2022.07.25
パリ協定は、気候変動と温室効果ガス排出抑制をかなえるために、2015年に採択された国際的な合意の枠組みです。京都議定書が採択された後、気候変動に関する議論は継続されたものの各国の意見が分かれていたために国際的な強い合意には至っていませんでした。
その後長い年限をかけて議論され、2015年に満場一致で採択されたのがパリ協定です。本記事ではパリ協定の概要や合意までの変遷、各国や日本の取り組み状況までわかりやすく解説します。
パリ協定は、気候変動問題に関する2020年以降の取り組みを定めた国際的な合意の枠組みです。京都議定書から一歩進んだ合意形成が為された歴史的な合意であるとされています。
パリ協定に至るまでは非常に長い道のりを経ており、京都議定書のあと、
などを経て2020年までの削減目標リスト化、各国における削減目標を国連文書に掲載することなどが徐々に整理されてきました。
その結果が実り、2015年のCOP21において満場一致で採択されました。
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は、1992年にブラジルで行われた国連環境開発会議において採択された条約で、155カ国が署名を行いました。COPとはConference of the Partiesの略で、国連気候変動枠組条約締約国会議のこと。1995年より毎年開催され、各国の環境大臣が集います。
UNFCCCでは、参加している各国が温室効果ガスを安定させることといった大枠のみが決められ、具体的な目標値や取り組みなどは、COPにおいて決定されています。
京都議定書は、1997年開催のCOP3において採択された国際的な合意の枠組みです。京都議定書における最大の特徴は、気候変動を引き起こしている温室効果ガスは、主に先進国が排出しておりその責任もそれらの先進国にあるというものでした。
これに対してパリ協定では、先進国と途上国には「共通だが差異ある責任」があるとし、途上国にも温室効果ガス排出削減を求めました。
1992年に採択されたUNFCCCは、参加国を途上国と先進国にわけた上で、取り組み上の義務などに差異を設けました。それを踏襲し京都議定書では、先進国のみに対して数値目標を伴う削減が義務とされることになりました。米国が京都議定書に参加しなかったことも、ここに理由が求められます。
その後、インド・中国を代表とする大国でも温室効果ガス排出が大幅に増えました。世界へのインパクトを考えても、途上国の削減義務を設けずに有効な施策を行うことには限界があったといえるでしょう。
2011年のCOP17ダーバン合意において、途上国を含む新たな枠組みに関する取り組みが開始され、4年後のパリで採択されたのがパリ協定です。
この間
が行われ、各国における2020年以降の削減目標の提出時期が定められました。
パリ協定は2011年のダーバン合意から、4年もの年月がかけられ、交渉が行われた結果採択されたのです。
パリ協定における正式な合意目標は、産業革命以前と比較して気温上昇幅を平均2度以下に抑えることです。
その後、2018年にIPCCから「1.5°C特別報告書」が発行されました。これを契機に、世界中における気候変動への危機感がより高まったことから1.5°未満への抑制が努力目標とされ、より優先的な目標として現在の国際的コンセンサスは、この1.5°未満を目指すこととなっています。
参考・出典:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「1.5℃特別報告書(*)」の公表(第48回総会の結果)について│環境省
パリ協定にはどのような意義やインパクトがあったのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
パリ協定以前、京都議定書までの合意は、主に先進国に対して温室効果ガス排出量の削減を求めるものでした。それに対して、パリ協定では途上国を含む196カ国が削減目標を持つことになった公平な合意かつ、満場一致で採択されたことが最も大きな特徴となっています。
参考・出典:パリ協定│一般社団法人 地球温暖化防止全国ネット
長期的に「世界における平均気温上昇を産業革命以前と比較して2℃より低くし、加えて1.5℃に抑える努力をする」という世界共通の目標を設けました。世界各国のコンセンサスが1.5℃となったのには前述のとおり、IPCCが発行した「1.5°C特別報告書」が大きく影響しています。
上記の世界共通長期目標については、5年毎にすべての国が2023年以降、取り組みの進捗について報告し、レビューを受けることが決められています。これはグローバルストックテイクと呼ばれており、パリ協定では第14条に定められています。
各国がどのような取り組みを行っているか見ていきましょう。
バイデン大統領は、大統領選直後に道徳的、経済的に気候変動に取り組む必要があるとしてパリ協定に復帰しました。温室効果ガス排出削減については、2030年までに2005年比で50%以上の削減を行うとし、2025年26−28%削減としていた当初の目標をほぼ2倍に引き上げています。
欧州委員会では、2030年までに主要な100都市においてカーボンニュートラル化を目指すとしています。さらに環境への影響を鑑みて、ガソリン車の新車販売を2035年までに取りやめるなど具体的なロードマップを定めました。
中国政府は、カーボンニュートラルの目標値について2030年までにピークアウトし、他の国よりも遅い2060年にカーボンニュートラルを実現するとしています。中国における温室効果ガスの排出量は世界の約30%を締めており、大幅な削減が求められている状況です。
インドでは、2010年代における大幅な経済発展が温室効果ガスの排出に繋がりました。モディ首相は「インドの人口が世界の17%を占めるのに対して、排出量は5%である」とその少なさを強調した上で、さらに気候変動抑制のためには、先進国からの資金や技術が欠かせないとしています。
具体的なインドにおけるカーボンニュートラルの目標は、「2070年までに温室効果ガス排出量ネットゼロ」です。これは中国・ロシアの2060年目標よりも10年遅く、批判の声も上がっている状況です。
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日本における具体的な取り組み状況を見ていきましょう。
グリーンファイナンスは、クリーンエネルギーへの投資など、環境保護に関する事業に対する資金提供を意味する言葉です。日本においては、主に一般社団法人グリーンファイナンス推進機構が情報収集や事業支援などの活動を行っています。
さらに環境省の資金をもとにグリーンファンドを組成しており、主に各種クリーンエネルギー開発などに投資されています。
参考・出典:グリーンファンド(地域脱炭素投資促進ファンド事業)│環境省
日本では、2013年に「インフラシステム輸出戦略」を掲げました。インフラ設備の受注実績は、2010年に10兆円、2018年には25年となり増加傾向です。新型コロナウイルスの感染拡大を受けたことで、これまでの輸出戦略を見直し、今後5年を見据えて新たな戦略を設けたのが「インフラシステム海外展開戦略2025」です。
「インフラシステム海外展開戦略2025」における3つの柱は、
であるとされています。
参考・出典:環境インフラ海外展開の動向と支援について│環境省
インフラシステム海外展開戦略2025(令和3年6月改訂版)│官邸
国際協力は、気候変動分野において欠かせません。環境協力への覚書締結や、姉妹都市協定を結んでいる国内都市と海外都市の連携を生かし、国内における脱炭素都市設計ノウハウを海外都市に移転する計画もあります。これまでに日本では15の地方自治体・13か国39都市が参加しています。
パリ協定に基づき、参加した国全てが温室効果ガス排出削減目標を定めなければなりません。世界における温室効果ガス排出削減をより効果的に進めるため、パリ協定6条には削減した排出量を国家間で移転できる市場メカニズムがあります。
世界における脱炭素市場やビジネス機会が活性化すれば、排出削減と同時に各国における経済成長にも貢献でき、2030年時点で20兆円の脱炭素に関する市場が見込まれています。しかし各国で目標が達成できない場合、炭素税や国家間の排出権取引などで、経済的にマイナスの影響を受けることは避けられない点には留意が必要だといえるでしょう。
世界各国が合意したパリ協定が企業に与える影響には、どんなものがあるのでしょうか?
パリ協定における決定は、企業経営について、ESGを意識せざるをえないものにしました。日本政府が温室効果ガス排出を2030年には46%削減、さらには50%削減も目指していることから、企業にも排出削減の努力が大いに求められます。
これは実質的に、脱炭素経営・ESG経営への半強制的なシフトを求められるものです。市場全体においては、金融市場・大企業とそのサプライチェーンとなる中小規模企業の順に、全産業が一体となって取り組んでいく土壌がすでにできているといえるでしょう。
ESG投資のポテンシャルは現在世界で約4500兆円ともいわれています。主要な金融機関・投資家は、融投資を決定する際に企業がどのように環境問題に取り組んでいるか必ず確認するようになっています。
ESGに取り組んでいない企業は、投資を得ることが難しくなる可能性があるのです。
関連リンク:今さら聞けないESG投資とは。企業が取り組むメリットを事例とともに解説
消費者や従業員の間でも環境に関する意識が大きく変化しています。消費者はよりエコフレンドリーな製品やサービスを求めるようになっており、従業員も環境に取り組んでいる企業へ行きたがるようになるなどの影響が考えられます。
これまで、取引先の選定は納期や品質、価格などが主要な検討項目でした。それも変わりつつあります。政府目標を達成するには、自社の取り組みのみでなく、サプライチェーン全体における取組と評価が欠かせません。
サプライチェーン全体の取り組みを評価するには、まず排出量算定のために取引先を含むステークホルダーの協力が必要となってきます。サプライチェーンや取引先は、納期や価格のみでなく、温室効果ガス排出について具体的な目標を掲げ、取り組み、協力姿勢のある企業かどうかが評価されることになるといえるでしょう。
温室効果ガス排出削減には、場合によってビジネスモデルやサプライチェーンの見直しが必須です。また、温室効果ガス排出削減に取り組むことで新たなイノベーションが生まれ、企業価値が向上するなど、大きな新しい機会があるといえるでしょう。
そのためにはまず、
といった2つの視点から検討することが重要です。
パリ協定は、満場一致で採択された、2020年以降の取り組みにおける国際的な合意の枠組みです。すでに述べたようにパリ協定と、その後の世界潮流によって、企業経営は脱炭素へと向かうことが必須命題となりました。
持続可能な社会を構築していくためには、どの企業も脱炭素経営に舵を切らざるを得ません。時間的制約もある以上、経営として対応が遅れれば遅れるほど、後から急激な変革策を実施しなければならなくなります。取り組みの開始は早ければ早いほどよいといえるでしょう。
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