2021.04.15
株式会社ソリッドレイ研究所
様々な分野で活用されているVR。応用範囲も広く、アカデミックからアミューズメントまで幅広く使われている。社会に深く浸透していると同時に、進化が絶えない部分もあり、今後も新しいソリューションがたくさん生まれてくるはずだ。そんな最新のVRを市場に送り出し続けているのが株式会社ソリッドレイ研究所だ。同社では HPワークステーションが活用されているという。どのような使われ方をしているか取材してきたので紹介しよう。
株式会社ソリッドレイ研究所
取締役 営業部 部長日本 VR 学会認定 上級 VR 技術者伊藤竜成(左)
システム調査室 室長林 夢輝(右)
1987年の創業以来、VR分野で30年以上、業界のトップランナーとして活躍してきた株式会社ソリッドレイ研究所(以降、ソリッドレイ研究所)。かつてはスーパーコンピュータを使ったVRシステムがメインだったが、デバイスの進化と共にパソコンベースでも再現できるようになった背景を受けて同社が発表したのが、3D/VR空間構築・体験ツール「オメガスペース」だ。
「1999年にオメガスペースを発表して以来、研究開発、安全教育、エンターテインメントなど、数多くの分野に向けて産業用VRシステムを提供しています」と語るのは同社 伊藤氏だ。大型アミューズメント施設のアトラクションの演出や、工場などの職場での安全教育、あるいは不動産のバーチャル内覧など、同社が提供してきたVRシステムは実に多方面で活用され、すでに多くの人々が没入感の高いVR空間を体験している。
「1999年に発表されたNVIDIA GeForceシリーズの登場以来、グラフィックスが大きく進化したことでVRがより身近になりました。1990年代にVRシステムを構築する際は数千万円のスーパーコンピュータを使用する必要がありましたが、現在では数十万円~数百万円のワークステーションで実現可能になりました」とVRの進化の速さを語るのは同社の林氏だ。
オメガスペースの応用範囲の広さについて語る伊藤氏
「オメガスペースはソリッドレイ研究所が開発したVRソフトウェアで、Windows 環境下においてVRを実現するためのOpenGLをベースとしたリアルタイムレンダリングソフトウェアです」と説明する伊藤氏。オメガスペースで実現するVRシステムは、HTC ViVEやOculus RiftなどのHMD型VRだけではなく、従来から行われていたプロジェクタを利用したVR(プロジェクション型VR)や、複数面モニタやハーフミラーホログラムを使用した特殊な表示装置を使用したVRシステム(特殊表示型VR) にも対応できるのだという。
「HMD型VRでは複数人同時に同一空間を体験する『オメガシップ』を実現したり、プロジェクション型VR では壁面と床面の2面直交型プロジェクション型VRシステム「デュオサイト」を2013年に発表するなど、オメガスペースを中心として様々なVRシステムを開発してきました」と言葉を続ける伊藤氏。このようにパッケージされた製品も多く、あらゆる分野、業界特有のニーズにも対応できる幅広さも同社の特長といえる。
エンジニアの視点で VR システムの自社開発の優位性について語る林氏
「これらのパッケージもオメガスペースで作られたものですが、弊社内で開発しているものなので、効率よく製品化できるのも特長です。他社VRソフトを使用する場合は、修正に数週間、数か月といった単位で時間がかかる場合もあると聞いていますが、修正が必要になった場合でも社内で対応することでスピーディーに解決できます」と林氏は語る。そんな同社では、オメガスペースをベースとしたパッケージ製品として納入企業に対して長年HPワークステーションを提案している。
複数のZ8を使い、完全同期の描画を可能にするデュアルポイントビュー
「弊社のVRパッケージでここ最近で話題なのが『デュアルポイントビュー』です。プロジェクション型VRにおいて今まで実現出来なかった2人が同時にそれぞれのヘッドトラッキング視点で VR体験ができます」と伊藤氏。デュアルポイントビューでは並列処理による240Hzの映像出力を実現しているため、描画は非常に滑らかで高品質だ。一方で、システムを稼働させるためのコンピューターへの要件も必然的に高くなっている。「3台のコンピューターと3台のプロジェクタが必要になります。それを完全同期させながら運用するには、高性能なマシンが必須です」と林氏は語る。
そこで同社が選んだのがHPのフラッグシップモデルであるZ8シリーズワークステーション( 以下、Z8)だ。インテル ® Xeon® Gold5222 プロセッサー 2基によるデュアルプロセッサーと、NVIDIA Quadro RTX5000グラフィックスによる強力なパフォーマンスで、デュアルポイントビューを完全再現する。同システムが設置されているウシオライティング株式会社のVRルームでは、Z8とクリスティ・デジタル・システムズのプロジェクタを利用している。「マーカ付き3Dメガネを装着した体験者2名が同一空間に入り込んで共通のVR体験ができます。このクラスのVRを動かすためには、HPのZ8レベルのワークステーションが必要でした」と伊藤氏は語る。体験者2名の頭位置をセンシングしてVRシステムを稼働させるには、これらのシステムが完全な同期タイミングで動かなければならない。
「少しでも同期がずれると視点がバラバラになってしまい、もはや何が描画されているかもわからなくなります。デュアルポイントビューにおける映像の同期はそれほど難易度が高いのです」と解説する林氏。デュアルポイントビューの安定稼働にZ8が必要なのと同等に、このシステムをチューニングできる高いスキルを持つのもソリッドレイ研究所ならではだ。
「他社メーカーのPCを使用した際、途中で極端に遅くなった経験がありましたが、Z8では負荷の重いコンテンツでも常に安定した処理速度で描画されています。重要なプレゼンでは安定したシステムが最も望まれます。プレゼンの最中に不具合が生じてシステムダウンすることがしばしばありますが、Z8は常に安定しています」と語る伊藤氏。また、その優れた静音性により、プレゼン時でもファンの音が気にならない点や、運びやすいように設計された筐体によって運搬時の事故が少ないことも利点と感じているという。
投影された VR 空間では、2 名がこれまで以上にリアルな体験が可能
「PCの世界では、使用されている部品にファームウェアの不具合や、ドライバの不具合などが多々あり、メーカーによってその対応が異なります。HP社のワークステーションは修正したソフトウェアをどこよりも早く提供可能であることが魅力です」と語る林氏。実は以前、不具合を起こしたある製品の修正パッチの提供が遅く、業務が滞ってしまった経験があるのだという。
「弊社調べでは、その当時、HPがもっとも早期に修正パッチが適用されたファームウェアを提供していました。対応の早さにとても助かった思い出があります」と当時を振り返りながら語る林氏。「取り扱うパーツも充実していますし、供給も早いのでサポート力の高いメーカーだといつも信頼しています」と伊藤氏も声を揃える。
VRシステムを導入する企業では、施設等で利用する期間を5年以上に設定しているケースが多いのだという。そのような長期運用において安定したサポートが受けられなければ企業としての信頼にも関わってしまう。「VRシステムではワークステーションのパフォーマンスリソースをフルに引き出している状態で運用しています。ですからいつかは必ずどこかのパーツは壊れますから、素早いサポートは導入いただいた企業様の事業継続性を高めるためにも必要なことなのです。HPにはこれからも充実したサポートをお願いしたいですね」と要望を語る伊藤氏。
「VRは1つの技術として概念が形成されていますが、今後2つの方向性で進歩していくと感じています。1つ目はHMDやプロジェクタなどの表示系ハードウェアや、人に触覚を与えるハプティクス系ハードウェアの進歩により新しい表現が可能になることで、2つ目はAIやDX、デジタルツインなど新しく産まれてきた 技術領域と繋がり新しい概念のVRが出来上がることです。ソリッドレイ研究所としては、オメガスペースの開発を通じてその様な方向性の最先端VRの実現を目指してまいります」とこれからの展望を語る伊藤氏。最後に「最先端 VRを行うために最先端のワークステーションが不可欠です。そのため、今後もHPワークステーションには高いクオリティーと安定したパフォーマンスの実現を期待しています」と語ってくれた。
VR分野を牽引してきたソリッドレイ研究所の活動は今後も大きく広がっていくだろう。HPも精一杯のサポートで同社を支えていく。