2024.08.19
ビジネスにおいて今や一番ホットな話題といえば生成AIだろう。日本中の注目がAIに集まる中、2024年6月6日に東京ミッドタウンホールで開催された「インテル AI Summit Japan」。AI活用の今後をリードするNPUを採用した、新デザインプロセッサー「インテル® Core™ Ultra プロセッサー(コードネーム Meteor Lake)」の登場で大きな期待が寄せられているインテル主催のイベントだけに、会場には多くの来場者が訪れ、立ち見が出るほどの大盛況だった。当日の基調講演を中心に、イベントの模様をお届けしよう。
開演前のにぎわいを見ただけで来場者のAIに対する期待が分かる
AI PCを始め、AIソフトウェア、最新デバイスなども展示されていた
「インテル AI Summit Japan」は、AIハードウェアおよびソフトウェア開発者らとの連携強化と、AI領域における強固なエコシステムの確立を目的として開催されるイベントだ。AIワークロードにおけるハードウェア開発、オープンソースのソフトウェアやツールの提供、エコシステムの構築、エッジデバイスへのAI展開、パートナーや事例の紹介などを中心にセミナー形式で発表された。
開会のあいさつをする鈴木会長
新社長の大野氏もAI時代への期待を語る
基調講演はインテル コーポレーション 主席副社長 兼 セールス・マーケティング・コミュニケーション統括本部長 クリストフ氏による「Bringing AI Everywhere、AIの可能性、課題、そしてインテルの戦略」、インテル株式会社 代表取締役会長 鈴木 国正氏による「インテルが拓くAIの未来」が発表された。
世界的な生成AIの盛り上がりについて解説するクリストフ氏
冒頭、登壇したクリストフ氏は、「AIについて語るときにはインターネットを抜きにすることはできません。インターネットの誕生によって、世界は革命を迎えました。AIはインターネットによって、Web以上の普及をみせています」と語り、AIの発展やそれに伴う時代の変化について紹介した。
「AIの総市場ですが、半導体のマーケットは2030年代には1兆ドル規模になっていきます。ただし、現時点では多くの企業がAIの導入に関して苦戦していることも事実です。どこから手を付ければいいのか、どのように導入すればよいのか悩んでいる企業も多いようです」と、現状の市場の拡大と課題について語るクリストフ氏。
同氏は続けてインテルが掲げる「AI Everywhere」の戦略の中で開発された「インテル® Core™ Ultra プロセッサー」をはじめとして、AIソフトウェアやシステムまで積極的に開発に携わっていると発言。「このプロセッサーは、CPU・GPU・NPUなどのアーキテクチャをチップ上のシステムで成立させています。この設計に関するアイデアこそが、今後のAI開発に関する重要なものになります」とクリストフ氏は語る。
また、「インテル® Core™ Ultra プロセッサー」を搭載する、いわゆる「AI PC」の市場の評価も高く、すでに800万台以上を出荷し、2024年末までに4,000万ユニットの出荷が完了するという予測もあるのだという。
続いて同氏は「AI PC」の開発パートナーとして重要な企業として日本HPを紹介。代表取締役 社長執行役員の岡戸 伸樹氏の登壇を促した。
壇上に岡戸氏を招くクリストフ氏と快く応える岡戸氏
壇上に上がった岡戸氏に対し、クリストフ氏は「初のサプライヤーとして、AI PCを提供してくださっているということで、日本のみなさんにどのような製品が提供できるのか教えてください」と質問を投げかける。
これに対し、「AIに関する期待ということですが、すでにこの会場でも立ち見が出でていることでもおわかりいただけるように、大きな関心を持っていただいています。
HPでは昨年、世界の12カ国を対象にビジネスリーダーの方々がAI PCにどのような興味関心を持っているのか、ということについての調査を行いました。
日本の調査の結果を例にとりますと、65%のビジネスリーダーの方がAIを使って生産性や創造性の向上を図っていきたいと回答されています。また、60%のリーダーの方から、ワークライフバランスの向上に使えるのではないかという回答がありました。AIという新しいテクノロジーを使って仕事のやり方を変えて、大きなビジネスオポチュニティーがあるという期待がよくわかるものでした。
私も日本のお客様企業のCEOやCIOの方と会う機会が多いのですが、AIを使い始めている会社さんが増えてきていると感じています。同時に、現在のAIはサーバーをベースにしていることもあり、もう少しレスポンスを早くしたい、セキュアでプライバシーが担保できるような環境で扱いたいという声もあります。
本当に大きな期待があると同時に、もっと活用していくためには、利便性や安全の向上についてのニーズもあるのではないかと考えています」と語る岡戸氏。
クリストフは岡戸氏に対し、「お客さまが望んでいることやどういったアプリケーションを探しているのか、またAI PCをどのような現場で使っていくのか、などについてはどのような声が届いているのでしょうか」と質問を投げかけた。
岡戸氏は、「まずはAI PCについてですが、AI PCというのはクラウドに移動することなく、エッジ側でAIの処理ができるPCの総称になります。
これまでAIといいますと、クラウド中心の議論でしたけれども、先ほども800万台がすでに出荷されているということで、エッジのAIをどのように組み合わせるか、これは本当に大きなポイントかなと思います。業界に限らず、今後は大きな議論になってくると考えています」と発言。
岡戸氏は続けて、「AI PCの特長ですが大きく分けると、スピード、コスト、セキュリティ、そしてパーソナライゼーション、この4つが大きな特徴ではないかと考えています。
あるデータによりますと、クラウドで処理をするよりもエッジで処理をした方が5倍速いという結果も出ています。また、処理をするコストについてもエッジの方が80%安くなるというようなデータも出ております。
さらに重要なのは、セキュアでプライバシーが担保される環境でパーソナライズされた生成AIを活用できるというところが本当に大きなポイントかなと思います。
これまでのPCは万人の生産性を改善するような、『パーソナルコンピューター』という意味があったと思います。しかしこれからは、PCとは個人に寄り添って、常に横にいるような形でより創造的な仕事をサポートする『パーソナルコンパニオン』の略称としての『PC』に移行していくのではないかと思っています。
HPは特にAI PCに注力をしており、幅広いポートフォリオをご用意しています。さきほど、数年後には市場規模も数倍になるようなお話がありましたが、我々としても売上げの半分くらいをAI PCにしていこうという形で最注力の領域として努力しています。
また、それだけ個人情報が集まっているPCですから、ハッカーの格好のターゲットにもなり得ます。我々HPはビジネスPCのセキュリティに関するアーキテクチャの刷新にも取り組んでいます。例えば、量子コンピュータからのハッキングにも対抗できるような、世界初の技術を搭載したPCの提供も始めています。
もちろんハードウェアだけではなく、AIを推進していくためには、アプリケーションも非常に重要な領域となります。
インテルさんではAI PCのプラットフォームに向けたアプリケーションの開発キットと、OpenVINO™ツールキットなどを提供されていますので、我々のようなハードウェアベンダーからすると一番のアライアンスパートナーだと考えています。
こうした点からも、これからもタッグを組んでAI PCを日本に拡げていくというようなことをしていきたいと思っています」と語った。対話を終え、壇上を後にした岡戸氏に対して会場からは大きな拍手が送られた。
クリストフ氏はその後、次世代Lunar Lakeは年内発表予定で、20のPCメーカー様から80のモデルが市場投入予定であることや、2026年までに半数以上のエッジコンピューターはAI処理が主流となり、Intel® Tiber™ Edge PlatformでOpenVINO™ツールキットなどのAI開発支援について発表をおこなった。
「AIに関していえば、非常にエキサイティングな時代に我々は生きていると思います。よく『AIは怖いですか?それとも単なる機械ですか?』といった質問をされることがあります。私はテクノロジーというのは、常に中立なものであると考えています。そこからなにを生み出すか、ポジティブな面もネガティブな面も見ていかなければならないと思っています。あらゆる企業がAI企業になっていく流れの中で、どのように使っていくのかが重要になるでしょう」と語り、壇上を後にした。
途中、Articul8 創設者兼CEOのアルン・スブラマニヤン氏による、インテル® Gaudi® AI アクセラレーターを活用した企業向け自律型生成AIプラットフォームのプレゼンテーションをはさみ、基調講演は後半へと続いていく。
鈴木 国正氏による講演は「インテルが拓くAIの未来」となっており、日本市場のAI動向を中心に話題が展開していった。冒頭、AI市場が大きく伸びている現状を踏まえつつも今なお企業でのAI活用には課題があるという鈴木氏。同氏は「電力や資源の問題もありますが、データセキュリティやプライバシーに関しても当然ながら注視していく必要があります。リスクを抑えてどれだけのベネフィットを最適化できるか、という包括的な考え方が必要になってきます」と警鐘をならす。
その課題解決を考えていくには、「インテルのAI Everywhereという考え方を進め、企業やひとつのアーキテクチャに束縛されることなく、豊富な選択肢の中で自由に開発できる環境を提供していくことも必要であろうと考えています」と鈴木氏は語った。
続いて鈴木氏は、AI開発環境を大きく進歩させるといわれるインテル® Gaudi® AI アクセラレーターの優位性や、ベンチマークを紹介。パフォーマンスで良好な結果を出すと同時に、既存プログラムを簡単に更新できるソフトウェア・スイートが用意されていることなども解説した。
今後のAI活用のキーマンとなる3名を交えてのトーク
次に壇上にはインテル® Gaudi® AI アクセラレーター環境でのソフトウェア開発プログラム「インテルAI PC Future Tech Ideathon」の審査員を担当したベンチャーキャピタルの3社が呼ばれた。それぞれ、「ビッグテックの用意している環境では、コストやセキュリティ面での課題があったが、AI PCの登場によって使い勝手もよくなり、可能性も広がったと感じている。(株式会社ディープコア シニアディレクター 三宅 俊毅氏)」
「我々はスタートアップ企業に対する投資育成事業をおこなっている立場としても、AI PCによって、クラウドではなくパーソナルな環境で利用するソフトウェアを開発していくことを非常に楽しみにしています。(株式会社サイバーエージェント・キャピタル 執行役員 速水 陸生)」
「エネルギーセクターなどでは中央集権から分散処理へと変化した流れがあります。他の業界などでも、AI PCにより効率よくスピーディーに処理していくことができるのはメリットです。(スクラムベンチャーズ合同会社 パートナー マイケル松村)」といった、声を聴くことができた。
インテルは今後、あらゆる企業はもちろん、官学との連携も強化いくという鈴木氏。特に人材育成については力を入れている様子が見て取れる。「AIに関してはセキュリティやコストについての課題がよく語られます。しかし一番大きなところでは、それに関連する人材が不足しているということがあります。過去の事例でいえば、十数年前になりますが、インテルでは全国の学校に教育プログラムの提供や、教育の機会を提供するということをやってきました。今はAIの時代になって、『インテル・デジタルラボ構想』でさらに包括的な活動へと進化しています。小中学校などから、高等教育機関・企業・政府・自治体などまで含めるということで、デジタル国家構想にもつながっていくものとなっています。こういう活動を通じて、多くの人材育成にも貢献できると考えています。デジタルラボ関連教材として、『AI for Citizens』や『AI for Future Workforce』なども用意しています」と鈴木氏は最後に語った。
基調講演のフィナーレを飾った大野新社長
鈴木氏のプレゼンテーションが終了を迎えた後に登場したのは、インテル株式会社の新しいリーダー、代表取締役社長に就任した大野 誠氏だ。同氏による基調講演のまとめをクロージングとして午前の講演はフィナーレとなった。AIをけん引する企業の言葉だけに重みがあり、AIを活用していこうと考えている来場者にとって、非常に有意義な情報をたくさん届けてくれた講演だった。
午後のセッションをリードされた安生氏
午後に開催されたのは、「AI PC」、「データセンター向け生成AI」、「開発ソフトウェア/エッジAI」の各テーマによって分科会となったセッションだ。一番来場者が多かったAI PCをテーマとしたA会場は、インテル株式会社 技術本部 部長 工学博士 安生 健一朗氏による、「AI PC向けインテルの製品ポートフォリオおよびAIアプリの紹介」からスタートとなった。この講演では、インテルがAI開発に至る経緯や社会的な背景、インテル® Core™ Ultra プロセッサーのアーキテクチャ解説や実際のパフォーマンス事例などが紹介された。
会場でプレゼンテーションをおこなったチームBのメンバー
続いてのセッションでは、「インテル® Core™ Ultra プロセッサー搭載AI PC向けインテル Future Techビジネス・アイデアソン受賞作品の紹介」がおこなわれた。これはインテル® Core™ Ultra プロセッサーとOpenVINO™ツールキットを組み合わせたAIアプリ開発のアイデアを競ったもので、上位のチームにはAI PCがプレゼントされるというもの。優秀賞のチームBが出したアイデアは、RPAツールをAIで作成する「AI Intern」で、会場でおこなわれたプレゼンテーションに大きな拍手が送られた。最優秀賞はチームFの能動的に授業を支援する「教育支援向け課題解決支援AI」となり、会場には来ることはできなかったが、ビデオメッセージに来場者から賞賛の拍手が送られた。
短期間で評価の高いアプリを開発した入矢氏とトロフィーを手渡す安生氏
続いても同じくインテル® Core™ Ultra プロセッサーとOpenVINO™ツールキットを組み合わせによるAIアプリ開発プログラム「学生コンテスト受賞者によるインテル® Core™ Ultra プロセッサーとOpenVINO™ツールキットの組み合わせを活用した新しいAIアプリの紹介」というセッションが開かれた。「インテル® プレゼンツ OpenVINO™ツールキット学生向けAIコンテスト」の結果発表という形式で参加者らが開発したソフトウェアが紹介された。驚かされたのは、3月に募集開始、4月に1次審査、5月に最終審査という短いスケジュールだった。こうした過酷な準備期間の中で6つのチームが、「Taltner 対話コミュニケーション補助ツール」「AI×ホログラム」「集中力サポートツール FocusOn」「OVStudy 子供向け英単語勉強アプリ」「リアルタイムモデル推論アプリ」「生活向上ソフト アキレス」などを発表。短い期間でもアイデアを形にできるOpenVINO™ツールキットによる開発環境の実力を示すこととなった。
クロストークで会場を盛り上げた4名
インテル株式会社 執行役員 マーケティング本部 本部長 上野晶子氏
インテル株式会社 インダストリー事業本部 シニア・ソリューション・アーキテクト 坂本尊志氏
ITジャーナリスト 三上 洋氏
株式会社メディアジーン Tech Insider編集チーフ 小林優多郎氏
AI PC分科会の最後を締めくくったのは、インテル株式会社の上野 晶子氏、同じくインテル株式会社の坂本 尊志氏、ITジャーナリストの三上 洋氏、そしてモデレーターとして同席したTech Insider編集チーフの小林 優多郎氏らによる「本音で語る、AI PC導入のポイント」と題されたクロストークセッションだった。
上野氏は、同じAI PCを購入しても、それぞれの環境でAIの育ち方が変わるという意味で「AI PCは『たまごっち』だ」と発言、会場を沸かせた。坂本氏もAI PCの登場により、自身がPCマニアでもあることから、「ビジネスPCを見ている人間としても、わくわくする」と明るい表情で語った。三上氏はワイドショーのコメンテーターとしてAIを語ることが多いことから、メディアにとってAIはネガティブなイメージがあると語る一方で、上野氏はAI PCによって個人情報などが表に出なくなるうえに、ハードウェアレベルでのセキュリティも担保されることからポジティブに運用できると返すなど、4者の話題が尽きることはなかった。
ノウハウ、ナレッジともに豊富な4名のクロストークは大いに盛り上がり、会場も彼らの会話にくぎ付けとなったが、惜しくも時間切れ。他の分科会も好評のうちに終了となり、「インテル AI Summit Japan」は全プログラムを終えた。
今回は取材者の都合でAI PC分科会の模様しかお届けできなかったが、他の分科会も大いに盛り上がっていたという。今後もHPはAI PCをはじめとした、最新トレンドを紹介していきたいと思う。
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