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2024.04.08

離島の小学校をリモートで繋ぎ教育品質を向上

鹿児島市立桜峰小学校

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離島や山間地域等にある小規模校の子どもたちへの教育に変化が起こり始めている。少人数学級であることはもちろんだが、GIGAスクールにより、各生徒がデジタル端末を所有することになったことで、リモート教育が容易になったのだ。とはいえ、いまだに課題は山積。今回はそんな小規模校の中でも先進的な取り組みを続けている鹿児島市立桜峰小学校において Poly のWeb会議ソリューションの実証実験を実施。報告が届いたので同校のICT活用の現状と共に紹介しよう。

取材:中山 一弘

鹿児島市立桜峰小学校

桜峰小学校 教頭 荒木 保徳氏

大自然に恵まれた環境とテクノロジーの融合

鹿児島市立桜峰小学校(以降、桜峰小学校)は、鹿児島県のシンボルともいえる桜島の子どもたちを見守り続けてきた教育機関だ。校舎のすぐ裏手には桜島があり、噴火や爆発なども確認することができるほどの距離にある。目の前には錦江湾が広がり、その向こうには鹿児島市が一望できる。大自然と大都市がわずか十数分の距離にあるという、大変恵まれた立地といえる。

「学校の教育目標は『自律する児童の育成』です。子どもたち自らが自分で考えて行動することができるようにするため、職員はもちろん、保護者、地域の方々も一緒になって自発的な子どもに育ってくれるよう、見守っています」と語るのは桜峰小学校 教頭 荒木 保徳氏(以降、荒木氏)だ。

校舎の背後で鹿児島県のシンボル「桜島」が噴煙をあげる

桜峰小学校では、授業も教育目標に沿った形をとっており、宿題はあえて出さず、次の授業内容を予め調べてくる「予習型授業」を採用している。子ども達はタブレットで予習をこなし、それを学校へ提出。その内容をベースに次へのステップを子どもたちと一緒に考えながら進めていく。これにより、「この予習をしてきたから授業はこうしたい」「予習をするなら、こういうことがいい」といった自発的な学びの力を育むことができるというわけだ。

また、「自律を促す教育と共に先ほども触れたように環境にも恵まれた地域性を活かし、大都市の小学校との交流も果たしています。それが桜峰小学校と東京都にある渋谷区立神南小学校が共同でおこなっている『桜島大根プロジェクト』です」と荒木氏は語る。

桜島大根は桜峰小学校がある地域の特産物だが、これを両校の土地でそれぞれ栽培。その育成状況をお互いに報告しあうことや、実際に市場へ競りに出すといった経験をすることで交流を深めていく。この経験を通じて、神南小学校の子どもたちは豊かな自然のすばらしさ感じ、桜峰小学校は多くの価値観と触れ合うことで刺激を得るなど、お互いの成長につながる活動となっている。この桜島大根プロジェクトは社会的にも注目度が高く、鹿児島のテレビ局が毎回取材を行うのだという。

GIGAスクールの効果は絶大

GIGAスクールによって、桜峰小学校では1人1台のタブレットPCが配付されており、すでに授業の中でも自然な形で運用されている。「子どもたちは毎日タブレットPCを持ち帰って予習にも使いますし、授業では大型モニターに自分の画面を写して、みんなの前で発表をすることもあります。今ではすっかり普通の文房具のようにタブレットPCを使いこなしています」と荒木氏は目を細める。自律を目指す方針とGIGAスクール端末が合わさることで、桜峰小学校ではITリテラシーも順調に育っているのだ。

「例えばキーボード操作に関しても1年生の2学期には実際にローマ字打ちを始めます。家でも毎日使っているので、かなり早くからキーボード入力には慣れていますね」と荒木氏。これには小規模学校ならではの環境も影響しているのだという。「小さな学校ですから、すべての生徒が家族ぐるみの知り合いみたいなものなのです。上級生がお兄さん、お姉さんとなり、下級生を教えるので自然と物覚えはよくなります」と荒木氏は語る。

また、リモート環境においては自校の児童とつなぐという方法はあまり取っていないという。「リモート授業というのはあまりありません。渋谷の神南小学校とつないでの授業といった遠隔地と応対するのに利用しています。児童同士がタブレットPCでコミュニケーションするような使い方はあらかじめ制限しています。もちろん、遊びでLINEなどのSNSを使用するのも禁止ですから、安心して持ち帰ってもらうことができます」と荒木氏は語る。

職員においては、ツールを使ったコミュニケーションを積極的に導入することで、業務効率化や働き方改革へつなげているのだという。「例えば教職員間では、Microsoft Teams のようなツールを使い、コミュニケーションを円滑にしています。当校は研究指定校になっているため鹿児島県の先生方を集めて研究授業の発表がおこなわれます。その様子をビデオで撮影してリアルタイム配信するとともに、YouTubeにアップしてアーカイブとして残すという活動もしています。研究発表は仕事の関係でリアルタイムに見ることができない先生も多いのが実情です。そういった方にも見ていただけるようにきちんとカメラワークも取り入れて、子どもたちの手元、先生の動きなども確認できるようにしています。このような方法なら研究授業のスタイルを変えなくても、先生方のご都合に合わせて閲覧することができますからね」と荒木氏。それらのアーカイブはGoogleフォームによる意見の収集や、ロイロノートで授業内容について議論するなど、双方向の情報共有を実現している。桜峰小学校のICT活用はかなり積極的ということが分かる取り組みだ。

リモート教育の可能性を引き上げる

今回、Poly の実証実験に使用したのはオールインワンビデオバーの「 Poly Studio R30 (以降、R30)」だ。4K UltraHDカメラとマイク、スピーカー、ビデオ会議用OSなどが搭載されている Poly の主力製品のひとつだ。また、制御用のPCには5MPという高解像度Webカメラを搭載したHP Dragonfly G4を使用している。

実証実験の授業で使われた「 Poly Studio R30 」と制御用のHP Dragonfly G4

「今回の実証実験では同じ桜島にある黒神小学校の児童が桜峰小学校でおこなわれる授業に参加するというシチュエーションでテストをします。これまでもおこなってきた授業ですが、以前は黒板と教員をカメラで撮影するのにもう1人係員が必要でした」と荒木氏は語る。黒神小学校は児童数1名、担任も教頭が兼ねているという小規模校になる。兼任の教員が多忙なため、一部の授業について桜峰小学校とリモートで受けさせることで、働き方改革につなげている。

実証実験の授業を担当する、肝付 寛人氏。(以下肝付氏)桜峰小学校の3・4年生を担任している

取材に訪れた際の授業は共同授業で、4年生6名と黒神小学校の同学年1名がリモート参加するという形になる。さらに3年生5名が共同授業で加わるので教室は実ににぎやかだ。R30は黒板方向にカメラを構える位置にセッティングされている。リモートから参加の児童は黒神小学校の教室で自分のタブレットPCを使い Microsoft Teams で接続している。

教室では3年生と4年生の複式学級での授業を展開

HP Dragonfly G4のディスプレイにはリモート先である、黒神小学校の児童とR30が映し出している映像がモニターされている

授業がはじまると、担任である肝付氏が黒板に文字を書きながら授業を進める。R30の機能として話者をAIが認識しオートフレーミングによって視点が追従するので、話をしているときは肝付氏にクローズアップし、それ以外のときは黒板を撮影するといった動きを自動的に処理することになる。

肝付氏は教室の児童らに声をかける一方で、時折黒神小学校の児童へ、きちんと見えているか、声が届いているか確認する。「はい、よく聞こえます」とレスポンスよく返事が来るので、リモート環境の品質は問題ないようだ。

ただし、黒板の内容をノートに書き写す際には自筆のスピード感もあるため、教員の動きとリンクしていないタイミングが生まれてペンが止まっている時間があるようだ。それに気づいた肝付氏は、ノートを取り終えたかという声かけもするようになり、遅れは解消。時折、共同授業の3年生のもとへと移動している最中には、R30の仕組みを理解した桜峰小学校の児童が黒板の前で手を振るなどしてカメラの向きを戻すといった光景も見られた。ICTへの順応の高さも小学生ならではといったところだ。

「この形での授業はこれまでのリモート授業と比べて格段にやりやすいです。今までは自分でカメラの向きを変えながら黒板に書いていたので、余計な動きをたくさんしなければなりませんでした。しかし、自動追尾機能によって、いつも通りの授業をするだけで、リモート先にも同じ内容が送れますし、HP Dragonfly G4のカメラはホワイトボードに固定できるので、前回の授業内容などを表示させたままにすることもできます。リモート先の児童としても画面越しではあったものの、手応え的には普通の授業と同じだったと思います」と担任の肝付氏はファーストインプレッションを語る。

教員とリモート側の児童からのコミュニケーションもスムーズにおこなえている

「課題としていえるのは、今日の授業でも鉛筆を落とした生徒がいましたが、カメラがその音に反応してあらぬ方向にカメラが向いた点がありました。これと同様に私が話をしていても生徒がポロっと言葉を発してしまうと、そちらにカメラが追従するようなケースもありました。このあたりの挙動はAIといえど判断が難しいかなと感じました」と肝付氏は振り返る。Webコミュニケーション全般にいえることだが、ダブルトークが苦手な傾向は確かにある。リアルな会話では言葉がぶつかっても意図が伝わるが、リモート環境では意思の疎通が阻害されるケースも多い。そのあたりは実際の授業でも感じたように、子どもたち自らが、R30の挙動やクセを理解し、工夫をすることで正しい伝え方を発見していくのかもしれない。

「離島が多い鹿児島県では、肝付氏が担当したような複式学級はとても多いのです。そんな中でAIの自動追尾がイレギュラーになることもあると思います。テクノロジーで解決できるのか、使い方ひとつでよくなるかは分かりませんが、さらにスムーズな対応ができるよう実証実験を続けたいですね。リモート授業は今後も様々な形で活かさなければならないことは明らかです。今後へ向けてさらなる研究と問題解決をしていきたいと思います」と最後に荒木氏は語ってくれた。HPはこれからも桜峰小学校を支えていく。

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