2022.06.28
気候変動を抑制するために多くの国と世界中の企業でカーボンニュートラルへの実践が始まっています。そもそもなぜ企業がカーボンニュートラルに取り組む必要があるのでしょうか? そしてどんな取り組みが実践されているのでしょうか? CO2排出には企業活動が大きく関わっていることを認識したうえで、グローバルにおけるESG経営の潮流や、消費者意識の変化を理解し、持続可能性の高いビジネスモデルへの移行を実践していくことが求められています。企業がカーボンニュートラルに取り組む必要性やそのインパクトについて、包括的に解説していきます。
カーボンニュートラルとは、二酸化炭素などに代表される温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることです。つまり、温室効果ガスの排出量から、植物などによる吸収量を差し引いた時に残る温室効果ガス排出量の合計をゼロにすることを目標とする取り組みです。
カーボンニュートラルの取組みでは、温室効果ガス排出量そのものの削減と、吸収を促進する森林などの保全の両方を行う必要があります。
カーボンニュートラルが注目される背景には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。政府の方針や国際的な動き、企業を取り巻く環境の変化が挙げられます。
日本政府は2020年10月、「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表しました。2050年までに、脱炭素社会の実現を目指すとしています。
長期間の移行期間を確保することで、より確実な脱炭素社会への移行を行う目論見です。また、2030年における温室効果ガス削減目標が26%削減から46%削減(2013年度比)へと、大きく引き上げられたことも話題になりました。
政府の大胆な取り組みや、投資家が石油事業から投資を引き上げるなど、カーボンニュートラルを意識した意思決定が増えてきています。これまでの「エコへの取組み」のみにとどまらず、より大きな持続可能性(サステナビリティ)へのアクションという視点で捉えることが重要です。
日本は、1992年に成立した京都議定書以降、途上国を含めたすべての国による気候変動対策を主張してきました。
2020年以降の温室効果ガス排出削減における国際的な枠組みとして、COP21で採択されたのがパリ協定です。歴史上はじめてすべての参加国が合意となった意義のある協定だといえるでしょう。
パリ協定には、長期目標として地球の平均気温上昇を2度以下に抑えることと、努力義務として1.5℃以下という数値が盛り込まれました。現在では、1.5℃以下というのが世界共通のコンセンサスになっています。
関連リンク:パリ協定とは?内容や合意までの変遷、カーボンニュートラルなど企業に与える影響など
企業を取り巻くステークホルダーや、ガバナンス構造も変化していることがカーボンニュートラル推進の背景にあります。中長期に渡る成長を見据え取引先や消費者、労働市場など複数のステークホルダー(マルチステークホルダー)が参加する新しいガバナンス構造の中では、環境問題への取り組みも大きな評価ポイントになりました。
金融機関や投資家も、カーボンニュートラルに取り組む企業を評価するようになってきている事実は、継続的かつ安定的な資金調達という観点からも無視できません。
GSIA(Global Sustainable Investment Alliance/世界持続可能投資連合)の調査によると、日本のESG投資はグローバルで大きく出遅れているものの、年々増加傾向にあります。
参考・出典:GSIA “2018 Global Sustainable Investment Review”
近年、消費者意識も大きく変容しています。気候変動や地球温暖化に代表される環境問題を受け、消費者がより環境にやさしい製品やサービスを選ぶ傾向にあります。こういった傾向は、とくに若年層に顕著に見られ、将来を背負う世代では今後、当たり前の選択肢になっていくことも想定できるといえるでしょう。
日本政府は、「あらゆる主体の行動変容を促すことができる」手段として、温室効果ガスを削減するために炭素税の導入を検討しています。カーボンニュートラルは世界共通の取り組むべき課題であり、炭素税の有無に関わらず取り組むべき必須命題です。とはいえ、炭素税の導入によりインセンティブが働き、取り組みが促進される効果は期待できるといえます。
日本では、類似の税である「地球温暖化対策のための税」がすでに導入されています。
企業が今、経営の観点からカーボンニュートラルに取り組むメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?
カーボンニュートラルに取り組むことで、お客様やビジネスパートナーからの評価に繋がります。
消費者、特に若い世代はカーボンニュートラルやESGという考え方に敏感です。製品やサービス、そしてプロセスを通じてカーボンニュートラルに取り組むことで支持を得られるでしょう。またカーボンニュートラルは企業単体で達成できるものではありません。サプライチェーン全体が共同体となって取り組む必要があります。必然的に、カーボンニュートラルを実践する企業は、よきビジネスパートナーとして評価されることになります。
一方で取り組んでいない企業については、サプライチェーンから取り残されるなどのリスクが生じる可能性も否定できません。グローバル企業がサプライヤーにカーボンニュートラルの取り組みを求めるケースも増加しています。
カーボンニュートラルに取り組む過程で、エネルギーをより効率的に使うため、技術的なイノベーションが進むと考えられています。半導体や先進的な原子力発電、デジタル領域などが主な領域です。また企業がカーボンニュートラルに取り組み、環境負荷の低いビジネスモデルにシフトすることで、エネルギーや資源の観点から、持続可能性の高いビジネスを構築できます。
もともと、日本のイノベーション創出の弱さは問題視されてきました。しかしカーボンニュートラルに呼応するように、世界は大きく変革しています。CO2ゼロ社会に向け、日本企業も変革していかなければ、生き残れなくなる可能性が高いといえるでしょう。カーボンニュートラルに取り組むことは、企業における抜本的な変革に取り組むチャンスでもあるのです。
現在におけるビジネスモデルや技術の延長ではカーボンニュートラルの実現は考えにくいため、イノベーションが生まれやすくなるのです。
カーボンニュートラルは、資金調達にも大きな影響を及ぼすようになっています。世界中の金融機関に課せられた金融機関自体のカーボンニュートラルへの取り組みの中心がESG経営を実践する企業への投融資であり、投資家もそのような企業が市場で評価されることを見越し、投資先を選別するようになっています。
ESG投資について詳しくはこちら。
今さら聞けないESG投資とは。企業が取り組むメリットを事例とともに解説
政府は「2050年カーボンニュートラルの実現には、民間企業による脱炭素化投資の加速が不可欠」であるとし、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制を設けています。
また、自治体においても補助金や助成金を設けている場合があり、これらの制度を利用できる点は早く取り組みを始めるメリットのひとつです。
カーボンニュートラルの取り組みスピードは業種によって異なるのが実情です。それぞれの業界で構築しているエコシステムにより、気候変動から受ける影響度の違いもありますが、そのスピードを早めていくためには、業界を超えた協働作業により対応度を高めていく必要があります。
日本国内で多数を占めている産業は製造業や小売業です。エネルギーや食品、農業、運輸業といった気候変動の影響を直接的に受ける業界に加え、これらの企業における、いち早い正確な取り組みが、経済を成長させながら実現させる日本全体でのカーボンニュートラルのキーポイントとなっていくでしょう。
カーボンニュートラルの具体的な施策や推進方法には、どのようなものがあるのでしょうか。
サプライチェーン排出量とは、取引先などを含む企業活動全体の温室効果ガス排出量を指します。カーボンニュートラルに取り組むには、まず自社でのCO2排出量を算出し、削減目標を立て、実践していく方法論を計画、次にサプライチェーンでの排出量を測定し、目標を定め、開示し、削減に取り組むことが必要です。
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、世界各国の中央銀行総裁・財務大臣からなる国際的な気候関連財務情報開示タスクフォースです。
投資家などに適切な情報を提供するために企業へ気候関連財務情報開示方法をガイドしています。温室効果ガス排出量を算出するために国際基準が設けられており、Scopeという枠組みが定められています。
Scope1
Scope1は、企業による温室効果ガスの排出を指します。主に燃料の燃焼や工業プロセスが該当します。
Scope2
Scope2は、他社から得たエネルギー(電気・熱・蒸気)使用による間接的な排出を指します。
Scope3
Scope3は、Scope1・2以外の排出で、取引先などのサプライチェーン全体における排出を指します。
エネルギーや材料の調達過程であるサプライチェーンの見直しも、カーボンニュートラルの実践では必須分野です。
より効率的な輸送や調達先やいち早くカーボンニュートラルに取り組む企業を見つけることで、二酸化炭素などの温室効果ガス排出を抑制できるといえるでしょう。
風力発電や太陽光発電、風力発電など、再生可能エネルギーに切り替えることは、カーボンニュートラルにおけるポピュラーな方法です。再生可能エネルギーに切り替えることで、環境負荷を減らし、カーボンニュートラルに貢献できます。
カーボンプライシングとは、二酸化炭素などの温室効果ガス排出に対して価格を付ける仕組みです。政府が価格を付ける炭素税などの制度と、排出権取引などの需給に応じて市場で価格が付けられる仕組みの2通りがあります。
インターナルカーボンプライシングは、大企業が各部門に対し、温室効果ガス排出量に応じ費用負担させる仕組みです。効果的にカーボンニュートラルに取り組む方法として採用されています。
企業がカーボンニュートラルを実践するには既存の事業をどのようにCO2ゼロへと転換させるのか、またCO2ゼロの新しい社会の中で、どのような価値を提供し続けるのか、という二つのことを検討し実践していくことが重要です。変化に適応するために、今まさに企業は変革を求められているのです。
カーボンニュートラルの企業事例を見ていきましょう。
日用品メーカーの花王では、製造から廃棄までの段階において、環境について評価し、負荷が小さい製品の提供に努めると宣言しています。「豊かな生活文化の実現」と「社会のサステナビリティへの貢献」を掲げ、取締役会のもと脱炭素に取り組んでいます。
具体的には、毎月規模の大きい工場における二酸化炭素排出量や水の使用量をレビューし、それらのレポートに基づいて翌年の社内における排出量目標を決定しています。
きめ細かい運営がされている事例であり、海外の外部機関からも高く評価されている代表的な企業です。
イオンでは、2018年に「イオン 脱炭素ビジョン」を策定。店舗から排出される温室効果ガスを脱炭素の取り組みにより総量ゼロにするとしています。
地域で生産される再生可能エネルギーを地域で利用する「再エネの地産地消」にも取り組んでいます。
また顧客が脱酸素型ライフスタイルを実現できるよう、脱炭素型住宅の開発や、リフォームも提案しています。店舗、商品・物流、顧客といった3つの視点から、総合的な取り組みを行っている事例です。
参考・出典:お客さまとつくるサステナブルストーリーを、これからも。│イオン
明治グループでは、脱炭素社会の実現のためにグループ全体で具体的な数値目標を定め取り組んでいます。
KPIとして
などについて、実績を公開しています。
持続可能かつ責任のあるサプライチェーンの構築を目指し、調達ポリシーや行動規範を定め、人権や環境に配慮しています。高いモラルを維持するためのメッセージと具体的な施策を打ち出し、自社内の調査だけでなく、サプライヤーにもアンケートを取り、改善に努めていることも特徴です。
セコムグループでは、2030年までに温室効果ガスを2018年度比で45%削減するという目標を打ち出しました。サプライチェーン全体での削減を目指し、86%ものサプライヤーが算定に協力し、売上高あたりの排出量を算出しています。
自社施設へ太陽光発電設備や省エネ機器を設置するなど具体的な取り組みも行いつつ、社内啓蒙活動にも継続して取り組みながら温室効果ガス削減を目指す方針です。
ほとんどのサプライヤーが算出に協力しており、サプライチェーンを巻き込んだ活動が成功している事例だといえるでしょう。
凸版印刷では、サステナビリティ推進体制を構築し、社をあげて網羅的なサステナビリティ活動に取り組んでいます。経営陣直下にサステナビリティ推進委員会を設け、さらにワーキンググループを設けました。SDGs推進では、注力すべき9つの分野と活動内容について定めたTOPPAN Business Action for SDGsを策定。
気候関連財務情報開示タスクフォースに準拠したシナリオ分析を行い、ESGに関する情報開示を行っています。
今後は、委員会の意思決定力向上やトッパングループ全体としての活動強化、ESG 情報開示の充実と外部評価のさらなる向上を課題として挙げていますが、国内ではまだ少ない模範的な事例であるといえるでしょう。
現在、全世界の企業が目指すのは、SDGsを実現するためのESG経営です。言い換えれば、CO2ゼロつまりカーボンニュートラルが実現され、格差がゼロの世界です。そのような社会の中で、ビジネスを継続していくために、カーボンニュートラルは企業活動にとって今や必須であり、またビジネスにとって大きなチャンスともいえます。
CO2ゼロ・格差ゼロの世界において、いったいどのようなビジネスを展開していくべきなのか、まずは将来に渡っての企業の存在価値であるパーパスを改めて設定し、それに向かって向かう道とゴールである明確なビジョンやミッションを持ち、社内外に徹底していくことが今重要です。カーボンニュートラルに向けての活動に加え、それらビジョンやミッションを達成するための変革を成し遂げていくことが同時に必要だといえるでしょう。
【関連リンク】
・カーボンフットプリントが重要な理由とは? 事例も交えてわかりやすく紹介
https://jp.ext.hp.com/techdevice/sustainability/planet_sc40_14/
・企業が取り組むべき脱炭素社会実現のための取り組みとは? 国内外の取り組みを中心に事例も交え解説
https://jp.ext.hp.com/techdevice/sustainability/planet_sc40_15/
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