リモート案内という新たな取り組みで観光DXを実践
~バスリモート案内システムを支えるPolyソリューション~

2025-01-08

インバウンド需要の過熱する観光業界では、時代の変化とともに、修学旅行などに欠かせない観光バスの分野においても大きな変化が表れている。そんな観光バスにおいて最新の技術を駆使し、人手不足が叫ばれるバスガイドによる観光案内ニーズに対応すべく、リモート環境から複数のバスに観光案内をするリモート案内の取り組みが注目されている。Polyの技術を活用した観光DXの取り組みについて、観光バスリモート案内システムを作り上げた奈良交通株式会社に伺った。

  • 目的
    観光DXを通じて、変化する顧客のニーズに合わせ、自社サービスを最大化する環境を整備
  • アプローチ
    Polyのビデオ会議ソリューションを観光バスに搭載し、1人のバスガイドが本社にある基地局から複数のバスを同時にリモート案内できる仕組みを整備
  • システムの効果
    拘束時間の長いバスガイドの働き方改革を実現する環境を整備
  • ビジネスへの効果
    人材不足のバスガイドを多様な働き方で支援できる環境づくりを実現
    観光DX推進で顧客ニーズへの柔軟な対応を可能に

顧客ニーズに応える観光バス事業、観光DX推進を支える新たな打ち手が必要に

奈良交通株式会社は、1943年に5つのバス会社の合併により発足後、奈良県唯一のバス会社として路線バスなどの乗合バス事業や団体旅行の際に利用する観光バスをはじめとした貸切バス事業を手掛けている。182の路線で1日あたり約13万人を輸送する各種バス事業を中心に、旅行コースの企画販売といった旅行事業や乗用タクシー事業、不動産事業、飲食事業、自動車教習所など地域に密着した多角的な事業展開を進めている。特にバス事業によって社会に貢献しながら、国際文化観光都市である奈良の魅力を伝えるために地域活動にも積極的に取り組んでいる。

リモート案内システム搭載車両
リモート案内システム搭載車両

そんなバス事業を展開する同社では、長年にわたって観光バスの運行を行っており、修学旅行をはじめさまざまな団体旅行を支援しているが、近年では乗務するバスガイドの環境も大きく変化してきているという。「近年はバスガイド付きの仕事も減少傾向にあり、かつバスガイドの担い手も少なくなっています。観光地に関する事前学習を行う修学旅行の学生も増えており、バスガイドに対する環境も大きく様変わりしています」と自動車事業本部 観光事業部 部長 兼 貸切バスグループ長 大谷 和也氏は語る。

お客様が求めるニーズと提供しているサービスのズレを解消し、時代にあったサービスの在り方を模索するなか、世界的なパンデミックの影響で観光業界が不安定となり人材不足がさらに加速し、IT技術を駆使した観光DXとしての取り組みが進められることになった。そこで模索したのが、地元の人との温かい交流が魅力であるバスガイドに対するお客様からの堅調なニーズに応え、かつ、柔軟な働き方が可能な仕組みづくりだった。「コロナ禍によって観光業界で働くことに将来性を見いだせない人が増えるなか、修学旅行ではバスガイドを付けて欲しいというニーズは堅調でした。お客様のニーズに応えられないと、関西を修学旅行先として選んでもらえないという事態にもなりかねませんし、魅力の1つであるバスガイドによる観光案内がなければ、どこのバス会社を選んでも同じと思われてしまう。他社との違いをしっかり打ち出す意味でも、何らかの解決策が求められたのです」と大谷氏は当時を振り返る。

奈良交通株式会社 自動車事業本部 観光事業部 部長 兼 貸切バスグループ長 大谷 和也氏
奈良交通株式会社 自動車事業本部 観光事業部 部長 兼 貸切バスグループ長 大谷 和也氏

普及したリモートコミュニケーションを応用、柔軟な対応を実現するPolyに注目

そんな状況下で検討したのが、遠隔地から複数のバスに対して観光案内を行うリモート案内の仕組みだった。「車庫への出勤から事前準備はもちろん、配車地まで移動してお客さまを迎え入れ、終われば再び車庫に戻るなど、バスガイドの仕事は拘束時間が長くなります。そこで、本社内に拠点を設置し、複数のバスとリモート接続して案内できるような環境づくりがアイデアとして出てきました。コロナ禍でリモート会議が盛んに行われていたことで、バスガイドによる案内もリモートで実現できないかと考えたのです」と大谷氏は説明する。

リモート案内であれば、バスガイドと顧客との人間的な交流が継続できるだけでなく、子育てや介護など家庭の事情で退職したバスガイドであっても柔軟に働くことが可能になる。「人材不足の危機的な状況とお客様のニーズ双方をうまく解決できる仕組みとして、リモート案内は今の我々にマッチするものでした。働き方を大きく変革する観光DXという視点でも、他社と差別化できる要素になると考えたのです」と同本部 奈良貸切営業所長 小坂元 誠司氏もこのアイデアを高く評価した。

奈良交通株式会社 自動車事業本部 奈良貸切営業所長 小坂元 誠司氏
奈良交通株式会社 自動車事業本部 奈良貸切営業所長 小坂元 誠司氏

実際にリモート案内を行うバスガイドの櫻井 史子氏は「複数のバスを1度にご案内するため、バスの位置情報がしっかり把握でき、かつバスガイドとして立つ目線で車内の会話や車窓も綺麗に見える、臨場感のある状況でご案内できるものがあることが理想でした」と語る。

そこでパートナー企業に提案を打診したところ、リモート案内の基盤として提案されたのが、Polyの会議ソリューションだった。「例えば動画を見せたり、ゲームなどの催し物をしたり、バス同士での会話をしたりなど、今までできていなかったこともできる環境を求めました。また、運転者目線で考えた場合、スイッチ1つですぐに使えるなどできるだけ簡単に操作できるものが必要です。その意味では、ハードウェア一体型でリモコンで簡単に操作でき、音声や画質も申し分のないPolyを高く評価したのです」と小坂元氏。「複数のバスを1つのセミナー会場に見立て、1つの拠点から案内するという視点で見れば、実現の可能性は高いと感じた」という。

確かにMicrosoft TeamsやZoomといった汎用的なソリューションと他の機材を組み合わせることでも似たような環境は整備できるものの、観光案内に適した運用にカスタマイズすることは難しいと判断した。バスの運行を考えると、統合されたソリューションとして安定して利用でき、安全運行が第一となる運転者の負担にならない専用端末は大きなポイントだった。「実際に他のソリューションでも検証しましたが、操作性で圧倒的な差がありました。Polyソリューションであれば、SIPサーバ側で必要な機能を実装するなど柔軟な対応が可能です。システムの安定稼働という意味でも、仕組みづくりに合ったハードウェアが我々にとって最適だったのです」と小坂元氏は当時を振り返る。 そこで、コスト的な目途が立った段階で実際にバスにPolyソリューションを乗せて試走を繰り返すなか、複数のバスをリモートから同時に案内するための適切な運用を模索し、実用に耐えうる環境を整備することに成功する。結果として、Polyの会議ソリューションが、同社が掲げる観光DXの基盤のひとつとして採用されることになったのだ。

人材不足解消と顧客ニーズを満たす観光バスリモート案内システムを整備

リモート案内を可能にするPoly Studio X30
リモート案内を可能にするPoly Studio X30

現在は、保有する貸切バスのおよそ5分の1にあたる20台にリモート案内が可能なPoly Studio X30を搭載、基地局となる本社側にも同様の環境を設置し、データセンターに設置したSIPサーバを中心にモバイルSIMを経由したリモート同士が連携する観光バスリモート案内システムを整備している。実際には、リモート案内を行うバスガイド1名が本社に設置された席からテレビ越しに最大5台のバスに対して観光案内を行い、修学旅行生と年齢が近い「交流ナビゲータ」1名がバスに同乗し、リモートにいるバスガイドと連携しながら目的地までのアテンドなどお客様のサポートを行っている。2024年5月から運用を開始しており、春のシーズンには28の中学・高等学校、延べ台数で119台のバスでリモート案内を実施しており、秋のシーズンは延べ350台ほどの稼働を予定している。

交流ナビゲータがリモートにいるバスガイドと連携しながら目的地までのアテンドなど、お客様のサポートを行っている
交流ナビゲータがリモートにいるバスガイドと連携しながら目的地までのアテンドなど、お客様のサポートを行っている

現在もリモート環境に適した観光案内の手法を確立するべく日々試行錯誤を繰り返しているが、「観光バスリモート案内システムを導入したことで多様な働き方への柔軟な対応が可能な環境が整備できた」という。「拘束時間を大幅に減らすことで、家庭の事情にも柔軟に対応できる環境が整備できたことは何よりも大きい」と語る小坂元氏。

「実際にリモート案内を体験したお客様には概ね好評で、自身が乗車していない他のバスの雰囲気や運行状況が同行する先生方にも伝わるなど、高く評価していただいています」と語る大谷氏。「これまでは駅前のバス配車場の混雑で、運用前の打ち合わせなどが難しいケースもあったが、バスに乗り込んでから生徒に向けて注意事項の説明ができるなど、複数のバス同士を1つにつなげるシステムが果たす役割は多岐にわたる」という。

日本有数の観光地だけに、エリアやタイミングによっては通信状況が安定しない場合もあるが、車内にいる交流ナビゲータが丁寧にサポートし、時には車内に積み込んでいるDVDの映像を流すなどさまざまな工夫を施しており、常にお客様に優れた観光体験を提供することを心がけている。

奈良交通株式会社 バスガイド 櫻井 史子氏
奈良交通株式会社 バスガイド 櫻井 史子氏

「遠隔地からでも臨場感のある案内が可能になったことは大きい」と櫻井氏。「画面越しではありますが、人同士が会話をしながら触れ合える時間が持てることで、楽しい旅行だったと感じてもらえるとうれしい。交流ナビゲータがお客様と楽しそうにバスに戻ってくると、その場にいないことでの悔しさを感じることもあります」と本音を吐露する場面もあった。それでも、短い拘束時間で魅力的な観光体験を提供するバスガイドという仕事が全うできるなど、多様な働き方が可能な仕組みを高く評価する。

同じ近鉄グループに所属するバス会社からの反響も大きい。「グループ各社の社長を集めてリモート案内の体験会を実施しましたが、これなら十分使えるという評価が寄せられています。どのバス会社もバスガイドの数を充足させるのが難しいため、観光バスリモート案内システムに可能性を高く感じていただいています」と大谷氏は説明する。

本社基地局ブースからバスガイドはリモート案内を行う
本社基地局ブースからバスガイドはリモート案内を行う

リモート案内の稼働率をさらに高めていきながら、地域の観光振興につなげたい

「来期には春秋のシーズンにそれぞれ1,000台ずつの稼働を目標に掲げているが、今後は他社の状況も見ながら稼働率をさらに向上させていきたい」という。「現在は修学旅行に絞ってリモート案内を稼働させていますが、一般の方向けのツアーなどにも対象を広げていきながら、稼働率を高めるための環境整備に取り組んでいきたい」と大谷氏は意欲的だ。「インバウンド需要も加熱している今、海外旅行者向けの観光ガイドとしてのリモート活用も来期以降に取り組んでいきたい」という。

また、「リモート案内に対応できるバスガイドの人員確保にも注力したい」と櫻井氏。「現在は3名ほどが中心になって運用していますが、他のバスガイドやこれから入社する人にもリモート案内のノウハウを広げていき、働きやすい環境づくりに貢献できればと考えています。リモート案内自体の仕事量をさらに増やすことが必要ですが、今やっていることの面白さは伝えていけることは間違いない」と力説する。

「システム面では、通信環境を含めたシステムの安定稼働に向けた取り組みをさらに進めながら、使い勝手を高めていきたい」という。「大きく働き方を変える観光DXの取り組みとして、引き続きバスガイドや交流ナビゲータを含めた人材育成は行っていきますが、運転者の業務改善という視点でもデジタル技術を駆使できる場面があれば進めていきたい」と小坂元氏。

「今回の観光バスリモート案内システムによって観光バスの需要を少しでも喚起するきっかけとなるよう広く周知していきながら、奈良および関西の観光振興につながる起爆剤として役立てていきたい」と大谷氏に今後について語っていただいた。

導入事例動画:奈良交通株式会社様

取材時期:2024年10月

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