2024.07.31
ビジネスで活用されるPCのコンピューティングリソースは増加の一途を辿っており、より高度な処理が必要となる専門分野向けに開発されたワークステーションへの注目度は高まっている。さらにテレワークをはじめとする、場所に囚われない柔軟な働き方が普及した近年では、性能と可搬性を併せ持つノートPC型のモバイルワークステーション需要も増大。
なかでも、現場での作業が不可欠な建築・建設業界において、いままでは据置で使用されるデスクトップ型のワークステーションでしか処理できなかった作業が、一部だけでも現地で行えるようになるメリットは計り知れないだろう。最新のモバイルワークステーションがBIM/CIMの領域で“どこまで使えるのか”、注視している設計者・施工者も多いはずだ。
そこで今回、土木分野への3次元モデルの導入推進と、土木技術者を取り巻く環境整備、並びに人材育成を推進している一般社団法人 Civilユーザ会の長谷川 充 氏、杉浦 伸哉 氏と、モバイルワークステーションの最新モデル「HP ZBook Power 16inch G11 Mobile Workstation」をリリースした日本HPの新井 信勝 氏が対談を実施。本稿では実機を用いたレビューを交えながら、BIM/CIMの進展における最新モバイルワークステーションの役割を紐解いていく。
※本記事はTECH+にて掲載されたものです。
対談者
一般社団法人 Civilユーザ会
監事 長谷川 充 氏
Civil User Group
幹事 杉浦 伸哉 氏
株式会社 日本HP
エンタープライズ営業統括 ソリューション営業本部
ワークステーション営業部 市場開発担当部長
新井 信勝 氏
――まずはワークステーションの現状とトレンドについて、皆様の所感をお聞かせください。
新井氏:ワークステーション市場のトレンドとしては、近年のコロナ禍を経て、モバイル型の需要が拡大していることがあげられます。この傾向は特にBIM/CIMに関わる建設・建築業に強く出ており、同じくワークステーションの利用が多い製造業に先んじてモバイルワークステーションの採用が進んでいる状況です。その背景には、現地や出張先に持ち運んで活用したいというニーズがあるわけですが、我々としては本体やACアダプタの重量、ディスプレイのサイズ、バッテリーの持ち、堅牢性、さらにセキュリティ面など、課題もまだまだ残っているとも考えています。
また、昨今注目されている技術トレンドの「AI」は、ワークステーション市場でも、もちろん注目されています。日本HPでは最新のモバイルワークステーションに、AI処理に特化したチップであるNPU(Neural Processing Unit)を搭載したインテル® Core™ Ultraプロセッサーを採用しており、CPU/GPU/NPUでそれぞれ処理を分担することで、AI処理をより高効率で行い、消費電力面でも優位性を高めています。
長谷川氏:他の業界でも同じだと思いますが、建設・建築業界においても、内勤で仕事をしている時間を仮に8時間とすると、そのうち5~6時間はPC(ワークステーション)を使っています。極端な言い方をすると、もはや身体の一部のようなもので、朝起きてメールチェックから始まり、丸一日一緒に過ごしていることになります。そうなると、机に固定されているデスクトップ型よりも、持ち運びが可能なモバイル(ノート)型のほうが快適に作業できるのは確かで、実際、私の会社ではデスクトップ型を使っている従業員は1人もおらず、全員が可搬利用しているか否かはさておき、すべてモバイルワークステーションを使っています。
最近のモバイルワークステーションは性能向上が著しく、1台ですべての作業を完結させたくなりますが、アプリケーションによっては、デスクトップ型のワークステーションでないと快適に作業できないこともまだまだ多いです。そのため、ここまではモバイル、ここからはデスクトップと線引きして仕事を整理し、働き方を変えていく必要があると考えています。
一般社団法人 Civilユーザ会 監事 長谷川 充 氏
新井氏:確かに点群データの3Dモデル化など、最新の技術トレンドを扱う際には、より高性能なデスクトップワークステーションが必要になってきますね。そのあたりの線引きは我々としても重要になると捉えています。
杉浦氏:長谷川さんが話されたように、最近では現地にモバイルワークステーションを持ち込んで業務を行うことが当たり前です。以前のワークステーションはCADなど専門用途に使うもの、という扱いでしたが、近年ではマルチタスクでさまざまな用途に利用されています。CADを立ち上げて、2次元の図面でも3次元データでも一緒に見ながら、現場や本社とのコラボレーションで仕事を進めていくような形もあります。そうなると、やはりマシンパワーが少ないと処理が追いつかないことも出てきます。
もちろん、ハードウェアだけの問題ではなく、OSやソフトウェアの作り方など要因はさまざまですが、マルチタスクで一連の業務を安定して進めるためには、やはりハードウェア性能の底上げが有効だと思います。その意味でも、最新のモバイルワークステーションに対する期待値は大きいですね。
新井氏:建設・建築業でも、WEB会議を行うコラボレーションツールなどは頻繁に利用されているのですね。
杉浦氏:そうですね。ほとんどの打ち合わせはWeb会議中心で、データを共有しながら行っています。BIM/CIMだけでなく、複数の業務アプリケーションを同時に立ち上げて仕事を行うという点では、大容量のメモリを搭載できるモバイルワークステーションの特徴が活きてくると思います。
Civil User Group 幹事 杉浦 伸哉 氏
新井氏:最近のWeb会議ツールは機能も増えてきており、CPUやGPUの負荷も高くなっていますよね。NPUを搭載したインテル® Core™ Ultraプロセッサーであれば、ビデオ通話中の背景ぼかしのカメラ処理やノイズ除去の音声処理や自然言語処理などのなど、AIを活用している作業はNPUに肩代わりさせることができます。結果的にCPUやGPUの負荷を軽減し、空いたチップのリソースを他の作業に割り当てたり、NPUは低消費電力で動作するのでバッテリー持続時間を延ばしたりすることも可能です。
――近年では、サブスクリプション形式で提供されるソフトウェアも増えており、最新機能をすぐに使えるようになっています。このあたりは実際に使われている側からするとどう感じておられるのでしょうか。
長谷川氏:ありがたいのが半分、迷惑なのが半分ですね。やはりハードウェアを毎年変えることは難しく、サブスクで機能が追加されて処理が追いつかなくなるのはありがた迷惑な側面があります。ただ、ユーザーからの要望があっての機能追加なので、その機能を使えば業務の効率化が図れるシチュエーションというのもあるはずで、その意味ではありがたいと感じることも多いと考えています。
新井氏:今後はさまざまなソフトウェアでAIを使った最新機能が多く追加されていくと思います。生産性の向上や業務効率化といった観点ではぜひとも活用して欲しい。そういった意味でも、AI機能を強化したワークステーションというのは、ひとつの選定基準になるのではないかと考えています。
株式会社日本HP エンタープライズ営業統括 ソリューション営業本部
ワークステーション営業部 市場開発担当部長
新井 信勝 氏