2022.07.25
サーキュラーエコノミーとは、環境問題や将来的な資源不足の解決策として注目されている、経済の在り方を示す概念です。用語自体は見聞きしたことがあるものの、詳しい内容や自社の取り組みに反映する方法がわからない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、サーキュラーエコノミーの意味や重要性、サーキュラーエコノミーを実践する企業の事例などをわかりやすく紹介します。企業において環境に関する取り組みを行っている方はもちろん、興味がある方はぜひ参考にしてください。
サーキュラーエコノミーとは、原材料や製品を循環させ、廃棄物や汚染を低減しながら、経済的な成長を実現するための、新たな経済システムを表す用語です。日本語では「循環型経済」と訳されます。
ただし、サーキュラーエコノミーの考え方や対象とする範囲には国や組織によって様々です。基本的な方向性は同じではあるものの、画一的な定義が決められているわけではありません。一例として、経済産業省の資料ではサーキュラーエコノミーが「あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、付加価値の最大化を図る経済」と表現されています。
参考・出典:サーキュラーエコノミーへの転換に向けて│経済産業省
サーキュラーエコノミーとリサイクルは混同されやすいものの、指す内容が異なる概念のため、そもそも比較されるものではありません。
大量生産・大量消費・大量廃棄といった従来型の経済は線形経済(リニアエコノミー)と呼ばれます。線形経済を継続した場合、将来的に資源が枯渇してしまうことは明白です。そのため、サーキュラーエコノミーへの転換が必要です。
サーキュラーエコノミーは前述のとおり、無駄な資源投入量を抑え、廃棄物を出さずに資源を循環させる経済の枠組みです。下図のようにサーキュラーエコノミーを実現するための取り組みの一つとして、リサイクルが包含されます。
リサイクルには、大きく分けて以下の3つの手法が含まれます。
ただし、EUの基準ではサーマルリサイクルが熱回収やエネルギー回収の取り組みとして扱われ、リサイクルには含まれません。
平成12年に公布された循環型社会形成推進基本法では、循環型社会が「天然資源の消費が抑制され、環境への負荷ができる限り低減された社会」と定義されています。
循環型経済の実現によって成り立つ社会が循環型社会と捉えることが可能です。循環型経済と循環型社会は、ともに資源や製品が循環する持続可能な在り方を表します。
サーキュラーエコノミー推進機関の一つであるエレン・マッカーサー財団によると、サーキュラーエコノミーは以下の3つの原則に基づくと定義されています。
・Eliminate waste and pollution(廃棄物と汚染の排除)
1つ目の原則は、廃棄物や汚染の排除です。サーキュラーエコノミーを実現するためには、活動において生じる廃棄物や汚染の量を少なくする必要があります。
・Circulate products and materials(製品と原材料の循環)
2つ目の原則は、製品と原材料の循環です。製品や原材料の価値を保ったまま循環するための仕組みが求められます。
・Regenerate nature(自然の再生)
3つ目の原則は、自然の再生です。環境への負荷を最小限にとどめることが、自然の再生につながります。
参考・出典:Circular economy introduction│Ellen MacArthur Foundation
様々な背景から、国内外では従来型のリニアエコノミーから、サーキュラーエコノミーへの転換が求められています。ここでは、サーキュラーエコノミーへの転換が求められる背景について解説します。
資源やエネルギーの需要が世界的に高まっていることが、サーキュラーエコノミーへの転換が必要な理由の一つです。
国際連合による世界人口推計データでは、2050年には世界人口が97億人に到達すると見込まれています。また、新興国の将来的な成長に伴って、国際的な資源需要も増加する見込みです。経済産業省の資料によると、2015年には880億トンだった世界の資源採掘量が、2060年には2倍以上の1,900億トンへ増加すると予測されています。
このように資源採取の増大における資源の枯渇リスクに備えるためには、サーキュラーエコノミーへの転換が重要です。
参考・出典:サーキュラーエコノミーへの転換に向けて│経済産業省
廃棄物量が世界的に増加していることも、サーキュラーエコノミーへの転換が求められる背景となっています。2016年に20億トンだった世界の一般廃棄物量は、2050年には34億トンまで増加すると予測されています。
ごみ処理に関する問題も無視できない要因です。ASEANなどの東南アジア諸国では、2018年ごろから廃棄物輸入規制が導入されました。また、国境を越えた廃棄物の移動に関するバーゼル条約が改正され、輸出国側にもプラスチックごみの規制が行われるようになっています。
これらを受けて、国内で廃プラスチックを処理する必要性が高まったことも、サーキュラーエコノミーへの転換が求められる理由です。
参考・出典:サーキュラーエコノミーへの転換に向けて│経済産業省
環境問題の深刻化も、サーキュラーエコノミーへ転換するべき要因として挙げられます。地球温暖化に伴う異常気象は、世界的に重要視されている環境問題の一つです。地球温暖化を防ぐには、原因である二酸化炭素を増やさないことが重要です。サーキュラーエコノミーへの転換は、二酸化炭素の排出量・吸収量を均衡させたカーボンニュートラルの実現につながります。
また、プラスチックごみによる海洋環境の悪化なども、解決するべき環境問題です。サーキュラーエコノミーでは廃棄物の量が抑えられるため、海洋環境の問題解決も期待されます。
関連リンク:企業がカーボンニュートラルに取り組む方法は? メリットや実践事例まで解説
ESG投資とは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に関する情報を踏まえた投資のことです。企業経営の持続可能性を評価する指標として、従来の財務情報に加えてESGが重視されるようになりました。
また、ESG投資の規模が国内外で急拡大していることは、サーキュラーエコノミーへの転換を加速させています。環境に対する中長期的な企業価値を高める取り組みとして、サーキュラーエコノミーへの転換は重視されています。
日本政府はこれまでに、サーキュラーエコノミー実現に向けた取り組みや、方針・ガイダンスの策定などを実施してきました。ここでは、日本のサーキュラーエコノミーへの取り組みや政策を紹介します。
環境省では、専門家を交えた会議を開催し、プラスチック資源の循環に関する具体的な施策について議論を重ねてきました。議論の結果を受けて、「プラスチックに係る資源循環の促進などに関する法律案」が2021年3月に閣議決定され、第204回国会に提出されています。
同法律案は、プラスチック廃棄物の排出量の抑制や、製造事業者などが務めるべき環境配慮設計などの基本方針を策定したものです。また、プラスチック廃棄物の分別収集に関する内容も含まれています。
バイオプラスチック導入ロードマップとは環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省が合同で策定したものです。バイオプラスチックの導入に向けた基本的な方針や、生産設備・技術開発支援など、サーキュラーエコノミー実現に向けて必要な施策が整理されています。
ロードマップを策定する際に基となったプラスチック資源循環戦略の目標は、2030年までにバイオマスプラスチックを約20万トン導入することです。政府は目標達成に向けて、ロードマップの国内外への発信や、導入に向けた取り組みを実施しています。
環境省と経済産業省は2021年1月に「サーキュラーエコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」を合同で策定しました。
このガイダンスは、プラスチック資源循環に取り組む企業が、ESGへの取り組みを重視する投資家から評価される基盤を作るためのものです。戦略や価値観、ビジネスモデルなど6つの項目について、達成した成果指標や価値創造のストーリーを説明するポイントが解説されています。
参考・出典:サーキュラーエコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス│経済産業省
2019年6月開催のG20大阪サミットで、日本が提案した「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が各国の首脳間で共有されました。大阪ブルー・オーシャン・ビジョンに含まれる目標は、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにすることです。
また、目標達成に向け、2019年6月に開催されたG20の関係閣僚会合では「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」が採択されました。この枠組みに基づいて、各国は定期的な情報共有と効果的な対策を実施していくことが決定されています。
環境問題に関する国際的な会合で、議論の取りまとめなどを行っていることも、日本政府の取り組みです。
海洋プラスチックごみおよびマイクロプラスチックに関する専門家会合(AHEG)の第三回目以降、日本政府はアジア太平洋グループの地域会合の議長と、全体会合のビューロを務めています。また、2020年8月と11月に開催されたAHEG4では、日本政府が全体会合の議長となり、議論の取りまとめに貢献しました。
サーキュラーエコノミーの実現に向けて、「PaaS」という概念が注目されています。ここでは、PaaSの概要やメリットについて解説します。
PaaSとは「Product as a Service」の略称です。読み方は「パース」で、日本語では「サービスとしての製品」や「製品のサービス化」などと訳されます。
PaaSは、企業が所有している製品を顧客に提供するビジネスモデルです。一般的に、PaaSは月額や年額などの定額制で利用できるサブスクリプションサービスとして提供されます。
製品そのものを長期にわたって継続使用することが前提であるため、エネルギー投入量と廃棄物量の抑制につながります。またPaaSの中には電力をはじめとする資源の使用状況を可視化し、最適化できるタイプのものもあります。
PaaSは、消費者(ユーザー)と企業(ベンダー)の双方にメリットがあります。主なメリットは以下のとおりです。
・初期投資の負担が減る
製品を購入する場合と比べて、PaaSはより安い初期コストで導入できます。
・メンテナンスを自社で行う必要がない
PaaSには製品の保守サービスが含まれていることが多いため、メンテナンスを自社で行う必要がありません。
・利用しなくなったときに製品が残らず廃棄が不要
PaaSは契約終了時に提供企業へ製品を返却する仕組みのため、消費者側で廃棄せずに済みます。
・継続課金による定期的な利益が得られる
PaaS製品は利用されている間、利益が継続的に発生します。
・ユーザーからのフィードバックが製品開発やマーケティングに役立つ
高評価を受けている点や改善すべきポイントなど、ユーザーからの有益なフィードバックが得られやすくなります。
・新たなビジネスにつながる可能性がある
ユーザーからのフィードバックをもとに新たなサービスを提供したり、PaaSとして提供する製品に広告枠を設けるなど、ビジネス機会につながることも企業側にとってのメリットです。
企業間取引におけるメリットとして、PaaSへの切り替え自体がESG経営の取り組みとなる点が挙げられます。
PaaSや、PCやタブレットなどのデバイスをサブスクリプションで利用できる「DaaS(Device as a Service)」の導入が、サーキュラーエコノミーへの転換につながります。製品を買って減価償却して捨てるという従来の方式から、PaaSやDaaSに切り替えることで、CO2排出量の削減が可能です。
また、製品を購入し固定資産化したうえで、減価償却していくこれまでの形態と異なり、PaaSやDaaSは販売管理費用として処理が可能です。そのため、営業利益の良化に貢献することが経営視点におけるメリットです。さらに、機器や端末を固定資産にしていないため、異動や転職など人材の流動化に伴った柔軟な手配が可能となります。
すでに、国内外の様々な企業が、サーキュラーエコノミーへの転換に貢献できるPaaSを提供しています。主な事例は以下のとおりです。
HPのマネージドプリントサービス(MPS)は、プリンターの運用・管理を総合的にサポートするPaaSです。MPSには、次のような内容が含まれます。
・サービス
印刷環境の最適化や印刷セキュリティの改善などに必要なコンサルティングを受けられます。
・ソフトウェア
セキュリティやモビリティ、ワークフローを実現するためのソフトウェアソリューション群が提供されます。
・ハードウェア
ニーズに合わせて、幅広い印刷機の選択が可能。またハードウェアレベルでの高いセキュリティを実現していくこともHP MPSのメリットです。
・サプライ
HP純正品が自動的に配送されるなど手間なく手配されます。さらにHP MPSは在宅勤務で使用する自宅用プリンターにも対応可能です。
用紙節約テクノロジーや省エネテクノロジーにより、地球資源に配慮されていることもMPSの特徴です。HP MPSに切り替えることで、保守管理の時間や手間を省き、より優先度の高い業務に集中しながら、サーキュラーエコノミーの実践が可能です。
フィンランドのメーカーTamturboは、空気圧縮機のPaaSを提供しています。オイルを使用しない独自の設計により、従来の空気圧縮機と比べて環境負荷を下げている点が、同社の製品の特長です。
また、エネルギー効率が高いため電気代を節約できます。さらに、部品の摩擦箇所を減らし製品を長寿命化させていることも、サーキュラーエコノミーへの転換に貢献しているポイントです。
参考・出典:Oil Free Air Compressors|Tamturbo
空調機器メーカーのダイキン工業は、業務用エアコン定額利用サービス「ZEAS Connect」を提供しています。ZEAS Connectは業務用エアコンの機器本体と、取付工事や異常通知メール機能、修理サービスなどをワンパッケージ化したサービスです。
熱交換器のメンテナンスサービスなどによる消費電力の節約や故障防止が、サーキュラーエコノミーの実践につながります。
原材料や製品を循環させるサーキュラーエコノミーへの転換は、地球環境をはじめとする様々な課題を解決するために重要なテーマです。資源投入量や廃棄物の量を少なくするための製品・サービス設計や、それらの導入によってサーキュラーエコノミーの実現に貢献できます。
PaaSやDaaS製品の導入など、比較的簡単に取り組める活動を実践しながら、ビジネスモデルの変革を図るといったステップ別のアプローチも有効と考えられます。
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