【クリエイターPC】生成AIは映像業界のゲームチェンジャー。日テレアックスオンが仕掛ける次世代制作現場。HP Z2 Tower G1i Workstationの魅力とは

GPU使用率
GPU使用率

テレビの映像制作現場に、生成AIが本格的に入り込みはじめている。日テレ アックスオン(以下、AX-ON)は、画像・動画生成AIを番組制作へ実装する専門ユニット「AI Studio」を2025年7月に起ち上げ、日テレグループの中でもひときわ先進的なAI活用を推進している会社として注目を集めている。

そこで今回は、AI Studioを率いるクリエイティブディレクター 古田則夫氏に、生成AIを使った映像制作への取り組みを語ってもらいながら、AI時代に最適化されたワークステーション「HP Z2 Tower G1i Workstation」をレビューしてもらった。

※本記事はVookにて掲載されたものです。

古田さんはこれまで、TVやCMを中心に幅広い映像制作現場でディレクション・プロデュースを手がけられてきたそうですね。そんな古田さんが、生成AIに注目したのはいつ頃でしたか?

AX-ON「AI Studio」クリエイティブディレクター 古田則夫(以下、古田)

2022年8月にStable Diffusionがリリースされたときでした。私はそれまで、飲料メーカーの広告映像、TOKYO2020(東京2020オリンピック競技大会)公式記録映像、スポーツブランドのグローバルキャンペーンなど、さまざまな映像の現場で「いかにリアルに見せるか」「見た人の心に、その感動をどう届けるか」を問い続けてきました。

そのような仕事をしてきた自分が、Stable Diffusionによって画像生成が一般ユーザーでも手軽に使えるようになったと知ったとき、「これは映像制作の在り方が大きく変わる」と直感しました。

職人的な技術と膨大な時間を要してきた映像制作が、AIの登場によって、気力とアイデアさえあれば個人でもハイクオリティな映像を生み出せる時代へと変わっていく。アナログのフィルムやテープによる編集がノンリニア編集へ移行したとき以上の衝撃が、映像業界の根底を揺るがすことになるという予感がありました。

「このままでは、AI時代のコンテンツ制作から取り残されるぞ」という危機感から、独学で生成AIツールを扱い始めました。

古田則夫氏
古田則夫氏
古田則夫/Norio Furuta
株式会社日テレ アックスオン
AI Studio
クリエイティブディレクター / プロデューサー
AX ON
AX ON

「変わる予感」が「危機感」になったのは、どうしてですか?

古田

ディレクターとして映像を作り続けてきたからこそ、その変化の大きさがリアルに想像できたんだと思います。

2025年7月に正式に「AI Studio」を起ち上げました。「新時代の源を知識と革新で切り開く」……そんな想いを込めて、「New Origin: Knowledge & Innovation」の頭文字から「NOKI」というブランドネームを冠して活動を始めました。

NOKI
NOKI

AI Studioは現在、どのような体制ですか?

古田
専任メンバーは3名で、兼務を含めると10名になりました。私のほかは、情報番組のプロデューサーとして台本・記事制作を担うLLM活用に長けたメンバーと、VRをはじめとする最先端テクノロジーへの造詣が深いメンバーがいます。また社内には「AIサポーター」と呼ぶ有志が100名以上いて、それぞれの部署でAI活用のリーダーシップを取りながら、社内全体のリテラシー向上を支えてくれています。

AI Studioとしての活動内容を具体的に教えてください。

古田

主には「社内リテラシーの向上」「業務効率化の推進」「AIを用いたコンテンツの制作」の3つですね。

まずAIを知ってもらい、使ってみて便利さを実感してもらう。例えば、野球の試合映像から特定のホームランシーンを見つけるためにスタッフが朝まで映像を見続けていた作業が、AIを利用することで短時間で終えることができるようになりました。

そういった確かな恩恵が実感できると、立場や年齢に関係なく「使ってみようか」という雰囲気が高まっていきます。AIサポーターたちのがんばりもあって、この1年で、AX-ONが制作している多くの番組が何らかのかたちでAIを活用するようになっています。

番組制作における生成AIの導入事例を教えてください。

古田

中京テレビ制作・日本テレビ系「水曜プラチナイト」枠で放送されたオリジナルヒーロードラマ『こちら予備自衛英雄補?!』では、全10話を通じて100カット以上に生成AIを利用しました。

『こちら予備自衛英雄補?!』60秒特報

具体的にどのような表現にAIが利用されたのですか?

古田

例えば、超能力によって傷ついた猫が治癒されるシーンです。

本物の動物では傷を負った状態での演技は不可能ですし、CGを利用するとなると工数とコストが大きくなります。何度も登場する表現であればCGで作り込むメリットがありますが、このときは1カットだけでした。

そこで撮影現場では、猫のぬいぐるみを置いて撮ってもらい、そのカットを生成AIで作り替えるという手法を取りました。

ほかにも、宇宙でヒーローが戦うフルAIのシーンもAI Studioが担当しました。実写カットと実写カットの間に生成映像が挿入される構成だったため、違和感なく繋げることがチャレンジでしたが、ある程度その目標は達成できたと思っています。

『こちら予備自衛英雄補?!』動画生成AIの利用例

▲ 猫のぬいぐるみを用いた撮影素材

AX ON
AX ON
▲ 動画生成に用いる、傷ついた猫の画像

▲ 完成カット。動画生成AIによって、リアルな傷ついた猫が作り出された

AIで生成した動画をドラマクオリティに仕上げる上では、古田さんがこれまでに培われた映像制作の知見がどのように活かされていますか?

古田

CMやドキュメンタリーの現場を経験してきたことで、「視聴者の目がどこに引っかかるか」という感覚が自分の中に染みついていると思ってます。

例えば北極圏でのドキュメンタリー撮影や、TOKYO2020公式記録映像を手がけてきた経験からは、「リアルな光と動きがどう見えるべきか」というリファレンスが自分の中に積み上がっています。

だからAIで映像を作るときには、その感覚でアウトプットの良し悪しを判断できます。「これならオンエア品質として、通用する」「ここの動きは不自然だからやり直す」という判断を、感覚値として持っていることが、業務レベルの品質管理において実はすごく重要だと思っています。

現在、主に使われているAIツールや生成モデルを教えてください。

古田

LLMはChatGPT、Gemini、Claudeのほか、エージェント系ではManusも使っています。

動画・画像生成モデルはGoogle Veo3.1、ByteDanceのSeedanceなど多岐にわたります。毎月使うツールが入れ替わるほど変化が速い世界なので、常に複数のツールを並行して検証し続けています。

ローカル環境でStable DiffusionなどのオープンソースのモデルをComfyUIで動かすこともありますが、テレビ放送品質という観点では、今のところブラウザベース(Web UI環境)のサービスが有利ですね。

ローカル環境で動画生成を行う場合、PCスペック面でどのような課題がありますか?

古田

やはり、VRAMとメモリですね。

以前使っていたゲーミングPCは、GPUにGeForce RTX 5090、システムメモリ(RAM)は64GBという構成でした。ComfyUIで高品質な生成を試みると、VRAM(32GB)に収まりきらない処理がシステムメモリに溢れてくるのですが、64GBではOSの動作分を除くと実質的な余裕が少なく、処理が落ちてしまうことが何度もありました。

テレビ放送に耐えられる最低ラインとして、できるだけフルHDに近いサイズでの生成が必要なのですが、それを安定して出力できないことも多く、最終的にはGPUクラウドサービスを借りる運用に移行しました。

ただ、モデルファイル1つで何十GBにもなるため、ストレージコストが累積してしまうという別の問題も生じていました。

オリジナル作品『ARCTIC PULSE — They can’t speak. But they can be heard.』

▲ 古田氏のオリジナルAI作品。「WORLD AI FILM FESTIVAL 2026」Best AI CM部門一次審査に通過した。北極の環境変化を訥々と語る声が流れ、視聴者はグリーンランドの猟師の独白だと思い込む。だがカメラが切り替わると、語り手は一頭のイッカクだった。「実写では不可能な動物の主観」をAIで実現し、科学的データを感情的体験へと変換するという演出意図が貫かれている。これまで5度にわたる北極圏での撮影の経験を活かしたという。

今回は、AI時代に最適化されたワークステーション「HP Z2 Tower G1i Workstation」を試していただきました。まずは第一印象をお聞かせください。

古田

箱から出した瞬間、「あれ、思ったより小さい」と驚きました。

昨年、AI Studio発足を機にBTOマシンを導入しました。そちらと同じCPUとGPUを搭載しているのに、筐体サイズが全然違う。ただ、持ち上げた瞬間にずっしりと重みがあって、「この重さは、ハイスペックのパーツで構成されているはず」と直感的に感じました。

サイドパネルを開けてみたら、GeForce RTX 5090がぎっしりと収まっていて、高度な筐体設計が施されていると思いました。

今回レビューしたワークステーション「HP Z」シリーズ

「HP Z」シリーズ
「HP Z」シリーズ

HP Z2 Tower G1i Workstation

※カスタム構成※

CPU インテル Core Ultra 9プロセッサー 285K(3.7GHz-5.7GHz/24コア/24スレッド)
メモリ 192GB(48GB x 4)
ストレージ 2TB SSD(内蔵M.2スロット接続 TLC SSD)
GPU NVIDIA GeForce RTX 5090(VRAM 32GB)
OS Windows 11 Pro 24H2
電源 1200W

https://jp.ext.hp.com/prod/workstations/z2_tower_g1i/

HP Windows 11
HP Windows 11

生成AI用途で使った際のパフォーマンスはいかがでしたか?

古田

一番印象に残ったのは、処理が"落ちない"ことです。

GPUに100%近い負荷をかけながらComfyUIで長時間回し続けても、GPU温度が50〜51度付近で安定していました。

自宅ではNVIDIA GeForce RTX 3080搭載マシンを使っていて、そちらだとすぐ90度近くに達してしまい、過去に熱暴走で壊れたこともあったので、体感的に歴然とした安定感の差を感じました。

高負荷によるファンの音は確かに大きくなるのですが、私にとってはむしろそれが「しっかり冷やして動いている」という安心感に繋がっています。

その安定性には、大きく2つの理由があるそうです。1つ目は、熱流体解析を用いた筐体内部のエアフロー設計です。設計段階から空気の流れを緻密にシミュレーションし、淀みが生じにくい構造を作り込んでいます。2つ目が電源容量です。今回の構成では1200Wの電源を搭載しており、GeForce RTX 5090に対して常に安定した電力を供給できる仕様になっています。

古田

そういうことなんですね。

今回初めてワークステーションを試しましたが、長時間使い続けても高いパフォーマンスで安定して動作することを実感しました。

これは単純なCPUやGPUのスペック比較ではわからない点なので勉強になりました。

システムメモリ192GBという構成は、実際の作業でどのような恩恵を感じましたか?

古田

ここが今回の最大の変化点だと感じています。先ほどお話しした、私が普段の業務で使っているBTOマシンのシステムメモリは64GBなので。

私が使ったことがあるAIモデルの中でも特に重いのが動画生成モデル「LTX-2」で、LTX-2の無圧縮フルモデルで動画生成を行おうとするとモデルのロードだけで40GBを超えることがあります。

GeForce RTX 5090のVRAMは32GBなので当然超過しますが、HP Z2 Tower G1i Workstationはシステムメモリが192GBあるため、VRAM から溢れた分をシステムメモリで受け止めながら計算を継続できると思います。

また、普段使っているBTOマシンでは途中で止まってしまった処理を最後まで終えることができました。ワークステーションの真価を実感しました。

NOKI
NOKI
▲ ComfyUIを使い動画生成モデル「Wan Video」のパフォーマンスを検証。VRAMの32GBがほぼ埋まり、処理の余剰分がシステムメモリ(192GB)へ流れ込んでいる状態が確認できる。「HP Z2 Tower G1i Workstationは、この状態でもマシンが落ちることがありませんでした。さすがに冷却ファンの音は大きくなりますが、ワークステーションを使えば安心して作業ができることを実感しました」(古田氏)

古田さんの作業スタイルとの相性という観点ではいかがでしたか?

古田

生成AIの仕事は「指示を出して待つ」という時間が長いんです。ComfyUIなどのツール上でパラメータを設定して実行ボタンを押したら、あとはマシンに任せて別の作業に移る。

そういう使い方なので、「ほったらかしにできる信頼性」が業務用マシンに求める最大の条件になります。その点でもHP Z2 Tower G1i Workstationは合格点でした。

また、私の立場的に複数の拠点を行き来しながら仕事をしているため、リモートでマシンにアクセスして処理を走らせたまま移動する、というワークスタイルが定着しています。

移動中に生成処理を走らせておいて、到着したら結果が出ているという使い方にも有効だと思います。コンパクトな筐体なので設置スペースも取らず、社内の別拠点に置いてリモート接続するという使い方とも相性が良いと思いますね。

また業務マシンでは、生成AIだけでなくPremiereによる映像編集やPhotoshopによる画像編集といった作業を同時並行で行うこともあります。番組制作では日常的にマルチタスクを行なっているので、生成AI処理中に他の作業が一切できなくなるのは非効率です。そういったマルチタスクにもしっかりと応えてくれました。

HP Z2 Tower G1i Workstationは、どのようなクリエイター、プロダクションに向いていると思いますか?

古田

プロフェッショナルとして品質にこだわった映像制作に取り組んでいる方に最適なマシンだと思いました。

生成AIを使った映像制作を本格的な業務として継続していくつもりであれば、今後さらに重いモデルが登場してきたときにもマシンをリプレイスせず長期的に使い続けられる基盤として、合理的な選択肢ではないでしょうか。

VR映像制作用途でも、省スペースと安定性が魅力に感じた

AI StudioでVRをはじめとする先端技術を活用した映像制作を担う小原宏文氏にも、HP Z2 Tower G1i Workstationを試してもらった。普段使っているBTOマシンとCPUとGPUの型番が揃っているため、設計思想の差が素直に浮き彫りになる結果となった。

小原氏が特に注目したのは、筐体サイズと排熱処理の2点。
HP Z2 Tower G1i Workstationの外形寸法は155×308×337mmで、BTOマシン(216×486×493mm)と比べると容積にして約68.9%の削減を実現している。同等のスペックをここまでコンパクトな筐体に収めた設計は、スタジオや編集室のデスクスペースが限られるクリエイティブ現場において、実用的な優位点として評価できると、小原氏。

熱管理においても、HP Z2 Tower G1i Workstationは高負荷時のCPU温度を70度以下に維持し続けたという。BTOマシンでは同条件で70度を超える傾向が見られたことと対照的である。

「長期間にわたって安定稼働できるかどうかが、プロの現場では最も大切」というのが小原氏の総括だ。

瞬間的な処理速度より、熱的・電気的に安定した環境で動き続けることを優先するなら、ワークステーションとしての設計が活きてくるはずだ。

AI Studioとして、今後どのような活動を目指していますか?

古田

2026年度から本格的に「事業化」のフェーズに入ります。これまでの約2年間は、社内のAIリテラシーの底上げと番組制作への実装実験に注力してきました。

次のステップは、AI活用をAX-ONの事業として収益に結びつけることです。具体的な取り組みについては検討中ですが、例えば膨大な映像アーカイブをAIで活用した新しいコンテンツビジネスや、これまで撮影されてきた素材の活用法の拡張など、テレビ番組をはじめとする映像制作を中心にAX-ONならではの可能性を模索していくつもりです。

技術面での見通しはいかがですか?

古田

ローカルで動かす拡散モデル(Diffusion Model)の品質が、テレビ放送に耐えられるクオリティへと近づいてきていると実感しています。

クラウドのAIサービスが急速に進化したことで、この1〜2年でできることが劇的に広がりました。今後、ローカルでの生成品質がさらに向上すれば、機密性の高い素材を扱う番組制作においても選択肢が増えます。

今回のHP Z2 Tower G1i Workstationのレビューを通じて、エントリーモデルながらハイスペックなワークステーションを手元に置いてローカルで処理する意義が、確かに感じられました。

今から備えておくことに意味があると思います。

INTERVIEW & EDIT_NUMAKURA Arihito
PHOTO_山﨑悠次

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