こうした社会からの要請に応えなければ、企業はこの先存続できなくなるともいえます。
では、実際に各国や企業はどのような取り組みをしているのでしょうか?
主要国における2030年の目標を紹介します。複数の国で当初予定していた温室効果ガス排出削減値が引き上げられています。
日本では菅政権において、2013年度に比べた温室効果ガスを2030年には46%削減するとしました。これは最低限達成すべき数値で、さらに50%にも挑戦を続けていくとしています。それまでの目標が、2013年度比で26%削減だったことを踏まえると、2020年に目標を大きく上方修正しています。
具体的な取り組みとしては、2030年度までに100か所の「脱炭素先行地域」を構築しつつ、全国で重点政策であるクリーンエネルギー導入を進めるなど、詳細は後述しますが、いろいろな政策を打ち出しています。
アメリカはトランプ政権時にパリ協定から離脱しましたが、バイデン大統領の就任後に復帰しました。バイデン大統領は道徳的、経済的に気候変動に取り組む必要があると声明を出しています。
カーボンニュートラルについては、2030年までに2005年比で50%以上の削減を行うという目標を掲げています。これは、当初2025年26~28%削減するとしていたものをおよそ2倍に引き上げた目標値です。
欧州委員会は、2018年よりA clean planet forallという気候変動対策ビジョンを打ち出しています。2030年までに、ヨーロッパにおける主要な100都市においてカーボンニュートラル化を目指す方針です。
そのほか、Fit for 55と名付けられた計画を実施しています。航空燃料への課税・EU外からの鉄鋼、コンクリートなどへの課税、ガソリン車の販売を2035年までに廃止することなどが具体的に検討されていることが特徴です。
CO2排出量の多い中国の取り組みも注目されています。中国政府は、カーボンニュートラルの目標値について2030年までにピークアウトし、他の国よりも遅いものの2060年にカーボンニュートラルを実現するとしています。
中国における温室効果ガスの排出量は世界の約30%を締めており、大幅な削減が求められている状況です。
日本では、資源エネルギー庁などを代表する各省庁がそれぞれカーボンニュートラルに取り組んでいます。例えば、金融庁では、カーボンニュートラル実現に向けて金融機関や資本市場が機能を発揮することが重要だとし、「サステナブルファイナンス有識者会議」を設置するなど取り組みを進めています。
参考・出典:今後のサステナブルファイナンスの取組みについて│金融庁
環境省では、2021年に脱炭素社会の実現につながる民間事業に出資する制度を設けると決定しました。国が出資することにより財務状況を改善し、そのほかの投資も呼び込みやすくする狙いです。
脱炭素化事業には、
などがあります。
国が出資した予算については、取得した該当企業の株式を売却することなどにより回収するとしています。
正式名称は、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略といいます。グリーン成長戦略では、2050年までに成長が見込まれる14におよぶ重要分野を設け、具体的に定義しています。
この14分野は、おおまかに
の3つに分けられますが、実質的に食料や住宅など、生活に関わるほとんどの産業が含まれています。
ほとんどの分野で、2030年または2050年までに厳しい削減目標が課されているといえるでしょう。これらを達成するには、それぞれの分野で技術革新を実現し実装することが求められています。技術革新によって、同時に利便性向上などのメリットも生まれることが期待されています。
参考・出典:カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?│資源エネルギー庁
ゼロカーボンシティとは、日本語で「脱炭素都市」という意味合いです。国が定義しているゼロカーボンシティとは、具体的には「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすることを目指す」と宣言した都道府県・市町村などの地方自治体を指します。
ゼロカーボンシティを宣言した地方自治体は、国からの支援を受けられ、クリーンエネルギー導入などを行いやすくなります。
COP21で採択されたパリ協定をきっかけとして、気候変動に取り組むための経営戦略の開示や脱炭素への目標設定を行う企業が増えています。政府も脱炭素経営促進を支援しており、環境省ではTCFDに則したシナリオ作成や、SBT対応のためのガイドブックなどを配布しています。
脱炭素経営への取り組みはイノベーションや顧客獲得の機会にも繋がります。脱炭素経営に取り組むことは、新たなビジネスチャンスを得られる機会といえるでしょう。
エネルギー対策特別会計は、2007年より従来の電源開発促進対策特別会計と、石油およびエネルギー需給構造高度化対策特別会計を統合して設けられました。
の4つを目的とした特別会計です。
環境省では、エネルギー需給構造高度化対策としてクリーンエネルギー導入補助や、EVカーシェアリングの導入支援を行っています。
参考・出典:脱炭素化事業支援情報サイト(エネ特ポータル)│環境省
RE100は、企業が使用電力における100%をクリーンエネルギーにすることを目指す国際的な取り組みです。環境省では、自らRE100に取り組みながら、その実践内容を共有すべく「公的機関のための再エネ調達実践ガイド」を発行しています。
RE100における目標水準は、2050年までにクリーンエネルギー比率を100%達成することです。そのために中間目標も設けられており、目標値は
となっています。
ここまで各国や日本政府のカーボンニュートラルについて見てきましたが、昨今におけるライフスタイルの変化とカーボンニュートラルにまつわる状況はどのようなものなのでしょうか。
コロナ禍では、テレワークやハイブリッドワークの導入が大幅に進みました。また、DXやペーパーレスをはじめとしたデジタル化も促進されています。在宅勤務が加速したことによって、企業のオフィス縮小や移動コスト・使用電気量などが減り、総合的な省エネに繋がりました。
カーボンニュートラルにおいて技術革新は必要不可欠ではありますが、まずは現在の技術やインフラでできる取り組みを徹底することが重要です。
サーキュラー・エコノミーの定義は複数あると言われていますが、一般的には消費された後の資源や製品をリサイクルして使用することを指します。
リサイクルには下記の3つがあります。
モノのシェアリングを支援するサービスや、サブスクリプション式のビジネスモデルは、企業が主体となって循環型経済を後押ししているといえます。企業にとっては、自社で製造した製品をいかに効率的にリユース、リサイクルしていくかという点がより重要になっていくでしょう。
製品をサービスとして提供するPaaS(Product As a Service)や、パソコン機器などをサービスとして提供するDaaS(Device As a Service)などはその一例です。
循環型経済は今後拡大すると考えられています。循環型経済がより社会に浸透すればするほど、カーボンニュートラルにも貢献できるといえるでしょう。
参考・出典:サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環分野の取組について│環境省
関連リンク:サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは? 定義や取り組み・政策について解説
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日本企業のカーボンニュートラル目標と取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか。
パナソニックグループは、2030年までに、自社のCO2排出量を実質ゼロとする目標を掲げています。具体的には、全事業会社におけるCO2排出量の実質ゼロを目指し、すでに4拠点6工場で実現しました。
純水素型燃料電池と、太陽電池を組み合わせたクリーンエネルギー活用にも取り組んでいきます。また蓄電池事業の拡大により、製品を購入した顧客が使用するエネルギーを効率化し、消費エネルギーを削減するとしています。
参考・出典:Panasonic GREEN IMPACT│パナソニック
2020年5月に、日立製作所は「日立カーボンニュートラル2030」という方針を発表し、2030年までに各事業所と工場から排出される温室効果ガスを実質ゼロにするとしました。
「日立カーボンニュートラル2030」は840億円と巨額の予算を投じ、役員報酬も環境評価と連動させるなど、先進的な取り組みを積極的に行っています。
日立グループの企業である日立ハイテクは、2018年から取り組みはじめ、4つに渡る事業所でカーボンニュートラルを達成。工場で消費されるエネルギーの100%をクリーンエネルギーでまかなうなど、先進的な取り組みが実を結びました。
また、同社では自社で培ったノウハウを生かし、工場向けにカーボンニュートラル実行計画策定サービスを提供しています。
トヨタでは、2015年よりトヨタ環境チャレンジ2050という方針を設けています。この中には「6つのチャレンジ」としてカテゴリが設けられており、その中でそれぞれ2030年に向けたマイルストーンが設定されています。
例えば、
など。
同社は、車の走行時のみでなく、製造~廃車までのライフサイクルを意識して温室効果ガスを抑制すべきだと考えています。既に「循環型社会・システム構築チャレンジ」カテゴリの取り組みにおいては、電池回収や再資源化のグローバルな仕組み構築を完了するなど、成果につなげています。
参考・出典:6つのチャレンジ人とクルマと自然が共生する社会を目指して走り続ける│TOYOTA
関西電力では、2021年2月に「ゼロカーボンビジョン2050」を策定し、事業活動によって発生するCO2を2050年までにゼロにするとしました。2030年までに保有する社用車の電化率を100%にし、温室効果ガス削減率をトップランナー水準にするなど、詳しいロードマップを策定。
発電事業においては、再生エネルギーの主力化や水素の調達、原子力発電の再稼働も視野に入れています。あらゆる活動に欠かせない発電事業者として、家庭や産業など分野別に施策を検討し、住宅設備やそれに伴った料金体系を提案します。
参考・出典:関西電力グループ「ゼロカーボンビジョン2050」の策定について│関西電力
ホンダでは、2050年に向けた全活動における温室効果ガスを、実質ゼロにするカーボンニュートラルを実現すると宣言しています。同社は1992年に「Honda環境宣言」を制定し、製品ライフサイクル全体におけるエネルギーや環境汚染を最小化するとしており、早期より環境問題に取り組んでいる企業の一つです。
車のEV化のみでなく、エネルギーや燃費の効率化、温室効果ガスのエネルギー利用など、あらゆる面でカーボンニュートラルに取り組んでいます。
半導体や材料メーカーの昭和電工では2021年7月、2050年のカーボンニュートラル実現に取り組むことを決定しました。Scope1、2における温室効果ガス排出量を対象とし、2050年までのロードマップを公開しています。
特徴的な取り組みは、すでに事業化しているプラスチックケミカルリサイクルの推進でしょう。
すでに取り組んでいる技術開発に、カーボンニュートラルの要素を加えて2030年を目標に完成させる予定で、高い技術力を持つ当社ならではの取り組みだといえます。
NRIグループでは気候変動や環境問題に取り組むために、環境方針を策定。具体的な取り組みとして、「サステナビリティ推進委員会」を設けてTCFD最終提言に基づいた情報開示を行っています。
2022年に入ってからは、保有するデータセンターのうち、規模の大きい3か所の使用エネルギーをすべてクリーンエネルギーに切り替えました。これによって、すべてのデータセンターにおけるクリーンエネルギー利用率は80%となり、2030年に70%としていた目標値を前倒しで達成しています。
京都中央信用金庫では2022年に入り、TCFD提言への賛同・開示について賛同を表明しました。同社では2009年より環境方針を制定するなど早期より取り組みを行っています。
具体的には、サステナビリティ委員会を設置し、組織全体でカーボンニュートラルに取り組む体制を構築。
金融機関として、
に対し融資を行わないことを決定しています。
参考・出典:TCFD提言への賛同・開示について│京都中央信用金庫
サントリーグループでは、サステナビリティを推進するため、「環境ビジョン2050」、「環境目標2030」を定めています。
環境目標2030は環境ビジョン2050を達成するための中間目標として設定されています。
飲料を提供する企業として、2030年までにすべてのペットボトルを、リサイクルを植物由来の素材でまかなうことを決定。
またリサイクルしやすいように、ペットボトルのデザイン変更やプラスチック使用料を削減していくとともに、サプライチェーン全体での温室効果ガス削減に努めています。
参考・出典:サントリーグループのサステナビリティ│サントリー
グーフでは、その時に空きがある工場を選んで印刷できるプリントプラットフォームサービス「Print of Things」を展開しており、資源や使用エネルギー・排出する温室効果ガスに無駄のない印刷環境を実現しました。
100万枚のDMを一か所の工場で印刷し全国配送した場合と比べ、適地生産での場合ではCO2排出量が約28%削減できるとのことです。
参考・出典:ESGで変わる印刷バリューチェーンとビジネスモデル│日本HP
大川印刷は、中小企業におけるSDGsのロールモデルとしてメディアにも紹介されている印刷会社です。同社ではコロナ禍について「SDGsの本質的意義を問うもの」と捉え、社内におけるSDGsの取り組み方を見直しました。
これらの手法を確立させ、2030年までにカーボンニュートラルを実現する考えです。特筆すべきは、同社ではSDGsに関心の高い顧客から注目を集め、売上向上も果たした点にあります。停滞する印刷業界において、2019年度の売上は前年比8%アップとなりました。
ビジネスの発展と、環境への配慮を両立させた好例だといえるでしょう。
最後に、HPの目標と取り組みを簡単にご紹介します。
HPでは、2025年までに自社の活動におけるカーボンニュートラル達成を目指しています。さらに2040年までに、HPのバリューチェーン全体において、温室効果ガス排出量ネットゼロ、つまりカーボンニュートラルを達成する宣言をしています。
製品における炭素排出量の削減に取り組んでおり、カートリッジや使用済みペットボトルを製品製造のために使用することで、循環型経済の拡大や炭素排出量の削減を目指しています。また、すべてのサプライチェーンや製品製造に関するカーボンフットプリントを公表。
2030年までにサプライ事業(プリンティング事業における消耗品ビジネス)におけるカーボンニュートラル実現を目標としています。
HPは気候変動問題に継続的にコミットメントしており、世界各国におけるNGOとパートナーシップを組み、森林保全や海洋プラスチック汚染緩和について取り組みを実行しています。また、持続可能な塗料や素材などが評価され、7つの製品がグッドグリーンデザイン賞を受賞するなど外部機関からも評価されています。
2050年のカーボンニュートラルのために、2030年時点での目標達成は欠かせず、多くの国や企業がより高い目標や見通しを立てて取り組んでいます。消費者や投融資家、取引先の視点が大きく変わろうとしている今、カーボンニュートラルへの取り組みは企業にとって必須になったとともに、新たなビジネスチャンスにもつながります。
事実、グローバルに展開する日本企業の多くは気候変動に取り組む方針を立てており、サプライチェーンを通して中小企業にもその動きが波及しているといえるでしょう。新たなイノベーションを待たずとも、今できる取り組みから一歩を踏み出すことが重要です。
【関連リンク】
・カーボンフットプリントが重要な理由とは? 事例も交えてわかりやすく紹介
https://jp.ext.hp.com/techdevice/sustainability/planet_sc40_14/
・企業が取り組むべき脱炭素社会実現のための取り組みとは? 国内外の取り組みを中心に事例も交え解説
https://jp.ext.hp.com/techdevice/sustainability/planet_sc40_15/
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