2022.11.04
サステナブル調達とは、サプライチェーン上の社会的責任を果たしながら、持続可能な調達を達成するための施策です。サステナブル調達を実現するには、方針やガイドラインを策定し、共通の認識を社内外で持ちながら推進する必要があります。
本稿では、グリーン調達やCSR調達との関連性や違い、サステナブル調達が求められる背景、推進方法や企業事例を解説します。また、調達方法を変えるためのビジネスモデルなどにも触れていきます。
サステナブル調達とは、サプライチェーンにおいて環境や人権といった社会的要請に配慮しながら、持続可能な調達を達成するための取り組みを指します。取引先における人権侵害や違法行為について、消費者やメディア、政府が強く指摘するようになったことで、サステナブル調達が注目されるようにもなりました。
サステナビリティ関連の国際ガイドラインでも、「サプライチェーン上の社会的責任」の項目が設けられ、企業は国際社会からも倫理的で健全なサプライヤー管理が求められています。具体的には、人権や労働環境、自然環境に配慮した取引先の選定、モニタリング、改善支援を自社の調達方針に組み込むこととされています。
原材料の調達から生産、配送、販売に至るサプライチェーンの全プロセスにおいて、サステナブル調達が実現すると、環境や人権を守るという社会的責任を果たしながらサプライヤーと強固な関係を構築できます。企業が持続可能な経営を実践するうえで、サステナブル調達は不可欠な要素といえます。
グリーン調達とは、環境に配慮した原材料を調達したり、環境問題に取り組む取引先を選定したりすることです。グリーン調達を実践すると、「環境保全に配慮した商品」と付加価値をつけて社内外でアピールできるメリットがあります。
グリーン調達とサステナビリティ調達との共通点は、どちらも環境面を考慮しているということ。しかし、サステナブル調達は環境だけでなく、サプライヤーの労働環境や人権など人を中心とする社会的要請を考慮し、包括的なアプローチを取っている点が、グリーン調達との違いです。
CSR調達とは、社会的責任を果たすという観点から取引先を選定することです。売上のみを重視するのではなく、人権や環境に配慮した調達や社会貢献を目指した調達を実現します。CSR調達とサステナビリティ調達は、双方とも環境や人権などサプライチェーン上の課題を包括的に配慮している点が共通しています。
しかしながらCSRという言葉そのものは、どちらかというと事業利益を社会貢献活動に割り当てる、という意味合いが強く、事業の根底にある「調達」という言葉との組み合わせはやや違和感もあります。CSR調達とサステナビリティ調達は同様の取り組みを指すことが多いものの、「サステナビリティ調達」の方がESG経営やSDGsといった現代の課題に対応する、より適した使い方かもしれません。
ISO20400とは、2017年に発表されたサステナブル調達に関する世界初の国際ガイドラインです。ISO20400は、組織の持続可能な購買と方針の策定と、その取り組みを支援することが目的です。
具体的には、調達方針に関する戦略やプロセスに、サステナビリティを統合するためのガイドラインを提供しています。説明責任や透明性、人権尊重や倫理的行動などサステナブル調達の定義が示されています。
なぜ企業はサステナブル調達が求められているのでしょうか? ここでは、環境問題だけでなく、日本人に比較的なじみの薄い人権問題、社会情勢やサービス調達の変化にも触れながら解説します。
地球温暖化など環境問題への対応は人類共通の課題で、世界全体でカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが推進されています。日本は目標として「2050年カーボンニュートラル」を掲げました。
政府は各産業界に目標達成に向けた取り組みを要請し、企業は対応を迫られています。その一環として、サプライチェーン全体における脱炭素化の推進が求められています。自社による温室効果ガスの直接または間接的な排出だけでなく、調達から販売までの排出を合わせた「サプライチェーン排出量」の管理に向け取り組む必要があります。
関連リンク:カーボンニュートラルの実践方法とは? 欧米や日本の現状まで一気に解説
環境問題だけでなく人権問題への社会的な関心が高まっています。引き金のひとつとなったのが、さまざまなアパレルメーカーによる途上国における過酷な労働問題です。児童労働や長時間の低賃金労働が明るみにでることにより、消費者による不買運動をはじめ世界的な批判が起こりました。
自社のみならず、サプライチェーンを含む企業活動で人権侵害が発覚すると社会的影響が大きく、レピュテーションリスクにつながります。そのためサプライチェーン全体におけるサステナブル調達を含めた取り組みが、重要視されているのです。
サステナブル調達が求められる背景のひとつに、社会情勢の変化による原料高騰のリスクがあります。直近では、パンデミックや紛争によって移動制限や都市封鎖が発生し、サプライチェーンが混乱しました。その結果、原材料の供給不足で価格が高騰しています。
そもそも企業のサプライチェーンは、経済活動のグローバル化に伴い複雑化の一途を辿ってきました。そこに自然災害や紛争などが起こると打撃を受けやすく、サプライチェーンが寸断してしまうことが現実に起こっています。
企業にとっては安定的に事業を継続するためにも、取引先との健全な関係構築を含むサステナブル調達への取り組みが欠かせないのです。
サステナブル調達が求められる別の理由として、ESG投資の拡大があげられます。ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)であるESGを加味した投資手段です。
現在、企業がESG経営を推進しているかどうかが、機関投資家や個人投資家が投資先を選定する基準となっています。サステナブル調達の実践はESGにおける重要な要素のひとつです。
関連リンク:今さら聞けないESG投資とは。企業が取り組むメリットを事例とともに解説
現在、PaaSやMPS、DaaSというビジネスモデルの台頭により、「サービス調達」という新しい流れが加速しつつあります。言い換えれば、ハードウェアを含めたサブスクリプションのモデルです。PaaS、MPS、DaaSのそれぞれの意味は、次のとおりです。
PaaS(Product as a Service) | 製品サービスを購入せずに継続的に提供 |
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MPS(Managed Print Service) | オフィスの印刷環境を最適にマネジメント |
DaaS(Deviceas a Service) | デバイスを購入せずに継続的に提供 |
PaaSやMPSを利用すると、従来は一元管理が難しかった調達作業を効率化できるだけでなく、環境面に配慮した調達を実現しやすくなります。また、DaaSではデバイスを購入せず利用できるのです。サービス調達を推進することで、企業は余分なものを購入する必要が減り、モノの循環性が向上することに加え、会計上の利益改善にもつながります。
現在は若者を中心に消費者の購買行動が変化しつつあり、ESGに配慮した商品ニーズが高まっています。人権保護や労働環境の整備、環境にやさしい商品の開発などが、市場では求められているのです。そのような期待に応えるために、企業はより一層、ガバナンスを強化して取引先を適切に管理することが求められます。
組織がサステナブル調達を推進するには、次の手順を踏む必要があります。
推進するうえで重要な点は、自社の調達方針と取引先への要求項目の具体化です。自社の業務形態に応じて方針や要求項目を詳細に決め、社内浸透を図ります。その際、サステナブル調達を実践する部署としっかり共通認識を持つことで、サステナビリティをより浸透させることが可能です。
調達方針には、コストや納期など基本要件だけでなく、人権尊重、多様性、労働環境、自然環境への影響といった点を含めます。
サステナブル調達を組織的に推進するために、社内体制を構築します。調達部門が中心となり、製造技術や品質保証部門、国内外の事業所を含めて施策を進める体制が必要です。
企業独自のサステナブル調達のガイドラインを策定します。法令遵守だけでなく、人権尊重や環境への配慮、生物多様性など具体的な項目を含むことが重要です。作成したガイドラインは同意書や契約書の署名を求め、サプライヤーへ説明会を開くなど共有化を図ります。
ガイドラインで取り決めた項目を用いて、取引先のリスクアセスメントを実施します。違反やリスクの度合いなど取り組み状況を評価し、必要であれば是正を求めるか、契約を見直す検討をするかなどを決定します。
ガイドラインの記載事項が取引先で実践されているか、改善要望が実践されているか、監査やモニタリングを実施します。サプライヤーと緊密な連携をとりながら、継続的に実施することが重要です。
サステナブル調達を実践する企業の事例を3点解説します。
お茶製品を製造販売する伊藤園では、原料の安定調達のため茶葉農家の育成事業を展開しています。就農人口や茶葉面積が減少傾向にある中、高品質な国産緑茶の提供に向け茶産地育成事業を実施。伊藤園のノウハウを生産者に伝授し、一定価格で取引することで持続可能なサプライチェーンの構築を実現しています。
出典・引用:茶産地育成事業とは / 伊藤園
数多くの国や地域から原材料の調達を実施する味の素では、サプライチェーン上の人々の人権を尊重し、労働安全性を保護する仕組み作りに取り組んでいます。たとえば、「パーム油のガイドライン」を策定し、トレーサビリティが確認できるパーム油を中心に調達。パーム油の生産地を追跡することで、環境破壊や人権侵害などの有無を確認しています。
出典・引用:持続可能な原材料調達 / 味の素グループ
凸版印刷では、サステナブル調達の方針と施策を策定し、取引先の製紙メーカーと連携し合法的に伐採された木材を原料にしているかを確認しています。その目的は、生物多様性へのインパクトを最小化し持続可能な原材料を調達するためです。2020年に国内外の取引先13社を対象に調査を行ったところ、全木材の伐採が合法的だったことが確認されました。
出典・引用:サプライチェーンマネジメント / TOPPAN
取引先が多くサプライチェーンの幅が広い場合、事業と環境インパクトを配慮しながら、サステナブル調達を段階的に実施するのが望ましいといえます。一方で、サステナブル調達は社会的要請でもあり、どの企業も早急な対応が求められてもいます。
途中で紹介しました製品サービスを継続的に利用するサービス調達の1つであるPaaSの導入については大きな手間がかからず、早期実現性という意味では有効です。「製品を所有」するのではなく、「サービスを利用」することで、調達方法を根本的に変革できる点は、今後の調達の大きな選択肢となっていくものと思われます。
日本HPでは、最適な印刷環境を構築し、包括的に管理できる新しい印刷ソリューション「HP MPS」を提供しています。HPの純正品をタイムリーに発送するサプライサービスも利用でき、プリンター管理の利便性が高まります。
日本HPではサプライチェーン上の社会的責任を果たすべく、環境問題だけでなく人権尊重や多様性にも配慮しながら材料を調達し、製品を製造販売していることもまた企業の調達先選定という点からはサステナブル調達を実践する企業にとって魅力的な選択肢になり得ると言えます。
サステナブル調達への社会的要請は高まっており、対応を迫られる企業が増加しています。今後、サプライチェーン上の自然環境や人権、労働環境に配慮して事業を展開しなければ、企業の持続可能性の実現は難しくなります。
これまで機能やスペック、価格で選んできた調達方法を抜本から見直し、持続可能性を高めるサステナブル調達の実践は、企業価値を高めていく重要な部分となっていくことは確実です。環境、人権、そして調達先がこれらの課題に対してどんな情報を開示し、どんな活動を展開しているのか、今後の調達部門はそれらに焦点をあて調達活動を展開していただくことを願っています。
またその中の選択肢のひとつとしてPaaSなどの新しい選択肢を検討いただければ何よりです。社内の印刷環境に関する調達を見直す際には、HP MPSを選択肢としてご検討ください。
関連リンク:HP MPS
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