2022.10.13
ビジネスパーソンであれば「ESG」という言葉を耳にすることも最近は多いはずです。今やESGは企業が存続していくための必須命題です。また、その取り組みは投資判断の基準にもなっています。なぜいま企業にESG経営が求められているのか、その背景と実践方法、メリットと取り組み事例をご紹介します。
ESG経営は持続可能性を経営の根幹においた経営手法です。ESGへの取り組みは今や投資家の投資判断の基準にもなっており、企業にとっては無視することのできない概念です。
ESG(イーエスジー)とは企業が継続して発展していくためには環境への配慮や社会への貢献、そしてそれらを管理、監督する企業統治が重要だとする考え方です。
ESGは、英語のEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字であり、それぞれ下記を意味しています。
ESGは2006年に国連が投資家の取るべき行動(PRI:Principles for Responsible Investment)として推進し、機関投資家が意思決定プロセスにESG課題を組み込んだことで注目されはじめました。
ESG経営とはESGを根幹に据えた経営のことです。企業のESGへの取り組みは、長期的な成長を支える経営基盤の強化につながります。
投資家の企業評価にも各企業が実施しているESGへの取り組みが加味されるように変化しています。世界中でESG経営は企業価値を決める重要、かつ決定的な要素となりつつあるのです。
ESG経営の根幹をなすESGとSDGsには深い関係があります。どちらも国連から出された考え方であり、世界や地球を取り巻く根本的な問題の改善と解決のためものです。
SGDsは2015年9月に開催された国連のサミットで193の加盟国の合意のもと、2016年から2030年の15年間で達成すべき世界共通の目標として定められた「持続可能な開発目標」です。社会・経済・環境の分野で17の目標と169のターゲットが示されています。
ESGは「持続可能な開発目標」であるSDGsを企業主体で実行するための行動規範です。そのESGを経営の根幹におくESG経営はSDGs実現に向けた企業がとるべき手段ともいえるでしょう。
近年、企業はこぞって自社のESGへの取り組みをアピールするようになりました。多くの企業のホームページにはCO2排出量の削減目標や報告書、レポートなどがすでにかかげられています。ESG経営が求められる背景をもう少し探ってみましょう。
2006年に国連が責任投資原則(PRI)を提唱しました。責任投資原則は投資リスクマネジメントの基準や社会的責任にESG課題を考慮するものであり、投資先となる企業を選別する際に、持続可能な社会の構築に向けて貢献できているかどうかという点を投資家視点から原則とする考え方です。 機関投資家の意思決定プロセスにESG課題への取り組みを組み込むことで、長期的な投資成果の向上を目標としています。
責任投資原則は任意の原則で法的拘束力はありませんが、2008年のリーマン・ショック 以降、短期的利益追求にのみ投資の判断基準を置くのではなく、中長期視点を重要視するPRI基準に基づいた投資判断が主流となりつつあります。必然的に企業も対応を求められているのです。
2015年12月にフランスで国連気候変動枠組条約締約国会議が開催され、1998年に定められていた京都議定書にかわる新たな国際枠組みとして「パリ協定」が採択されました。
先進国を対象とした京都議定書、そしてそれまでの取り組みとは違い、パリ協定では発展途上国も含め条約に加盟している196の国や地域が対象となりました。
パリ協定では「平均気温上昇を産業革命以前より2℃低く保つとともに、1.5℃未満に抑える努力をすること」が世界共通の長期目標とされ、すべての国に5年ごとに削減目標の提出と更新を義務づけられました。また、その後IPCCが発表した「1.5°C追加報告書」により、現在は1.5℃未満という目標が国際的なコンセンサスとなっています。
(*) IPCC = Intergovernmental Panel on Climate Change
関連リンク:パリ協定とは?内容や合意までの変遷、カーボンニュートラルなど企業に与える影響など
カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることです。二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林や森林管理などによる「吸収量」 を差し引き、合計をゼロにすることで、脱炭素社会を実現する取り組みを差します。
地球環境を守るために世界規模で取り組みが加速しています。日本政府も2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すと宣言しています。
国際的な環境投資の調査機関「世界持続可能投資連合(GSIA)」の調べでは、ESG投資は2018年に世界で約30兆7千億ドル(約3,300兆円)規模でしたが、その後の拡大が続き、いまでは全投資額の3分の1を超える4000兆円以上に上ります。
日本でも、東証の再編や、2015年に日本の年金積立金管理運用独立行政法人(通称:GPIF)がPRIに署名したのを機に、金融業界では気候変動リスクなどを含むESG投資が広がり、投資額は336兆円に達しました。前年比45%増で伸びており今後も大きく拡大すると予想されています。
企業に注目されるESG経営はSDGs達成のための手段の1つです。とくに気候変動に対してはCO2排出量の削減が必須であり、これまでの企業活動を見直し適応させていくことがカギとなります。また、CO2排出量の削減のみならず、人権尊重やガバナンスもESG経営には重要です。ESG経営に取り組むメリットを考えていきましょう
ESG経営を行うことでESG投資を呼び込みやすくなります。ESG投資は現在の投資額の全体の3分の1を占めており、今後も世界的に拡大が見込まれます。
全世界がESGに動いているため、国や金融機関自体もESGへの取り組みを本格化させています。その結果として、ESG経営に取り組む企業に投融資が生まれやすくなるという循環となっているのです。
ESG経営に取り組むことでステークホルダーとの関係性を強化できます。企業には株主はもちろん、顧客や従業員、関連会社など、多くのステークホルダーが存在します。
もっといえば企業は、マルチステークホルダーといわれる株主・顧客・従業員・取引先・行政・地域社会といった多くのステークホルダーに囲まれており、ESG経営は全ステークホルダー主義とも言い換えられます。
多種多様なステークホルダーが対等な立場で参加し、協働して、課題解決にあたる合意形成の枠組みを「マルチステークホルダー・プロセス」といいます。政府も持続可能な発展は社会のあらゆる側面の変革を要する壮大なプロセスと位置づけており、ステークホルダーとの関係性強化は今後ますます重要になります。
ESG投資の呼び込みやステークホルダーとの関係性強化は企業価値の向上につながります。
企業価値は現在の株価や財務諸表だけでは評価されません。企業価値を構成する要素には財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会関係資本、自然資本の6つの資本増幅があります。ESG経営とは中長期的に自然資本を縮小せずほかの資本を増大させる取り組みとも言えます。
企業が発信するESGレポートなどでこれらの取り組みが周知されれば、投資家はそれを好意的に受けとめ、企業の継続的な発展の可能性を評価します。
ESGに取り組むことで利益などの財務指標以外の評価軸を獲得でき、企業の多様な側面を総合的にみて判断されるようになるのです。
一方でESG経営は企業の生き残りにとって必須課題です。今後はESG経営に配慮しない企業は、サプライチェーンから外れされ、投資対象からも外されると考えておくべきでしょう。
投資対象としてもパートナー企業としても、また、顧客企業や消費者からも選ばれなくなっていく可能性があります。そうならないためには自然資本や社会関係資本にも目を向けていかねばなりません。
今後はESGへの取り組みが、企業がステークホルダーから選ばれ続けるための手段となり、将来に向け生き残っていくための必要条件となるのです。
企業がESG経営にどのくらい取り組んでいるのか、その度合いを評価するための評価指標は複数存在します。それぞれの指標によって取り組みに対する評価が変わってきますので、自社に合った指標を選ぶことが大切です。また指標の開示もステークホルダーと会話するために極めて重要です。ここでは指標と開示方法についてご紹介していきます。
投資家の投資判断に有用とされるものにESG スコアがあります。
評価機関としては世界中で数千社の環境、社会、ガバナンスに関連する企業の業務について、詳細な調査や格付けから分析までを提供するMSCI ESGリサーチや、2000年から活動している気候変動等のグローバルな情報開示基盤を提供するCDPがあります。
これらに加えてESG指数としては、最も歴史があり知名度の高いS&PグローバルによるDJSI Worldなどもあり、大きくは金融機関やサービスから派生している評価期間とESG専門で立ち上がった評価機関に別れており、自社、及びスタークホルダーとの相性から、どの評価機関にあわせていくかを検討することになります。
パリ協定を契機に政府による企業の脱炭素経営の促進が進められています。各企業の取り組みについてESGスコアに加えて、いくつかの専門分野に別れて、第三者認証という形で評価を得る方法もあり、実際の企業にも多く使われています。
脱炭素に向けた目標設定を科学的な根拠により評価する、サイエンス・ベースド・ターゲット・イニシアチブ(SBTi)や、事業活動における「使用電力」を100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブである、RE100などがその代表例です。
ESG経営に取り組む企業の多くは、そもそもの目的のひとつである多くのステークホルダーと深い会話をしていくために、ESG情報の開示にも積極的に取り組んでいます。2022年4月に東京証券取引所が導入した市場区分のプライム市場のコーポレートガバナンス・コードには、ESGに関する適切な対応と情報開示に主体的に取り組むことが記載されており、ESG情報の開示は今後の必須対応となるでしょう。
情報開示にはガイドラインがあり、それに合わせることが主流となっています。ガイドラインは複数あり、大きくは財務系と非財務系に分かれます。各枠組みの違いや特徴を理解して、自社の開示の目的や対象に合った枠組みを活用することが重要です。詳しくみていきましょう。
出典:ニッセイアセットマネジメント株式会社|グローバルの主要ESG情報開示基準等の関係図
財務系の開示方法としては、上場企業の注目が集まるコーポレートガバナンス・コードがあります。コーポレートガバナンス・コードとは上場企業が企業統治するためのガイドラインです。
2021年に改訂され、ESG課題の積極的な取り組みと証券取引所が上場会社に提出を義務づけている、CG報告書の更新が必要となりました。また、株式を発行する上場企業などが開示する有価証券報告書などが財務情報の開示の仕方の中心を占めます。
非財務系の開示方法では、気候変動が企業や機関の財政面にどのような影響を与えるのかについての情報開示をするTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が多くの企業に使用され実質的なスタンダートとなりつつあります。また、経済・環境・社会の各項目についての開示項目や指標を設定するGRIスタンダードや、77の産業別に具体的な開示項目・指標を設定している米国を中心とするSASBスタンダードも多く使われています。
非財務系は気候変動対策シナリオやビジネスモデル、対応する人的資本などの開示が中心にはなりますが、財務情報と結び付けて開示することも多く行われています。
また、EUでは2021年4月に既存の非財務情報開示指令(NFRD)を厳格化して適用対象を大幅に広げる「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」を公表しました。
統合報告書は国際統合報告評議会の作成ガイドラインが示す財務およびESG全般に対応した、財務系と非財務系の開示方法を合わせたものです。
中長期の企業の経営戦略、社会貢献や環境問題への取り組み、企業統治の仕組みと財務諸表による業績分析などが記載された、企業の今後の価値創造についての方針と戦略についての報告書といえるでしょう。
日本企業においては統合報告書でESG情報の開示をすることが多くなっています。
ESGの重要性はわかっていても、専門チームをつくるリソースがない場合、それを経営に反映させる方法がわからず、二の足を踏む企業も多くあるようです。以下、ESG経営に取り組む際の進め方について解説します。
第1ステップは多様な社会課題のなかから、自社にとって重要な社会課題を特定することです。企業として社会に存在する価値は何か(パーパス)、自社のビジネスする範囲や強みを社会的に貢献できることは何かを、置かれた状況や強み、現在と将来の資産を鑑みて考えます。
また、パーパスを設定し、ビジョン、ミッションを明確にできればその企業が進むべきゴールがイメージできるようになるため、そこに向けた新たな技術の採用やビジネスモデルの創出などイノベーションが起こりやすい状況を創り出しやすくなります。
第2ステップは取り組むべきマテリアリティ(重要課題)の選定です。マテリアリティは長期ビジョンを基に策定します。
企業として社会的にどのような役割を果たすか、長期的な見通しをもって考えることが大事です。可能であれば、カーボンニュートラルを目指す、2030年から2050年までのビジョンを掲げたうえでマテリアリティを設定していくことが望ましいでしょう。
第3ステップは具体的な目標を設定します。長期ビジョンを踏まえた中短期の目標や取り組みの具体化です。その際には科学的で論理的な検証や評価が必要です。そうすることで実務レベルまで配慮した細かい検討ができ、取り組みを全社規模で展開する際にスムーズに進みます。
取り組みや目標の設定を中期経営計画の期間に合わせるなど実現可能かつ評価のしやすい目標を設定するのもよいアプローチかと思われます。定性・定量目標を示せば現場サイドにも浸透しやすくなります。
ESG経営は短期ではその成果や効果が望みにくいものです。長期視点を担保するシステムであることが重要です。経営者が替わっただけで取り組みが滞ったり、会社の経営状態によって中止するようでは意味がありません。
企業のあるべき姿を示す企業理念や、存在意義を組織に根付かせ引き継ぐ仕組みであるからこそ、企業価値を創造し続けられるのです。
情報開示を自発的に行っていくことも大きなポイントといえます。社会課題解決とビジネスの両立を可能にし、かつ長期目線でそれを実行していくためには、多くのステークホルダーの理解を得ることが必須だからです。
企業の理念やビジョンを実践することにより、どのような経営を目指すのか、イノベーションを通じて、どのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのか、わかりやすいストーリーに仕立てて伝えるなどの、対話を構成する継続的な努力も必要となります。
ESGでは環境問題だけでなく人権尊重やガバナンスも重要です。企業はそれぞれの分野でどのようなアプローチをしているのでしょうか。ESG経営の取り組み事例をご紹介しましょう。
HPは国連の示した持続可能な開発目標に沿った意欲的なアジェンダを策定して、戦略的にESGに取り組んでいます。
HPは2025年までに気候変動対策として自社おペレ―ションにおけるカーボンニュートラルと廃棄物ゼロ、再生可能エネルギー 100%を達成し、人権面や強みを活かしたデジタル格差をなくすことで1億人にもおよぶ人々の学習成果向上を目指しています。
2030年には幹部職で50対50のジェンダー平等の達成など人権問題の解決も掲かかげ、2040年にはバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量ネットゼロの達成が目標です。
企業として長期的な目標を示すロードマップをかかげ、視線は国連の示した目標より先を見据えています。また、評価指標としてはいくつか設定されていますが、中心となるのはCDPの評価であり、現在複数年にまたがってトリプルAを獲得している数少ない企業です。
花王株式会社は持続可能で豊かな共生世界の実現を使命とし、中期経営計画でも「未来のいのちを守る会社」としてESGを経営の根幹に据えた事業運営に取り組むとしています。ESG部門を中心に「最小限の資源で最大価値」というアプローチで全社あげてESG活動を推進しています。
花王がかかげるESGコミットメントとアクションでは「快適な暮らしを自分らしく送るために」「思いやりのある選択を社会のために」「よりすこやかな地球のために」が基盤です。
持続可能な原材料の調達やリサイクルシステムの構築、水資源の保全などの取り組みで、2030年までにステークホルダー・エンゲージメントの向上を目指すとしています。
株式会社野村総合研究所は2014年に環境推進室を設置し、社内を横断的に動くことのできる環境問題対策を検討する、環境推進委員会を立ち上げました。環境の情報開示をはじめとしたESG情報開示を強化しています。
評価機関やインデックス会社が評価の基準に採用している情報を確認できる、ESGデータブックを運営しています。
また、ESG投信としてESGコア指数連動型ファンドや脱炭素への貢献をもとに選定したファンドなどの商品を展開し、投資家がESG投資を行いやすい環境を提供することでESGに貢献する経営を実践しています。
株式会社メンバーズは「CSV戦略コンサルティング・CSV型プロモーション実行支援」を提供しています。ここでいうCSVは「Creating Shared Value」の略で「社会課題の解決とビジネス目標の達成を同時に実現させる」という意味を持ちます。
同社は企業のマーケティング支援という事業活動を通じて、顧客企業がCSVを実現するための手助けを行っています。具体的には以下の取り組みです。
企業のESGへの取り組みを投資基準とするESG投資は、欧米ではすでに全投資額の3分の1を超えるほどの規模になり、日本でも年々この規模は膨らんでいます。
ESG経営と向き合い、取り組みに着手することは今や企業の大小を問わずすべての企業における喫緊の課題であるといえます。ESG経営に取り組む際は、自社が世の中に存在する価値(パーパス)を見直し、社会に対して提供する価値について具体的にしていくと同時に、大きなESGの潮流のなかでどのようなビジネス成長の機会を見出すのかを見極めなければなりません。
具体的にどのような取り組みをすればよいのかについては、HPのサステナブルインパクトレポートもぜひ参考にしてみてください。
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