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2022.06.28

カーボンニュートラルとは?欧米や日本の取り組みや現状、企業の実践方法を解説

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地球温暖化を始めとした気候変動へと対応する取り組みとしてカーボンニュートラルが注目を集めています。国際社会は、環境問題を受けて、長い時間をかけてカーボンニュートラルのための合意形成を行ってきました。

本記事では、カーボンニュートラルについての歴史的な経緯や背景、欧米や日本国内の取り組み、企業がどのように向き合うべきか、について包括的かつわかりやすく解説していきます。

1. カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、人間の活動により発生する二酸化炭素などの温室効果ガス排出量を差し引きゼロにするという概念です。具体的には、温室効果ガスの排出量から、植物などが吸収する量を引き、その結果がゼロになることを目指します。カーボンニュートラルのゴールは、「温室効果ガスの増減をプラスマイナスゼロにすること」と捉えればわかりやすいでしょう。

2. カーボンニュートラルが注目される背景

カーボンニュートラルが注目される背景には何があるのでしょうか。

①地球温暖化という気候変動が与える深刻な影響

気候変動の中で最も重要なものが地球温暖化です。二酸化炭素などの温室効果ガスが原因となり、地球全体の平均気温が急激に上がる現象です。地球温暖化はカーボンニュートラルに取り組むもっとも大きな理由だといえるでしょう。

地球規模で急激に気温が変動すると、生態系への深刻な影響や、深刻な自然災害にも繋がります。

健康へのリスク・居住環境へのリスク・紛争リスク・人権リスクなどが連鎖的に積み重なり、サステナビリティ(持続可能性)の実現が困難となってしまいます。そのために必要なのがカーボンニュートラルへの取り組みです。

②ESG投資の拡大と注目

一方、企業活動に目を向けるとESG投資の拡大が背景として挙げられます。ESGは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を表す言葉です。

企業活動においても、持続可能性が大きく問われるようになりつつあります。気候変動はすべての人類の活動が産んだ結果であるため、それらの活動そのものを見直す必要がありますが、それを企業経営の視点から実践していくのがESG経営だといえるでしょう。

また企業経営の出発点でもある投資家・金融機関からの融資という視点でももちろんESGが重要視されています。カーボンニュートラルに取り組まない企業は、投融資の対象から外れる可能性が高くなるのです。

私たちすべての循環活動が見直されなければ、気候変動のスピードは止められません。多くの研究者たちによってこの気候変動の中心となる気温上昇とCO2の累積排出量の関係性が指摘され、証明されてきました。つまりCO2の累積排出量に制限をかけなければ気温上昇のスピードは抑制できないといえます。

このような背景により、カーボンニュートラルへの取り組みが全世界で求められているのです。

関連リンク:今さら聞けないESG投資とは。企業が取り組むメリットを事例とともに解説

3. 候変動など環境問題対策を取り巻く歴史

カーボンニュートラルを取り巻くこれまでの変遷を整理していきましょう。

①COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)の歴史

1992年に採択された、温室効果ガスの排出を抑制し、濃度について安定化させることを目標とした「国連気候変動枠組条約」を契機に世界全体で温暖化対策が始まりました。この条約に基づいて、国連気候変動枠組条約締約国会議いわゆるCOP(Conference of the Parties)が毎年開催されることとなっています。日本では、1997年に京都で開催されました。

②世界中で温暖化に取り組むきっかけとなった京都議定書

京都議定書は、1997年に開催されたCOP3で採択されました。COPに参加する先進国に対して、「1990年比において、2008年から2012年に、5%の温室効果ガス削減」を要求するという内容です。日本は6%の削減について約束し、目標を達成しました。

京都議定書の意義は、世界で初めて削減目標を設定し、各国が温暖化に取り組んだことにあるといえます。反対に、「温暖化を引き起こす大きな要因を作ったのは先進国である」という考えから、京都議定書では途上国には削減目標が課されませんでした。

アメリカが2001年に京都議定書からの離脱を表明し、一時は意義が危ぶまれたという経緯があります。

③脱炭素社会を目指すパリ協定

パリ協定は、2020年以降の枠組みとして、COP21で採択されました。パリ協定は、京都議定書とは異なり、先進国と途上国含む約200か国が同様に目標設定を行いました。合意内容は、産業革命以前と比べ、平均気温の上昇を2度以下にするというものです。

その後、IPCC(気候変動に関する政府間パネル:Intergovernmental Panel on Climate Change)より「1.5℃特別報告書」が発表され、2℃以下ではなく1.5℃以下を目指すということが現在の国際的なコンセンサスとなっています

関連リンク:パリ協定とは?内容や合意までの変遷、カーボンニュートラルなど企業に与える影響など

4. カーボンニュートラルにおける世界の動向

世界におけるカーボンニュートラルの取り組みはどうなっているのでしょうか? 各国の状況を見ていきましょう。

①EU

EU政府は、2018年にA clean planet forallという「ビジョン」をもとに気候変動対策を行うと発表しました。環境イノベーションファンドを作り、再生エネルギーの活用や二酸化炭素の使用と保存などへの投資を強化する方針です。さらに低炭素技術を研究し、市場に浸透させたい考えのもと施策を検討中です。

②イギリス

イギリスでは、カーボンニュートラルに取り組む上で、電力需要が現在の倍以上に上ると予測しています。これは、電気自動車の普及やエネルギーの大幅な電化が要因です。2050年の電力構成予測では、再生エネルギーが半分以上を占めます。

その一方で、農業や航空分野のCO2排出量は残ると考えているため、相殺する必要があるとしています。

③アメリカ

バイデン大統領は、大統領就任初日にアメリカがパリ協定に復帰すると宣言しました。オンラインで気候変動サミットを開始するなど積極的な環境政策を打ち出しています。アメリカ国内のエネルギーサプライチェーンを強化するため研究に取り組む方針です。

さらに再生可能エネルギー・電力セクターなどに2兆ドルの投資を決定しました。

  • 気候変動対策
  • 再生可能エネルギーの活用
  • 雇用を増やす

という、いわゆるウィン・ウィン・ウィンの実現を目指します。

④中国

世界の工場と言われ経済発展が著しい中国では、二酸化炭素の排出量も過去数十年で右肩上がりとなっています。

習近平国家主席は2020年に、「2030年までに二酸化炭素排出量を減少させる」と発表しました。中国では電気自動車市場が急速に拡大しています。新車販売における電気自動車・ハイブリッドカー・燃料電池車・水素自動車などの比率を、現在の5%から20%に引き上げるとしています。

また2060年ではありますが、カーボンニュートラルを実現すると表明しました。

5. 日本におけるカーボンニュートラルの取り組みと目標

世界各国はカーボンニュートラル実現に向けて大きく舵を切っています。日本の取り組みはどうでしょうか。

①2030年に向けた取り組み

日本では、菅政権によって2030年度に温室効果ガスを2013年度に比べ、46%削減する方針が発表されました。この目標は2020年10月に大幅に引き上げられた数値です。これには2050年にカーボンニュートラルを宣言している日本としては、2030年に26%削減という目標では、2050年でのカーボンニュートラル達成には間に合わないという背景があります。アメリカ・カナダもそれぞれ目標数値引き上げを表明しました。

(1)取り組みの基盤3E+Sとは

3E+Sは、エネルギー自給率(Energy Security)、経済効率(Economic Efficiency)、環境(Environment)について安全性(Safety)を前提としながら取り組むという概念です。

エネルギー自給率については、3.11前の20%を超えた約25%を2030年度に実現する目標を設定しています。経済効率については、電力コストの引き下げを行うことで実現するとしています。環境(Environment)については2030年度に2013年度比で-26%を目標値としました。

(2)2030年度までに100か所の「脱炭素先行地域」を作る

横断的な取り組みとして、地域社会において、2030年度までに100か所の「脱炭素先行地域」構築を目標に掲げています。脱炭素先行地域をモデルとし全国に伝播することで2050年以前に脱炭素を達成したい目論見です。令和4年度~令和12年度には再エネ推進交付金も設けるとされています。

(3)全国で重点対策を実行

全国で重点対策である自家消費型太陽光、省エネ住宅、ゼロカーボンドライブなどを浸透させる見込みです。国や自治体においても、各施設に太陽光発電を最大限導入していく方針です。

②2050年に向けた取り組み

(1)改正地球温暖化対策推進法の制定

2021年5月に改正地球温暖化対策推進法が成立しました。「2050年までの脱炭素社会の実現」を基本理念として位置付け、地域社会における脱炭素の取り組みを促進します。また、企業に対しても脱炭素経営への舵取りを促します。

(2)グリーン成長戦略

グリーン成長戦略は、環境に配慮した経済成長を実現するための政策です。2050年のカーボンニュートラルに向けて脱炭素電源への取り組みが必要だとしています。また、「グリーン成長戦略の重点14分野」を定めてそれぞれに目標数値と何年までに目標を達成するか定めた実行計画を策定しています。

<成長が期待される14分野>

エネルギー関連産業

洋上風力・太陽光・地熱
水素・燃料アンモニア
次世代熱エネルギー
原子力

輸送・製造関連産業

自動車・蓄電池
半導体・情報通信
船舶
物流・人流・土木インフラ
食料・農林水産業
航空機
カーボンリサイクル・マテリアル

家庭・オフィス関連産業

住宅・建築物・次世代電力マネジメント
資源循環関連
ライフスタイル関連

6. カーボンニュートラルはSDGsとも深い関わり

SDGsとは、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略で、030年までに、より持続可能な世界を目指すという目標です。2015年に行われた国連サミットにより採択されました。

カーボンニュートラルも、SDGsに定められた目標につながる取り組みの一つだといえるでしょう。SDGsには17の目標と169のターゲットから構成されています。

カーボンニュートラルは、SDGsの目標のうち

  • 7再生可能エネルギーの活用
  • 13気候変動への具体的な対策

などに深く関わっています。

7. カーボンニュートラルが抱える問題点

カーボンニュートラルが抱える問題点にはどのようなものがあるのでしょうか。

①再生可能エネルギーのコスト

現状では再生エネルギーコストが高いことは日本における大きな問題だといえます。その一方で、国を挙げてこの問題に取り組みはじめており、2050年の電源構成比予測では、石炭・石油・ガスの化石燃料を使う火力発電はほぼ存在していません。

カーボンニュートラルを達成するにあたり、再生可能エネルギーコスト問題の解決は必須課題だといえます。そのため、段階的に日本でも自然エネルギーの普及とともにコストが抑えられていくでしょう。

関連リンク:再生可能エネルギーのメリットや課題とは?世界と日本の取り組みと企業の取り組みまで解説

②予測できなかった環境問題が現れる懸念も

カーボンニュートラルに取り組む中で、予想外の環境問題が現れる可能性も指摘されています。たとえば、再生可能エネルギー設備による生態系の破壊・太陽光パネルの損傷や産業廃棄物の問題が挙げられます。

再生可能エネルギー設備の耐久年数は数十年であるため、廃棄の費用などの見積が難しい点も懸念材料です。

③新興国におけるCO2排出がより増える可能性

京都議定書においては、先進国と途上国に「共通だが差異ある責任」があるとして先進国のみに排出量削減が課されました。CO2排出は経済発展にともなって増えることから、これからは新興国においてより排出量が増えるとされています。先進国が新興国の取り組みをサポートするような枠組みが求められます。

④原子力発電の稼働が高まる

カーボンニュートラルには各国における電化の取り組みが欠かせません。欧州委員会では、エネルギー需要の高まりから原子力発電を「クリーンエネルギー」と位置付けました。

原子力発電に対し、化石燃料からの脱却には欠かせないとしたことは、国内外から大きなインパクトを持って受け止められています。一方で、日本における原子力発電拡大に対する世論の理解は他国に比べて難しいことが懸案材料とされています。

⑤EVなどの生産でもCO2が排出される

エネルギー効率の良いEVなどの新エネルギー車の生産にも、急激に変革を進める中で生産過程におけるCO2排出が指摘されています。このことも踏まえて、カーボンニュートラルに対する実践計画を練る必要性があります。

またサプライチェーンのグローバル化は企業規模を問わず行われており、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル計画と実践が急務でしょう。

⑥政策の失敗

政策の失敗も懸念点のひとつです。政策は各国によって違いますが、各国が大規模の予算を投下し、カーボンニュートラルに向けて動き始めています。日本でも政策に対する予算を大幅に拡大しています。

政策は企業活動そのものに多くの直接的影響を与えるため、政策の失敗はそのまま企業や産業変革の失敗に繋がってしまいます。このような背景から、企業側から政策への適切な提言も今後重要となっていくでしょう。

8.企業がカーボンニュートラルを実現するための手法

企業において、カーボンニュートラルを実現するための手法にはどのようなものがあるのでしょうか? 具体的に見ていきましょう。

①GHGプロトコルにおけるScope1~3とは

カーボンニュートラルを実現するために欠かせない、Scopeの考え方について解説していきます。GHGプロトコルはGHG(温室効果ガス)排出量を算出するために設けられた国際基準です。GHGプロトコルにおける枠組みがScopeで、1から3まで分類されています。

Scope1

Scope1は、企業自らによる温室効果ガスの直接的な排出です。燃料の燃焼や工業プロセスが該当します。

Scope2

Scope2は、電気・熱・蒸気など他社から得たエネルギー使用による間接的な排出を指します。

Scope3

Scope1、Scope2以外の間接的な排出を指し、企業のサプライチェーンにおける、取引先などの排出が該当します。

カーボンニュートラルを実現するには、Scope3を対象に含めた取り組みをしなければなりません。

Scope3は以下の15のカテゴリに分類されています。

  1. 購入した製品・サービス
  2. 資本財
  3. Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー活動
  4. 輸送、配送(上流)
  5. 事業から出る廃棄物
  6. 出張
  7. 雇用者の通勤
  8. リース資産(上流)
  9. 輸送、配送(下流)
  10. 販売した製品の加工
  11. 販売した製品の使用
  12. 販売した製品の廃棄
  13. リース資産(下流)
  14. フランチャイズ
  15. 投資

②将来における機会とリスクを洗い出し目標を設定する

カーボンニュートラルにおける取り組みでは、将来的なリスクを洗い出し、取り組むべき分野とその目標を決めることが重要です。将来的なシナリオ分析の具体的な方法などについて、政府機関から資料も提供されており(例えば、TCFD(後述)などで標準化されている気温4°C、2°C上昇のそれぞれのシナリオなど)、シナリオ分析を行うことで、不確実な未来に対して複数の未来が予想できます。

これにより、急な変化にも柔軟に対応でき、レジリエンスの高い経営が実現できると考えられています。そして、企業はこれらを公開することで、各ステークホルダーと未来を共有することが大切です。

たとえば、東芝グループでは、Scope1~3において定めた目標値を公開しています。すでに取り組んでいる企業の実践内容を知ることも有効です。

参考・出典:TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド Ver3.0~│環境省

③CO2の排出量を算出、把握する

自社の活動におけるCO2排出量算出、把握はカーボンニュートラルを目指すための一歩です。サプライチェーンにおける企業活動をScope3の分類にあてはめ、データを収集しCO2排出量について算出、現状を把握していきましょう。

サプライチェーン排出量は、Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量という方程式で算出されます。自社のみで企業活動が完結することはまれなため、取引先などサプライチェーン全体の計測環境を整える必要もあります。

参考・出典:サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ│環境省

④情報を開示し削減に継続的に取り組む

活動状況や削減効果などの情報を開示し、継続的に削減に取り組んでいくフェーズです。開示のためのフレームワークはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)でも提言されています。

TCFDが推奨している気候関連情報開示項目は、

  • ガバナンス
  • 戦略
  • リスク管理
  • 指標と目標

です。

日本では、経団連も情報開示を企業に推進しています。

参考・出典:気候関連財務情報開示に関するガイダンス 2.0│TCFD

9.まとめ:脱炭素経営へ向けた検討をはじめよう

欧米諸国に呼応する形で、日本もカーボンニュートラルに向けて大きな方針を示しています。企業のカーボンニュートラルへの取り組みは社会からの要請だといえるでしょう。

脱炭素化された社会の中でどんなビジネスや活動を行うかは企業に対する期待でもあります。気候変動に取り組み、未来と今をつなぐために、脱炭素経営への取り組みをすぐに検討、実施しましょう。

【関連リンク】

・カーボンフットプリントが重要な理由とは? 事例も交えてわかりやすく紹介
https://jp.ext.hp.com/techdevice/sustainability/planet_sc40_14/

・企業が取り組むべき脱炭素社会実現のための取り組みとは? 国内外の取り組みを中心に事例も交え解説
https://jp.ext.hp.com/techdevice/sustainability/planet_sc40_15/

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