2022.08.26
メタバースに向けてNVIDIA OmniverseとVRを検証
©KENGO KUMA & ASSOCIATES
AT A GLANCE
ユーザプロフィール
組織名:株式会社隈研吾建築都市設計事務所
業界:建築設計
所在地:東京都港区南青山2-24-8
設立:1990年1月
導入ソリューション
NVIDIA RTX A5500 グラフィックスカード
NVIDIA Omniverse、Omniverse Enterprise、Omniverse XR
HP Z8 ワークステーション
株式会社隈研吾建築都市設計事務所は、1990年に設立された建築設計事務所である。代表の隈研吾氏は、新国立競技場や高輪ゲートウェイ駅などの設計にも携わる、日本有数の建築家であり、海外でも多くの建築物の設計を手がけている。
隈研吾建築都市設計事務所は、10年以上前に専任のCGチームを社内に結成し、CGを活用してきた。最近は、設計者自らがビジュアライゼーションまで行うことが可能になり、CGチームにはよりクオリティの高いビジュアライゼーションや動画、VRなどが求められるようになった。しかし、動画を描き出す処理は非常に重いため、従来のシステムでは数時間以上かかり、要望に応えられないこともあった。
そこで、隈研吾建築都市設計事務所のCGチームは、新たにNVIDIA RTX A5500を搭載したHP製ワークステーション「HP Z8」を導入し、検証をおこなったところ、従来の2.5倍以上も動画書き出しが高速になることがわかった。また、3社のVR HMDとNVIDIA Omniverse を活用したVRについても検証を行い、満足のいく結果が得られた。
株式会社隈研吾建築都市設計事務所(以下KKAA)は、1990年に設立された建築設計事務所である。隈研吾氏は、新国立競技場や高輪ゲートウェイ駅、サントリー美術館などの設計に携わった日本有数の建築家であり、スコットランドのV&Aダンディーや中国のオポジットハウスなど、海外でも印象的な建物の設計を数多く手がけている。
KKAAでは、業界に先駆けてCGに取り組み、10年以上前に専任のCGチームを社内に結成し、建築設計業務にCGを活用してきた。その使い方も年々進化してきたと、CGチームの設計室長である松長知宏氏は語る。
「もともとビジュアライゼーションをメインにやってきましたが、だんだん業務が拡大していって、静止画パースというより、動的なアニメーションの依頼も多くなっています。また、設計の段階から3Dを使っていますが、その3Dモデリングをプログラムでやるようなことも担当しています。」
新しいツールを積極的に試し、いいと思ったものはどんどん取り入れてくことも隈研吾事務所の流儀だと、松長氏とともにCGチームを率いる土江俊太郎氏は語る。
「私も松長と一緒に映像やインタラクティブなものを作るプロジェクトをいくつか担当しています。実行部隊的な側面もありますので、Unreal EngineやChaos Vantage、NVIDIA Omniverseといった新しいツールをいろいろ試して、どういう案件、どういうプロジェクトで、どういうツールが使えそうか検証しています。」
建築におけるビジュアライゼーションは、当初は手で描いていたパースの代わりに、CGで完成予想図を1枚作って見せるというものがほとんどであったが、今はアニメーションやVRなどのより高度なビジュアライゼーションが要求されるようになった。また、ハードウェアとソフトウェアの進化によって、設計建築業務におけるCGの使い方も大きく変わってきた。
「建築設計者自らが、ある程度までCGによる絵を作れるようになってきたことが、最近のトレンドです。以前は、設計者が2Dの図面をつくりCG担当者がそれを立ち上げ3Dにすることが多かったのですが、10年くらい前からは設計者自身がRhinocerosを使って、3Dで設計するようにもなりました。しかし、当時はまだ高度なビジュアライゼーションまではいけず、スクリーンショットを撮ったりして説明していたのですが、最近はGPUの性能も上がり、Enscapeのような使いやすいビジュアライゼーションソフトが出てきたことで、設計者自らが簡単に見栄えのよい建築パースを作れるようになったことがトレンドです。そのため、我々のようなビジュアライゼーション専任者は、それ以上のもの、さらにその先のものを担わなくてはいけなくなってきました。」(松長氏談)
Omniverse XRとReverb G2 HMDによるVR ©KENGO KUMA & ASSOCIATES
設計者自らが、設計からビジュアライゼーションまでできるようになったことは、設計者にとっても大きなメリットだ。モデリングした絵だけでは、ガラスなどの質感や光の感じなどが分かりにくかったが、ビジュアライゼーションによって、建材などのテクスチャを貼ったり、人を置いたり、そういうことを反映したパースが簡単に作れるようになったので、設計者が自分で設計を行いながら、例えば天井の高さを検証したり、外部との繋がりのために軒を下げたりといった修正ができるようになった。
Omniverse Viewでテクスチャ貼り付け、日照の検証も可能 ©KENGO KUMA & ASSOCIATES
アニメーションや動画、メタバースのニーズが増えてきたこともトレンドだが、それがCGチームの課題にもなっていると松長氏は語る。
「数年前から動画の作成依頼が増えてきました。ただ、我々はインハウスでやっていますので、多くのプロジェクトを捌く必要があります。動画はかなりリソースが必要なので、そんなにたくさんは作れませんでした。また、最近はメタバースについての関心が高く、実際の建物ではなく、メタバース上にしか存在しない建築のデザインも頼まれるようになってきました。そこは我々としても、面白くて挑戦しがいがありますし、設計者もCGスタッフもいる我々だからこそできることでもあります。」
このように、建築業界におけるビジュアライゼーションの重要性はますます高まっていますが、そこで課題となってきたのが処理速度とクオリティです。
「普通の設計者がきれいな絵を描けるようになってきた中で、専任のCGチームには、より早く、クオリティの高いものを出すことが要求されます。また、インハウスでやる意味は、レスポンスの速さを実現するためですよね。社内からビジュアライゼーションを依頼されたときに、『締め切りを過ぎているので間に合いません』と我々が言い出したらちょっと厳しいと思います。外注と変わらなくなりますので。インハウスである意味というのは、どんな球を投げられても、中だから処理できましたという状態にしておくことですよね。そのためにもGPUのパフォーマンスは求められます。」(松長氏談)
OmniverseとRhinocerosをライブシンク ©KENGO KUMA & ASSOCIATES
現在では、ビジュアライゼーションのレンダリングアルゴリズムは、光線を1本1本追跡するレイトレーシングが主流だ。レイトレーシングは、フォトリアリスティックな映像を得られるが、その分、計算負荷が非常に高く、1枚の絵を完成させるのに数時間かかることもある。これまでのレンダリング時間の目安について、松長氏は次のように話した。
「大体昔から、1日1枚仕上げるみたいな目安が社内にはあります。例えば最終日に5枚出さないといけないとなったら、一晩で5枚描けなきゃいけない。でも夜通し処理をかけられるので、1枚2時間くらいかけられます。どちらかというと、プレビュー速度が大事だと思います。すごいクオリティで出力するには時間をかけていいので、ぱっと見たときに光の感じや素材の感じなどが、プレビューである程度再現できていれば、出戻りがなくなります。やはりNVIDIAのGPU性能がどんどん上がっていることが大きいですね。」