1世紀以上、地域医療を支え続ける老舗病院が電子カルテと生成AIサービスを連携させて、看護サマリーの自動作成等、業務効率化を推進
2025-11-25
※本記事は月刊新医療 2025年11月号にて掲載されたものです。
社会医療法人祐愛会織田病院は、1910(明治43)年から佐賀県南部の地域医療を支えてきている。同院では、常に地域の医療ニーズに応えるべく、先を見据えた先進的な医療推進に向けた取り組みを続けてきたが、今般、地元ITベンダと協力して、オンプレミス型生成AI による文書作成サービスを開発した。同サービス開発の経緯とその有用性、今後の展望について、同院 副院長の織田良正氏らキーパーソンに話を聞いた。
祐愛会織田病院は、佐賀県南部にある人口約2 万7000人の鹿島市で100年以上、地域に根ざした医療を提供し続けている病院である。同院は病床数131 床、医師34名を有し、急性期を中心に専門的な医療も担えるよう、充実した診療体制を構築している。2023 年には、同院に佐賀大学医学部附属病院 地域総合診療センターを開設するなど、更なる地域医療の充実化を図っている。
所在地:佐賀県鹿島市大字高津原4306
理事長:織田正道
病床数:131 床(一般病床:103 床、
地域包括ケア病床:28 床)
- 2007 年佐賀大学医学部卒。2009 年同大学胸部心臓血管外科入局。関連病院にて経験を積み、2014 年祐愛会織田病院に入職、循環器診療を担当。2015 年同院でMBC(メディカル・ベースキャンプ)を立ち上げ、専従医師となる。2017 年佐賀大学医学部附属病院総合診療部入局、2018 年同助教。2019 年祐愛会織田病院総合診療科部長に就任、2022 年より同副院長を兼務、現在に至る。
-
新井 信勝氏
株式会社 日本HP
市場開発担当部長 -
山本 大祐氏
株式会社オプティム
ビジネス統括本部
医療DXユニット
ディレクター -
吉原 沙紀氏
看護部主任
-
重松 かおり氏
看護副部長 兼
連携センター副部長 -
森川 伸一氏
情報管理室
課長
祐愛会織田病院は 、その病院の個性からもIT技術の活用に以前から積極的に取り組んできたことを同院 副院長兼総合診療科部長の織田良正氏が語る。「当院は病床数131床、医師34名を有する地域の基幹病院として、高齢社会を見据えた取り組みを続けてきました。そのために、例えば2016年にはIT技術を駆使して患者の自宅TVを利用しての遠隔診療を実施しています」
医療DXを推進して質の高い医療を提供できる体制整備も併せて進めており、前掲の遠隔診療を共同で行ったソフトウェアの研究・開発・販売ベンダの株式会社オプティムと協業して、AI技術の活用を検討してもきた。まさにOpen AI 社が2022年に『ChatGPT 3.5』を発表した翌年頃から、医療現場でのAI活用を意識するようになったという。
当初、AI技術のクラウド環境下での運用を不安視したと同院 情報管理室 課長の森川伸一氏は当時を振り返る。「当院は、入院患者さんの貴重な情報を扱うので、情報セキュリティの観点からクラウド環境下でのAI活用には、正直、不安を感じていました。しかし、オプティム社からオンプレミス型での開発が可能と提案があり、それであるのならばセキュリティ上の不安も解消されると感じ、前向きに捉えるようになりました」
2023年末に織田正道理事長と同社の代表取締役社長である菅谷俊二氏が面談し、開発へのゴーサインが出たことから、協力関係は加速度的に深まったと同社 ビジネスDX本部の山本大祐氏は話す。「2023年7月にはMeta 社のオープンソースAI『Llama(ラマ)2』が発表されるなど、データセンターを利用せずともAIを個別の端末やサーバで利用可能な環境が整備されつつあった絶好のタイミングでした」
【生成AI搭載サービスの開発】
生成AIで質の高い看護サマリーの作成を効率化し看護師の負担を軽減
オプティム社と祐愛会織田病院の共同開発による、看護サマリーを自動作成する病院向けオンプレミス生成AI搭載サービス「OPTiM AI ホスピタル」のプロトタイプは2024年3月に開発された。その背景を森川氏が説明する。
「院内でAIの活用について検討した際、看護師が常に多忙であることから、まずは看護サマリーの作成でのAI活用から始めようと開発をスタートしました」
山本氏が語るには、システム開発は、全くの手探り状態だったという。「看護業務について、専門用語や業務の流れなど、当時はほとんど理解ができておらず、病院サイドも生成AIについては分からないことだらけの状態でした。それ故、お互い手探りでシステムを構築したのですが、そこからが大変でした」
同院 看護副部長 兼 連携センター副部長の重松かおり氏が、「OPTiM AIホスピタル」の開発過程を語ってくれた。「最初は、“看護サマリーとは”という説明から始まり、私たち看護師が、どのような点に注目、留意しながら看護サマリーを作成しているのか、また、専門用語の解説や、現場の主任看護師たちから看護サマリー作成の工夫点やポイントを、オプティム社の担当者に説明しました。一方で、看護師側も生成AIがどのようなものなのか十分理解できておらず、単に患者さんの診療記録を要約してもらえば良いくらいに考えていたのです」
山本氏は、システム導入前後の様子をつぎのように振り返る。「当初、“看護記録のサマリー化”を目指したことから、まず看護記録のデータを全て取得してAIによるサマリー化を行ったのですが、看護師の皆さんから“全然使えない”と散々な評価でした。精査すると、看護記録は場当たり的に記載されるのではなく、まず看護計画が立案され、その計画の中で患者さんの容態の変化などを記録するような仕組みになっていることが分かったのです。そこで、看護記録や看護計画等、より深堀りした看護と診療に関するデータを収集してAIに学習させ、ようやく現場での利用に耐え得るシステムを構築できました」
電子カルテ画面左下のボタンをクリックするだけで、看護サマリーを作成することができる。
重松氏は、AIが学習しやすいように看護記録の記載方法も変更したと、運用開始後に工夫した点を説明する。「生成AIに質の高い看護サマリーを作成してもらうためには、看護側も質の高い看護計画や看護記録を入力しなければなりません。生成AIに看護記録が反映されないのは、自分たちの記録が十分に記載されていないからと考え、看護記録の記載内容の見直しにも取り組みました」
山本氏も、医療現場からのフィードバックが開発を進める上で重要だったと話す。「システムが生成する看護サマリーの文書について、何が良くないのか、都度コメントを付記してもらい、何度もフィードバックを得ながらシステムを改修して、2025年1月に現在の製品版のレベルに辿り着くことができました」
同院 看護部主任の吉原沙紀氏は、生成AIの文書作成機能の有用性を強調する。「緊急で看護サマリーが必要な時、生成AIを利用することにより、ある程度、経過やどのような看護をしてきたのか容易に把握することができます。更に詳細なサマリーにすべきと思えば、自分たちで追加記載する対応も可能です。特に、入院期間が長い患者さんについては看護サマリー作成にも長い時間が必要でしたが、『OPTiM AI ホスピタル』では1件10~20秒程度で看護サマリーを作成してくれるので、現在はとても助かっています」
森川氏は、同システムの仕様について、電子カルテ画面上にボタンを埋め込むワンクリックでの利用にこだわったと話す。「生成AIでは、プロンプトによる運用が一般的ですが、その入力作業等の煩雑さから却って看護師たちから利用されなくなることを危惧し、できるだけ簡単に、電子カルテ画面上からボタンをクリックするだけで文書作成を行える仕様にしました。おかげさまで利用率も高く、スタッフからの評判も良いようです」
【オンプレミス型生成AIサービス実現】
高性能GPU搭載WSを採用し、院内での生成AIの高速運用を実現
生成AIでは、LLM(Large Language Model :大規模言語モデル)の高速運用がカギとなるが、オプティム社は、オンプレミス型運用のカギとなるLLMサーバにHP社のラックマウント型ワークステーション(以下、WS)を採用した。日本HP社の市場開発担当部長である新井信勝氏は、同WSの特徴を解説してくれる。「WS『HP Z4 Rack G5 Workstation』は、1Uのコンパクトなサイズに高性能なIntel XeonプロセッサとNVIDIA製の最新GPUを搭載し、従来、クラウドや高価なサーバで処理する生成AIをオンプレでコストパフォーマンスよく処理可能とします。同じサーバ室に、看護記録や診療情報が格納されている電子カルテのデータが傍にあるので、高いレスポンス性も担保できています」
山本氏は、HP社のサーバや端末を採用している理由を挙げる。「当社では、AIカメラ技術によってカメラ映像からさまざまな情報を取得するサービスを以前から展開していますが、そのエッジマシンとしてHP社のハードウェアを採用してきています。生成AIと言っても、画像と文書の違いはあるものの、高性能なGPUが必要という点では同じです。これまでの実績と、その安定性の高さから、HP社のサーバを引き続き採用することにしました」
【病院向け生成AI搭載サービスの開発】
音声入力による患者説明への活用や医師サマリー作成機能の開発を継続中
同院では、「OPTiM AIホスピタル」の医師サマリー作成機能と音声入力機能を活用した外来カルテ作成機能も運用しており、試行錯誤を繰り返しながらシステム運用の質的向上を図っていることを織田氏は話してくれる。「医師サマリーは、診療科の違いに加え、看護サマリーと異なり決まった形式がないことや、既に医師自身の手で作りやすいフォーマットを作成しているなどの事情があり、克服すべき課題も多くあります。どのようにすれば、医師にとって使いやすいシステムにできるのか、意見や情報を集めているところです。
カルテ作成用の音声入力システムについては、外来診察室の構造から外部の余計な音声が重なってしまったり、医療とは関係ない会話等も記録してしまうなどの課題があります。現状では患者説明の際の記録用ツールとして重宝しています。この患者説明では、患者に対する病状説明、経過、治療方針、治療結果、副作用などを20~30分ほどお話します。従来は、その内容を思い出しながら入力していたことから、簡素な内容になってしまうなど苦労していましたが、それが大幅に楽になりました」
今後のAI技術の活用について、織田氏はつぎのように語る。「生成AIは、この1年で人々の生活に浸透してきており、今後は医療でもAIを患者さんのために活用しなければいけないフェーズに入っていくと感じています。オプティムは同じ佐賀県内の企業ですし、さまざまな規制がある中でもポジティブにシステム開発に協力してくれますので、今後も同社と共に、日本の医療に貢献するAIの開発を進めていきたいです」
HPは、ビジネスに Windows 11 Pro をお勧めします。
Windows 11 は、AIを活用するための理想的なプラットフォームを提供し、作業の迅速化や創造性の向上をサポートします。ユーザーは、 Windows 11 のCopilotや様々な機能を活用することで、アプリケーションやドキュメントを横断してワークフローを効率化し、生産性を高めることができます。
組織において Windows 11 を導入することで、セキュリティが強化され、生産性とコラボレーションが向上し、より直感的でパーソナライズされた体験が可能になります。セキュリティインシデントの削減、ワークフローとコラボレーションの加速、セキュリティチームとITチームの生産性向上などが期待できる Windows 11 へのアップグレードは、長期的に経済的な選択です。旧 Windows OSをご利用の場合は、AIの力を活用しビジネスをさらに前進させるために、Windows 11 の導入をご検討ください。
※このコンテンツには日本HPの公式見解を示さないものが一部含まれます。また、日本HPのサポート範囲に含まれない内容や、日本HPが推奨する使い方ではないケースが含まれている可能性があります。また、コンテンツ中の固有名詞は、一般に各社の商標または登録商標ですが、必ずしも「™」や「®」といった商標表示が付記されていません。
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