2022.08.08
事業価値の再発見は「課題基点の発想」から
昨今、多くの企業が「サステナビリティ」を軸に据えた経営のあり方を模索している。何を拠り所にすればよいか迷う企業も少なくない中、「サステナビリティ=共生を持続させること」と捉え、そこに「イノベーション」を掛け合わせる視点『サステナベーション』が一つの解を提示している。日本企業は自らが本来持つ強みをヒントに、どのような戦略を描くべきか。「サステナベーション sustainability × innovation ――多様性時代における企業の羅針盤」(日本経済新聞出版)の著者であり、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ代表取締役副社長 執行役員 藤原 遠氏に話を聞いた。
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 代表取締役 副社長 執行役員 藤原 遠氏
藤原 遠氏(以下、藤原氏) 「サステナベーション」とは、「サステナビリティ」と「イノベーション」を掛け合わせた造語です。私が社内の若手メンバーとディスカッションしていたときに生まれました。サステナビリティ(持続可能性)の意味を広く「社会そのものを持続させていく」と捉えると、その源流には「共生」という概念があると考えています。この「共生」を実現させる取り組みや、実現に必要な技術を生み出すことが、結果としてサステナビリティにつながるのではないでしょうか。
サステナビリティというと、静的で変化しないものという印象を受けるかもしれません。しかし、決してそうではなく、時代に合わせてその形を変化し続けることで初めて実現されるものです。例えば、自転車は漕ぎ続けるからまっすぐに進めるのであって、漕ぐことを止めた瞬間に倒れてしまいます。サステナビリティも同じ原理です。
ここで自転車を動かし続けるエンジンになるのが「イノベーション」と考えています。企業がサステナビリティとイノベーションの両輪を回していくことこそが、社会の豊かな発展に必要ではないでしょうか。
藤原氏 サステナビリティやSDGsという言葉が広がる前から、CSRやESGは企業経営の重要なテーマとして掲げられていました。しかしながら、本業のビジネスとは直接関係ない独立した形で行われてきたケースも多かったかもしれません。
最近では書籍の刊行当時と比べて、より中長期的で、より広い取り組みが求められています。イメージとしては、「Business and Sustainability」から「Business with Sustainability」へと変化してきた印象です。自分たちの「事業そのものを通してサステナビリティを実現する」という方向へ、機運が変わってきています。
藤原氏 まずはマテリアリティ(重要課題)を洗い出し、自社の事業の中で捉え直すことから始めてはいかがでしょうか。新規事業を起こさなくても、既存事業をこれまでとは異なる切り口で捉えることによって、新たな事業価値を見出すことができると考えています。
また、複雑な社会課題を一企業単独の取り組みで解決するのは難しいかもしれません。だからこそ、さまざまな組織とつながりながら、一緒に解決する道を探っていくことが必要だと考えています。この、お互いにつながる、つまり、共生といった思想も重要ではないでしょうか。
当社のめざすサステナビリティ経営では、お客様とともにサステナブルな社会の実現を目指していることから、「お客様の事業成長」を大きなテーマに設定し、そのことを通して「地球環境への貢献」や「社会課題の解決」を実現する、という画を描いています。これらをさらにブレイクダウンして、マテリアリティに落とし込みました。
例えば、「お客様の事業成長」では、「Trusted Value Chain」「Smart X Co-innovation」、「地球環境への貢献」では、「Carbon Neutral」「Circular Economy」。「社会課題の解決」では、「Human rights & DEI」「Community Engagement」などをマテリアリティに設定し、お客様とともに取り組みを行っています。
NTTデータ公式サイト(https://www.nttdata.com/jp/ja/sustainability/)より引用
藤原氏 「Carbon Neutral」における三菱重工業様との取り組みをご紹介します。三菱重工業様が提供するGHG(温室効果ガス)排出量を可視化するAIソリューション「ENERGY CLOUD」を活用したグリーンコンサルティングサービスを提供予定です。そのひとつとして、産業用自家発電を併設しているプラントにおいて、エネルギー利用を最適化するとともに、それによって生まれた余剰電力の活用を支援するサービスの提供に向けた取り組みを進めています。これまで余剰電力は温水利用などの用途に限られていましたが、このサービスにより余剰電力量と需要の予測を実現することで、余剰電力を第三者に供給するなど新たな収益機会を獲得することも可能です。さらにはCO2排出量の削減につなげ、カーボンニュートラルへの貢献も可能となります。
次に「Community Engagement」についての取り組みとして、地域の災害対策本部に「D-Resilio®」というデジタル防災プラットフォームをご提供しています。気象災害リスクモニタリングシステム「HalexForesight! ®」、災害情報をリアルタイムで共有するシステム「EYE-BOUSAI®」、避難指示や安全情報を広く地域住民に迅速かつ効率的に提供する「Lアラート」など、当社が持つさまざまな防災ソリューションを集約して提供することで、行政やインフラ企業、医療機関などの災害対策時に求められる関係機関間でのリアルタイムでの情報連携を実現します。それにより住民の安全を迅速に確保するとともに一刻も早い復旧ができるように支援するものです。
これまでの災害対策本部のイメージは、ヘルメットを被った方々が白板に向かって話し合っているような形だったはずです。しかし、今ではデジタル活用でそれがどんどん高度化しており、デジタル上の情報の活用は不可欠となっています。こうした取り組みで住民の皆様の安全安心を高めていくことにより、「Community Engagement」に寄与していきます。