【セミナーレポート】生成AIで変わる未来:NVIDIA最新技術の最前線
2025-03-17

2025年2月20日、HPはCWC Tokyoにおいて、「HP CWC Tokyo Day」を開催した。これは2024年12月に行われたイベント「GPU UNITE 2024」のフォローアップセミナーとして用意されたもので、生成AIに関連するNVIDIAの最新情報をメインに、生成AI活用事例や、最新のHPワークステーション動向など、内容盛りだくさんで行われた。それではその時の模様をダイジェストでお伝えしよう。
取材:中山 一弘
HPのすべてが分かるCWC Tokyo
会場となったCWCは、その役割としてHPのすべてが理解できるようレイアウトされた館内はもちろん、ハイエンドワークステーションによるデモ展示や個社ごとに開催されるセミナールームなど、その時代に即した最新のテクノロジーを体感できるのも魅力だ。当日もCWC Tokyoの内覧会を実施。来場者はセミナーが始まるまでの時間を有意義に過ごすことができた。

NVIDIAの情報もアップデート

ビジネスデベロップメントマネージャー 高橋 想氏
イベントのメインとなるセミナーではNVIDIAの高橋氏が登壇。同ブランドの最新情報を説明してくれた。「NVIDIAがCESで様々な発表をさせていただきました。たくさんありますが、基本的にはAI関連の内容が多かったです」と話し始める高橋氏。AIが急激に広まっている現在、その中心には常にNVIDIAがあるといった印象だ。
「現行のアーキテクチャが『Ada Lovelace』というものになりますが、新しく『Blackwell』という次世代アーキテクチャを採用したGPUが発表されました」と高橋氏。Blackwellでは、TOPSが従来の3倍の処理能力を達成しているというベンチマークもあり、レイトレーシング、シェーダーなどの機能も1.5~2倍の性能を持たせることに成功しているのが特長だという。
「また、GPUメモリーについても現在ではここへ大量のデータを載せるということで重要度が増していますが、GDDR7へと変更されるのでより高速かつ大容量による処理が期待できます」と高橋氏は語る。Blackwellに関しては、2025年内を目安に順次発表されるという見込みを語った高橋氏。ワークステーションの主力となるグラフィックスなだけに今後に期待が持てるニュースだ。
続けてAIのトレンドについて語る高橋氏。「現在、Chat GPTをはじめとする生成AIがハイライトされています。対話型で回答を引き出したり、対話型で画像や動画を生成したりするAIを『フィジカルAI』と呼んでいますが、今後は『エージェンティックAI』というものが登場し、業務や習慣となっている行動を助ける時代がくると予想されています」(高橋氏)。
さらに同氏は「エージェンティックAIを実現するために必要な機能のモジュールをNVIDIAでは発表させていただきました。それが『NVIDIA NIM』です」と語った。開発に必要なハードウェアと最新のAIを動かすために必要な各機能をNVIDIAがまとめて提供するというわけだ。
また、NVIDIAではフィジカルAIの開発を進めるためにOmniverseを拡張した「NVIDIA Cosmos」を展開する。「これはAIが取得する画像などのデータは従来であれば現実世界で実験を繰り返していましたが、それを仮想空間の中で実施させることで、安全かつ短期間で学習させることができるということになります」と説明する高橋氏。

さらにOmniverseにも新たに大規模産業向けの「Mega Omniverse Blueprint」が加わり、AIの普及を後押しする。「ひとつの工場の中で複数のロボット同士が動いたらどのように振る舞うのが最適か、そんなシミュレーションがここでは行えます」と高橋氏は語る。AI開発は、企画から最終的な現実社会を想定した学習まで、すべてが仮想空間内で完結できるような世界が実現可能なことを示しているといえる。
現行のAda Lovelaceのラインアップと特長を再度説明した後、話題のデジタルヒューマンについて語る高橋氏。同氏は「現在、ゲームの世界などに実装されているAIアバターを業務の中で活かそうという試みも始まっています。365日働きますし、いろいろと学習もしてくれます。将来が期待されている技術です」としてセミナーを終了した。

生成AI時代のKaggleと研究 Workstationの活用

続いて壇上に立ったのはHP AI Ambassadorの井ノ上氏だ。同氏は世界各国のKaggleで優秀な成績を収め、HPはその成果に対してHP Z6 G5 A Workstationを提供、Z by HP Global AI Ambassadorも務めている。「約2カ月後のコンペティションに出るため、最大で1,000件ぐらいの実験を私一人で回すこともあります。個人で参加される方は、データセンターやサーバーをレンタルできないケースが多いのですが、私はそれをワークステーションで実現しています」と井ノ上氏は語る。
「以前、Kaggleで動かしていたモデルを例にすると、66ミリオンパラメーターぐらいのサイズのものをNVIDIA GeForce RTX 3090を2枚使って3週間回してひとつのモデルを作成していたこともありました。しかし、これを現状私が使っているHPワークステーションを実行させるとすぐに終わってしまい、本当に簡単だなと思ってしまう規模感になりました」と感想を語る井ノ上氏。

現在井ノ上氏が使っているHP Z6 G5 AはNVIDIA RTX 6000Adaを2基搭載したモデルとなる。VRAMもそれぞれ48GB持っていることから、当時コンシューマ向けグラフィックスの最高峰モデルであっても、現行のワークステーションモデルのグラフィックスとは比較にならないほど高速化が進み、開発期間の圧縮に大きく貢献していることがうかがえる。
また、開発期間の圧縮という意味ではわずか1週間の準備期間しか与えられないコンペティションもあったのだという。「自動車の動作予測をするシミュレーションでしたが、コンペティションが開始されてからHPワークステーションを使ってベースラインを作り、ディスカッションを投稿しました。その結果もよく、賞をいただくことができました」と井ノ上氏。この際、用いた基盤モデルは汎用のもので、特別なチューニングなどはしていなかったのだという。
最近ではやはりLLMをテーマにしたコンペティションが増えているという井ノ上氏。「Kaggleという世界レベルのプラットフォームでもLLMのコンペティションはかなり増えました。LLMで数学を解かせてくださいといったテーマや、面白いタスクをやらせてくださいといったテーマに、世界中のデータサイエンティストやAI研究者が参加しています」と井ノ上氏。
自身ももちろん参加しているという井ノ上氏。「LLM流行以前なら、うまく構造化データにして情報を取り出し、統計量や抽出機を使って分類するということをやったのだと思います。しかし、現在では8ビリオン、9ビリオンぐらいのモデルを使い、単純な分類をさせながら学習させるだけですごく性能がよくなるのです。これは実際にコンペティションを通じて学んだ体験からも理解しています」と井ノ上氏はあらためてLLMの効率の良さについて語る。
「自分で使ってみることで、ワークステーションが1台あるだけで研究はどんどん進むのだと実感しています。今後も研究を続ける上で、よい発表ができるようHPワークステーションを使ってがんばっていきたいと思います」と最後に井ノ上氏は語ってくれた。

HP Workstationで創るAIの未来

冒頭、生成AIについて業務で使っている来場者へ挙手を募る勝谷氏。来場者の過半数が使っているということで注目度の高さを共有した会場へ向け「実はデスクトップタイプのワークステーションの市場は、AIの登場により以前よりも倍増すると予想されています」と勝谷氏は語った。ローカル環境でのAI活用に対し、ワークステーションが今後大きくシェアを伸ばすという予想に会場は沸いた。
音声による生成AI活用の今後にも注目しているという勝谷氏。「2週間前にここCWCにもデモ環境を用意しました。77億パラメーターによる音声生成AIをぜひ体験していってください」という勝谷氏は、簡単な会話の録音を紹介。あまりにもスムーズで自然な言語のやり取りに、どちらが人間かAIかわからないほどだった。
この最新の音声生成AIは、NVIDIA RTX6000Adaクラスで実現可能だという。「Z8では4基搭載できますから、4人分のAIを相手に話すことも可能です」という勝谷氏。そのほかチューニングや学習もワークステーションで可能になるという試算もある。「8ビリオンクラスのLLMがあればおおむね24ギガでファインチューニングが可能です。ですから、NVIDIA RTX 5000Adaクラスでも動くということがいえます」と語る勝谷氏。もちろん、グラフィックスが高性能になり、枚数も多くなればそれだけ演算処理は早く終わるが、適正予算内でワークステーションを構築するという視点も必要だ。選択肢が増えるということは、導入する側にとっては朗報といえる。

このような考え方は最近流行の兆しを見せているローカルSLM/LLMについてもいえる。「セキュリティの観点からローカルでの生成AI運用を考えていらっしゃる方も増えています。LLMの場合、ファインチューニングをするにも大きすぎるので膨大な予算が用意できる企業様でないと無理ではないかと考えます。しかしSLMであれば、可能ですし、ある意味汎用的な情報をあえて忘れさせ、業務に必要なことだけを覚えさせることもできます。そういう意味ではSLMのほうがやれることは多いともいえます」と勝谷氏は考えを語る。生成AIの言語モデルのサイズに関しても、利用者側で選ぶことができるというわけだ。
その後、RAGのようにハイブリッド環境で使う生成AIの可能性や、実装までの試算やPOCの実施案などを公表した勝谷氏。同氏は「ワークステーションによる生成AI活用を考えているみなさまと一緒にPOCができればと思っています。まずは今回お集まりのみなさまのお考えをお聞かせいただけるとうれしいです」と語りセミナーを終了した。

まとめ
生成AIの活用を自社環境の中で構築しようと考えている来場者にとって、今回のイベントは大きなヒントになっただろう。あらゆる業種においても生成AIは今後欠かせないものとなるはずだ。HPではオープンなイベントへの参加はもちろん、こうしたプライベートなイベントも随時開催している。参加希望の方は気軽にHP担当者やパートナー企業を通じて連絡していただきたい。
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